美食家の織田信長すら大喜びするだろうテファさんの手料理を堪能した後、テレサ・仏さんコンビは近くにある露天風呂へと行くと言って、豪邸から出て行った。
この村、村長殿の持っている建築技術が凄いせいか、無駄に色んな設備に溢れているようだ。
恐らく、村長殿は地球で建築関係の仕事に就いていたのだろう。
私はテファさんが、料理のあと片付けをする間、村長殿に話しかけて……私を狙う敵を探し出す事にした。
「村長殿。最近、不審者とか、寄生された人間を見ませんでしたか?」
今の気分は名探偵シャーロック・ホームズ。助手のエミールが人生経験足りなさ過ぎて頼りない……。
「寄生された人間なら、この一年間で千人くらい見ましたね」
村長殿は、ナイフを片手に、木彫り人形を作りながら答えてくれた。
え?千人?多すぎる!
「カグヤさん。死ぬ瞬間まで、相手が寄生された人間なのか、寄生されていないのか確かめる手段がないから分かりませんが、基本的に村に来る人は、良い人ばかりですよ。
死んだら復活できないのが残念です」
……寄生された人間が良い人だらけ?
元の持ち主の身体を奪った悪党だぞ?そんな化物が良い奴?
「寄生された人間さん達は、貧乏なこの村に何故か大挙して移住して頑張って働いてくれてます。
まぁ、農地が足りないので仕事はダンジョン探索ですが。
先ほど千人と言ったのは、ダンジョンに行って帰ってこない移住者の数です」
その移住者は、今は何人ほど残っているんですか?
「ほとんど行方不明で、少数しか残っていませんね。
一度死んだら終わりなのに……ダンジョン探索。
彼らは勇敢と言えばいいのか、馬鹿と言えばいいのか、私には分かりません。
普通に農民やってたら、長生きできたと思いますよ。
私達が住むフミーダイ公爵領の農民への税金は9割ですが、日本と同じで、農民は収入を誤魔化しやすい職業ですしね。
隠し倉庫とか作って、そこに食料を蓄えれば良いだけです。
向こうも人手が足りてないのか、まともに調査して来ませんしね」
……なるほど。
つまり、この村は寄生生物達から見ると、死地同然の場所という訳か。
よく考えたらエロイナ世界の人間に憑依してLvが十倍になっても、一度も死なずにダンジョンを探索するのは難しい。
ダンジョンには無数のアイテムがあり、普通にモンスターが毒薬やら、呪われたお酒やら投げてくる。
状態異常で行動不能になったら、そのまま人生終了になる可能性が濃厚だ。
でも、一応、少数の移住者達の名前を聞いておこう。
村長殿。彼らの名前を聞いてもよろしいですか?
「カグヤさん。
先ほどから気になったのですが……どうして寄生生物をそこまで気になさるので?」
村長殿が顔をしかめて私を怪しんでいる。
それはそうだろう。私と彼は出会ったばかり。
混沌の魔法書関連での繋がりがあるとはいえ、まだ信頼関係を築いてはいないのだ。
ここで『実は未来からタイムスリップしてきた連中に命を狙われているんです』って正直に答えることが出来たら良いのだが……さすが頭が可笑しい女だと思われるのは嫌だ。
よし。無難にこう答えよう。
……村長っ!人間に寄生して身体を奪っている生物達に対して警戒心無さ過ぎるだろ!?
「ああ……そういえばそうでしたか。
すいませんカグヤさん。
エロイナ世界の常識に慣れてしまったせいで、身内以外が死んでも心が動かないんです。
寄生生物よりも、この国の税金の方が怖いですしね。
ほら、中国の民衆関連の逸話にもあるじゃないですか?危険に満ち溢れた無法地帯よりも重税の方が怖いって」
とにかく私は寄生生物が怖いんだ。
だから……移住者の名前を教えて欲しい。
「分かりました。混沌の魔法書の恩もありますし、お答えしましょう」
そう言って、村長殿はメガネをクイッと片手で抑えて
「まず、村の郊外にいるジョン・スミスという男には気をつけてください。
寄生生物というより、考え方が機械チックで挨拶しても返事を返してきません。
家の周りに対人地雷を埋めたり、殺人犬を飼ったりして誰にも心を開かないから迷惑してますよ」
ジョン・スミス。
確か、白人の間でよく使われていた偽名の一種だな。アメリカの開拓時代に、過去の経歴を隠すためによく使っている人間がたくさんいた。
ひょっとしたら地球人なのかもしれない。
「いえ、さすがに彼は地球人じゃないと思います。
どっちかと言えば……人造人間?ターミネーターっぽい感じでしたよ?
村の子供達が遊び半分に、魔石を使ってカオス・ボール(最強魔法の一つ)を彼に浴びせたら、出てきたのは機械の身体でしたし」
よし、そいつ未来人決定……いや、村の子供達の方が危険人物すぎるだろ?
ちゃんと親が子供に教育しろと言いたい。
「おかげで寄生された人間さん達は、この村でまともに生活できませんねぇ〜。
全く、最近の子供と来たら常識がありません。困ったものです」
もう……ツッコミを入れるのは止めておこう。人権意識が違いすぎる……。
ジョン・スミスの家はどちらにあるので?
