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21話     詐欺戦争-3 「食べ物が欲しいならくれてやる!跳ね橋下ろせ!   


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城壁の外で、ピィザ軍の兵士達の声が虚しく響く。

「跳ね橋を下ろせぇー!食料はここにあるぞぉー!」

「飢えた人民よっー!圧政に立ち向かえっー!
何時まで奴隷の境遇に甘んじているのだぁー!
異世界から拉致された被害者よっー!今こそ反抗の時だぁー!」

「ユーアーショックー!自由と権利を取り戻せぇー!」

だが、彼らが期待した反応は返ってこなかった。

(なぜだっ……?
なぜ、飢えた民衆が動かないっ……?
これでは予定が狂ってしまうぞっ!)

水路の前まで、大量の食料を運搬してきた初老の騎士チョウ。
肝心の食料そのものを盾にしながら、彼はどうしようもない違和感を感じていた。

(普通の都市なら、これで陥落するはずだ。
飢えた人間は動物に等しい。
理性なんてものは残らない、精神そのものが狂うからだ。
なのに、なぜ、誰も返答しないっ……?)

チョウはカイロンで生まれ育った中年だ。今のセイルン王が台頭した際に、権力の座から追われ、辺境送りにされた下級貴族。
だからこそ、食料の物流システムが停止したら、膨大な餓死者がでる事を肌身を持って理解している。
何十万人という人口を食わせる食料なんてものは、絶対に首都カイロン内部に存在しない。
ここが砂漠の国とか、そういう事は全く関係ない。
主にセイルン王の悪政のせいで、慢性的に食料不足という事もあり、物流が停止した時点で詰むはずだからだ。

『異世界の作物トウモロコシを山で栽培しろ』土地を痩せさせてハゲ山化。

『稲を密集させて植えれば、豊作になる気がする!』収穫率激減

『貝って美味しいよな!養殖しろ!』失敗して赤字

セイルンが思いつきで新政策をする度に、餓死者が出る。そんな国だ。
人民は常々「もう何もやらないで下さい」と願いながら飢えている。
そんなウンコ国家なのに、人民達が呼びかけに応えてくれない。

(ま、まさかっ……!)

チョウは、とある物体を目にした事で、最悪すぎる妄想をしてしまう。
城壁の上にズラリッっー!と並ぶ、たくさんの骸骨(偽)。
これが意味する事は――

(既にカイロン市内に……生きた人間は一人もいないっ……?
いや、でも、城壁の上で作業している人間がいるからっ……生存者は少しはいるのかっ……?)

チョウは急に怖くなってきた。人間で溢れた首都が……動き回る骸骨だらけの巣窟と化していたら、地獄の市街地戦を化物相手にやらないといけなくなる。
連絡手段が未熟な軍隊は、市街地戦が苦手だ。
道は隊列を組めるほど広くないし、無数の障害物を簡単に設置できる。
これが普通の人間相手なら、ピィザ軍が大挙して突入した時点で、防衛側のやる気が喪失して勝利できるが――なにせ相手は死人だ。
強い戦意を保ったまま、市街地戦をやりかねない。
間違いなく『都市は軍隊を飲み込む』という戦場の鉄則が発動して、泥沼の戦になる。

(チィズ軍師の命令通りに行動したがっ……これは愚策なのではっ……?
生きている人間がカイロンにいないなら、この策は成立しない……前提そのものが崩壊しているっ……)

だが、ここで活躍しなければ、チョウに輝かしい未来はない。
与えれる恩賞の量は有限であるが故に、ここで功績を残して領地でも貰わないと、何のためにセイルン王朝を裏切ったのか分からなくなる。
幸い、骸骨どもが弓矢攻撃を再開しても、しばらくは食料と、装甲つきの荷馬車を盾にすれば長時間持ち堪えられ――水路から湿った音がした。
一気に無数の触手が水面から突き出て、兵士を吹き飛ばし、チョウ達の目の前にある食料へと絡みつく。
その瞬間、チョウの視界に見えた。
空間に出現した穴(アイテムボックス)に、食料と荷馬車を一気に放り込む黒っぽい無数の触手が。
ワルキュラ軍が、ひとつの首都を一時的に養えている最大要因である謎技術の一端が見えた。
この化物達は、異次元に大量の物質を格納する技術を開発し、倉庫を抱えたまま移動して戦争やっている最低最悪の敵だ。
そんな感じに何故かチョウには理解できた。

(ば、化物っ……!)

軍隊が、倉庫を抱えたまま戦争。
これは補給なんて気にせずに、敵地でも行動できる事を意味する。
補給という縛りがない軍隊は最悪だ。
まず、進撃路が全く予想できなくなる。
恐ろしい速度で移動し、常に相手の裏を掻く事ができる。
野戦築城やりたい放題。少数でも多数を相手できる、そんな地獄のような戦場を、チョウは脳裏に思い描いた。
僅かな時間の間に、触手達はピィザ軍が用意した物資を没収し、水路へと華麗に消え去る。
残るのは無防備状態のピィザ軍兵士千人。
城壁にいる骸骨達はロングボウを構え、一斉に矢を放った。
無数の矢がチョウがいる場所目掛けて飛んでくる。

(ちょっと待て!
もう少し俺に考える余裕を与え――)

容赦なく、チョウは使い捨ての兵士達と一緒に死んだ。
この策を昼間の内に実行していれば、真逆の結果を得て、ピィザ王国で要職に就けるはずだったが――歴史にIFはない。
たった1日。
その間に起きたワルキュラ軍出現で、ピィザ王国の輝かしい歴史に、一筋の曇りが見え始めてきた。



〜〜〜


そして、城壁の上で作業をしていたヤスは、無残に死んだ人間達を見下ろして驚愕した。
恐ろしい事に気がついたからだ。

(もしもワルキュラ軍が食料を配布したり、格安価格で売ってなかったら……場内から飢えた日本人奴隷が集まって、内側からカイロン陥落してたんじゃっ……?)

