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最弱のコピー魔法師
4話「激闘!巨大隕石」 戦闘記録


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ユキトの脳は、速やかに覚醒した。
惑星に巨大隕石が迫っている状態で、眠る訳にはいかない。
異世界が滅亡するのは兎も角、ここには大切な女の子がいる。
【分析プログラム ダブル起動】
遥か遠い天空から飛来する隕石を解析する。
――隕石の成分はほとんどが石。
秒速37kmで移動している。直径は210m。
落下地点は……僕達がいる場所から200m離れた森林地帯。
落下した場合の被害予測。
最低でも半径200kmの森林はなぎ倒される。地面に潜れば助かるけど、周辺の国々は壊滅的打撃を受け、空中へと舞い上がった塵で大飢饉になる。
一番最悪なのは……これは自然災害ではなく、人災という事。
隕石が惑星へと飛来する原因になったのは、第三次世界大戦を強制的に終了させた禁断の兵器『メテオ』の術式が使われている。
幸い、この世界にある『メテオ』は性能が低いのか……本来のメテオならば人類絶滅級の巨大隕石を複数召喚する仕様なのに、今回は200mの隕石一つだけしか召喚していない。
この状況での救いは二つ。メテオの術式は一度使えば、意識集合体が激怒して拒否って、二度と使えなくなる魔法である事。
二つ目。僕には対処するための手段が残されている事。
サクラ使うよ。君からコピーした重力魔法。
君が世界大戦の最後にそうしたように、僕も星を救うよ。
コピー魔法師の使う魔法は全て劣化魔法。
だけど、同じ劣化魔法を三つ同時に使えば全く違う魔法になる。
脳に多大な負荷がかかりすぎる欠陥だらけの切り札『トリプル起動』
まずは、分析魔法で徹底的に隕石の軌道を解析。
最低限の力で最大限の成果を得るための計算を行う。
………………落下地点。
………………落下軌道。
………………宇宙へと跳ね返すタイミング。
よし、計算完了。
隕石が地表に落下する200m手前の空間。
そこで重力魔法を三重に起動すれば、計算上は全ての問題が解決する。
後は、ルナに事情を説明するだけだ。
そう思ってユキトは、目の前で眠そうな目を擦り、起きている銀髪の少女に話しかけた。

「ルナ、聞いてくれ。
僕はこれから……この惑星を救うよ」

麻薬でもやっているようなゲームチックなセリフだった。
ルナはポカーンとした顔で首を傾げる。

「ユキト〜、どないしたん?中二病に目覚めたん?」
「僕達のすぐ近く目掛けて、メテオで軌道が強制変更された隕石が落下しているんだ」
「ユキトとウチも、トラックで逃げたらええやん」
「残り3分じゃ無理だよ」
「転移魔法はあかんの?あれやったら一瞬やないの?」
「あれを超連続使用したら、僕の脳味噌が焼ききれるね。
それに僕は逃げる訳にはいかないんだ。
とっても面倒臭いけど……メテオは地球の連中が作った兵器。
僕には、きっと隕石の落下を防ぐ義務がある。
それに、この異世界にも……地球の人がたくさん住んでいるだろうしね」

急にルナのエルフ耳が下に垂れた。これは元気を失くした証拠だ。

「ユキト……一緒に地下シェルター作って避難せぇへん?」
「一応、とっておきの切り札があるんだ。
でも失敗した時の事を考えて……ルナには地下シェルターを自分で作って避難して欲しい。
隕石衝突時のエネルギーは、ほとんどが地上に流れるから地下は安全なはずだ」

そう言ってユキトが優しい目線をルナに向けた。
だが、ルナは首を横に振って、エルフ耳をピョコピョコッ元気よく動かして、強く抱きついてきた。
上目遣いで女の涙で訴えかけてくる。

「嫌や〜。
ウチはユキトと一緒に居たいんよ?
ユキトって一人にしたら、すぐに寂しさで死にそうやん?」
「僕が失敗したらルナも死んじゃうよ?」
「どっちみち、ユキトが死んだらウチ自殺するで?」
「……やれやれ、僕はヤンデレにモテモテだね」
「ウチはユキトのお嫁さんやから〜」

ルナが可憐な顔に笑みを浮かべた。
ユキトは、出来れば目の前の少女を死なせたくない。
だが、死ぬ時も一緒だと思えば、不思議と、恐怖と勇気が同時に湧いてくる。
絶対に負けられない戦いだ。
男は好きな女を守る時に、最大限の力を発揮できる。
ユキトは、モギュッーと、目の前の小さな身体を抱きしめた。
若い体は柔らかく、安心感を与えてくれる。
ルナのエルフ耳がピョコッピョコッ動いて愛らしい。
少女の銀髪が薄らと輝いた。