「村の南側です。カグヤさんも気をつけて下さい」
ジョン・スミスと、村の子供のどちらに!?
「余程の嫌われ者じゃなかったら、子供達もそんな事はしません。ご安心ください」
これはひどい。これが噂に聞く村八分という奴なんだろう。
人間は共通の敵(差別対象)がいると、団結できる生き物。村長殿はジョン・スミスを利用しているに違いない。まるで政治家だ。
まぁ、とにもかくにも……この後の村長との会話で、移住者達の話をたくさん聞けた。
その中で特に興味深いのは自警団団長オーリス……彼は一年前にこの村にやってきて、瞬く間に皆から信頼されて、先代の団長が行方不明になった事を契機に団長になったそうだ。
推理物っぽく考えるならば、彼が先代の団長を行方不明にして、その座についたと見るべきだろう。
あとメルカッツさん達を含める冒険者達の興味深い話を聞けた。
彼らも1年前にやってきて、この村を拠点にして西のダンジョンを探索しまくっているらしい。
一回死ねば人生終了の寄生生物的に考えると、そんな危ない行動を取るはずがない。
自動的にメルカッツさんは容疑者から外すべきだろう。
ジョン・スミス、自警団団長オーリス。
この二人のどちらかが、寄生生物に違いない。
……という推理をエミールに聞かせたら
「よく分からないです……さすがカグヤ様!頭が良いです!」
彼が狐耳をピョコピョコ動かしながら褒めてくれた。
でも推理できても、こちらから手を出す訳には行かない。
殺せば寄生生物かどうか分かるが、もしも無実だったら……私は村人からフルボッコにされて追い出される。
困ったぞ。
探偵小説みたいに、警察という圧倒的な権力がないから、推理だけじゃ自分の安全を守れない。
名探偵コナンや、金田一少年がここに居たとしても無理ゲーと嘆く事だろう。
推理力+武力+権力のトリプルコンボが欲しい。
「大変だぁー!」
わざとらしい声とともに、誰かが大きな扉を開けて、食堂へと入ってきた。
黒い髪の清純そうな青年だ。腰に剣をぶら下げている。
偉人で例えるならば、五人の天皇に仕えた武内宿禰のように、信義に熱く、裏切りしそうにない風貌をしている。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
オーリス。
ビンボー村の自警団団長だ。
働き者で人気者なのだが、何故か独身。女性からモテモテだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
なんだ、このナレーション。
容疑者(オーリス)と縁談でも組めと、催促しているのだろか?
オーリスは、村長殿の方に顔を向けて言葉を続けた。
「村長っー!大変だぁー!」
「大変なのは分かりました。要件を告げてください」
村長殿は作りかけの木彫り人形をテーブルに置いて言った。
オーリスは悲壮感が漂う素振りを見せながら叫ぶ。
「村の外からモンスターの大群が押し寄せて来てます!
自警団だけじゃ対応できません!
非常用の混沌魔法入りの魔石は、ほとんど使い尽くしました!」
「それは大変ですね」
大変さを全く感じさない村長殿。日常会話をしているような感じに常に冷静だ。
厨房にいたテファさんは、料理の後片付けを中断して、アイテムボックスから長い槍を取り出し、その場でビュンッと素早く回転させて
「あらあら、こちらから狩りに行かなくても、獲物が向こうから来たという事ですわね?
しばらくはご馳走デーですわ」
さすがエロイナ世界の住民。モンスターに襲われても『食材が向こうから来た』程度にしか感じてない。
ところでこの……モンスターの大群による襲撃イベント。
まさか、私を殺すために村ごと焼き払おうとする敵の陰謀だろうか?
だとしたら、なんて卑劣な敵だ。まるで酒に酔って宮殿を放火している最中のアレクサンドロス大王並のクズだと言わざる負えない。
正義感と常識がある私としては、憤慨せずに居られない。
まぁ、分かった事はオーリス青年も容疑者から外しても良いだろう。
彼が寄生生物だったら、こんな面倒な事をせずに、モンスターの大群が来たことを黙っているはずだ。
ここに報告に来ている時点で、容疑者じゃない。
でも、念の為に……一応、オーリス青年に聞いておこう。
もしもモンスターが南側から来ているのなら、犯人はジョン・スミスだな。
「え?
モンスターが来た方向?
西だよ!西!」
私がやってきた方角だ。
メルカッツさん達が先ほど向かった方角でもある。
推理が振り出しに戻った。メルカッツさんも再び容疑者候補入り?
もう……やめよう。他人を疑うの。
私程度の推理力じゃストレスが溜まるだけ。
それに名探偵コナンや、シャーロックホームズでも推理は不可能だと思うね。
彼らは殺人事件が起きてから、現場を捜索して推理をする訳だが……私は最初に殺される目標。
犯人が念入りに殺しにやってくる被害者ポジションなのだ。
必要なのは推理力ではなく、敵を排除する力や、寝込みを襲われないようにする努力だ。
この人気作、あらすじ長すぎる!?【魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ】
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