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本好きの成り上がり
7話 テレサ「ゆっくりしていってね!」


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村長殿に食堂へと案内された私とエミール。
食堂はとても広く、大きな石を加工して作られた豪華なテーブルが四つある。
一度に二十人くらいが席に座って食事を取れそうなサイズだ。
席には一人の巨漢の男が座り、もう一人はテーブルの上に乗って……生首だけになっていた。
金髪童女の生首。
私は身構える。常識とおりに判断するならば……これは殺人現場。
恐らく、インドのサリーを纏っている巨漢の男がやったのだろう。
外見は、仏そのまんまの神様顔をしているのに、恐ろしい奴だ。
何時でも戦闘できるように緊張していると――

「テレサはテレサだよ!
カグヤ!久しぶりっ!」

お、女の子の生首が話しかけてきた。愛らしくて活き活きしている。
私の心臓が爆発しそうなほどに恐怖で震えて痛い。
これはありえない。人間は胴体と首が離れたら死ぬ生物だ。
……そうだ。
こういう時こそ、無意味に垂れ流し状態のナレーションを見るべき(チラッ
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テレサ。種族:生首でありながら皆からの尊敬を集める生首だ。
危害を加えると恐ろしい事になる。
仏の顔は三度までなのだ。
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あ、そうか。
生首は生首でも、エロイナ世界最弱の種族:生首の方だったか。
皆から害虫にように苛められて嫌われる種族だから、村の中にいるとは思わなかったが、きっとこの村は生首と共存しているのだろう。
私がそんな風に考え込んで黙っていると……村長殿が気まずい顔で説明してくる。

「うっかりしてました。カグヤさんに説明するのを忘れてましたね。
彼女はテレサさん、隣にいるのはペットの仏さんです」

あれ?テレサさんにペットがいるという事は……テレサさんの正体は地球人?

「ええ、カグヤさんの想像通りですよ。
生首になってしまったせいか、知能がかなり低下してますが……誰にでも優しい気さくな人です。
不幸な境遇に負けない心の強さとでも言うのでしょうか?
テレサさんと会話すると精神が落ち着きますよ」
「テレサ褒められた!やったー!」

童女の生首がテーブルの上を何度も何度もボヨーンと跳ねて、無邪気に喜んでいる。
きっとエロイナの事を全く知らずに、うっかり種族:生首を選択してしまったのだろう。
その境遇は不幸を通り越して地獄なはずだが、彼女は不幸を不幸と思わない人間のようだ。
あれ?さっきのテレサさんの発言が気になる。確か彼女は
『カグヤ久しぶり』
そう、このような事を言った。
私と彼女は以前、出会った事があるのだろうか?
一応、聞いておこう。

「……テレサさん、私とアナタは何処かで会ったことありますか?」

「テレサはカグヤの大親友だよ!だからたくさん遊ぼうね!」

目の前の生首から、要領の得ない無邪気な返答が返ってきた。
大親友?私の考えすぎだろうか?
テレサさんも未来からやってきたとか、そんなオチか?
もしくは頭がアホになっている?

「カグヤさん」

村長殿が私に声をかけてきた。振り向くと愉快そうに苦笑しているイケメン顔がある。

「テレサさんは会う人のほとんどにお久しぶりって言ってるんです。
恐らく、私達で言う所の『こんにちは』に該当する行動なのでしょう。
基本的にテレサさんの言っている事に意味はありません」

さり気なく酷い事を言うお方だ。
村長殿も……テレサさんに『お久しぶり』と言われたので?

「ええ、私の妻や息子、その子孫達にも久しぶりと言ってましたよ。
まぁ、最近、この村にやってきた人たちには……なぜか、言いませんでしたが。
テレサさんの頭の中がどうなっているのかは、誰にも分かりません」

ここに重要なヒントが隠されているように思うが……まぁ、出会った人を全て未来人や刺客だと疑うと、頭が痛くなりそうだ。
私は名軍師の官兵衛みたいな智謀溢れる人間ではない。僅かなヒントから真実へと辿り着くのは不可能だ。
それよりも気になるのは、テレサの隣に座っている巨漢の男。明らかに種族:神。
神系統の種族は、生命力が異常なくらいに高かったり、基礎ステータスが高いことが多い、
テレサさんは、ペット選択イベントで、とんでもない当たりクジを引いた事になる。
だから、私は隣りにいるイケメンに聞いてみる事にした。

「ところで……村長殿。
テレサさんの隣にいる仏さんはどういう人物なので?

