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ドラゴン転生
6話「修行の島」6KB

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「私達は、そしてその内何人かは一生、別の環境、別の生活、そして別の魂を求めて旅をする」

アナイス・ニン(フランスの著作家)





頭に妖精娘を乗せた私は大空を超え、今日は山が大量にある浮遊島に来た。
そこに住む住民達は、私の祖国『残業大国日本』と同じように、労働者は一週間に50時間以上働き、夜の10時くらいまで会社で勤めた上に、休日出勤までしている。
つまり、仕事のために生活や家庭を犠牲にするタイプの国という事だ。
私は彼らが必死に働く姿を見て、心の底からドラゴンになって良かったと思ったのだが……人間達は生き生きと明るく、会社で働いている。
その事に疑問を持ち、私はこの国の老齢の大統領閣下に質問したら――なぜ、こうなった。

「これが我が国が誇る文化『ザゼン』です!ドラゴン様!」
「なぜ服を脱ぐ!?」
「ザゼンは上の服を脱ぐのが礼儀なのです!」

大統領が明るい顔で宣言して上半身裸になり、
その後ろには、鞭を手に持ち、魔女娘ローブを着た金髪エルフ娘のリリーが居る。
私はリリーの分裂体が世界各地のあちこちに本当に居るんだなと感心していると――リリーは鞭を振り上げてパシーン!パシーン!
大統領の鍛え上げられた背中を何度も叩いた。
はっ?
なんだこれ?

「うほっ!リリー様!もっともっと叩いてくだされ!」
「お主は昔からそうじゃのぅ。
ほれ!ほれ!わっちを大魔法使い様と呼ぶでありんす!」
「リリー様の鞭さばきは最高であります!」
「大統領を叩けるのは光栄じゃよ!
ほれ精神注入じゃ!」

小さい金髪ロリが、老人相手にSMプレーしている。
これなんてご褒美!?
いや、この大統領変態だろ!

「絶対、これ文化じゃないだろ!?
リリーっ!異世界でSMプレー広めるとか、何やってんだ!
本来の座禅《ザゼン》は木刀で、動いた人間を殴って精神を鍛える文化だろっー!?」

私のツッコミに応えたのは、鞭で叩かれて喜んでいる大統領だった。

「ドラゴン様。これは我が国の偉大な文化なのです」
「お前は小さい女の子に叩かれて喜んでいるだけだろ!?」
「こうやって叩かれている内に精神が鍛え上げられて、過酷な競争社会で働ける素晴らしい大人になれると……統計で証明されております。
先ほどの労働者達も、皆、この修行を受けてから笑顔で働けるようになりました」
「それどんなマゾの国!?」
「社会は厳しいのです、ドラゴン様。
マゾじゃないと生き抜く事はできません。
貧乏人は貧困に苦しみ、サラリーマンは激務すぎる仕事に苦しみ、金持ちも人生に苦しみ、大統領のワシも権力に苦しむ。
国の頂点に立っても苦しみは続くのです!
それが人間の社会であります!」
「明らかに反論できない事実だっ!?」
「すなわち、座禅《ザゼン》は精神の修行!
この国の男達はこうやって一人前の男になるのです!
リリー様!もっとワシを叩いてくだされ!」

鞭が振り上げられてパシーン、パシーン。
私の頭の上にいるアイスが「今日も人類は平常運転だよね、ドラさん」そう言って飽きて寝てしまうくらいに、このSMプレーが繰り広げられた……。

「精神注入でありんす!
お主の怠けた部分を取り除くんじゃっー!」
「あっー!」

日本の文化が、なぜこんな形で広まった!
絶望した!



