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27話目
24話     詐欺戦争-6 「偽骨   


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地平線の彼方から、真っ赤な太陽が昇った。
砂漠に広がる14万人近く及ぶピィザ軍を照らす。
彼らの主が声を荒らげて、酒瓶を砂漠の大地へと投げつけた。
小さい頃は、酒飲まずに運動して水ばっかり飲んでいたのに、なぜこんな男に成長した!ピィザ3世!

「なんだとっ!?
カイロン城内に、動く骸骨が三百万もいるというのか!?」

未来のアル中候補なピィザ3世は、部下から聞いた情報を信じられなかった。
カイロン内に、三百万の大軍勢。しかも、肉を持たない骨の化物がウヨウヨいるという情報を嘘だと思った。
事実だったら、ピィザ軍の勝率は絶望的すぎる。
【戦争はやっぱり数だよ兄貴!】の鉄則が発動しちゃう。
例え兵力差が2倍だったとしても、軍事常識的には、その時点でピィザ軍の勝率は1%を下回るはずだ。
しかも、軍師チィズが静かに、この情報を肯定する。

「カイロンにいるスパイ達の情報を纏めると、少なくとも三百万は下らないと判断しました。
最悪の場合、一千万はいるかと……」

「遥か東方にある絹の国でも、動員できる兵力は百万と聞くぞ?
骸骨が動き回っているのは誤報ではないのか?
この話には全く現実さが感じられん。まるで物語の中に迷い込んだような心地だ」

「陛下は、私の目をお疑いになられるのですか?
確かに城壁の上で、骸骨達が動き回っていて、こちらに対して敵意を持っています」

「ならば、なぜ襲ってこない?
こっちは、たかが14万足らずの戦力しか保有してないのだぞ?
余なら、目の前に敵軍がいて、三百万の物量を持っていたら……数の利を持って、さっさと叩き潰すのだが?
有利なのに、わざわざ籠城する馬鹿はおるまい」

ピィザ3世は状況証拠から、ワルキュラ軍の実態を見事に暴いた。
だが、戦場の情報は常に霧に包まれている。
皆が手札を隠しているトランプゲームに近い。
お互いに手札を全部晒した状態で戦争していたら、これ読んでいる読者が住んでいる日本は、日露戦争で敗北して、植民地になっていたはずである。
情報を全部公開しながら戦ったら、日露戦争の勝率は1%を下回るはずだ。

日清戦争の場合は『難攻不落の平壌要塞が、司令官が逃げて勝手に陥落した。上陸した日本軍に物資なくて、ほぼ勝率0%なのに勝利しちゃった……』

日露戦争なら『奉天にいるロシア軍が、日本軍を過大評価して都市から撤退したら、超大規模な砂嵐による神風が発生して自滅ルートを選んじゃった……なにこれ怖い』

つまい、戦争とは、お互いに騙し合いを行い、相手の持ち札を推測する推理ゲームのような側面がある。
情報と、頭の髪の毛もない軍師チィズは、スパイ達から届けられた数少ない情報から、ワルキュラ軍を考察するしかなかった。

(相手がどういう常識で動いているのか分からない……。
私たちは、あの骸骨が何を食べ、何を信仰し、どういう命令系統で動いているのかすら知らない。
……だが分かる事はある。
スパイ達が齎す情報だ。
奴らは圧倒的な物量を保持している可能性が高い。
それだけは信憑性の高い事実だ)

考えを纏めたチィズは、目の前にいる君主に、自身の考えを知らせた。

「相手は化物です、陛下。
我々の常識が全く通用しない相手なのだと思われます。
そして、報告の一つに……骸骨達は、夜になると行動を活発化させ、昼間は歓喜に震えていると書いてありました。
恐らく、太陽光が奴らのエネルギー源なのかもしれません。
昼間にエネルギーを貯めこみ、夜になってから行動する生態だとしたら……太陽が地平線の向こうへと落ちた瞬間。
骸骨の大軍が我らを襲う事になるでしょう」

「ええい!うるさい!
三百万の骸骨が存在する訳がなかろう!
余の軍勢は、水上交通網を完全に掌握していたのだぞ!
どうやれば、そのような大軍がカイロンに入場できるというのだっ!
こうなったら、実際に城壁を視認できる距離まで移動して、その骸骨とやらを拝んでやる!」

