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3話 豚の国@(破産する!私、破産しちゃう!
助けてナポ様!白お姉さま!)黒真珠は絶望する
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極端な実力主義と王朝。
この二つの要素を組み合わせると、何が起こるか知っているだろうか?
――実力がある後継者が王になる、その過程は悲惨だ。
なぜなら評価する側は大抵、無能だから……自分に実力がある!と客観的に証明する手段が《他の王位継承者》を皆殺しにして即位すればいいやっていう、トルコ系王朝でよくある光景になる。
そう、広大な植民地を支配し、勢力圏にオーク220億匹を抱えるブータ帝国。
その頂点に君臨するオロ皇帝もそんな過程を経て――皇帝になったオークだ。
血の繋がった約800人の兄弟達を騙し打ちで皆殺し。
後継者争い中にちょっかいを出してきた国々は征服。
母親は後継者を産む可能性があるから焼き殺した。
だって、皆、競争相手だから。
競争相手を皆殺しにしないと、何時、自分が殺されるか分からない。
だから徹底的に殺す。
こんな人生を過ごした豚だから、当然、性格は――

「大陸間弾道ミサイル(核弾頭搭載)を全て使え」

オロ皇帝の外見は、紅い洒落た服を纏う、太ったオークだ。
何かの病気にかかったとしか、思えないほどに太っている。
手足はボンレスハムみたいに太い。
そんな豚の目の前に居るのは、武人として生きた貫禄がある太ったオーク――ブレイマン大将軍。
大将軍は鋭い眼光をオロ皇帝に向けている。

「……陛下、正気ですか?
核兵器の使用は条約で禁じられております」
「今、俺の相手をしている謎の勢力は連合加盟国ではない。
核兵器を使っても問題はないはずだが?」

オロ皇帝がジロリっと殺気を籠めて、言う事を聞かない大将軍を睨む。
大将軍は心の中で(何時か軍事クーデターを起こしてぶっ殺してやる!この豚!)と罵りながら、静かに返答した。

「……一度使えば、全ての国が危機感を抱いて、核兵器を持ちたがる。
あれはそういう禁じられた兵器です、陛下。
使えば、辛うじて均衡している世界は崩れ落ちます。
いや、核兵器よりも、遥かに怖いドラゴン様が我らを制裁しにやってくるかもしれませぬ」
「ほう?どうやら大将軍は核兵器を使わずに……植民地を襲った敵に勝てる自信があるようだな?
聞けば1kmを超えた巨大戦艦すら含む大艦隊と聞く。
貴様は勝てるのか?そんな化物に通常戦力でな?
もしも勝利できたら――貴様の事を『奇跡のブレイマン』と呼び、俺の娘ポークをくれてやろう」

嫌味を混ぜて言ったオロ皇帝、大将軍は負けじと睨み返す。
しかし、今は……核兵器を使う、それしか手段がない。
植民地ブロンブス(モフモフ大陸)と、ブータ帝国はとっても近い位置にある。
放置すると橋頭堡にされて、20億匹のオークが住む本国が襲われかねない。
勝利するためならば、国土を核の炎で焼くのも仕方ない。
負ければ、存在そのものを全否定され、大将軍は一族ごと殺されるのだから。

「……分かりました、陛下。
大陸間弾道ミサイルを使います」

苦渋の決断をした大将軍は、この玉座の間から立ち去った。
オロ皇帝はその後ろ姿を見て――ニヤリッと醜い豚顔を歪める。
(奴は危険だ……異常なほどに軍権を握りすぎている。
殺すべきだな。
奴が勝利すれば反乱を企てた罪で処刑。
奴が敗北すれば、その罪で処刑。
一族郎党皆殺しだ。さぁ、どのような方法で殺してやろうか?)

