ピィザ軍は、首都カイロンから西の方角へと、ゆっくり退却を開始した。
だが、13万人の人間を、特定の場所へ移動させるには、恐ろしい時間がかかる。
兵士達を縦に並ばせて、何時間も歩かせないといけない。排泄も13万人分となれば道の周りは臭くなる。
高速道路代わりに使われている河川は、謎の触手達が姿を見せ始め、退却路としての信頼性に欠ける。
移動中の軍隊ほど無防備なものはなく、逃げるための時間を稼ぐ必要があり……誰かが犠牲になって、ワルキュラ軍相手に足止めをやらないといけなかった。
こういう時、足止め役は『信頼できる部隊』を使う。
フランスの大英雄ナポレオン・ポナパルトなら、親衛隊を。
読者が住む日本の大英雄、織田信長なら、明智光秀と羽柴秀吉などの有能な武将に命令して、損耗覚悟で足止めを行った。
最も戦場で消耗させたくない忠誠に熱い精鋭部隊を使い潰す行為だから、指導者として苦渋すぎる決断――そのはずだった。
「やれやれ……とうとう貧乏クジが回ってきたよ」
己の悲運を嘆いている黒髪の若い青年。彼はピィザ3世の王弟ナンだ。
弟と言っても腹違いの母違い。
これはとっても重要だ。
人間は劣等感を感じ、他者を疑う生き物であり、自身の競争相手を排除したがる。
現に、セイルン王は、競争相手を物理的に排除し、弟達が優秀だったという証拠を隠滅するために、出身高校すら『特権階級と平民との間に差別意識を産む』とか言って学校を無理やり破壊したくらいだ。
ピィザ3世の方も、王位を得る時に、自分以外の競争相手は排除し、血塗られた玉座を手にしている。
だからこそ、ナン青年にも、とうとう粛清の魔の手が伸びてしまった。
兄から、300万はいるかもしれない骸骨の化物どもの足止めを命じられ、1万の兵力を砂漠に展開している。
「さて、どうするべきかな……?」
「わっふぅー!
王弟殿下!今こそ独立の好機なのですっ!
足止めの仕事なんて放棄して、予定通りセイルン国の北部を刈り取って、そこに独立国家を築くのです!」
可愛らしい声を上げたのは、ナンの愛人ミルクだった。
銀髪の犬耳と尻尾が愛らしい犬娘。
一応、ズボンを履いて、男装をして性別を誤魔化している。
「……」
「わっふぅ?」犬耳が虚しくピョコピョコ動いた。
「……予定は変更だよ。
骸骨の数が300万もいたら、セイルン国内で籠城しても詰んでしまうからね。
援軍の当てのない籠城なんて、自滅するだけさ。
今までは国取りゲームをやっていたけど、これからやるのは――脱出ゲームと言った所かな」
「い、今までの努力は無駄だったんですか!?」
涙目になった犬娘。ナンは彼女の頭を撫でながら
「僕が兄さんより先に、ピィザ本国へ帰って、宮廷で官僚を粛清……もとい、掌握すれば大逆転だよ。
言っただろう?これからやるのは、脱出ゲームだって」
「さ、さすがは王弟殿下なのです!
一気に逆転する手段を考えるなんて、さすがです!
そしたら、私は第二夫人になったり?」
「……まぁ、この方法にもいろいろと問題があるんだけどね。
僕たちの退路を遮る形で、兄さんの軍勢が展開しているだろ?
川には、化物がいるそうだし、選べる道がほとんどないのさ」
「な、なら、どうするのです!?
ここで破滅するのは嫌なのです!」
「可愛いミルクと一緒に破滅する――そんな事はしないよ。
骸骨たちは、昼間は追撃して来なかっただろう?
これは奴らが……太陽が苦手とか、暑さに弱いとか、そんな弱点があると思うんだ。
しっかり、夜の間、生き残れば勝機は出てくるはずだよ。
どれだけ物量が凄くても、敵の弱点を見つければ、幾らでも料理のしようはあるのさ。
それに、僕の作り上げた軍は――大砲と銃兵を組み合わせた画期的な軍だからね。
追撃しにやってくる骸骨の数が多くても、多少は覆す事はできるよ。
……まぁ、大砲は重くて運搬が大変だから、最終的に破棄しないといけないかな?」
「わっふぅー!
王弟殿下の弱点を見抜く能力はさすがなのです!」
ミルクは素直に、愛しい君主であり、自分の男であるナンを褒めたたえた。
「うん、実に良いね、ミルク。
その褒めっぷりで気づかされたよ」
「わっふ?」
「兵士達も誰かに褒めてもらった方が、気持ちよく働いてくれるだろう?」
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異世界征服 〜異世界に転移したので略奪スキルで商人を目指していたら世界を掌握していた件〜
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キャラと軍の元ネタ的にこんな感じ。
王弟軍だけ19世紀初頭のフランス軍仕様
筋力がファンタジーに強化された遊牧民族千 VS 19世紀の国民軍1万
(実際は、貧民による志願兵の群れ)
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