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25話目
22話     詐欺戦争-4 「人工太陽さんの正体   


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石造りの螺旋階段を登る度に――鈍い足音が響いた。

(俺の死刑台が近づいてるっ……!
何時から、俺の人生は詰んでいたんだっ……?
この異世界に拉致られた時か、それとも化物が現れてからか?)

不安を感じながら、ヤスは前と後ろを骸骨と幽霊娘に挟まれ、ワルキュラがいる塔の頂上へと向けて歩く。
人間は嫌な時間ほど、長く感じる生き物。
今すぐ逃げ出して、暖かいコンビニがある日本に帰りたい気分だった。
だが、ここは異世界。
日本人としての権利を保障してくれる日本国の影響力が及ばない異郷の地。
ここで平等なのは一つだけ。

(死、それだけが身分の違いも関係なく、平等に訪れる、俺が住んでいたのはそんな世界だったはずだっ……!
だが、死の支配者が降臨してから、全てが変わり果ててしまったっ……!
支配者に媚びを売れば、永遠の命を授かるかもしれない、そんなハイ・ファンタジー世界になってしまったっ……!
そんな世界で俺は処刑されるのかもしれないっ……!
でも、俺は死ぬ訳には行かないんだっ……!
女が稼げる仕事なんて、この国には皆無っ……!
俺の死は、愛する家族が路頭に迷って死ぬ。それを意味するっ……!)

そして、とうとうヤスは螺旋階段を登りきり、屋上へと出る。
夜空を照らす人工太陽の輝きが見えた。
石で作られた見張り台には、黒い装飾たっぷりのローブを着た、巨大な骸骨――ワルキュラがいた。
全ての死者の頂点に立つ存在なのかもしれない、圧倒的な超越者。その傍には人間を容易く殺せる化物達がいる。
この場に不釣り合いなのは、普通の人間であるヤスだけ。
そう、これはまるで――

(……確信した。俺はきっと、ここで死ぬ。
こいつらの今日の夜食にされる)

ヤスの脳裏に思い浮かぶのは、愛しき妻ノリコと二人の子供達。
出来れば、もう一度会いたかった。
安月給だと、妻に罵られたかった。
浮気したと勘違いされて殴られたかった。
家族に見守られて死にたかった。
もっと……愛し合いたかった。

(すまん、ノリコ、ヤスノリ、ヤスコ……父さんはここで人生を終える。
裏切り者として、悲惨な最期を遂げる)

ヤスの足は恐怖で動かなかった。
もう、一歩も進まな――

「どうした?
もっと近寄ってきても良いのだぞ?」

ワルキュラに声をかけられたから、瞬時に足が動き、死の支配者の前まで足が進んでしまった。
足がヤスの言う事を聞いてくれない。
恐怖という感情がヤスの足を支配し、動かしている。

「あ、ああっ……!」

すぐ目の前に、眼窩を真っ赤に光らせる偉大なる死の支配者がいる。
恐ろしくて身震いした。
きっと、とんでもない事をされるに違いない。
魂というものが存在するならば、それすら貪り食らわれる事だろう――

「お前の名前は……ヤスだったな?
一番最初に、土下座した人間だから、よぉーく覚えているぞ」

こんな、些細な、日常会話。
それですら、魂すら凍りつくような気持ちにさせられた。
ワルキュラの全身から溢れ出る絶望のオーラっぽい何か。
ヤスの体がガクガクっと震える、死の恐怖で。

「ヤス、ここにお前を呼び出したのは、お前に話してもらいたい事があるからだ」

(うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁ!!!
やっぱり全部、俺が犯人だってばれてるぅ!!!)

ワルキュラの手がとある方向を指し示して

「あの夜空を照らす人工太陽が何なのか?
ここにいる者達に分かりやすく説明して欲しい」

「……え?」一瞬、何を言われたのか理解できず、呆然としたヤス。

だが、少し考えれば理解できた。
ヤスを殺すために、ここに呼んだ訳ではなく、全くの別の用件で呼ばれたんだと理解する。

(や、やったぁー!
俺、生きて帰れるっ!
鎖を錆びさせた犯人だってばれてなかった!
この化物は俺の心を読めていないっ!
恐ろしい力を持っていても、心は神聖不可侵な領域だったんだ!)

心が晴れやかな気分になったヤス。
死刑を宣告された囚人が、裁判で無罪を勝ち取った。そんな気分になって、喜びながら説明を開始した。
殺される危険が無くなれば、ワルキュラは羽振りのいい雇い主だ。

「あ、あれはキリストン教の神聖魔法であります!」

「キリストン?」ワルキュラが首を傾げる。

「イエス・キリストンという女の子の教えを称える世界宗教の一つであります!
わ、私が居た地球という星にも、キリスト教という似たような名前の宗教が存在していました!」

