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最弱のコピー魔法師
3話「美しい世界」旅行記 


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地底。それは人間の想像欲を刺激する舞台装置。
創作の世界では、古代遺跡があったり、地底人が文明を築いてたり、世界征服を企む悪の秘密結社がいたりと夢とロマンが広がっている。
さて……この異世界の地底には何があるのだろうか?
地上から遥か深い場所にある地底。
そこには、ポッカリと空いた数十kmサイズの巨大な空洞がある。
天上の岩盤に備え付けられた無数の灯りが地底を照らし、人間は地の底でも普通に生きていた。その生命力の高さと来たら……まるでゴキブリのごとく。
巨大な空洞は農場として活用。
空洞の周りにある岩盤を掘り抜き、居住区にしている。
そんな居住区の一角に、学校がある。
岩盤を掘り抜いて大きな部屋を幾つも作り、白い塗装をする事で、ここが公共施設なんだぞ!とアピールしてある。
だが、岩盤を綺麗に掘り抜くのは大変だからか、部屋のあちこちがデコボコしていて……現実の人間が見たら欠陥住宅に見えてしまう作りだった。

「皆さん。
今日は地上の話です」

そう言ったのは、肌が病的に真っ白な老齢の男性教師だ。
黒い衣服を身につけていて、目つきも可笑しい。頭はストレスのせいかハゲていてシワシワだ。
太陽の光が届かない環境だから、人体に多大なる悪影響を及ぼしている。

「「「はい先生ぇっー」」」

教師の前にいる7歳くらいの子供たちも、全員が肌が真っ白。
日光を浴びないせいで、精神が欝気味だ。骨がすぐ折れそうだ。
教師は、そんな子供達に不気味な笑みを見せて授業を開始する。

「君達には衝撃的かもしれませんが、地上には夜という暗黒空間が広がっています。
無数の虫という化物が蠢き泣き喚き、それはそれはおぞましい……世界なんです」
「虫ってなんですかぁー」 生徒の声に元気がない。まるで死人のようだ。

「書物によれば……虫とは短期間に大量繁殖して、人間の身体に寄生する生物だそうです。
おかげで地上に住む人間の身体の中は虫だらけと聞きます」

「怖いー、ぎゃぁぁぁぁ!!」 1人の生徒の骨がポッキリ折れた。

「しかも、地上の人間達は虫を食べるそうです。
ああ……なんて恐ろしい事でしょうか?
私たちは幸運ですね。この完璧な地底に住めて幸せです」

「……」 生徒が1人、血を吐いていた。どうやら死体のようだ。

「今までの努力のおかげで、私たちの平均寿命は30歳まで伸びました。
これからも私たちは地底で平和に暮らし、老いて死ぬのです。
だから……くれぐれも、地上を目指そうと思ってはなりません。
分かりましたね?」
「「はぁーい、地上は汚いんですねぇー」」」

皆、元気がなかった。
地底の環境に人類が完全に適応するまで、あと千年くらいかかりそうだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

地底国家の真上。
そこには大きな野原が広がっている。
時刻は夜、綺麗なお月とお星様が地上を照らしていた。
野原の中に、物理操作魔法で作られた緑色のダブルベットがある。
ベットの中には、黒髪のイケメンと、銀髪の美少女が仰向けに眠っていた。

「異世界のお星様も美しいね、ルナ。
僕はこうやってノンビリゆっくりできる時間に……幸せって奴を感じるんだ」
「好きな人と見る星は本当に綺麗やな〜」

嬉しそうに言うルナの格好は、白いシャツと短いズボンの格好でとても涼しそうだ。
先ほどまで、即席で作った五右衛門風呂に入っていたから、輝く銀髪が少し湿っている。
隣から女の子らしい良い香りがして、ユキトは相手がヤンデレ娘でも大満足だ。調子に乗って詩人っぽい事を言う余裕すらある。

「昔の人は、この星の海を見て……星と星を繋げて線にして図形にする星座という概念を作り出した。
なぜ、そんな事をしたのか簡単に理解できるくらいに……神秘的な夜空だね」
「ウチもそう思う〜。本物のお星様はええな〜」

ルナの視線はずっとユキトを見ている。ヤンデレ怖い。
ユキトは楽しそうに夜空を見つめる。
――漆黒の宇宙空間に輝き続ける星達……自分達が死んだ後も輝き続けるのだろう。
野原で虫達がヒューヒューと鳴く音は、まさに大自然が奏でるオーケストラ。
ロマンチックすぎてゆっくりできるひと時。
第三次世界大戦後の地球では……こんな綺麗な星空を見ることはできない。
これらの光景は、映像の中にだけしか存在しない超贅沢品だ。

