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3国目 神話を伝える国なのです 前編
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神話とは? 遠い昔の「真実の物語」とみなされる作り話なのです。無論、嘘話なのです。

神話とは? 人間、いろんな理不尽な事を納得しないといけないから、神様が人間作った、世界作った、だから動物殺して食べてもいいという事にすると、安定した社会を築きやすかったのですよ。

この世界の神話とは? 困ったことにノンフィクション(事実)なんですよね。
私もその神話に巻き込まれて、この世界に来てしまったのです。










それは、師匠と手を繋ぎながら歩いて旅をしている時のことでした。

「ヴィクトリア、僕達がこれから向かう場所は、アーリア教の総本山だ。
全世界の驚異【悪夢の皇帝】が生きている情報を、アーリア教の法王を通して各国に流してもらって対策してくれたら、将来やってくるかもしれない戦いの時に、僕は楽ができそうだからね」

「アーリア教?」

今日は天気が晴天で、太陽の日差しに釣られて、辺り一面を覆い尽くす光の精霊さんが居て気分はいいのですが、なんでそんな所に向かうんでしょうかね?
宗教とかうさん臭いのです。
問いかけに疑問で返したから師匠は呆れた顔で

「……やれやれ、世界宗教の一つすら知らないなんて、ヴィクトリアは学校に通ったことがないんだね。
いいだろう、旅をしている間はいくらでも時間があるから説明してあげよう」

「ありがたいのです」

師匠のおかげで教養がどんどん身に着く今日この頃です。

「アーリア教はね。
かつて存在した神様の1人、白の光龍王アーリアを祀っている宗教なんだ。
1000年前の第二次スーパー神魔大戦で完全に滅んでしまって、二度と完全な形で復活する事は出来なくなったそうだけど、今でも人気があるんだよ」

「神様が滅んだら、その宗教には意味がないんじゃないですか?
信仰しても何の見返りもないのですよ?」

「人間には心の拠り所ってやつが必要なのさ。
例え、神様が滅んでも、解釈の仕方を変えれば宗教は存続できる。
光龍王アーリアの場合は、あの世から皆を慈愛にあふれた目で見守り、死んだ信者を永遠の楽園へと連れてゆく設定になっているね」

「設定って……身も蓋もないですね、師匠」

「僕達、エルフは神様が居た頃から精霊信仰だからね。
人間の作った宗教に嵌るのは難しいさ。
神様がいた当時から、信仰しても義務ばっかりで特に見返りはなかったからね。
アーリア教のとある大司祭の名言なんて『信仰とは死ぬ事と見つけたりー!』と叫んで、魔族に立ち向かって戦死するくらいだから、神様は一方的に奉仕を強要する嫌な奴なんだ。
それゆえに、僕達は神様と仲良くするよりも、精霊と親しい関係を築いた方がいいのさ」

「神様と違って、精霊さんは仲良くすればするほど、優しくしてくれて最高なのです」

私がそう言うと、師匠は軽くウインクして

「だね、ヴィクトリア。
精霊は最高の友人であり、相棒という事なのさ」

いやー、お茶目でいいですね、お師匠様。
こんな人のお嫁さんになりたいなーと思います。
あと、私に手を出さないのは何故なんですかね?
やっぱり胸のサイズがBくらいしかないから、私に女性としての魅力に欠けている事が原因でしょうか?
……何時か、散歩チートで20歳くらいの肉体になりたいなぁ。
最低でも、その願いを達成するために100年かかるから辛いのです。















道を何日も何日も歩いたら、アーリア教の総本山らしき場所が見えてきました。
すっごく小さい国です。
国というか、城壁に囲われた街です。
具体的に言うと、大弾圧で有名な中国北京の天安門広場(約0.40km²)くらいのサイズです。
これで分かり辛いなら、東京ディズニーランド (約0.52km²) よりも小さい国だと理解すればいいです。
城門の所まで私達は歩くと、そこには白い僧侶服を纏った3人の人間の男達が立っていました。
3人とも周りに真っ赤な精霊さんが漂っている精霊使いです。
私と比べても、漂っている火の精霊の量は恐ろしく少ないですし、たぶん弱いですね。

「おい!そこのエルフ!止まれ!」
「ここはアーリア教の総本山であるぞ!胸の小さいガキを連れた男が何の用だっ!!」
「パスポートと入国料プリーズ!」

彼らは最初はこんな事を威圧感たっぷりに言ってましたけど、私の隣にいる師匠の顔を見て、慌てて態度を変えました。

「あなたはマクシム様!?どうぞお通りください!」
「隣の可愛い女の子は妹さんですか?どうぞお通りください!きっと将来は絶世の美女ですね!」
「顔パスOK!通行料はいりません!」