「なぜ、二つの世界を超えて、似たような名前の宗教が存在しているのだ?」

ワルキュラの真っ赤な眼窩が、ヤスの目を睨む。
生きとし、生ける者を全て無に返しそうな化物。そんな存在が目の前にいると思い込んだヤスは

「すいませんっ!それは私にもわかりませんっ!無知で本当に申し訳ありませんっ!
どうか!家族だけは助けてくださいっ!」

高く飛び上がって、元祖ジャパニーズ土下座を敢行した。勢い余って、塔から飛び降りた。
ワルキュラが慌ててヤスの足を掴み、その身体を引き上げる。

「自殺するなっ!
死ぬなら、話が終わってからにしろっ!」

「本当に申し訳ありませんでしたぁぁぁぁ!」

(こいつと話をしていると、こっちの調子が崩れるなぁ……)

ワルキュラは、話のテンポを崩されて、予定通りに進まない現実にイライラしてきた。
だから、質問を再開して、強引に流れを引き戻す。

「……ヤス。話を元に戻すが、神聖魔法とは何だ?」

「キリストン教を信仰する僧侶たちが使う魔法です!
傷を治したり、病気を治したり、処女を妊娠させたり、水をワインに変えたり、水の上を歩いたりできます!」

「……この国には病院があった気がするが、キリストン教の僧侶は居ないのか?」

「セイルンの馬鹿が、弾圧して排斥しましたっ!
秘密裏に信仰している連中を除いて、皆、あの世にいますっ!
あと、治せる病気と、治せない病気があるから医者は、必要です!」

独裁者を少し経験しているワルキュラには、何となく分かった気がした。
現実の共産主義国家と同じで、宗教上の権威が存在したら、独裁者の権力が維持できない。
だから徹底的に弾圧して、信教の自由を無くしてしまったのだろうと。
そうやって、考え続けていると、ヤスが聞いても居ないのに、口から情報を無料で吐き出してプレゼントしてくる。

「夜空に輝く太陽は、色んな形で使用されていて便利です!
キリストン教を信仰する大都市だと、照明に使ったりしていると噂で聞きました!
おかげで治安が良くな……ひぃぃぃぃぃぃぃ!!」

(あの人工太陽のせいで、ルビーちゃん達が苦しんでいるだぞっ!
ふざけんな!
女の子を苦しめる光のどこが神聖な魔法だ!)

突然、ヤスの目の前にいる巨大骸骨から、膨大な殺意が湯水のように溢れ出した。
それは、ただの人間である彼からすれば、死亡フラグにしか見えない。

(俺、何か逆鱗に触れる発言したか!?)

絶対な存在の前では、迂闊な行動は人生終了を意味する。
全身から冷や汗を流したヤスは、恐怖で心臓が激しく脈動する。
命なんて、目の前にいる化け物からしたら、何時でも刈り取れる花に過ぎない。そんな現実を容赦なく恐怖とともに教えられてしまった。

(こ、殺される!?
ヤスノリっー!ヤスコっー!ノリコっー!
た、助けてぇー!
日本の皆ぁー!)


思いつめたヤスはセイルンの猿真似をしたっ!
高い塔から飛び降りながらジャパニーズ土下座をしたっ!
だが、ワルキュラに手を掴まれ自殺できなかった!

「こらっ!質問が終わるまで勝手に死ぬな!」

「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!すいませんっ!
どうかお許し下さいぃぃぃぃ!!」

「で?
あの人工太陽を消すにはどうすれば良いんだ?」


「し、知りません!
聖なる太陽は、一度使えば夜の間、ずっと輝くと評判です!」


ヤスの口からは、ワルキュラが望む答えは得られなかった。
いや、戦争中の攻撃目標が明らかになっただけマシというべきだろうか?
少なくとも、ピィザ軍の弱点が明らかになった。これだけは事実だ。

(僧侶どもを殺せば……人工太陽が消えて、暗黒魔法を使える俺達の圧勝だ。
だが、数が問題だ。正面から戦っても、夜襲をかけても成功率はきっと低い。
ならば予定通りに事を進めるしかないな……)

兵力の少なさが故に、一度の失敗すらも絶対に許されないワルキュラは、考え込む。
負のオーラの発散が止まり、目の前の巨大骸骨を見たヤスは、少しだけ安心できた。

(どうやら……俺が跳ね橋を錆びさせた犯人という事がばれていない……?
やった、俺、家に帰れる。
生きて家に帰れる。や、やった――)

しかし、ヤスの楽観的な心は――

「ああ、そうだ。ヤス」

ワルキュラの些細な言葉で砕け散った。

「これからお前に、処罰を言い渡す。
なぜ罰されるかは分かっているはずだ」


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」

ヤスの情けない悲鳴が、高い夜空に響いた。




今回のコメントをまとめたページ

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【小説家になろう】 「タイトルが秀逸すぎる」 なんて骨体!
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【内政チート】「軽い・錆びない・頑丈なチタンでチートする!」 20世紀
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ヤス「こ、殺されるぅぅぅぅぅぅ!!!!」

ワル「なぜ、こんなに悲鳴を上げるんだっ……!ビビりすぎるっ……!」

ルビー(ワルキュラ様ってそんなに怖いかなぁ?)



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