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本好きの成り上がり
17話メルカッツ「なんて卑怯な!」 カグヤ「お前が言うな!」


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千匹にも及ぶオークの大物量と、千里眼の水晶を利用した私の遠隔魔法攻撃。
このダブルコンボでチェックメイト!と言いたかったが…… メルカッツは意外な事に、徳川の大軍相手に善戦した真田幸村の如くたった一人で無双していた。
長剣を振り回し、オークを一撃で次々と肉塊に変えていく。しかも、混沌属性のエンチャントが付加されているらしく、剣を一筋でも浴びたら発狂物だ。
でも、この展開は私の狙い通りでもある。
オークキングさえいれば、オークは無限に召喚される。
いくらレベルが高いメルカッツでも、長期戦をやれば疲弊し、何時か死ぬはず。
一応、生物だし。

「土触手(アース・バインド)!」

私は瞬時に魔法を連続で発動。遠くにいるメルカッツの手足を、地面から盛り上がった土の触手で拘束した。
オッサンと触手。絵的には全く美しくない。メルカッツが女の子だったら良かったのに……?

「こんなもんが通用するかぁー!私を舐めるなよぉー!
魔法を使ってるんじゃねぇぇぇぇ!!」

しかも、メルカッツは圧倒的な筋力で強引にすべてを振り払って壊し、近くにいるオークを肉片にしていく。
だが、無茶をすればその分だけ体力を消費する。
私の嫌がらせとオークの物量で、メルカッツの心も体も疲れていき、いずれはアレクサンドロス大王の無茶な遠征(東西4500km征服)に付き合わされた兵隊のごとく、すべてを諦めるはずっ……!

「聞け!カグヤっ!
私達の絶望を!
貴様がどれほど愚かな事をしているのか……分かっているのか!」
「土触手(アース・バインド)!」

そんなもん、知らん。
私を捕まえて拷問したり、エッチィ事をしようとするオッサンの方こそ後悔して死ぬべき。
しかもエロはエロでも、妊娠したら死ぬ虫系統のモンスターの所に連れて行く気だろ!
エロイナ世界は酒で酔っていたら、誰とでもエッチィ事ができる狂った世界だからな!私にはわかってるんだぞ!

「貴様らが魔族と呼ぶ私達の正体を知るがいいっ!
私達は母星を離れ、遥か遠くの彼方へとやってきた移民船団ユルサの末裔!
ユルサァン星人だ!」
「土触手(アース・バインド)!」

ユルサァン星人?そんな伏線回収はいらん。
SFチックな展開だが、そもそも宇宙人に共感できないし……この真実を打ち明ける会話、全く意味がないぞ?
メルカッツ。早く死んでくれないかなぁ。
後に書く偉人伝で、とんでもない強敵だったと書いてあげるから死んで欲しい。

「私達はっ!
この星のものではないっ!
だからっ!魔力がないから魔法も使えない!
死んでも復活し辛いっ!そんな可哀そうな宿命を背負った種族なのだ!」
「土触手(アース・バインド)!」
「私の身体を拘束するのはやめろ!?」

こっちは一度、場所が特定されたら人生が終了するかもしれないんだ。
メルカッツの事情なんて知らん。
お前の正義は、私にとっては悪で。
私の正義はお前にとって悪なだけだ。

「カグヤ君っ!貴様がいるせいでっ!私達の作り上げた栄光の歴史が消えてなくなるかもしれないんだっ!
そうっ!タイムマシンを発明した時っ!ユルサァン星人は絶望した!
過去の世界のほとんどで、ユルサァン星人は絶滅へとおいやられ、歴史から消えて行った!
分かるかっ!
この絶望がっ!カグヤっ!貴様のせいだ!貴様の魔法と猫の神の特性のせいでっ!ユルサァン星人が全滅するんだっ!」
「土触手(アース・バインド)!」

ぶっちゃけ未来人どもの世界なんてどうでも良い。
私は自分が幸せになれる世界を選択するだけだ。

「機密だが教えてやろう!
過去は未来から干渉を受けないと正しい道を選ばないっ!
死ぬはずの人が生きていて、結婚するはずの人が結婚せず、偉人が無名で終わる。
……そんな悲劇が無数に起こるのだ!
だから私達は時空を超えて、この世界にやってきた!」

