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32話     詐欺戦争-15「虐殺者の汚名」  


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ピィザ軍は、結果的に王弟軍1万、兵士6万人が行方不明という大損害をだし、異世界生活二日目にしてワルキュラは『悪辣なる邪神の行い』と評価される勝利を得た。
砂漠という地形は、人間が生存するのに適してない。敗軍を自動的に壊滅させる性質がある。
水がないから、気温が安定しなくて体調崩しやすくなるし、砂嵐が発生すると、砂と石が飛び混じり、負傷する兵士たちが続出する鬼畜地形。
実際に、地球の北アフリカに広がる大きな砂漠を超えて、統一した大帝国なんて、指で数えられる程度の数しかない。
だが問題なのは――大地震が発生した事。
この国では、滅多なことでは地面が揺れる事はない。
当然、都市の建物には耐震対策なんて概念は存在せず、多数の家屋が地震と一緒に崩れ落ち、膨大な人間が生き埋めになり、生き死にを彷徨っていた。

「家がたくさん崩壊した……。
これがワルキュラ様の力なのか……?
地震って、原爆数十万発とかいう、不謹慎な数え方されるくらい凄いエネルギーだよなっ……?」

高い塔の上で、ヤスは崩れ落ちた町並みを見下ろす。
幸い、日本人奴隷がたくさん住む場所は、最低限の耐震対策がしてあったから崩壊するという事はなく、無事な建物が多く残っていた。
災害現場で、骸骨たちが救助活動のために働き、治安を辛うじて維持している。
そんな中、高笑いを上げる骸骨が一人いた。
ヤスの後ろにいる黒軍服を着た骸骨――スケルトン大陸軍を指揮するデスキングだ。

「ふははははははっ!ヤスっ!
お前たちの流した流言のおかげで、ピィザ軍が壊滅したという連絡が入ったぞ!
あとでワルキュラ様が、新たな褒美をくださるはずだ!」

「え?」

突然の情報に、呆然としたヤス。
スパイは、基本的に自分が行った行動の結果を、自分の眼で見る事は少ない。
ヤスは自分が行った行動の結末を、不思議な罪悪感とともに理解させられてしまった。

(俺がっ……この化物達に協力したせいで、大勢の人間が死んだっ……?)

それは人類という種族そのものに対する裏切りに思えた。
ヤスは家族が大事である。家族を守るためならば、国家転覆をやる意欲がある。
しかし、人間とは全く異なる化物に加担する事で、人類が着実に終了しつつある現実に嫌々ながらも気づいてしまった。

「ど、どういう事ですかっ……!
お、俺の取った行動が、ど、どうして、そんなに大きな功績になったんですっ……?」

そのヤスの震え声の質問に、デスキングは嬉し気に答えた。

「お前の流言のおかげで、7万人の人間が死んだのだ。
今日から7万人殺しのヤスと名乗るが良い」

「な、七万人!?
お、俺の流した流言でそんなに死んだんですか!?」

日本なら、地方都市の人口に匹敵する数だ。
しかも、兵士は基本的に若い世代がやる仕事だから、兵士=一番働く労働層でもある。
国の総合力そのものが、ゴリゴリッと削れた事を意味する。

「ヤスにも理解できるように私が教えてやろう
偉大なる陛下は、人間どもの軍勢を一撃で吹き飛ばせる……くらいに強いのだが、私たちの働く場を確保するために、無数の策略をもって、戦場全てを操っておられたのだ」

「い、一撃で皆殺しにできるっ……!?」

「まず、陛下はデュラハン機動軍1000騎を出撃させて、逃げ惑うピィザ軍を追撃。
ピィザ軍が足止め役として残した王弟軍1万人を、機動戦によって撃破し、その余勢を駆って一気にピィザ軍本隊12万の背後を突いたのだ」

