「人間死に方は選べないが、生き方は自由だろ」
【空知英秋】 漫画家
上下左右全て――空で埋め尽くされた空中世界《スカイワールド》
この世界では大規模な対外戦争は発生し辛い。
空という障害を乗り越えないと、他の浮遊島に到達できないからだ。
膨大な長い距離を超え、大軍を送る。これだけで国家財政は莫大な大赤字を被る事になる。
飛行船、長期の空の旅で消費する物資、前線に物資を送り付ける飛行船、更にその飛行船に物資を送り付ける飛行船……こんなバカげた行為をしないと戦争できないはずなのに、私の目は1万kmほど先で、戦争状態に陥っている浮遊島を見つけた。
浮遊島の上空に何千という空中戦艦や駆逐艦が空を飛び、島に向けてビーム、ミサイル、爆弾の雨を降らしている。
「戦争か……嫌なものを見たな」
「ドラさんー。
急に飛ぶのやめて、どうしたの?」
私の隣で浮いている妖精娘のアイスが、不思議そうに首を傾げて聞いてきた。
「アイス、この先で戦争が起きている」
「へー、珍しいよね。
僕の目には、小さな黒い点にしか見えないけど……どんな感じの島なの?」
「表面に森しかない小さな浮遊島だ。
その上空から、何千という数の大艦隊が攻撃を加えている。
私には……小さな島にあれほどの攻撃を加える理由が分からない」
「きっとその浮遊島の地下に要塞とか、そういうのがあるんだよ。ドラさん。
島全体が要塞化していて……攻略する価値があるなら、大艦隊もたくさん攻撃するでしょ?」
なるほど、それなら納得。
きっと、あの浮遊島には軍事的な価値があるのだろう。
そう思って、1万キロ先からゆっくり戦争風景を眺めていると――
銀色に輝く小型艦が、こっちに向かって飛んできた。
【ドラゴン様!大歓迎】と書かれた白旗を掲げている。
しかし、距離が1万キロもあるから……私がいる場所に到達するまで100時間以上かかりそうだ。
うわぁ、この世界の軍人大変すぎる……。
私なら、すぐに移動できる短い距離だが、人間の乗り物は遅すぎた。
軍人視点で考えてみると……たくさん長い時間かけて苦労して、空の旅をした果てに命をかけた戦場に到着とか……私なら脱走しそうだな。
戦争なんてやる物ではないなと思った。
☆戦争ブースト☆
小型艦の移動速度が遅すぎて、待っているのが嫌になった私は……アイスを頭の上に乗せてビューンと数千kmの道のりを一気に飛び、ゆっくり減速しながら小型艦の傍に近づいて、話しかけた。
「私に何のようだ?人間達」
すぐに駆逐艦の甲板に、3人の軍人が出てきた。
皆、茶色のベレー帽を被り、緑色の軍服を着ていて、胸元に勲章がジャラジャラと付いている。
3人の中で一番若い、30代前後の冴えない顔の男性が片手で敬礼してきた。
「ドラゴン様!
私達はドラスレ国の軍隊です!」
「軍隊という事は……やはりあの浮遊島で戦争しているのか?」
「はい、誰も住んでいない無人の島に、爆弾やミサイルを落とすだけの簡単な仕事です」
「誰も住んでいない島?……戦争じゃなくて、ただの軍事演習か?」
「いえ、我が国にも理由がありまして……表向きは戦争という事になっています。
そもそも、まともな戦争は1000年以上経験してない平和な国ですから」
「い、意味がわがらない」
「大艦隊をわざわざ動員して、何の価値もない場所に……ひたすら攻撃しているだけなんです。
つまり戦争ゴッコです。遊びです」
「おおーい!?
それじゃただの税金の無駄遣いだろ!?
ミサイルやビーム砲はかなり高価だよな!?」
「はい、その通りです、ドラゴン様。
ミサイル一発で安い家が建つ値段です。
私の給料2年分ほどの価値があります」
また変な奴らに出会ってしまった。
しかも話すのが嬉しいのか、冴えない顔の軍人は話を続けてくる。
「……ところでドラゴン様は選挙という物をご存知ですか?」
「国民の代表を投票で決める制度の事だろう?」
「我が国も選挙で国の代表――政治家を選ぶ民主主義の国なのですが、選挙で代表を決める以上、国民に対して人気取りをしないと、次の選挙で落選してしまうんです」
「ふむふむ」
「今、どれだけ権力・金・女があろうと、落選したら政治家はただの人。
だから、選挙で勝つためなら何だってやります。
税金をばら撒いたり、無駄な仕事を増やして雇用を確保したりとか。
その結果が……あの光景なんです」
軍人が指し示した方向には――大艦隊が爆弾の雨を降らせて、攻撃している浮遊島がある。
島の各所に、クレーターが出来てボロボロだ。
――この光景と選挙に何の関係があるのだろうか?
