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29話     詐欺戦争-12 「遊牧民族の戦い方    


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重騎兵。防御力の高い鎧を着込み、圧倒的な突撃力で敵陣を切り裂いて崩壊させる兵種だ。
もちろんデメリットはある。
暑い地域だと、冬の時期しか運用できないという制限が発生するから、短期決戦で決着をつけないといけない。
強力な飛び道具に弱く、重い装備をしているせいで長距離を移動できない。
特に銃兵相手だと、自殺行為すぎた。
銃兵が持つ単発式のマスケット銃は射程距離は短いが、殺傷能力は高く、騎兵は的としては大きすぎる。
だからこそ、ナンは勝利を確信する。

(重騎兵オンリーの軍隊とか、何時の時代の軍勢なんだっ……?
普通、弓を持たせた軽騎兵に援護させるだろうにっ……戦の素人なのかい?
そもそも、この地域に運用する事そのものが間違ってる……分からないなぁ)

彼の遥か前方。砂漠の上を鎧を纏った、いや、鎧に魂そのものを定着させたデュラハン千騎が人間の軍勢へと向けて迫ってきている。
それに相対するナンの王弟軍は一万。兵力差は十倍で王弟軍の圧倒的有利。
野戦用に軽量化した大砲4門を後方に並べ、その前方に銃兵がずらりっと横隊を組んで並んでいる。
効率よく火力を集中し、機動部隊の機動力を活かす。そんな陣形だ。


↓ ↓ ↓  ↓
【王弟軍】  1万

   砲   本陣    砲
騎騎   銃銃銃銃銃銃銃    騎騎




鎧    鎧  鎧   鎧  鎧

【デュラハン機動軍】 1000
↑ ↑  ↑  ↑

どちらも戦う準備は既に出来ていた。
デュラハンの使う武器は弓矢。アイテムボックスに収納してある道具の数々。
王弟軍は1kmの射程を誇る大砲があるから、射程距離の面ではデュラハン達を上回っている。
ナンは、自軍の長所を生かす戦い方をしようとした。

(まずは、相手を引きつけた上で、大砲で一斉砲撃だ。
爆音を聴き慣れていない馬なら、この時点で大混乱を起こす。
そこを我が軍の騎兵で左右から包囲して、機動力を殺し尽くせば重騎兵なんて怖くない。
歩兵以下の美味しい獲物って寸法だよ)

指揮官に求められるのは決断力。
砲兵の手で、大砲に砲弾が込められ、導火線に着火する瞬間を待つ。
この大砲、命中率と再装填の手間暇に問題があるから、可能な限り、接近してくれると嬉しかったが……先手を打ったのはデュラハン達だった。
短弓で、次々と矢を空中へと撃ち放す。

「はっ?」

ナンには、その行動の意味が分からなかった
だが、彼の前方にいる銃兵集団に、矢の雨が降ってきた事で理解した。
目の前のデュラハン達の矢の最大射程は……800mくらいあると。
カスタマイズが可能な競技用弓――コンパウンドボウの存在を彼は知らなかった。
コンパウンドボウは、簡単に言えば滑車がついた弓だ。
滑車で効率よく弓を引き、狙っている間の保持力を最小限に留め、恐ろしいエネルギーを載せて射つ事ができる。 しかも、デュラハン達が使っているのは、趣味用にカスタマイズしまくった弓矢。
小さいのに、射程距離800mを超える弓――人外の化物の筋力を活かしきった脳みそ筋肉兵器だった。
次々と矢は降り注ぎ、人間達の体に刺さり苦しめた。
そして、矢が刺さった時に、銃兵達は気づかされた。
この矢の先に――排泄物がこびりついている事に。

「ひやぁぁぁぁぁぁぁ!!矢にウンコついているぞぉぉぉ!!!」
「み、水っー!水をくれぇー!」
「臭せぇー!ウンコが腐ったような匂いがプンプンするぅー!」

最悪だ。
兵士の混乱を見ながら、ナンはそう思った。
ただえさえ、日本人を除く民族はウンコ嫌いだ。その匂いで兵士達の戦おうとするやる気は大きく削がれる。
その上、ウンコが傷口に入り込めば毒となり、この戦いが終わっても、傷病兵の管理はそのまま軍全体への負担に繋がる。

(突撃専門の重騎兵かと思ったら、弓騎兵だなんて非常識にもほどがあるっ……!
しかも、なんて酷い戦術を使う奴らなんだっ……!
攻城戦以外で、ウンコ使う軍なんて初めて見たっ……!)