「……カグヤさん。
目の前に本人がいるのだから、仏さんに聞いた方が早いのでは?」

失礼しました。村長殿。
確かにその通りだ。
私は仏さんの顔をゆっくり見る。彼は頭はパンチパーマ、日本の寺にあるような仏像そのまんま格好だ。
うっすら後光が差していて神秘チック。
主のテレサちゃんが無邪気に幸せを謳歌しているし、きっと、とても心が寛大な人なのだろう。

「なんや?ワイに何かようか?お嬢ちゃん」

見た目と発言にギャップがありすぎるお方だった。仏なのに関西弁。神聖さの欠片もない。
えと……仏さんはテレサさんとどういう関係なので?

「ワイはテレサの保護者や。
テレサを虐めたら仏罰が下るで、仏罰」

具体的に仏罰とはどのような事をするので?

「海の上に、転移魔法でドボーンや。
ワイは神様やからな。滅多に殺生しないんや。
当然、食事も菜食主義やで」

仏さんはそう言って、ニッコリと笑ってくれた。
発言と見た目のギャップがありすぎて面白い。
でも、怒らせたら酷い目に合わされそうだから、礼儀正しく接しようと、私は心に誓うのであった。
……これ以上、質問すると怒りそうだ。気まずい。

「あらあら、可愛いお客さんね」

穏やかな声が聞こえた……厨房に青色のエプロンドレスを着た清楚そうなエルフ娘がいる。
年齢は14歳くらいだろうか?腰まで届く黒髪を伸ばして花のように美しい。
恐らく、不老長寿のエルフだから、見た目通りの年齢ではないのだろう。
外見の割には、落ち着きすぎている。
分かった ……あなたは、村長の娘さんですね。

「あらあら、そんなに若くないですわよ?
村長の妻をやっているテファですわ」

口元を隠しながらテファさんがゆっくりと教えてくれた。
私はナレーションをチラリッと見る。

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テファ  
凄腕の槍使いとして名を馳せた元冒険者だ。
ビンボー村で食堂と宿屋を経営している。
今年で五百歳だ。
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……凄い。長生きしても若いままなんて凄い。
私はこの世界の摩訶不思議さに感謝した。始皇帝が夢見た不老不死はここにあったのだ。
可愛い人がずっと可愛い外見のままで居られる。
それは人類の夢だ。素晴らしい。

「丁度、料理が出来ましたの。
食べます?カグヤさん」

初対面の人間でも、ナレーションのせいで、名前と簡易プロフィールがばれているのが辛い。
世界中の何処に逃げても、刺客達が『カグヤという猫の神がここを通りませんでしたか?』と名前を聞いて追ってくるという意味だ……。
どないしよう。
ん?テレサさんがつぶらな瞳で私を見ている……?

「テレサはね!カグヤと一緒に長い冒険をしたんだよ!」

あ、はい、そうですか。テレサさん。

「テレサはカグヤを守るためなら何だつてするよ!」

……良い娘だ。天使だ。テレサさん。
未来人の可能性が濃厚だが、時空を越えて守りに来るなんて、よく考えたら凄い事だな。
でも、未来人のせいで、矛盾ばっかり発生している気がする。
未来の親友が、親友関係を構築する前に助けに来る?
なら、この世界にはもう一人テレサさんがいるという事なのだろうか?
いや待てよ。浜辺でメイリンと出会った時に、生首いたな?
無属性魔法の試し打ちで殺害してしまったが……あれは、もしかして、この時間軸のテレサさんだったんじゃ?
一応、目の前の生首に聞いておこう。

「テレサさん、私と初めて会った時、どこに居ました?」
「浜辺だったよ!カグヤと会わなかったら復活するのを諦めて、成仏していたと思うよ!」

……これ以上は、聞かないでおこう。
ごめんなさい。この時間軸のテレサさん。
未来人どものせいで、この世界は滅茶苦茶です。
決して化けて出ないでください。





私は椅子の一つに腰掛け、隣の椅子にエミールを座らせる。
テーブルに置かれた料理は、砂漠地帯らしい料理だった。
香辛料をいれたカレーと、薄く広げて焼いたパン。飲み物はヨーグルトっぽいジュース、ラッシー。
恐らく、パンをちぎって、カレーにつけて食べるのだと思う。
村長殿は両手を合わせ、神妙に神様に祈りを捧げた。

「第二の人生を与えて下さった神様。
今日も恵みを与えて下さり、ありがとうございます」

なるほど、転生者らしい祈り方だ。
確かに死んだ後に、ゲーム世界で生活する経験をしたら、神様の実在を信じても良い気分になるだろう。
私も真似をして、両手を合わせて祈りを捧げた。
エミールも不思議そうに私を見つめた後に、真似をして両手を合わせて目を瞑り

「もっふ」

子供だから祈る意味を全く理解してない様子に初々しさを感じた。
この様子だと、食べ方を教えないとテーブルを汚してしまうだろうな。
……いいか?エミール。
この料理は、そこの白いパンをちぎって、器に入ったカレーに付けて食べると美味しいぞ?