★精神統一★

SMプレー風の修行が終り、大統領が他の仕事があると言って、この場から立ち去った後。
私は、良い仕事したなぁーという感じに汗を流して妖艶なリリーに話しかけた。

「……なんで、こんな酷い文化を広めたんだ?」
「いや、わっちは最初はこんなつもりはなかったんじゃ。
普通に山に家を建てて、魔法を覚えたい人間達から授業料取って生活してたんじゃけど……居眠りする生徒を鞭で叩いている内にの。
国の伝統文化になってしまったでありんす」
「生徒を鞭で叩く時点で可笑しいだろ!?」
「愛の鞭でありんす。
生徒への教育は愛があればそれでええんじゃ」
「日本だと体罰は法律違反だろ!?」
「ここ異世界じゃし。
日本の常識持ち込まれても困るかの?」
「すまん、私が悪かった!」
「話を戻すとの……今じゃ、わっちは国営の精神修行クラブ≪大魔法使いの神殿≫の大師範でありんす。
毎日、精神を鍛えたがっている大人の男達を叩いておる。
叩いている内に、その……わっち楽しくなっての。
男の事を≪この豚が!≫とか言いながら叩くのが癖になったんじゃ」
「幼い顔を赤らめながら言っても変態は変態だからな!?」
「でも、凄い効果があるんじゃよ?
SMプレーの技術が広まったおかげで、国中が忍耐力が強いマゾだらけになったから、犯罪を犯す人間がほとんど居なくなったでありんす。
その功績は評価して欲しいかの?」

リリーが首をゆっくり傾げた。幼い外見なのにとっても色気がある。
私はそんな妖艶な姿を見て

「こんなに素敵なロリババアが相手なら、鞭で叩かれたがる連中の気持ちが分かる気がする!」
「じゃ、試しに叩いてあげようかの?」
「ああっ!やってくれ!」

パシーン!パシーン!

ドラゴンの皮膚は鞭ではダメージが通らないほどに硬かった
特にダメージはなかったようだ。
鞭で叩かれて何が嬉しいのか分からない。

「……これの何処が良いんだ?」
「お主、肉体が硬いから、好きな娘に精神的に苛められて喜んだ方が良いでありんす」
「確かにそれもご褒美だな!」
「それに真のSMプレーはの。
愛がないと駄目なんじゃ。
好きな娘のために頑張って嬉しいと感じながら成長するのも、見方を変えればSMプレーじゃろ?」
「なんでもかんでもSMプレーに関連付けるのは卑猥すぎる!?」
「仲の良い男女がお互いに苦労を分かち合い、夫婦になるのも人生をかけた壮絶なSMプレーじゃろ?」
「う、うむ、そうとも見れる……?」
「お互いに相手を理解し合うからこそ、SMプレーが出来るんじゃ。
質の良いM男――もとい、よく働く労働者は時間をかけて調教せんと産み出せん。
SはMに慕われないと何も出来ないでありんす。
愛がないSMプレーはの」

リリーは笑みを深めて

「暴力――イジメというんじゃよ。
男達と愛のあるSMプレーが出来る調教師じゃないと、わっちみたいな偉大な教師にはなれないでありんす」
「良い事言ってるけど、SとMという言葉のせいで全部台無しだ!?」
「人生最大の財産は、根性でありんす。
この過酷な労働環境の国で最も必要とされる根性を効率よく鍛えられて素敵なんじゃ。
日本に帰れたら、この文化を広めるのもいいかもしれんの?」
「確かに、現代日本で必要とされる文化だっ!」
「そうじゃろ!そうじゃろ!」
「辛い長時間労働していると死にたくなるよな!」
「やりがいのある仕事でも長時間労働じゃと退職する奴ら多かった記憶あるしの。
根性ないと企業戦士にはなりんせん」
「……でも、根性だけだと、激務で病気にならないか?
低賃金の労働者が、頑張れば昇格できるという餌で働かされて、身体が壊れた人間をたくさん見てきたぞ?」
「わっちの魔法があるから、どれだけ働いても大丈夫じゃ!」
「さすがだな!」

リリーと意気投合していると――私の頭の上で眠っていたはずのアイスがいつの間にか起きていて

「そんなに大変な労働をするために、異常な修行しないといけない時点で、絶対可笑しいよ、この社会。
生きるのが苦しいなら、社会の方を変えた方が皆お得だよ?
僕はのんびりゆっくりマイペースに生活したいな」


6話  修行(社畜)の島 おしまい




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