王弟は決断しなければならない。
もう大砲の有効射程とか言っている場合じゃない。
デュラハン達の弓矢の射程が長すぎて、王弟軍の銃兵は無力化していた。
折角、金を揃えて用意した前装式の銃だが、有効射程はせいぜい80m。
デュラハン達の使う弓矢は、射程800m。
幸い、ナンが保有する大砲の射程距離は、砲弾が現場で飛び跳ねる事を考えたら、1kmを余裕で超える。

「大砲撃てぇー!
騎兵は敵部隊を包囲し、拘束せよ!」

ナンの簡単な指示とともに部下達は行動し、砲撃が始まった。
大砲の中で、火薬が爆発。その圧倒的なエネルギーで鉄の砲弾が飛び、デュラハン目掛けて突き進む。
しかし、ライフリングも掘られていない大砲は、命中率が恐ろしいほどに悪いから、砲弾は砂漠の上で無意味にバウンドして転がるだけだった。
その間も、デュラハン達は騎乗したまま、連続して矢を浴びせてくる。
矢は見事に、大砲を運用する兵士達と、移動する騎兵達に降り注いだ。
前から砲弾を装填する仕様の前装式大砲は、再装填の手間暇がかかるから、戦場では的になりやすい。
しかも、幽霊娘たちが『ここが王弟軍の弱点ですよ〜』と、人間には見えない光を出して発光していた。
ナンがうっかり『大砲の恐ろしさって奴を、化物どもにゆっくり教育してあげようじゃないか』と口に漏らしたせいで、この軍が頼りきっている兵器がどれなのか、完全にばれてしまっている。

「馬鹿なっ!?
なぜ、砲兵がいる場所が分かる!」

ナンの軍勢は、砲撃⇒銃兵による射撃を基本としている。
砲兵が殺された事で、ナンは精神的に深いダメージを負い、作戦のテンポが崩されてしまった。
デュラハン達は明らかに『相手の得意な事はやらせない』ことを前提に行動しており、次々と王弟軍の弱点へと向けて矢が降り注ぐ。
砲兵、部隊の指揮官。
それらが狙われ、失われていく度に、ナンの精神がボコボコにされていく。

(まるで、僕の心を読んでいるような戦い方じゃないかっ……!
戦闘が始まった以上、有効な作戦なんてものはこの世には存在しないっ……!
ん?)

理解したくはなかったが、ナンは嫌な事に気づいてしまった。
デュラハン達の陣形は……バラバラに広範囲に散らばって、各々が任意に攻撃しまくる散兵戦術。
密集隊形の軍隊が苦手とする相性が悪い敵だ。(これはこれで、騎兵の突撃力が弱くなるという問題点があるけど、弓騎兵だから問題なし)
しかも、砲兵が次々と矢に倒れた事で、大砲が運用できなくなる。
これでは、騎兵と銃兵を援護できない。
大砲が使えないという事は――デュラハン達の持つ集団のエネルギーが妨害されることもなく、彼らに降り注いで、粉砕する事を意味する。


↓ ↓ ↓  ↓
【王弟軍】 
鎧                 鎧
      本陣     
  騎   銃銃銃銃銃銃銃    騎 
                   鎧
鎧     鎧 鎧 

【デュラハン機動軍】
鎧    鎧  鎧   鎧     
↑ ↑  ↑  ↑


デュラハン達は、多方面から弓矢攻撃を繰り返して、王弟軍正面を拘束したまま、別のデュラハンが一定距離を保ち、人間を一方的に射撃して殺した。
軍隊が使う陣形は、集団の力を効率よく使うために存在するが、側面や背面をこのように攻撃されると弱い。
騎兵も銃兵も砂漠に倒れて、陣形を維持するのが困難になりつつある。

(この戦い方っ……見覚えがあるぞっ……確かこれはっ……)

ナンの脳裏に思い浮かんだのは、草原の蛮族とも言うべき存在――遊牧民族。
ひたすら弓矢攻撃しまくって、一撃離脱を繰り返す悪魔としか言いようがない戦い方だ。

(完全に騙されたっ……!
重騎兵らしい外見に騙されてしまったっ……!
だが、おかしいっ……弓騎兵は、超軽装じゃないと馬がヘトヘトに疲れる兵種のはず。
どうして、攻撃の手がやまない? なぜ、ここまで奴らは来れた?
重い全身鎧なんかを着ていたら、脱水症状を起こして死ぬはずだ!
ここは今は夜とはいえ……砂漠地帯だぞ!)