「へ、兵力差は120倍以上ありますよね!?
ど、どうやって勝利したんですか!」

「くくくくっ……!
お前が流した流言の内容を私は知っているぞ!
『300万人の骸骨がカイロンにいる』この誤情報を信じ込んだピィザ軍は、見えない敵と戦い、精神的に消耗してしまったのだ。
目の前にいる1000騎と戦っている間に、骸骨の大軍に追いつかれたら皆殺しにされる……とな。
さらに、奴等は逃げるために、移動する事にエネルギーのほとんどを費やしていたはずだ。
陣形の弱点である後方からの攻撃、奇襲、各個撃破、見えない敵に追いつかれる恐怖、強行軍による疲労。
これらが巧妙に効果を発揮し、奴等は死んだ。
7万人の犠牲者をだし、壊滅したのだ。
ふはははははははははははっ!
さすがは陛下と言わざる負えない!
人間なぞ、玩具に過ぎぬ事を証明してくだされたっ!
本気を出さずとも、知恵ひとつで百倍の兵力を覆されたのだっ!
なんと偉大なる事かっ!」

「……そ、それは、す、すごい、すね……」

「ヤスっ!
陛下は気前の良いお方だ。
働けば働いた分だけ、褒美を下さる。
この調子で、貢献すれば永遠の命をくださるであろう。
まぁ……お前が居なくとも、陛下の大地震を引き起こした力。
あれがあれば、どんな状況に転ぼうとも恐れる必要はないがな」

「違う」

デスキングに、異論を投げかけたのは空中に漂う幽霊娘クレアだった。
彼女の惹き込まれるような青い目が、デスキングを睨む。

「あの大地震は、お父様の力じゃない」

「なるほど自然現象かっ……陛下は、災害が起きる事すら読んでいた……つまり、予知能力?」

「自然災害でもない」

デスキングは絶句した。
自然災害ではない。つまり、誰かが人為的に引き起こした現象――すなわち、ワルキュラ並の化物がこの地にいる事を意味する。

「ま、まさかっ……!
陛下と同じくらい強大な存在がいるというのかっ……!」

「うん、お父様と同じくらい力強いエネルギー。
それを、この都市の地下から感じる。
私たちですら調査するのが危うい。
広大な異世界が広がっている」

「くくくくくっ……!
物語の舞台が宇宙へと移る日は、まだまだ遠いという事かっ……!」

この時、ヤスは困っていた。
彼には、幽霊娘たちの姿は見えぬ。
デスキングが独り言を言ってるようにしか聞こえなかった。
だが、一度、ワルキュラと謁見し、その場にいたから分かる。
目の前の骸骨は、見えない存在と会話し情報を得ているのだ、そして、その情報は……この地に『原爆数十万発のエネルギーを平然と炸裂させる化物』がいるという事を表している。

(お、俺、どうすれば良いっ……?)

ヤスの脳裏に悲惨な世界が思い浮かぶ。
大地震に使われたエネルギーが、連続して地上に炸裂したら……この大陸中にいる人間と亜人は消し飛び、死に果ててしまう近未来を容易く想像できた。
下手したら、一回の攻撃で全人類が死にかねない。
だって、爆発による被害半径を増やす方法は――実はとっても単純なのだから。
膨大なエネルギーを分散して、世界各地に同時に炸裂させる。
そうするだけで被害半径が激増し、人類は滅ぶ。
膨大なエネルギーが一点で爆発するより、分散した方が爆圧が増して殺傷力が高くなるのだ。

(家族を守るために出来る事はあるのかっ……?
少年漫画みたいに、現実がパワーインフレを起こして、俺の認識が追いつかない……
ヤスコ、ヤスノリ……この世界はもう……駄目かもしれない……)

ヤスにはどうすれば良いのか分からなかった。







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【小説家になろう】「複垢でランキングに載った結果!」 破賢の魔術師と賢者の花嫁。BANされる。
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【内政チート】「蚊帳を普及させて、疫病を低コストで防ぐぜ!」
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ヤス(高校生の頃に見たパワーインフレ思い出す。
誰か助けてくれ。
正義の味方はいないのか・・・
ヤスこ、ヤスノリ・・・この世界はおしまいかもしれない・・・・)



ワルキュラ「俺が目の前にいるのに、なんで、こいつらはいつもいつも俺を無視して会話するんだっ……!」

ルビー(僕が子供を産んだら、ワルキュラ様みたいなすごい骸骨が生まれるのかなぁ)



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