「異世界に来た利点をようやく見つけたよ。
綺麗なお星様を、夜になったら何時でも無料で鑑賞できる。
これは良い事だ」
「ウチはユキトがいる世界なら……何処でもええな〜」

そう言ってルナがギューと抱きついてきた。柔らかい胸を腕に強く押し付けてくる。
白いスベスベな肌と密着して、ユキトの男の本能が反応しそう……いや、反応していた。
ルナは若くて可憐な銀髪美少女。しかも好意を持って慕ってくれる上に、引きこもったユキトを部屋の外へと連れ出した恩人でもある。
そんな彼女に抱きつかれて嬉しくならないはずがない。

「……ルナ。
そんなに抱きつくと、僕、狼になっちゃうよ?」
「ウチ、兎さん?たくさん食べてもええよ〜。
美味しく召し上がれ〜」

我慢できなくなったユキトは、ルナに襲いかかった。
衣服を脱がし、パンツを脱がし、その魅力的な身体を堪能する……という展開にはならず、ルナを優しくモギューと抱きしめるだけ。
ユキトはYESロリータ、NOセックスの精神を貫くロリコン紳士。
ルナは、彼の温もりを全身から感じて、エルフ耳がピョコピョコッ!と元気そうに動いている。
健全なラブロマンスがそこに広がっていた。

「これはこれでええな〜暖かいね〜」
「旅の途中に、ルナが妊娠したら大変だからね。
それくらいの配慮はあるのさ」
「魔法で避妊具作れるで?
ウチ……サクラ姉さんの代わりには、ならへんけど、好きにしてええよ?」
「ルナが可愛すぎて、僕は本当に狼になりそうだ。
なんでこんなに可愛いのに、ヤンデレなんだ……」
「その代わりに……ユキトも魔法で身体を改造して、エルフになってくれへん?
理論上の平均寿命一万年以上あるから、ユキトにも長生きして欲しいんよ〜」

ユキトの股間のビックマグナムが反応しそうだった。だが、耐えた。
――ルナはまだ幼い。
研究所で製造されてから十二年ほどしか経過していないし、ヤンデレだ。
いや、こんなのは言い訳だ。
まだ、心の中で問題が解決してないせいだ。
ルナの関西弁を聞いていると……世界大戦の末期に、裏切られて殺されたサクラの事を思い出してしまう。
サクラを殺し、地球連合軍を裏切った英雄カイオウの最後の一言が心に突き刺さる。

『サクラが死んだのは、貴様が弱いからだ。
弱者め、最弱のコピー魔法師め。
虫けらのように這いずり回って死ね。
全ての真相を知らぬまま死ね』

ユキトが数年間引きこもる原因になった巨漢の大男。
恋人の復讐がまだ終わっていない。
彼の第三次世界大戦は、カイオウを殺さないと決着が着きそうになかった。

〜〜〜〜〜

……静かに二人の時間は過ぎた。
ルナが積極的にお色気攻撃をしてきたが、今はユキトの胸元でスヤスヤッと安らかに眠っている。
ヤンデレ娘も眠れば、寝顔は純粋に可愛いと思えた。
そんな愛しい彼女を抱きしめて、ユキトは無限に広がる大空を見上げる。

「カイオウ。
今、お前は何処にいる。
この夜空を……貴様も見ているのか?」

漆黒の星空は美しい。星の位置は地球の夜空とは違うが、大戦前の古き良き地球を思い出せる素晴らしい光景だった。
流星が一つ、夜空に流れた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ママ〜。地上の空っておぞましいよね。
常に空の形が変わって、お星様っていう怪物光線が見えるそうだよ」
「毎日、同じ風景を見れる岩盤で出来た天井の方が良いわよね。
ああ良かった。地底は永遠に変わらない美しい世界だわ」

地底の一般家庭の近くを通り過ぎた男性教師は、この親子の話を聞いて思った。
――毎日、同じ風景ばかりで飽きてつまらない。
死んだような退屈は嫌だ。
こんな内心を押し殺して、ガキどもに洗脳教育を施すのは疲れた。
何時になったら私は地上に脱出できるんだ……?
混沌でも良い。地上に住んでみたい。
美しさなんて人それぞれだろ、馬鹿どもめ。


3話「美しい世界」旅行記
おしまい




【分析プログラムからの警告
流星が召喚魔法で軌道を変更。
この惑星に向かって、秒速37kmの速度で落下しています。
4分以内に対処しないと死にます】


のは元の世界に戻れる俺のおかげ】
http://suliruku.blogspot.jp/2015/12/blog-post_10.html
【内政】「馬具チートして、馬の力を効率よく運用すれば最強やん!」 ●紀元前21世紀
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作者コメント + 感想まとめはこちら
http://suliruku.futene.net/Z_saku_Syousetu/Tyouhen/Kopi-/c6.html



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