大将軍ブレイマンの死は、この時、確定した。
有能で功績がある将軍は……危険視されて処分され、指導者の周りにいるのは無能なイエスマンばっかりになって組織ごと腐り落ちる。
これが歴史の常。
現実の世界でも有り触れた光景だ。
だが、大将軍の方も心の中では負けていない。

(スピードが勝負だ。
謎の勢力への核攻撃が成功後、軍を可能な限り掌握し、オロ皇帝を討つ。
私が生き延びるには、それしかない。
オロ皇帝……貴様はもう用済みだ。大将軍の地位を手に入れた以上、貴様を生かしておく理由はなくなった)

組織って、内部で権力闘争して、予算と労力を無駄に使う傾向にあるから大変だよう。



★黒真珠ちゃんはつらいよ★

予備兵力に回された黒真珠元帥は仕事がなかった。暇だった。
だから、旗艦『パルメサンチーズ』の艦橋で、暇つぶしにアニメを視聴している。

『助けてパルエモンー!
金融機関に借金したら家を取られたぁー!どうしようー!』
『本当に君はニートだなぁー。
就職して働け!』
『働くのは嫌だよ!働かずに暮らせる道具を出して!』
『仕方ないね。はい、求人票〜』
『働く事前提なの!?』

(このアニメ面白いなぁ、プレイヤー様が作った作品ってどうしてこんなに面白いんだろう?)

黒真珠は、日常系をテーマにしたアニメ作品を見ながらゆっくりしていた。
彼女の外見は10歳ほどに見える幼いダークエルフ。美しい褐色の肌、足元まで届く銀髪が特徴的。黒いドレスを着ている。
こう書けば愛らしいイメージなのだろうが――黒真珠の眼は、全てを無に帰すような邪悪な眼をしていた。
その要素のせいで、他の美少女としての要素が全て台無し。
ナポと会話したら『あ、こいつ将来裏切るな』と警戒され。
実の姉の白真珠と風呂に入れば『眼付きが悪すぎるのう。妹よ、もう少し笑顔になれないでありんす?』と本格的に将来を心配され。
他の4元帥からは『早くこいつ殺さなきゃっ……!ナポ様のために刺し違えてでも何時か抹殺する!』と脅威を覚えられている。
なぜ、そこまで酷い状況に置かれているのか?
答えは簡単だ。黒真珠は言葉を話せない、文字が下手、だから弁解できない。
ただ、それだけ。
今まで彼女が一言も話すシーンがないのもそのせいだ。
だから仕事は、隣にいる副官、白い機械歩兵『ホワイト』が全部やっている――

「黒真珠様。
二光秒先でミサイルが発射されました」
「……?」

ホワイトの言葉に、黒真珠は首を傾げて……3秒くらいで今の状況に気がついた。
艦橋のレーダーに、万単位で移動中の熱源(ミサイル)が映っている。
豚どもが放った戦略核ミサイルだ。

(きゃぁぁぁぁぁぁ!?なにこれぇぇぇぇ!?
凄い数のミサイル!?ど、どうしよう!
ホワイト!どうにかしてぇー!)

焦った黒真珠は、ホワイトの方に涙目の顔を向ける。
ホワイトは勝手に彼女の行動を解釈し、すぐに全艦隊に命令を伝えた。

「黒真珠様は『全艦隊ビーム砲の砲門開け、不審なミサイルを迎撃せよ』と言っておられます」
(さすがホワイトぉー!愛してるっー!
私、あなたが居るおかげで生活できるわ!)

だが、続いて言ったホワイトの言葉を聞いて前言撤回。

「更に黒真珠様は『ミサイルを発射した基地を殲滅せよ』と言っております。
ミサイル迎撃後、レールガンの砲門を敵基地に向けて発射せよ」
(レールガンを使っちゃダメぇー!
在庫の金属資源が少ないからダメー!
ナポ様が給料払ってくれないと破産しちゃう!?)

黒真珠の思い虚しく、迫り来る10万を超えるミサイルへの迎撃が始まった。
2万隻の大艦隊の砲門が開く。
そこから超高熱の光線が出た――それはまさに光のシャワー。
大気を貫くビームの雨は、全てのミサイルを溶かして破壊。
壊れたミサイルは、内部にあった核爆弾を周辺に撒き散らし、無限に広がる大空へと落ちていく。
副官ホワイトは何事もなかったかのように――次の命令を下した。

「ミサイル全ての破壊を確認。
全艦隊レールガンを準備。
敵基地を殲滅せよ」

黒真珠が泣きながらホワイトに抱きついて止めようとしていたが……ホワイトは無視して、無慈悲な命令を下してしまった。

(破産する!私、破産しちゃう!
助けてナポ様!白お姉さま!)

