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ドラゴン転生
8話「自動販売機の国」Aパート 11KB  

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「速度を上げるばかりが、人生ではない」
【ガンジー】





無限に続く青空を飛びながら……私がドラゴンになってから感じた不便性を語ろうと思う。
人間の作った料理を道具なしで食べるから、ゆっくり味わえない。
巨体だから建造物の中に入れない。
手足が器用な作業をする事に向いていないから本を読めない。道具を使えない。
そして……大好きな妖精娘アイスと街中を落ち着いてデート出来ないという大問題がある事に気がついたのだ!
絶望した!ドラゴン以外の姿に変身したい!
空を飛べるのは最高だけどな!
――という様な事をアイス本人に話したら

「ドラさん。
それならリリーの所へ行けば良いんだよ。
僕よりも魔法とかに詳しいからきっと解決してくれるよ」
「本当かっ!?」
「身体がたくさんあって知識を並列化しているから研究が捗ってすごいんだって」
「よし!リリーがいる島へ向かうぞ!
ここだと何処が近い?」
「ちょうど、僕達の進路方向にあるよ。
ほら!あれがそうだよ!」

大きな雲の海を突破し、その先に合った光景は――島中のあっちこっちに自動販売機が置かれた治安が良さそうな国だった。
自動販売機を知らない人に説明すると、お金を入れると商品を吐き出す便利な機械だ。
機械だから24時間販売できるし、人件費を削減できる利点がある。
祖国日本では有り触れた機械――この島にあるのが普通の自動販売機だったら、私はここまで注目しなかっただろう。

「家サイズの自動販売機があるぞ!?」
「僕、この島は結構好きだよ。
見てて飽きないよね」

島を見渡すと家どころか、ビルサイズの自動販売機まである。
誰が利用するんだ。
こんな超巨大自動販売機。



☆何でも売ってる国☆

私はアイスに言われた通りに空を飛び、島の中央にあるピンク色の一戸建ての前に着陸した。
周りには生活用品を取り扱った無数の自動販売機が並んでいて、人間達が商品を購入する動作をやめて、私の姿を見て拝んでくる。

「「「「ドラゴン様だぁー!」」」」」
「「「「ありがたやっ!ありがたやっ!」」」」」

住民からお賽銭も大量に投げ込まれて、チャリンチャリンッと、道路に高い金属音が響き渡った。
アイスがお金を拾って魔法の鞄に次々と入れて喜んでいる。
……でも、金を貰えるのは嬉しいが、この身体のせいで、ゆっくり観光できない。
辛い。
これが有名税という奴かっ……!
ドラゴンになって税金問題の苦しみから逃れる事ができたのに、有名税で苦しむとはなっ……!
――観衆の声に気づいたのか、ピンク色の家の扉が開き、中から白いワンピースを着た金髪エルフ娘のリリーが出てきた。
私の方を見て笑みを浮かべて

「ん?
ドラとアイスかの?
わっちに会いに来て嬉しいのう」
「リリーに聞きたい事があってここに来た。
ドラゴンが人間や妖精に変身する魔法とかないか?」
「あるでありんす。
確か、わっちが開発したドラゴン用の変身の宝玉があったような――」
「さ、さすがだっ!
リリーはドラエモ●並に万能だな!
お金はアイスが持っているから売ってくれ!」
「お主、理想のヒモ生活しとるのう」

グサッ!心がとても痛くなるセリフだった。
しかし、隣にいるアイスはそんな事は気にしないという素振りで

「大丈夫だよ、ドラさん。
ドラゴン教を使って儲けられるのはドラさんのおかげだからね。
利益の一部くらいは上げるよ?」
「おお、まるで聖女だ!
アイスに一生付いて行きます!」
「僕とドラさんはパートナーだからね。
小遣いくらいは上げるよ」
「尻に敷かれとるのう、ヒモじゃのう。
でも、わっちはお主らが羨ましいでありんす」

私は愛の奴隷になりたい。
アイスと街中でデートするためならば、女のヒモになっても良い。
名づけてヒモドラゴン。

「さぁ!これでお金の問題は解決した!
売ってくれ!」
「変身の宝玉を、何処の自動販売機に入れたのか、わっちも忘れてしまったでありんす。
島を歩きながら、売っている販売機を見つけて楽しむ遊びはどうかの?
わっち、アイスと一緒に歩き回りたい」
「僕もリリーと一緒に遊びたいよ!」
「ドラも嬉しいかの?
美少女2人を連れてデートでありんす」