私は首を傾げた。
「……政治家が人気取りのために、誰もいない無人の島を攻撃しているのか?
いや、さすがにそんな事はな――」
「さすがドラゴン様。
正解です。
我が国では戦争すると国民が熱狂して……政治家を熱烈に支持して票を入れる伝統があるんです。
これを政治用語で戦争ブーストと言います。
大きな国内問題が発生して、政権与党――政治家達の支持率が低下する度に、我が国ではこうやって戦争を起こすんです。
他国に迷惑がかかるといけないので、存在しない架空の国に宣戦布告した後、無人の島を選んで攻撃します」
「おい!?普通は税金をそんな事に無駄遣いしたら国民が怒るだろ!?」
「ほとんどの国民は……存在しない敵対国家と戦争していると思い込んでいまして、自国の安全のための必要経費だと割り切っているから大丈夫です、ドラゴン様」
「それでも可笑しいだろ!?国民が真実知ったら絶対激怒して大暴動になるぞ!?」
「政治家は目先の選挙しか考えてません。
選挙に勝つためならば、政治家はどんな馬鹿げた事でもやるんです」
……腐りすぎてるなぁ。
いや、これは政治家の問題というより、その政治家を選ぶ国民達の方に問題があるのかもしれない。
私が黙り込んでいると、アイスが楽しそうな顔で軍人に話しかけた。
「ねぇねぇ、政治家って他にはどんな方法で人気取りやってるの?
さすがに戦争以外の事もやってるよね?」
「はい、ドラゴンの巫女様。
国を横断する高速道路や線路を建設して、建設業者達から組織票を得たりしています。
建設工事中はその利権に絡んでいる政治家の人生は安泰……票集めの王道と言っても良いですね。
国民にも分かりやすい形での税金の使い道だから、反対され辛いです」
戦争よりは建設的だな。
「他にも農村へ税金を……補助金という形で垂れ流して、票を集めるのが一般的です。
詳しい事は省きますが、農民達の票は、都市に住む人間の3倍以上の価値がありまして、政治家達は票欲しさに税金をジャブジャブッと農村へ
流しているんです。
使わない畑やビーニルハウス作ったり、挙句の果てには補助金をもっとプレゼントするために農民達の交流促進目的で遊ぶ場所作ったりとか」
「国が積極的に国民を腐らせる環境作ってどうする!?」
「政治家は選挙に勝つ事が全てですから。
そのためなら、国の未来がどうなろうが気にしません」
そんな国には住みたくないぞ……。
この軍人、とっても嬉しそうな顔で会話しているなぁ……。
「最近ですと、政治家も血迷ったのか……働いてない人間達にお金をばら撒いて票を集めたりとかして、我が国はこんな調子で税金をかなり無駄遣いしていますよ」
「うわぁー、酷すぎるよねー。
君はどうして抗議しないの?
このまま放置したら、財政破綻しそうな雰囲気だよね?
君も税金払ってるんでしょ?」
「ええ、特に軍人は公務員ですから収入を100%把握されて……半分くらいが税金として取られます。
政治家は収入を誤魔化して節税し放題ですから、ほとんど税金払っていません。
これが公務員の辛い所です。農民ですら収入の3割しか把握されてないのに……酷過ぎです」
「うーん、わかんないなー。
無駄遣いをやめないと……今までの話から考えるに、君の国、本当に財政破綻起こしそうな感じっぽいよね?」
「はい、巫女様。
借金が膨れ上がって、金貨16億枚相当の借金があります。
近い将来、借金のせいで、国内経済ごと破綻しますね」
「じゃ、国に抗議すればいいんじゃない?
そうしないと未来が真っ暗でアンハーピーだよ?」
アイスが首を可愛く傾げてそう言うと、軍人は戦場になっている浮遊島を指し示した。
大艦隊から膨大なビームの雨が降り注ぎ、無人の地を焼き尽くしている。
表面が溶けてガラス谷が出来た。
「ドラゴン様。
私の目には遠すぎて詳細は見えませんが……ドラゴン様の目なら見えますよね?
