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30話目
27話
詐欺戦争-9 「君たちは最高の勇者だ
」
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ナンは、砂漠の大地の上に、一万の兵士達を整列させ、一人一人と言葉を軽く交わした。
その様子はとっても気さくで、まるで古い友人に語りかける口調そのもの。
「やぁ、戦友諸君。
腹一杯食べているかい?」
僕と君たちは共に苦労を分かち合う仲間なのさ――言葉の裏に込められた思いが、貧民出身の兵士達の心に届く。
彼らは次々と嬉しげに返事を返した。
「へへへへへへへっ……!
王弟殿下の所で働いてから飢えた事なんざ、一度もありませんぜ」
「胡椒たつぷりかけた乾燥肉が最高でした!」
「そろそろ新鮮なフルーツと、可愛い女を食べたいであります!!」
ナンは満足そうに、それらの言葉に頷いて――
「そうか。ピッツァマリナーラ、モッツァレラチーズ、クアトロフォルマッジ。
君たちが腹一杯食べられて、僕も嬉しいよ」
兵士達がナンと会話する度に、強面の顔を緩めて喜ぶ。
彼らは皆、子供のようにひたすら他者から褒められたがっていた。
今までの説明にあったように、ピィザ軍そのものが経済的に貧乏な人間達による志願で成り立っている。
『金があれば幸せとは限らないが、金が無ければ不幸になる』
貧乏という事は、心に余裕がない事を意味し、不幸な人生を歩んできたという事だ。
親からすら認めてもらえず、むしろ親から馬鹿にされて、あるいは虐待されて育った奴らの方が多い。
兵士達は皆が皆、誰かに自分の存在を肯定してもらって褒めてもらいたい。そう想っている寂しがり屋だ。
だから、だからこそ――自分より遥か上位の存在であるナンから褒められると嬉しくなり、労働意欲という、本来、人間には存在しないはずの欲望を増大させる。
「これから君たちが行う戦は、歴史に残る名戦になるだろう。
つまり、誰もが君たちを羨み、賞賛する。
故郷や家に帰れば『アンタは最高の英雄だ』と言ってもらえるはずさ。
死んだとしても、神々はあの世で認めてくれるだろう。
『お前は勇敢な勇者だ』ってね」
褒められて嬉しくならない人間はいない。
偉大な存在が、兵士達の承認欲求をわざわざ満たしてくれるのだ。
それゆえに、兵士達は戸惑いながらも余計に嬉しい感情を爆発させ、口々に声を漏らした。
「へへへへへっ!王弟殿下っ!
さすがに褒めすぎですぜ! 」
「お、俺らが英雄になれるのかっ……?」
「故郷にいた頃、誰からも必要とされなかった俺が英雄に……?」
ナンは優しく微笑む。この瞬間、彼の青い瞳を1万人の人間が真剣に見つめていた。
「そうさ。
君たちはこれから英雄になるんだ。
神話として長く語り継がれる物語の一部となり、その手に栄光の未来を掴みとる。
無理だと思うかい?
僕はそうは思わないね」
兵士たちが沈黙して、王弟の言葉の続きをワクワクしながら待った。
偉大な男の英雄譚に参加できる、そんな夢を抱き、妄想の世界に旅立つ寸前だ。
「戦友諸君……僕の過去を話そう。
僕は遠い辺境の島で生まれ育った。
母の身分は平民、父親は先代の国王ピィザ2世。
つまり、王族として扱われるはずがない庶民の子だったのさ。
僕がどうやって出世したのか、古き戦友よ。言ってみてくれ」
古参兵士のモッツァレラチーズが元気よく答えた。
「大砲で反乱軍や蛮族を容赦なく吹き飛ばして、全ての戦いに勝利してきたからであります!」
「そうさ。
僕は無数の屍を築きあげて、実力でここまで成り上がった。この時点で、奇跡と言えるだろう。
兄のピィザ3世に何時、粛清されても可笑しくない。
現に、粛清に匹敵する『最低最悪な貧乏クジ』を割り振られている。
だが、僕は信じている。
戦友諸君と一緒なら……僕は更に上を目指せると。
そう、僕は至尊の玉座を手に入れてみせる。
これがどういう意味を持つのか、君たちには分かるはずだ!
そのために、これから始まる戦いに勝とうっ!
戦友諸君っ!君たちの命を僕に預けてくれ!」
ナンの下手な演説。
だが、兵士達は知っている。彼が常に兵士と一緒に戦場で苦労してきた常勝将軍である事を。
成り上がるために、自身を先頭にして敵軍に突撃する馬鹿な事もやる男だと。
包囲されても、運だけで生き残った神に愛されし男である事を。
ここに――兵士達の承認欲求は完全に満たされ、器から溢れ出るような歓声が巻き起こった。
「「王弟殿下万歳っー!」」
「「未来の王様万歳っー!」」
「「俺達はアンタについていくぜぇー!」」
この時、未来が全て思い通りに進む。ナンには、そんな気がした。
だが、平穏な時間は終わる。
太陽が地平線の彼方へと沈もうとしていた。
それを契機に、おぞましい気配が周辺に漂う。
人間の目には見えない幽霊達が、潜んでいた地面から這い出て、王弟の軍内をうようよ動き回っている。
『クレア様に報告だよ〜。
この軍だけ、騎兵・銃兵・砲兵の三つの特別な構成だよ〜。指揮官はヤサ男〜』
『数は1万〜、古いシステムの軍なのに、国民軍っぽい感じで戦意高いよ〜。
この部隊がピィザ国の最精鋭部隊だと思う〜』
幽霊娘達が、丹念に王弟軍を調べ上げ、情報を後方へと送る。
ナンは、彼女達のおぞましい負のオーラを浴びながら、地獄の夜に挑む事になった。
太陽が地平線の彼方へと沈むと、夜の闇が訪れる。
それとともに、首都カイロンの吊り橋が四つ同時に開け放たれ、亡霊馬に乗ったデュラハン千騎が出撃する。
砂漠の大地を踏みしめ、風のように駆け抜け、ナンがいる陣地へと向け、西へ西へと進撃を開始した。
「俺達の役割はなんだぁー!」
「「塹壕陣地を突破する戦車さん!!」」
「俺達は何だぁー!」
「「デュラハンっ!デュラハン機動軍っ!」」
「お前らの前世はっー!」
「「遊牧民族は、最強の戦闘民族さんっ!」」
今回のコメントをまとめたページ
http://suliruku.futene.net/Z_saku_Syousetu/Tyouhen/Fusiou/c30.html
【内政チート】「俺は歩兵で運用できる迫撃砲でチートする!」17世紀のオーストリア
http://suliruku.blogspot.jp/2016/03/17_29.html
【小説家になろう】 「俺は街を作ってチートする!」 町をつくる能力!?〜異世界につくろう日本都市〜
http://suliruku.blogspot.jp/2016/04/blog-post_23.html
ワルキュラ(勝てるのだろうか……。
太陽光に弱いという弱点が露見した時点で、試合終了な気が……)
ピィザ3世「逃げるためならばっ!弟を犠牲にしても良かろうなのだぁー!」
王弟殿下「僕の本当の敵はピィザ3世だ!」
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