うーん、メルカッツのHPほとんど削れてないなぁ。
私が魔法で攻撃してこないから、メルカッツは勘違いして喜んでいて、うざったい。

「カグヤ君!
攻撃をやめたという事は……ユルサァン星人のために死ぬ覚悟が出来たという事でいいのかね!?」

無論、応えはNOだ。
私がやるべき事は、土の魔法で壁に細くて長いトンネルを作り、銃弾がこっちに来ないように直角に曲がるコーナーを設け、この中に

「無矢(アロー)!」

MPを余分に消費して、射程距離を二倍に伸ばした無属性の矢を放ってメルカッツさんをちまちま攻撃するだけだ。
無矢(アロー)は細長いトンネルを直角に曲がって通過、メルカッツへと次々と直撃する。
無属性魔法は燃費良いから、今の私なら連射できるし、メルカッツみたいに耐性装備を完全にそろえた奴でもダメージが通るから、エロイナ世界では地味に価値がある。

「卑怯者っー!この小娘がぁー!」

オークの群れと、私の魔法の二つに挟撃されたメルカッツは頭を真っ赤にして怒る。
私は魔力が尽きるまで連続して魔法を使い、回復するまでの間、言葉で精神的な嫌がらせをしてやろうと声をかけた。

「メルカッツ。
未来世界は過去から影響を受けるのだろうか?
違う道を辿った過去世界は、全く関係のない並行世界(パラレル・ワールド)になって、別の世界として歴史を歩み続けるだけだと思うぞ?
私の言う事が理解できたら、さっさと元の世界に帰れ」

「無限に広がる時空を理解するのは、ユルサァン星人の科学力をもってしても難しいっ!
だがっ!同じ歴史を辿る過去世界が少なかったら……未来世界が消滅するという仮説がある。
もしもっ!その仮説が正しかったらっ!ユルサァン星人が生き残れる未来が消滅するのだっ!!」

重い話だ。少しは同情してやろう。
世界の構造そのものが根本的な問題なのだから。

「だから、ここでカグヤ君が生きるのを後悔するくらいに、徹底的に辱めて殺すのだ!
貴様させ死ねば人類は滅び、ユルサァン星人の栄光の歴史が始まる!」

前言撤回。拷問やスケベーな事をしまくってから殺す気満々のゲスはさっさとナイルン川の底にでも沈め。
なぜ、私が女の子だからって、生きるのを後悔させるためにエッチィ事をしようとするのだ?
あ、そういえば、地球にこういうセリフがあった。
女性にとってレイプは『殺されるのと同じ』って。
なるほど、女の子の心を折るには、無理やりレイプするのが効率が良いのか……うわぁ……。
よしっ!私はっ!心を鬼にする!

「メルカッツ!変態っ!エロ親父っ!さっさと死ね!」

「死ぬのは貴様だ!カグヤ!」

もう……未来へ帰れ!
この世界は私達の時間軸だ!

「私達のタイムマシンは、未来から過去への一方通行だ!
物理的に帰るには、この世界の魔族を勝利させる必要がある!
だから死んでくれ!
私が元の世界に帰るためにっ!」

そもそも寄生生物ってなんだ?
ユルサァン星人もアンタみたいな寄生生物なのか?

「……私達は、工場で量産された安価な生物兵器だ。本来の私は、虫みたいに小さなサイズでユルサァン星人とは全く違う生物だ」

生物兵器なのに……なんで自分の事をユルサァン星人だと思い込める?
虫なんだろう?

「任務に成功すればユルサァン星人の身体と、高い地位を与えてくれると大統領閣下は約束してくださった。
だから死んでくれ。私の未来のために!」

そう言ってメルカッツは、アイテムボックスから重機関銃を取り出した。
兵士ひとりでは持てそうにない巨大な機関銃。その設計思想は、短時間で強力な銃弾を大量に発射して敵を圧倒する事。
あと、適当に弾丸をばら撒いても、森林地帯に隠れている歩兵を炙り出せて便利。
やばい。
あれが本当に重機関銃なら……私の土魔法で作った壁モドキなんて、簡単にぶっ壊れる。
なにせ、あれは、歩兵による塹壕突破を不可能とした、凶悪な兵器なのだから。

「さぁ、カグヤ君。
お別れの時間だ。フロアごと死にたまえ。
何度蘇ろうと、無限に殺し続けてやる」

メルカッツの眼は、千里眼の水晶で遠い場所から覗き見をしている私を睨んだような気がした。
どないしよう。重機関銃。



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