「はい!分かりましたカグヤ様!」

エミールは嬉しそうにそう言って、私の指示された通りに、食事をしてくれた。
素手で食べるタイプの料理だから、大した技術はいらない。
後でスプーンや箸の使い方も教えておこう。
さて、私も料理を楽しむとするか。パンを軽くちぎり、カレーに付けて食べる。
そうすると丁度いい辛味が口の中に広がった。
この辛さは病みつきになりそう。料理がうまい素敵なエルフ娘を嫁にできた村長殿は、この世で一番幸せのイケメンに違いない。
十分間、私は会話すらせず、テファさんの手料理に夢中になる。
この料理には彼女の愛が詰まっている。フランスの太陽王ルイ14世が食べた贅沢料理の数々よりも美味しいと言わざるおえない。
太陽王もこの料理を食べたなら、彼の事だ。ポンッと一億円(史実の食費代)をテーブルに毎回、叩きつけて料理を食べるはずだ。
私が一生懸命、食事をしていと、その様子をテファさんが微笑ましい目で見ていた。
生首のテレサさんもニコニコ笑って、私を見ている。注目されると食べ辛いな……。
……テ、テレサさん、なんで私を見つめているので?
カレーはお嫌いですか?よく見たらテーブルにテレサさんの分がないようですが?

「テレサはね!カグヤの幸せがテレサのしあせぇっー!なんだよ!」

そう言って、テレサさんが鮮やかに笑った。
なんだ、この可愛い生首。
すかさず、仏さんのゴツイ右手がテレサさんの頭を優しく撫でる。

「テレサは食事しない種族なんや」

なるほど、そうですか。
確かに、生首しかないとなると……食べ物を消化するための器官が体内に存在する余裕がない、つまり食事できない。
どうやって栄養を得ているんですか、テレサさん。

「太陽さんとポカポカゆわわーい!すると元気になるよ!」

まさかのエネルギー取得方式が太陽光発電。
時代を先取りしすぎです、テレサさん。
エロイナ世界は不思議に満ち溢れていると私は思った。




困った事に、私は誰が敵なのか、さっぱり分からない。
全員、裏がない良い人に見えて、不審な行動は一切とっていないように思える。
メルカッツ……紳士なお爺ちゃん。
村人……多すぎて推理したくない。異常なくらいにこの村にはエルフと人間がいる。
エルフの村長イズミ……私なら村長に寄生生物仕込んで村ごと乗っ取ると思う。でも、彼が犯人だったら村人を扇動して、私が復活できないようにボコボコにするだろう。
村長の妻テファ……こんな可愛い娘が寄生生物な訳がない。
テレサ……無邪気な子供に見える生首だ。寄生されていても怖くない。
仏……彼に敵が寄生してたら、この場で私を含めた全員を殺しまくって二度と復活できないようにボコボコにしていると思うほどに神々しい。

どうやら私には探偵の素質が欠片ほども備わっていないようだ。
そもそも、相手側がミスしてヒントをくれない限り、推理の材料そのものがない。
私は最初に殺される被害者。この場に世界一有名な名探偵シャーロック・ホームズが居たとしても、推理なんぞ不可能だ。
基本的に推理とは、殺人が起こった後にやるもの。事件が起きる前に解決するなんていう神業は無理。
どないしよう。
暗殺は実行する側に主導権があるから、防ぐのが困難すぎる。

「もっふぅ〜美味しいです〜。
カグヤ様の人徳が素晴らしいです〜」

たらふくカレーとパンを食べて、満足にしているエミール。
君が居なかつたら、人間不審になっていたかもしれない。
この狐耳美少年だけは信用できる。


この話のコメントまとめ+作者の感想
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【小説家になろう】 毒料理ヒロインって、やっぱり駄目なん?
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【小説家になろう】 テンプレ【異世界の魔法言語がどう見ても日本語だった件】
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どうでも良い設定⑺
税率高すぎて、穀物が高価だ。
つまり、カグヤはとんでもない大歓迎を受けているも同然。


村長「ほとんど税金おさめてません!
上に政策があれば、下に対策ありです!」

カグヤ「これはひどい村だ」
 

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