師匠、あなたは過去に何をやったんですか。
よく考えたら法王に会える時点で、師匠の社会的な立場が気になるのです。







門を潜り抜けて国内に入ると、そこは左右にずっしり広がる巨大な大神殿がある広場です。
わー、凄いですよ!これ!
とんでもない観光名所なのです!
前世でいうバチカンのサン・パウロ神殿みたいな美しい光景ですよ!
広場のあちこちに信者と思しき人達が歩いていて、活気があります!
そんな感じに私が無邪気に喜んでいたから、師匠が私の頭を片手で撫でながら

「ヴィクトリア。
僕は法王に用があるから、その間、別行動でいいかな?」

「はい?」

ひょっとして私、師匠に嫌われました?
やっぱりロリババアの恋愛は難易度高いんですか?

「最近はずっと撲と手を繋いで旅をしていたからね。
たまには別々に行動した方が良いだろう。
幸い、ここは炎の精霊使い達が大量にいる地だから魔族が攻めてきても、それなりに持ち応えられるんだ」

そう言うと師匠は、銀貨を一枚、私に手渡しました。

「あと、ヴィクトリアは食べ物を食べる趣味があったね?
僕が居ない間、それで好きな物を食べて暇を潰してくれるとありがたい。
いいかい?くれぐれも光の精霊を扱う鍛錬とかしちゃダメだよ?
ここでビームを撃ったら、とんでもない大問題になるからね?
あちらこちらの建物の中に、希少な骨董品がたくさんあるから、もし壊したら損害賠償で100年くらいただ働きさせられる可能性もあるんだよ?」

「……わかったのです。
師匠がいない間、この国を散歩して暇を潰しておくのです。
だから、そんなに念入りに注意しなくてもいいのですよ?」

「なら、ヴィクトリア。
少しの間、さようならだ」

私がそう言うと、師匠は満足そうな顔をして、恐らく法王がいる場所に向けて歩いて行きました。
いやー、いいですねぇ。
師匠との散歩も胸がドキドキして素晴らしいですけど、銀貨1枚分、食べ放題とか贅沢ですねぇー。
この国そのものは1日で全部歩けるサイズの小さい小さい国ですけど、あちこちから美味しそうな匂いがするから気になってたんですよね。







師匠と別行動する事になった私は、早速、広場にある屋台の一つの所まで歩きました。
良い匂いがしますよ。
見た所、サンドイッチ屋さんなのです。
サンドイッチは二つの白いパンの間に具を挟んだお手軽な料理。
卵やトンカツを挟んでいて、どれも美味しそうなのです……

「お嬢ちゃん。
そんなに食べたいなら買っていきなよ!
今なら4割引きだよ!」

どれを買うか悩んでいたら、おばさん店主さんにそう言われました。
いやー、良い人ですねー。
これはたくさん買ってお礼をしないといけないです!

「じゃ、カツサンド2個、卵サンド2個欲しいのです!」

「あいよ!
料金は15ユゥーロだよ!
ラッキー青銅貨なら15枚!」

「はい、銀貨1枚なのです……あれ?
高くないですか!?
4割引きでそれは高いのです!」

「お釣りラッキー青銅貨85枚!
まいどあり!」

私のツッコミ空しく、銀貨一枚と引換に、青銅貨85枚とサンドイッチ4個を問答無用で渡されました。
いやー、観光地価格という奴ですかね?
お金、あっという間に無くなりそうで怖いのです。
あと、貨幣85枚とか重すぎて辛いから、何とかなりませんかね?
こうなったら、さっさと手持ちの金を散財して軽くしようと思うのです。
まずはこの卵サンドイッチから美味しく頂きましょう。
卵とサラダが美味しそうなのです。

パクン

こ、これはっ……!
マヨネーズと卵が織りなすハーモニー!
高いだけあって良いサンドイッチなのです!
それ以前に久しぶりの食事だから、何食べても凄く美味しいのです!
卵サンド2個をすぐに食べ終わったから、次はカツサンドを食べるとしましょう!
いやー、これもいいですねぇー。
贅沢にサンドイッチと同じサイズの大きなトンカツを使っていて豪勢なのです。
早速、頂くのです。

パクン

口の中で噛むたびに溢れる肉汁がたまらないです!
肉良いですよね!若い体だと肉はとても美味しいと感じるのですよ!