これが意味する事はすなわち――ワルキュラは完全に敵の手を読みきった上で、ハンバーガーとコーラをヤス達に配布し、市場に膨大な食料を流した。
敵軍の何十手も先を読んで行動した、そういう事になる。

(お、恐ろしい智謀だっ……!
ワルキュラ様はこの世界に来たばかりのはずなのに、完全にチィズ軍の手を読んで行動しているっ……!
ま、まさか、遠く離れた人間の心すら読めるのかっ?)

本人が聞いたら『過大評価しすぎだろ!』とツッコミを入れかねない勘違いをしたヤス。
彼は、高い塔の上にいるワルキュラを見つめた。
相手はこちら側の視線に気づいていなかったが、もしも人間の心が読めているならヤスの身が危ない。
ヤスはヤスなりに、日本人の待遇改善を求めて行動してきた。
だが、セイルン人達は日本達を奴隷として酷使し、使い潰そうとする。
死んでも新しい日本人を拉致れる。だから、この国では日本人奴隷は、湯水のように使える資源でしかなかった。
だから、だからこそ、ヤスは背信行為とも取れる行動を、セイルン王朝に対して行ったのだ――

(俺が、跳ね橋の鎖を錆びさせた犯人だとばれてるっ……?)

ヤスは、チィズ王国に積極的に寝返って、首都陥落の手伝いをする事で、日本人の地位を向上させようと思っただけで、ワルキュラに反逆する意志は持っていない。
跳ね橋の鎖を錆びさせる液体をぶっかけたのは、ワルキュラ達が来る一日前。
もしも、アンデッド軍団がこの場所に降臨すると知っていたら、跳ね橋を降ろしたままにする破壊工作なんてしなかった。

(どうか、心が読まれていませんようにっ……!
俺には可愛い子供が二人いて、食い扶持を稼ぐ義務があるんだっ……!
俺が養わなければ誰が養うっ……!
俺の身体は容易く死ぬ肉の体かもしれない。
だが、心は鋼鉄で不死身なんだっ……!)

この瞬間、偶然、塔の上にいるワルキュラと視線があった。
真っ赤に光る眼窩が、ヤスの心を支配し蹂躙しようとしてくる、そんな気分になった。

(ワ、ワルキュラっ……!いや、心の中で様付けしないと殺されるっ……!?
ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!)

心臓が爆発しそうなくらい緊張する。
ワルキュラの負のオーラが、ヤスの生存本能を刺激し、健康を着実に悪化させつつあった。

「おい、そこの人間。
お前はヤスだな?」

しかも、後ろから幽霊娘を連れた骸骨兵士が一人やってきて声をかけてくる。
この絶妙すぎるタイミング、これは完全に――

(やばい。お、俺が犯人だとばれてるっ……?
やっぱりワルキュラ様は心まで読める化け物なんだっ……!)

ヤスが黙って立っていると、骸骨兵士は苛立ちながら問いただす。

「お前、ヤスだろ?
挨拶も出来ないのか?
ワルキュラ様が貴様に用があるとの事だ。
俺に付いて来い」

(俺、終わった。
リストラだ。
それも物理で首を切断するリアル・リストラだ。
失業ならぬ、失命だっ……!)

死を覚悟したヤス。ここで逃げれば、その罪は愛する家族にまで及ぶかもしれない。
だから、死ぬ覚悟を決めた。ワルキュラと直接対面して、殺される覚悟を。
家族の生活の面倒は――

「もっふふっー。
先輩はひょっとしてエリートコース!?良いですねぇー!」

可愛い銀髪猫耳少年、こいつには託せない。
だからヤスは殺される覚悟と同時に、絶対に生き残る覚悟を決めた。

(俺の前に道はない。俺が通った後に家族の道ができる……。
お父さんは生き残るぞっ……!ヤスノリっ、ヤスコっ……!)




今回のコメントをまとめたページ


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【内政チート】 「伝染病を運んでくる蚊を退治して衛生チート! 」グッピーと水槽 20世紀のインド
http://suliruku.blogspot.jp/2016/03/20.html


【小説家になろう】 「オリ主の定義ってなんだ!」
http://suliruku.blogspot.jp/2016/02/blog-post_20.html


 

●チィズ軍師の部下達の末路

密偵A「食料がないぞぉー!」

密偵B「化物どもが食料の独占を企んでいるぞぉー!」

密偵C「皆っー!早く、首都の外へ出るんだぁー!外にはたくさんご飯があるぞぉー!」




ピィザ軍の密偵「「「市場に、格安の水草スープがあるせいで、誰も俺の言う事を聞いてくれない!」」」

骸骨「騒いでいる奴ら逮捕!」

ピィザ軍の密偵「「「そんなー!」」」




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