「私もついて行きましょう。
何が真実で何が嘘なのか、私にも分からなくなってきました……」

ピィザ王は馬に乗り、国王親衛隊を数十人連れ、本陣を離れて首都カイロンへと向かった。
砂漠を進むと……地平線の彼方から、カイロンを半包囲するピィザ軍。そして、石造りの城壁が見えてくる。
城壁の上には、無数の骸骨が並んで立っていた。
少なくとその数は……三百万人を余裕で超えていた。
骸骨達はプルプルと震えながら、人間達がいる方向を見つめている。

「き、昨日見た時より増えている……?」 

チィズは圧倒的な絶望とともに、声を漏らし、ピィザ3世は持っている酒瓶を地面に落とした。

「ど、どうやって、あの骸骨どもはカイロンを占拠したというのだっ……!
余の軍勢は無能なのか!
あれほど大量の骸骨が、城内に入る事をみすみす許したというのか!」

「常識が全く通用しない。
新しい敵……いや、人類の敵が登場したという事なのかもしれぬ。
どうやら、想像もつかぬような、謎の移動手段を持っているとしか思えません」

「馬鹿なっ……!馬鹿なっ……!
大陸北部に大帝国を建設する夢が、こんな所で、得体の知れない化物の出現で頓挫するという事なのかっ……!」

ピィザ3世は悔しそうに、腰に下げていた酒瓶を、砂漠へと放り投げた。ガラスが割れた。
この王様が、酒を飲むのは、指導者としてのストレスから逃避するためなのかもしれないな……とチィズは思いながらアドバイザーとして君主にアドバイスする。

「陛下……、あの骸骨どもを見てください。
全員がプルプルと震えております。
どうやら報告通り、太陽光をエネルギー源にしているようですな……。
今のうちに、撤退しないと皆殺しにされるかもしれませぬ」

「んっ……?
余には、辛くて震えているように見えるのだがっ……?」

「陛下、戦場に希望的な推測を持ち込んではなりませぬ。
スパイの報告が正しければ、あれはエネルギーを吸収して、喜んでいる骸骨……と見るのが正しいでしょう」

「う、うむ!言われてみれば……そうだなっ!
奴らの行動が活発化する前に撤退の準備をせよ!
この地形では、物量に勝る骸骨どもの方が有利だ!」

こうして、ピィザ軍は、撤退する準備を始めた。
ほとんどの物資を置き去りにし、その中には大量の食料があった。
ワルキュラ軍は、それを人民に安く売り、当面の食料問題を見事に解決する事になる。



〜〜〜

カイロンの城壁の上で、太陽光を浴びて、立ってるのが精一杯の骸骨達。
彼らは、撤退準備を始めるピィザ軍を見て驚いていた。

「さすがは陛下の策略だぜっ……。戦わずに人間どもが逃げていくぞっ……」

「こんな戦争の仕方、初めてだ」「やべぇよ。陛下の頭脳すげぇぇえぇぇ!!」

城壁の上に立っている骸骨の内、299万人は昨日の夜の内に、ヤス達が頑張って立てた偽の骨。
本物の骸骨は、たったの0.3%に過ぎない。
ピィザ軍は、動く骸骨の数を勘違いし、見事なほどに、ワルキュラの策略に引っかかってしまった。
だって、人間と違って偽物か、本物か区別するの困難すぎる外見だし。
白い骨を見て、偽物か本物かなんて、判断できるはずもない。

「でも、超パワーアップした陛下が無双する姿を見たかったよな」

「ワルキュラ様、宇宙制覇やろうとするくらいだし、手からビーム出して月くらい破壊できるんだろう、たぶん」
「圧倒的に強いのに、知恵まで天才とか……天は陛下に才能を与えすぎだろっ……」

「しかも、女の子達からモテモテっ……!爆発しろっ!」

戦場の情報は常に霧に包まれている。
とっても馬鹿らしい光景に見えるだろうが、空中からの偵察がなかった頃の戦争は、情報が少なくなる。
それゆえに、こんな事が起きてしまうのだ。
まともに衝突すれば、勝率ほぼ0%だろうが、情報の有無で勝ててしまう。








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デスキング「さすがは陛下の策略っ……!
スパイ網と、欺瞞作戦のダブル作戦で成功率を劇的に上げるとはっ……!
さすがだっ……!」


骸骨「「「立ってるのも辛いよっ……」」

ワルキュラ(一回でも、昼間に野戦やったら壊滅する軍隊ですがなにか!)

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