あの無人島の光景が」
「……見えるがそれがどうかしたのか?」
「私はですね。
ああいった質の良い兵器が使われるシーンを見ると感動して……心がハラハラドキドキするんです。
クラスター爆弾から放たれる数千の小型爆弾が、範囲内を濃密に破壊し尽くす!
夜空に光り輝くビームの雨!
レールガンから放たれる、超高速の弾丸が地表を削り取って破壊する爽快感!
旧型艦を演習と称して撃沈するときの躍動感!
ああ!兵器はなんて素晴らしいんだ!
早く向こうに戻って見物したい!
私は戦争を求めている!
熱い熱い戦争を求めている!
ならば戦争だ!
戦争っ!戦争っ!」
「おおーい!?
お前、税金の無駄遣いが大好きなんかーい!」
「高価な兵器を消費するためだけに、私は軍人になったんです!
だから向こうに戻ってもよろしいですか!?
あと1日で戦争ゴッコがおしまいなんです!」
「税金を無駄遣いする事を先にやめろよ!?」
「いえ、これだけは譲れません!
私の唯一の生き甲斐なんです!
兵器オタクすぎて、嫁には離婚されて息子にも嫌われているんですよ?!
定期的にやる戦争ゴッコがなかったら、私はどうやって未来に希望を抱けば良いんですか!?
軍人生活は制限だらけだから、かなり辛いんですよ?!」
「言い訳にならんだろ!?
国民の税金を無駄に使う方が問題ありまくりだろ!?」
「政治家が無駄遣いしているんですから、私も無駄遣いして良いはずです!
あいつら収入の1割しか把握されてないから、脱税しまくりなんですよ!
じゃ、私は戦争ゴッコに戻りますのでドラゴン様さよならー!
うひょー!次は何を撃とうかな?!
電子パルス砲にしようかな!中性子爆弾にしようかな?
兵器を使うの楽しいなぁー!」
軍人はそう言って甲板を走って船内に戻り、小型艦
を浮遊島の方へと飛ばして去っていた。
うわぁ……なんてひどいオチだ。
税金をこんな奴らが無駄遣いするなんて酷いぞ。
政治家も政治家なら、軍人も軍人だな。
私がそうやって悩んでいると、アイスがとっても楽しそうな顔で
「ドラさん、今日も変な人間と会っちゃったね」
「ああ、そうだな……変な人間だった」
「リリーから聞いた噂だと……変な人間を1人見たら、近くに1000人いるって統計があるらしいよ?」
……アイスの言葉で、さっきの軍人みたいな変人が、うじゃうじゃいる国を一瞬想像してしまった。
きっと、国中、無駄な建造物だらけなんだろうなぁ。
☆強きもの夢の跡☆
……1日後、大艦隊は好きなだけ浮遊島を攻撃した後、その場から去っていた。
景気よく音楽を鳴らして、遠い空へと向かう艦隊の群れはまさに……事情を知っているせいか、遊び疲れて帰る子供達のように見えた……そう思いつつ、浮遊島の表面に目を向けると、可笑しい事に気がつく。
島の表面にある、緑色の木々の半分ほどが人工物だった。
気になった私は、頭の上で寝ているアイスに浮遊の魔法をかけて、空中に寝かしつけた後に、数千km離れた現場にビューンと直行する。
現場を間近で見ると無数の違和感に気がついた。
壊れた地表に、大量の金属の破片がある。
30mの深さを持つクレーターと化した場所には廃墟があった。
恐らく、元々は、島の地下にあった施設なのだろう。
試しに、耳を凝らすと……地下から男と女の声が聞こえてる。
「リリー博士、軍隊は去ったようです」
「わっちの超巨大プラモデル《偽浮遊島》が半分くらい壊れてもうた……どうしてこうなったんじゃろ?
誰にも迷惑かけてないのに不思議じゃのう」
「もう、このプラモデル研究やめましょうよ。才能の無駄遣いです……。
既存の浮遊島改造した方が安いし頑丈だし、自給自足生活できますよ?」
「お金の問題じゃないんじゃ。
わっちの人生をかけて、プラモデルで完璧な浮遊島を作りたいでありんす。
富や名声は一瞬で消え去るが、芸術作品は永遠じゃろ?
わっち、才能の無駄遣いとか言われてもええし」
……税金の無駄遣い VS 才能の無駄遣いか。
私的には才能の無駄遣いの方が良いイメージを持てるな。
迷惑をかける相手が少なくて済むし、芸術作品は人を感動させる事ができて有益だ。
17話「戦う国」
おしまい
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