黒真珠の心の思いとは裏腹に、2万隻の艦艇の細長いレールガンから――次々と磁力で超加速された弾丸が射出された。
一つのレールガンから秒間平均1000発。
1分間で6万発。
艦隊全レールガン10万門。
1分ごとに貴重な金属資源が『60億発分』弾丸として消費される現実に、黒真珠は幼い顔を歪めて大泣き。

(戦争は資源を大量に浪費して辛いよう……あれ?)

嫌な事にも気がついた。
宇宙空間ならレールガンから射出された弾丸は、真空空間を超高速・超威力で永遠に飛び続けるが――この世界は空が無限に広がる異世界。
空気摩擦で弾丸の威力は減衰する。射程も短くなる。
当然、二光秒(60万km)先の目標に到達するはずがない。
ブータ帝国の大陸間弾道ミサイルみたいに、風船つけてエネルギーのロスを抑え、長い時間かけて目的地に辿り着いてから攻撃を開始するような改造を施さない限り、無理だ。

(わぁー!私達、無駄弾を撃ってるよ!?
ナポ様に怒られちゃう!?
どうしようー!)

黒真珠がホワイトの首を締め付けてグワングワンと振り回した。

(ホワイトっー!
私の考えている事を察して!お願い!
無駄弾を撃つのは駄目ぇー!)
「……?ああ、なるほど、黒真珠様は『レールガンはこの世界では無意味。全艦隊で現地にワープアウトしてから、レールガンで攻撃せよ』と言っておられる」
(ナポ様の許可なくそんな事したら、クビにされちゃうよ!?)

そうやってホワイトの首を締めながらコントを繰り広げていると――目の前の何もない空間に立体映像が表示された。
映し出されたのは紅スーツを着た、偉大なる指導者ナポ。

(きゃー!ナポ様だぁー!いつもと違う銀色の仮面だ!
恰好いいー!素敵ー!デートしたい!お嫁さんになりたいー!)

ナポは、黒真珠がミーハーで可愛い女の子とは全く思わず、警戒しながら彼女の眼を睨みつけて

「予備兵力として活躍する時が来た。
黒真珠元帥、一つ残らずミサイルを撃ち落とせ」

その遅すぎる命令に、首を締められたままのホワイトがゆっくり答えた。

「ナポ様。ミサイルは既にビームで迎撃しました。
今は黒真珠様に命令されて、レールガンによる対地攻撃を開始しております」
「ほぅ……さすが黒真珠だな。
私が命令を下すよりも早く対処するとは……(有能だが危険な奴め。何を考えているのだ?わからぬ)」
「そしてこうも言って居られます『レールガンで消費する金属資源は、経費で落ちますか?給料も払って欲しい』と」
(ホワイト!?ナポ様に直接そんな事言っちゃ駄目だよ!?)

一瞬で場の空気が重くなった。
ナポは表向き全く動じない演技をしながら――過去の事を思い返す。
給料だと?
機械歩兵達に給料?
ゲームの頃はそんなものはあったか?
そんな面倒な仕様はなかったはず。
機械歩兵は何を貰えば喜ぶのだ……?
考えても考えてもナポには分からなかったから、探りを入れて見る事にした。

「……黒真珠元帥。
君は給料に何を貰えたら嬉しいかね?」
(可愛いドレスかなぁ?)
「黒真珠様は『金属資源、機械部品、もしくはオイル』が給料に欲しいと言っております」

ホワイトのこの言葉で、ナポは納得が行った。
どれもこれも、機械歩兵に必要な生活必需品だ。
機械部品の類は、ゲームの頃の工場を保有する要塞を召喚すれば生産できる。
ただ、問題だったのは――

「そして、黒真珠様は『今のモフモフ大陸には、私達を養える金属資源が少ない。問題を解決するには他国の領土を奪うしかありません』と言っております」

モッフフー王国は、建国序盤から試練に立たされた。
現実の無数の国々を財政ごと崩壊させた――戦費問題である。
十万隻の大軍を維持するには、膨大な資源が必要なのだ。

今回のコメントまとめ + 作者感想
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【小説家になろう】 剣に転生してモンスター狩りまくって俺TUEEE! 【転生したら剣でした】
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