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32話目
31話     詐欺戦争-14 「詐欺戦争   


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ピィザ軍の兵士たちは不安に包まれていた。
ピィザ人は、この異国の地で果てる事に恐怖し、セイルン人は、故郷が人外の化物に支配されるかもしれない事に恐れ戦(おのの)く。
軍隊は、進撃を開始した瞬間、崩壊へと進んでいく傾向があるから、これは仕方のない事だ。
一応、飯は食えるが、戦場に行けば命の危険があるし、体が欠損したら強制的に退役させられて路上生活END。
下っ端である彼らの理想は、五体満足のまま戦争で金を稼ぎ、それを元手に自分の人生を成功させる事。
もしくは出世し、貴族や騎士の一人となり、安定した生活を送る。
つまり、現時点の彼らは貧乏人だ。
貧乏だからこそ、戦場にいる。
地球最強のアメリカ合衆国の軍人さんだって、経済的な問題を抱えて、軍人になった人が多いから、地球でも異世界でも、貧乏人だからこそ、戦場にいるのであり、ピィザ人はともかくとして、セイルン人にはピィザ3世と一緒に死ぬ動機が欠片もない。
それが全軍崩壊へと繋がってしまうのは必然だった。

「陛下は逃げたぞっー!俺たちを見捨てたんだぁー!」

「こんな所にいられるかっ!俺は逃げるぞっ!」

「それっ!死亡フラグっ!」

戦場に響く、わざとらしいセリフ。よく聞けば愛らしい女の子の声だと分かるはずだ。
だが、窮地に立たされた兵士達には、甘い蜜。
逃げたら、命は助かるかもしれない。
今なら逃げる事は簡単だ。
逃亡を阻止するための騎兵集団が軒並み壊滅しているから、追跡は行われない。

「おい、やべぇから逃げようぜ」

「でも、給料もらってないぞ?」

「命あっての物種だ。ここは逃げた方がいいだろ?」


このような会話が各所で交わされ、崩壊が始まる。
一人逃げれば、二人逃げ、それを見た人間も逃げ、集団の持つエネルギーは、バラバラに分散され、逃げる事に注がれてしまった。
防御あってこその攻撃という言葉がある通り、防御基盤が崩壊した軍勢は脆い。
すぐにデュラハン達が後ろから追撃して射撃して、人間を狩り殺す遊びが始まった。
生前、遊牧民族だった頃のように、殺しまくった農民どもを思い出し、徹底的に矢を放ち殺す。
12万の人間達が様々な方向へと砂漠を逃げ回り、たった1000騎のデュラハンが残虐の限りを尽くしていた。
そして、彼らが目指す先には――怒鳴っているピィザ3世がいる。

「誰だぁー!
この流言を流している奴はぁー!
余は逃げも隠れもせんっ!」

こいつさえ殺せば、この戦いは勝利だ。

「……陛下、逃げましょう。
こうなっては打つ手はありませぬ」

軍師チィズの力ない声。
これが初めての負け戦になるのかと思うと、ピィザ3世は悔しくて悔しくてたまらなかった。
大陸北部に大帝国を築く夢が遠のく、そんな気がした。
幸い、歩兵達が縦列を乱して逃亡を開始した事で、デュラハン達は真っ直ぐやってこれない。
だって、デュラハン達の散兵戦術は、突撃力が犠牲になるという明確なデメリットが存在する。
逃げ惑って交通渋滞状態の兵士を、体当たりして吹き飛ばすのは、リスクがありすぎた。
今のデュラハンと彼らが乗る亡霊馬は、聖なる太陽のせいで、ステータスが4分の1に低下し、とっても疲れやすくて、傷が付きやすい。
矢だって至近距離が浴びれば刺さる。
投石で金属が凹む。
だからこそ、攻撃されるリスクを最低限にするために、自走砲や戦車に似た役割を放棄し、仕方なく(楽しげに)遊牧民族の戦い方をしているだけだ。
ゆえに、デュラハン達は一定距離を取り、人間めがけて矢を撃ちまくる。
このやり方なら、精鋭を温存したまま、敵を数多く殺し、いずれはピィザ3世を仕留め、勲功第一位を獲れる。
デュラハン達は呑気に、そう思った。
だが、最悪な事に、この場には不確定要素がある。
ノーライフ・オンラインを作り上げた鳳凰院博士。彼がなぜ、この世界にワルキュラを送ったのか、誰もツッコミを入れてないから忘れがちだが――本当にやばい敵は、別にいるのだ。

「な、なんだっ!?」

この場にいる全員が、声を上げる。
砂漠の大地が揺れ動き、流砂が発生し、歩兵とデュラハン達を次々と飲み込み始めた。
酸素呼吸してないデュラハンはともかく、人間の歩兵には致命的すぎる。
砂に底に飲み込まれたら、すぐに窒息死して、死ぬしかない。。

↑↑↑↑↑【ピィザ軍】↑↑↑↑

    歩歩   歩歩
    歩   歩歩   歩 
    歩歩歩  歩
    歩歩 歩 歩 ☚歩兵の略称
      歩歩歩歩  
    歩歩歩  歩
    歩歩     歩歩
    歩歩  歩歩
    歩歩歩歩 
  