……こうして、この島を歩き回る事になった。
美少女と一緒に散歩するのは良いが、私はドラゴン。
あちこち歩く度に、住民達に拝まれてお賽銭を投げられて辛い。

「「「「「ドラゴン様っー!ありがたやっ!ありがたやっ!」」」」」
「「「「「健康長寿よろしくおねがいしまーす!」」」」」」



☆自販機大国☆

早速だが、道路を歩いていたら……ありえない自販機(自動販売機の略称)を見つけてしまった。
パンツ(使用済み)を売っているピンク色の自販機。
縞々パンツ、紐パンツなどなど数十種類のパンツを売っている自販機の所へ、リリーに案内された。

「おおいー!?
私をパンツ好きの変態だと思ってるのか!?」

「お主、パンツ好きじゃないのかの?」
「好きなパンツは好きな女の子のパンツだから!
誰のパンツでも良いという訳じゃないから!」
「そうかそうか、それは酷い事したのう」
「それ以前に、なんで使用済みパンツ売ってるんだよ!?」
「需要があるからじゃ。
それ以上はわっちの口から言わせないで欲しいでありんす」



目的の自販機を探している内に、次は宝石を売っている黄金色の自販機を見つけた。
高級そうなダイヤモンド、翡翠、ルビー、サファイアなどが使われたアクセサリーが売られている。
値段もどれも金貨1枚以上する時点で――

「こんなものが外にあったら、窃盗団に丸ごと盗まれるぞ!」
「この国は治安が良いから大丈夫じゃ」
「地味に凄いな!この国!」
「それよりもアイスが自販機に夢中になっておるのう」

リリーの視線の先には、目を輝かせたアイスが、次々と金貨を自販機に入れて、宝石を購入する姿があった。
金貨が小銭感覚でどんどん消え、代わりに宝石が出口から出てくる。
アイスはたくさんの宝石を魔法の鞄の中へとジャンジャン入れまくり、金貨を100枚単位で鞄から出して、自販機に入れていた。

「散財しすぎだ!」
「アイスは宝石マニアじゃからな。
まぁ、魔力バッテリー代わりに使っとるから、有益な趣味でありんす」
「魔力バッテリー?」
「魔法の鞄の中に、大きな都市があって、そこに膨大な宝石をコレクションしているでありんす。
宝石は空中にある魔力を溜め込むからの。
アイスの莫大な魔力の秘密は、そこにあるんじゃ」
「魔法の鞄の中に都市があるのか!?凄いな!」
「いずれ行ってみるとええでありんす」

リリーがクスクスッと笑った。
アイスの方は宝石が次々と出てくる自販機が面白いのか――こっちを振り返らずに

「ドラさんっー!
僕、この自販機で遊ぶからリリーと一緒に他の自販機の所に行ってくれてもいいよー!」
「二人の美少女を連れたデートが台無しだ!?」
「お主は哀れじゃのう。
でも、わっちも魅力的な美少女でありんす。
そんなに絶望されると傷つくのう」

リリーのエルフ耳が下に垂れた。
恐らく、これは元気を失った証拠。
謝罪するしかないっ……!

「すいませんでしたっー!」
「良い奴じゃ、お主と会話すると心がホッコリするかの?」

リリーのエルフ耳がぴょこぴょこ元気よく動いた。
……エルフ耳は、男心を癒す素晴らしい萌えポイントかもしれない。
そう私は心の中で確信した。



次に発見してしまった自販機も凄かった。
自動小銃が大量に入った真っ黒な自販機。
つまり、人を大量虐殺できる武器が、普通に販売されてる――

「なんで武器売ってるんだよ!
治安悪化するだろ!?」
「ほら、よく見るんじゃ。
警察署の敷地内にあるでありんす」
「ああ、警察官が購入するのか、納得――」
「いや、自販機を利用した人間を、銃刀法違反で逮捕するために置いとるんじゃ」
「酷いトラップだ!?」
「この国は治安が良すぎるからの。
少しでも仕事を増やすために、ああやって島中の自販機で銃器を販売しとるんじゃ。
銃弾入っとらんから、銃器が普及しても怖くないしの」
「なんて酷い自販機の使い方」
「自販機のせいで失業率が増加傾向なのは秘密でありんす」
「販売員が要らなくなるから、そりゃ仕事減って当たり前すぎる……」