「あらあら、食べ物を食べるエルフなんて珍しいですわね」

後ろから声がしました。
振り向くと、そこには……黒のロングストレートヘアーが美しい清楚な美少女が居たのです。
外見の年齢は私と同じ13歳くらい、首には高そうなデジタルカメラを提げ、身に纏うのは淡い水色のワンピースドレス、思わず嫉妬しそうになるくらいに可愛い娘です。
そして一番重要なのが、エルフ耳。
この人、私と同じエルフなのです。
周りに漂うのは膨大な数の水の精霊達、すごく……旅するのに不向きな精霊だけど量が凄いです。
強さは師匠には及ばないでしょうが、私の力量ではたぶん勝てませんね。これ。
そんな感じにじっくり観察している間に、再び声をかけられました。

「あなたの名前はなんですか?
私の名前はイエニー。
見ての通り、水の精霊魔法使いですわ」

「……私はヴィクトリアなのです。
太陽光をこよなく愛する光の精霊使いです」

自己紹介したらイエニーさんは、上品にニコリと微笑んでくれました。
間違いなく、私より年上のロリバアアです。
こんなに落ち着いた雰囲気で会話できるのは、それなりに人生経験があるはずです。
外見と会話にギャップがあって侮れません。

「ところでヴィクトリアさんは、なぜ食べ物を食べるんですか?
私達エルフは、食べなくても生活できますよね?」

「美味しいからなのです。
特にそれ以外の理由はないです」

「あらあら、ヴィクトリアさんはまるで人間みたいなお方ですね?」

笑われました、イエニーさんに嫌われましたかね?
エルフって、師匠みたいに何も飲み食いしないのが一般的だと理解しました。
こんなにも食べ物は美味しいのに、イエニーさんも師匠も人生を損してますよ。

「実は私も人間みたいな趣味があるんですの」

イエニーさんは 胸元に提げている小型の軽量デジタルカメラを両手で構えると、パシャッ!と私を撮りました。
デジタルカメラ良いですよね。
大量に写真取れて軽いのです。

「写真を撮るのがイエニーさんの趣味なのですか?」

「ええ、風景や人物を形にして残すカメラが大好きで、夫や友人との思い出や、ヴィクトリアさんみたいな可愛い娘達の写真をコレクションするのが趣味なんです。
人間って、私達と違ってあっという間にシワシワでヨボヨボになってしまうでしょ?
こうして形に残しておかないと損だと思いますの」

「あれ?夫?
イエニーさんは結婚しているのですか?」

外見年齢が13歳の娘に手を出すなんて犯罪なのですよ。
でも、羨ましいのです。
きっと、相手の男は素敵な人に違いないですよ。

「ええ、ついこの前……1年前に結婚して、今は新婚旅行の途中ですの。
人間の国って、どの国も可笑しくて楽しいですわ」

「いいですね、新婚旅行。
私も新婚旅行したいのです……」

「あらあら?
ひょっとしてヴィクトリアさんは恋をしているのかしら?
恋って良いですわよね。
私も夫と出会って結婚するまでに100年くらいかかりましたけど、修行したり、デートしたり、魔族倒したり、一緒に寝たりして楽しい日々でしたわ。
あと、どうして夫が好きになったのかと言うと、とても可愛い人なんです。
未だに一緒に風呂を入るだけで、顔を真っ赤にして恥ずかしがったりして初々しいんですの」

……イエニーさんの目がキラキラ輝いて眩しいのです。
決して比喩じゃないですよ?
イエニーさんの嬉しいという感情に呼応して、水の精霊さん達が輝いて、イエニーさんの身体が眩しいのです。
あと、100年間も恋愛した末に結婚とか、エルフの恋愛観が凄すぎですよ!?
長すぎです!
私もそれくらい頑張らないと、師匠とゴールインできないという事なんですか!?
とりあえず、話を変えないと惚気をひたすら聞かれそうなのです!

「と、ところで夫さんはどこにいるのですか?
顔を見てみたいのです!」

「夫は法王の所に居ますわ。
最近、魔族の動きが活発化しているから、それを知らせたいらしいですの」

私の師匠と同じくらい偉い人なのですか。
ひょっとしたら、イエニーさん達は師匠の知り合いなのかもしれません。
あとで師匠に色々と聞いてみようと思った訳ですよ、と考える内に、会話の主導権をいつの間にか、イエニーさんに握られている気がしてならないのです。
やっぱり人生経験の差ですかね?
イエニーさんと口論になったら勝つ自信がありません。

「ところでヴィクトリアさん」

「はい?」

「大聖堂で偉い偉い大司祭が説法をするらしいんですの。
ここで出会ったのも何かの縁ですし、よろしかったら私と一緒に聞きませんか?」

「はい、喜んでOKなのです!」

そういえば、私には基礎的な教養が足りてない事を忘れていました。
この世界の神話って、どんな神話なんでしょうかね?
第二次スーパー神魔大戦の事を詳しく知りたいですよ。
あと、思うのですが、法王や大司祭をエルフの皆さんは様づけせずに呼び捨てにするのが普通なんですかね?
凄く無礼な気がするのです。
普通、法 王  猊 下 とか、 法 王 様 って呼びますよね。



中編に続く







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