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
鎧    鎧    鎧  鎧

  鎧    鎧☚デュラハンの略称
    
↑↑↑【デュラハン機動軍】↑↑↑↑↑



戦闘どころではなくなった。
騎兵は機動するからこそ、価値があるのであり、戦場そのものが地震で崩壊してしまった今、その集団の持つエネルギーのほとんどが殺される事になる。
幸い、デュラハンは地下空間で生活する事を前提にした生き物だから、生き埋め状態でも全く問題はない。
地下空間でステータスが全回復するから、その怪力でゆっくりと地上に戻れば良いだけだ。
暇な幽霊娘も捜索活動に参加してくれる。
両軍は戦闘を中断し、混乱を収集する事に、そのエネルギーを費やす。
すると――軍師チィズが、空を指し示した。

「陛下っ!あれをご覧ください!」

ピィザ3世は、その指の先を視線で追う。
空にあったのは、聖なる太陽。
そして――何千万人という人間が居住可能なコンクリートジャングルがそこには広がっていた。
狭い土地を有効活用するために造られた高層ビル群が『逆さまの状態』でずらりっと並んでいる。

「天空の大地っ……!?」

日本の有名RPGドラクエでよく登場する、そんな地名をピィザ3世は呟いた。
世の中の常識が一変に変動し、変わり果てた。そんな気がした。
重力に逆らった不思議な都市群が天空一面に広がっている。

「陛下っ!あれは、ザナンの都市ではないでしょうかっ……?」

「ザナン?
チィズ、何だそれは?」

「陛下は歴史の授業で聞いた事がありませんか?
遥か大昔の時代に、地上を全て統治したという恐怖の国の事です」

「歴史の授業は好きだぞ!
余のご先祖様がよく登場するからな!
勉強の中で一番好きなジャンルだが……ザナンは聞いた事がないな、はて?」

ピィザ3世が知らないのも無理はなかった。
人間が学ぶ歴史で重要なのは、ここ数十年か数百年の出来事。
遥か大昔の事となると、ファンタジーたっぷりの御伽噺話となる。
ピィザ王国の歴史は、『神話を実話扱いにしたトンデモ物語』で、内容がとっても偏っているのだ。

「砂漠がこの有様では、化物ども追撃できないようですし……流砂を避けて移動しながら話しましょう」

チィズは疲れた顔で、周りを見渡し、大混乱中の自軍を見渡した。
流砂が発生しすぎて、各地で軍団は分断され、数百人単位での集団行動は不可能だった。
ピィザ3世の隣に馬を並べ、周りの武将たちの敵意を浴びながら彼は語る。

「……これは数千年前の大昔の話です。
世界各地に残っている神話とでも言った方が良いかもしれませぬ」

「神話とはあれだろう?
主神がハーレムして、美女を次々と不幸にしまくるアレであろう?」 どこのギリシャ神話だ。

「いえ、この神話はそれとは違うのです。
普通、神話といえば、『神々が人間を作った。だから偉いんだ。王は神の子孫だ』という設定が多いのです」

「おいこら待て。
ちょっと粛清しないといけないな〜という気になったぞ、チィズ。
余は主神の生まれ変わりだと、自分では思っておる」

「ですが、この神話は違います。
邪悪なる邪神が、人間を食べて虐待して遊ぶ恐ろしい物語なのです」

「王を無視するとは、貴様も良い度胸をしておるな。
もし余が酒に酔っていたら、投げ槍で串刺しにしておるところだぞ?
まぁよい……さっさと邪神とやらの事を話せ」 どこのアレクサンドロス大王だ。

「その邪神の事を、神話ではザナンと伝えていました。
何でも、天にも高い石造りの『高層ビル』という建造物をいくつも建造し、宇宙を飛ぶ船すら作ったそうです」

「なんだ、その程度か。
余の国の神話には、惑星を永遠に持ち上げる罰ゲームやっている神がおるぞ?」THEギリシャ神話

「ピィザ国に伝わる神話と違い、このザナン神話とも言うべき物語には、物証があるのです。
世界各地に伝わる遺跡群。海底都市。侵入者を殺す化け物。
少なくとも、高度な文明があった事は確かであり……その遺跡そっくりなのがアレです」

チィズは天空を指し示した。
逆さまの大都市がどこまでも広がっている。
視力が良い人間なら、高層ビルの一つ一つに人間らしい生物がいて、何らかの作業をやっている様子が見えた。

「……まぁ、なんだ。
余の国の神話より、遥か格下な物語なのだな」

「神話というより、古代史と言った方が良いかもしれませぬ。
問題なのは……先ほど言ったように、ザナンの邪神達は人間を食らい、想像も及ばない悪意を持って非道な事をした。
それが世界各地に語り継がれているのです」

「で?
その神話だか、古代史だか分からんが、遥か昔に滅んだザナンという連中が関わっておるのか?
正直、話のスケールが小さいぞ。ザナン何とか」

「……言い伝えの一つによれば、ザナンという国では人間を元に、様々な生物を創造したと言われております」

「余の国の神話では、人間は粘土から作――」T

「その創造した生物の一つに、動く骸骨があるのです。
もしも、これがザナンの連中の仕業だとするならば――この時代は後世からこう呼ばれるかもしれません」

チィズは真剣な眼で、ピィザ3世を見つめて

「――暗黒時代」



 

今回のコメントをまとめたページ
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「俺は唐箕で、穀物の精選をして農業チートする!」江戸時代の日本

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ワル「見えない敵と戦っている奴らだな……
ザナンってなんだ!
俺は、現代日本人ですが何か!」



ルビー「夜伽まだかなぁ」



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