【転移プログラム起動】

二人で一緒に、隕石の落下地点へと移動する。
そこは生い茂る大木の真上。
百Mの高さがある。そこから見渡す光景……遠くにドーム状の超巨大建造物が見えた。
国そのものを巨大な丸い壁で覆った繭のような国だ。
恐らく、あれがメテオを使った連中達の攻撃目標。
防御のために、大量の反重力空間がドームの周りに展開されている。
隕石は落ちてきても、あの国だけはきっと無傷。
反重力空間が全てを防ぐに違いなかった。
今はそういう疑問はどうでも良い。

「ルナ……あれが僕達の平穏を破壊しようとする敵だ」

頭上を見上げる。真っ赤に燃える小さな点が見える。隕石だ。この周辺の地域を全てぶっ壊すエネルギーを秘めている災厄だ。
ルナは目を瞑って、全てを愛する男に預ける。
この男と一緒に死ねるなら、少女は本望だった。

「ウチ、この事件が終わったら、ユキトと結婚したい」
「ルナ、それは死亡フラグだね」
「ウチのおっぱい力は53万や。毎日揉んでくれたら後3回変身するんよ」
「僕は本当にロリコンになってしまうかもしれない」

心がリラックスしたユキトはルナの頭を撫でた。
――この娘の人生を終わらせる訳にはいかない。
僕の責任は重大だ。
きっと、僕は世間でいうロリコン紳士という奴なのだろう。
でも仕方ないじゃないか。ここまで慕ってくれて、引きこもり状態だった僕を救ってくれたのはヤンデレな彼女なんだ。
人生の恩人には報いなければならない。
僕には彼女を幸せにする義務がある。
この惑星の人間達を見捨てれば、僕とルナが百%生き残る道はあるけど……それは考えないでおこう。
ここで隕石を迎撃しないと、後の人生ずっと後悔しそうだ。
さぁ、来い。
大気摩擦で真っ赤に燃え上がる破滅の象徴よ。
僕の計算は既に終わっている。
重力魔法は何時でも起動OKだ。

隕石が空間を切り裂く音は届かない。
音よりも遥かに速い速度で、隕石は落下してくる。無数の衝撃波が重なる空気の壁をぶち破り迫ってくる。
1km。500m。400、300、200
未だっ!

【重力プログラム トリプル起動】
三つの重力魔法。劣化した魔法を三つ組み合わせると全く別の魔法になる。
きっと、三つの妄想を組み合わせてしまったせいで起きた奇跡の産物。ユキトだけが持つ必殺技。
【反射プログラム起動】
反射魔法。それは全てのエネルギーを反転させる魔法。
かつての世界大戦で、巨大隕石の一つを迎撃したユキトの切り札。
それが隕石の前方に薄く広く展開。隕石が反射空間に接触した。
恐ろしい短い時間の攻防。
ユキトの脳味噌は、反射魔法の展開で負荷がかかりすぎて少し痛くなる。
――1秒の時間の流れが1時間に思えた。
走馬灯のように今までの人生を思い起こす。
サクラと神社で出会った頃。付き合った思い出。
ルナがサクラの養子になった日。部下達が笑って生きていた頃。
……サクラっ!僕に力を貸してくれぇー!二度と好きな人を失いたくないんだぁー!
ユキトの祈りは叶った。
隕石はエネルギーを反転させ、空へと飛び、宇宙へと返っていく。
すぐに地球の重力から離脱して、彼方へと消えた。

「……サクラ、僕は世界をまた守れたよ」

ユキトは意識を失って倒れる。
木の上からルナを抱いたまま落ちた。
ルナがすぐに物体操作魔法で、周辺の木々を操作して壊して、クッションに作り変える。
二人が落ちた衝撃を全てクッションが受けきった後、クッションはすぐに作り変えられ……巨大な緑色のダブルベットになった。
ルナは好きな男の頭を、胸に抱きしめる。

「……さすが、ウチとサクラ姉さんが好きになった男や。
世界を二度も救うなんて、誰にでも出来る事やないで」

ユキトの頭の温もりを、胸で感じ取りながら一緒に深い眠りについた。


4話「激闘!巨大隕石」 戦闘記録
おしまい


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