ちょうど都合よく、デュラハンの1人が、戦場にあった石に躓いて落馬した。
ヘルメットが吹き飛び、中の人が――居なかった。
全身鎧の中身は真っ暗な闇が広がっている。

「ああ……なるほど、鎧の中に人が居ないのか。
そうなると、鎧はかなり軽く薄く作ってあるっ……?
下手したら、弓騎兵より遥かに軽いんじゃ……?
通りで馬が疲れない訳だ。
……よく見たら、馬に首がない!?」

「わっふぅー!化物なのですー!
やっぱり、この世の存在じゃないのです!」

犬娘が銀色の尻尾をフリフリさせながら嘆いた。
その可愛い愛人の有様を見て、ナンは冷静に落ち着いて考える事ができた。
騎兵部隊と銃兵部隊は壊走を開始し、ピィザ3世がいる本隊の方向へと逃亡しつつある。

(見事に退路だけは、残したまま、こっちを嬲ってくるな……
兵を追い詰めず、逃げ場を残したまま嬲り殺す……。
戦上手だっ……どうにも勝ち目があるようには思えないなぁ……)

陣形が崩壊した今、集団のエネルギーも殺され尽くされたも同然だった。


↓ ↓ ↓  ↓
【王弟軍】 
鎧  鎧        鎧       鎧
      本陣     
        
                   鎧
鎧     鎧 鎧 

【デュラハン機動軍】
鎧      鎧        
↑ ↑  ↑  ↑



「……こりぁ参ったね。
ミルクを王妃にする幸せ犬耳家族計画が破綻してしまったよ。
今日が僕の命日かな?」

「わっふぅ……王弟殿下。
諦めたら、戦争終了ですよ?」

「もう、こっちの陣形崩壊しちゃったしね。
勝ち目はゼロだよ。
鎧の化物を倒す戦術を、一から作らないと駄目さ」

「この人に部族の命運をかけたのは駄目だったのかもしれないのです……わっふぅ……」

「こっちへ、おいで。
死ぬ時はせめて一緒だよ」

ナンは、犬娘を抱きしめて、尻尾に触れてモフモフした。

「わっふぅ〜。
王弟殿下のナデナデは、天下一なのです……って!
逃げましょうよ!
そうやってロマンに浸っている場合じゃないです!」

「はははは、ミルク。
周りを見てみなよ?」

ミルクはその言葉に従って、周りを見渡すと――デュラハンが3人。
彼女達を半包囲する形で囲んでいた。

「こんなところに美少女と貴族っぽいのがいるぞ!
へへへへっ!お嬢ちゃん可愛がってやるぜ……俺、鎧だった」

「誘拐すれば大金を稼げるぜ!その前に、たくさん犬娘で楽しませてもら……俺、鎧だった」

「と、とにかく、身代金でがっぽり儲けるぞ!」

訳が分からないという顔で、犬娘は首を傾げた。

「わっふぅ?」

「遊牧民族はね。
略奪が主要産業になっているから……まぁ、命は取られないと思うよ、うん。
このセリフから考えるに、誘拐産業や奴隷産業とかが発達した地域から来た連中だね……。
世界は広いよ。鎧がうようよいる草原地帯とかあるのかな?
まぁ、ここで死ぬより捕虜になった方が、敵軍の補給に負担をかけられるし、逃げ延びる兵士の数も多くなるしね」

「わっふぅー!?」

「「「とにかく、久しぶりの誘拐だぁー!」」」

こうして、王弟殿下と犬娘は捕虜にされ、王弟軍1万は壊滅した。
ナン的には、手塩と税金をかけて育てた軍勢が壊滅したのは悔しかったが……命がある限り人生というゲームは続けられる。

「やぁ、君たち。
取引をしないかい?
僕達は降伏する、だから、僕の部下の命を見逃して欲しい。
代わりに……ピィザ軍本隊の今の状況を教えてあげよう。
君たちの足の速さなら、ピィザ3世を殺せるかもしれないね?」

こうして、ピィザ軍の後方が『ガラ空き』になった。
戦争で一番被害を被るのは撤退戦。
そして、軽騎兵は、敗残兵を虐め殺すのに適した兵種だ。
100倍の兵力差があるが、敗残兵なんて烏合の衆に過ぎない。



ピィザ軍13万5000⇒ 12万5000人





今回のコメントをまとめたページ
http://suliruku.futene.net/Z_saku_Syousetu/Tyouhen/Fusiou/c32.html

【小説家になろう】 金日成「主人公補正なしで農業政策やったらこうなる!」ハゲ山
http://suliruku.blogspot.jp/2016/03/blog-post_9.html
【内政チート】 「俺は先代が築き上げた勢力でチートする!」
http://suliruku.blogspot.jp/2016/03/blog-post_0.html


ナン「鎧の化物ってどうすれば殺せるんだっ……?」


デュラハン「無反動砲もってこい」



ワルキュラ(史実でも、撤退した敵軍が相手なら、兵力差50倍あっても、軽騎兵で虐めまくれた前例あるし、大丈夫大丈夫……)

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