また次に見つけた自販機も酷かった。
この島に来た時に見た家サイズの自販機。
並んでいる品は――最低でも1トンくらいの重量はありそうな自動車達がメニューにずらりと並んでいる。

「なんで自動車を自販機で販売しているんだ!?
玩具感覚か!」
「金持ち専用の自販機でありんす。
ここで車を購入してドライブして、島の何処かに乗り捨てるんじゃ。
この国の社会問題になっておる」
「撤去しろよ!」
「でも、車は売れると利益がええじゃろ?
メーカーとしては撤去するのは嫌じゃから、政治家に圧力かけて撤去を阻止しているでありんす」
「こんな夢のない島は嫌だ!」
「異世界も現実じゃからのう……利権問題は汚いんじゃ」

小さい金髪エルフ娘がこんな事を言ってると、社会は真っ暗だなと私も思う。
実年齢はきっと、私の10倍以上生きてそうだが……ロリBBAは女の魅力を限りなく上昇させる要素だから、私には関係ないのだ。
……
……
……
……島中探せど探せど、目的の物は見つからない……変身の宝玉は何処にあるのだろうか?
この国では衣類も食料も書類も全部が自販機で販売している国だという事もあり――恐らく、自販機の数は軽く億単位であるはず。
いくら時間が大量にあるとはいえ、その中から目的の自販機を探すのは難しい。
困ったな。
リリーが私のために楽しそうに付き合ってくれるのは嬉しいが、この調子だと何日かかるか分からない。
私の巨体だと、店の中にある自販機は探せないし、人手が足りなさすぎる。

「お主に見せたい自販機があるでありんす。
あっちの超大きな高層ビルっぽいサイズの自販機のところに飛んでくれんかの?」
「ああ、この調子だと何日かかるか分からないしな。
私もこの島に来た時に気になっていたからいいぞ」

私がそう言うと――リリーが空を飛んだ。
スカートがヒラヒラして、パンツが見えそうで見えなかった。
いや、今はこんな事を考えている場合ではない。
リリーは何の突拍子もなく、空中にプカプカッ浮いて、超巨大自販機の方へと向かっている。
私も空を飛んですぐに追いかけて、リリーの隣に並んで

「魔法凄すぎるっ!?
生身で空を飛べるのかっ!」
「わっちの魔法の発動媒体は超高性能の縞々パンツじゃ。
このくらいは簡単でありんす」
「やっぱり変態だ!」
「一度履いたら脱げないんじゃ、仕方ないでありんす。
それにパンツが発動媒体でもええじゃろ?」 
「……う、うむ、確かに発動媒体がパンツでも良い……のか?」

会話している間に目的の自販機の前に――私達は着陸した。
この自販機は近くで見ると恐ろしい程に大きい。
20階建てのビル並のサイズで、窓が一つもない構造になっている。
しかも、メニューに並んでいる商品は――

「家を売る自販機とかありえんだろ!?
売るのは土地の権利書で十分だろ!?」
「うむ、わっちもその問題に作った後に気づいての。
家をその場で出しても、運搬が不便すぎてたった30件しか売れんかった。
この自販機は今では――ただの観光物件になっておる。
ま、この周辺の自販機の使用料で黒字じゃから、結果オーライでありんす」
「リリーが作ったんかい!」
「わっちが自動販売機の概念を、この国に広めた張本人でありんす。
さっきから、こっそりお主を誘導して紹介している自販機も、わっちのアイデアの一部じゃ」
「おおーい!?
変身の宝玉を探すのはオマケで、自販機を私達に自慢するのか目的だったんかーい!」
「うむ、よくわかったの。
ちなみに変身の宝玉は、わっちの家にある。
売れないから全部返品されたんじゃ」
「なんか、色々と台無しだ!?
私が目立たない格好に変身した後に、観光案内しても良かっただろ!?」

私がそうツッコミを入れるとリリーは色気たっぷりの笑みを浮かべて

「目的が合った方が、デートも楽しいじゃろ?」

リリーの顔が、ちょうど夕日に照らされて、とても可愛かったから私は何も言えなかった。



8話「自動販売機の島」  おしまい 

次回に一部続く



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