師匠の健闘虚しく、巨大な門は最後まで壊れる事はありませんでした。
どうやったらこんな頑丈な門を作れるのか不思議なのです。
師匠が無駄な事をしている間に、モウ皇帝の人民に向けた演説はピークへと達し、終わりが近づいています。
広場にいる数百万人の人間達が盛り上がって熱狂してますけど、私の人生はこれで終わりですかね?
「門を開け!
いでよ!魔王エンペラー・ザ・ナイトメア!」
モウ皇帝が門の開閉を命じました。
あ、皇帝を殺せば命令する人が居なくなって、全ての問題を解決できたんじゃないんですかね?
でも、ときは既に遅し。
100mある大きすぎる門がゆっくりと外へと向けて開いたのです。
本来なら、門の中から向こう側にある都市の光景が見れるはずなのですが、 真 っ 暗闇 で し た。
ホラーです。
物理的にありえない事が目の前で起きているのです。
なぜか分かりませんが、身体が恐怖で震えてトイレに行きたい気分です。
さ、寒いっ……!恐怖で身体が寒い……!
確実に私に終焉をもたらす何かが、その真っ暗闇にいる気がするのです!
出来れば、門の上に頭をぶつけて「てへ♫来ちゃった♫」という感じ登場するお茶目な大魔王だったらいいなーと現実逃避しましたが、現実は非情。
震えながら門をじっくり見ていると、真っ暗闇からマントを羽織い、頭そのものが脳味噌な…全長90mくらいの超大型の巨人が出てきました。
普通、脳みそを守るために頭蓋骨とか、皮や肉とかあるはずなんですけど、それが一切ありません。
怖いのです。
ここに居たらひどい目に遭うのです。
死にたくないのです。
逃げたいのです。
元の世界に帰りたいのです。
しかも、脳味噌巨人……エンペラー・ザ・ナイトメア【悪夢の皇帝】の口がゆっくりと動いて喋り始めた途端
『我を呼び出したのは貴様か?』
その声は聞くだけで重厚感たっぷりで、思わず跪きたくなる感覚になりました。
ジャパニーズ土下座したい気分なのです。
そして、悪夢の皇帝が声を向けた相手は、モウ皇帝。
モウ皇帝も恐怖で身体が震えていますが、平静さを保ちながら交渉しようとしています。
さすが大国の指導者。肝が据わってるのですよ。
「ああ!そうだ!
余は人口13億の大コチャイナ帝国を支配するモウ皇帝である!
実は貴殿と、世界征服をするための同盟を申し出たい!
余に協力すれば世界の半分を貴殿に与えよう!」
『貴様ら人間が、我と同盟を結びたいとな?
ふはははははははははは!!!!!!
この世界の人間達はよほど平和ボケしているようだな!
生きるために存在する貴様らと、完全な無に帰るために存在する我らと話し合い?
成立する訳がないだろう!馬鹿め!』
パシュンッ
次の瞬間、モウ皇帝の身体が花火のように破裂して飛び散り、周りにいた側近達も潰れて血と臓器で真っ赤かなのです。
交渉失敗なのですー。
何考えているんですか!交渉失敗したら私と師匠の命が消えちゃうのですよ!
『平和ボケしているようだから、我が教えてやろう。
貴様達は、他者を愛し、他者に優しくしたり優しくしてもらえると嬉しくなる生き物だったな?
子供が苦労の末に成長する姿を見て涙を流して感動し、次の時代を築く新しい命の誕生を尊ぶのだな?』
そうなのです。
一部、そうじゃない人間もいると思いますが、私は師匠に優しくされると嬉しい気分になって、心がポカポカな気分になるのです。
『だが、それが我にはわからぬのだ。
なぜ、男は女を愛する?
なぜ、他者に優しくすると嬉しくなる?
なぜ、子供が成長する姿を見て感動する?
なぜ、新しい命の誕生を尊ぶ?
我 に は そ れ が 全 く 理 解 で き な い』
マジキチですよ。マジキチ。
連続殺人鬼以下のゴミカスなのです。
師匠早く殺しちゃってくださいよ。
あれ?師匠も恐怖でガクガクブルブル震えてる?
やっぱり、私の人生ここで終了ですかね?
『我の喜びは、他者の絶望。
我の感動は、他者の恐怖。
我が愛する者は、明日への希望をへし折った時の感情の迸り。
我が尊ぶものは、完全な無だ』
あ、師匠が私を背中に乗せたまま180度方向転換して場から逃げたのです。
やっぱり勝つのは不可能なのですね。
恐ろしい勢いで悪夢の皇帝から遠ざかっていくの良いですけど、悪夢の皇帝の声は何処まで移動しても聞こえてきて怖いのです。
『矛盾なき完全な世界。
それが無。
我ら魔族の理想の世界だが、貴様らには所詮理解できまい?
世界を滅ぼし、身も滅ぼし、無へ還る心地よさを想像できまい?』
あー、脳味噌が理解を拒む内容ばっかりで辛いのです。
しばらくは悪夢の皇帝の声は聞かない振りをして、師匠との会話を優先した方が良いですよね。
「師匠、逃げるのですか?私も大賛成なのです」
「ああ、そうだよ、ヴィクトリア。
僕は勝率0%の戦はしない主義なのさ。
でも、伝説の大魔王と出会うなんて、僕は運がないね」
「先ほどの悪夢の皇帝を師匠は知っているのですか?」
「ああ、そうだよ。
悪夢の皇帝は……1000年前に神々と100億人の兵隊が死んだ第二次スーパー神魔大戦を引き起こした張本人だ」
なんですと。
どこのスーパーロボット大●みたいな戦争の名称ですか。
ちゃんと学校に通って、この世界の歴史を習っておくべきでしたかね?
第二次スーパー神魔大戦があるという事は、第一次スーパー神魔大戦があるという事なのです。
あと、悪夢の皇帝の声が、直接脳みそに響いて辛いのです。
長いセリフが好きなんですね。この大魔王さん。
師匠の話に集中しているから、大魔王が余計に何を言っているのかさっぱりわからないのです。
「……だが、悪夢の皇帝は1000年前に倒されたはずなんだ。
僕達は過去にタイムスリップしたのかもしれないね、ヴィクトリア。
君と出逢ってから、僕の運がどんどん落ちている気がするよ」
「ハハハ、いやータイムスリップって現実に本当にあるんだなぁと思っただけで、ロマンたっぷりなのですー」
師匠と出会えて私は幸運ですよ?
あと、1000年前に倒された大魔王と聞いて安心したのです。
何処かに隠れて過ごしていれば、平和な時代がやってくるという事ですよ。
『だが、今の我は気分が良い!
貴様達に永遠の命をくれてやろう!
永遠に時を彷徨い!我に絶望と苦痛という最高の供物を捧げる家畜となるがいい!』
ひいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!
後ろからとんでもない気配がするのですうううう!!!!
師匠が飛ぶ速度を上げて、なんとかしているみたいですけど、国中から膨大な数の人間の悲鳴が聞こえて、碌でもない事になっているのは間違いなしです!
チラリと視界に映った人間達の姿は、身体中が水死体のように膨れ上がって、苦しみにのたうち回る姿でした。
これが国中のあちらこちらにあって、生き地獄なのです。
なんで私達は無事なんですかね?
師匠が周りに展開している風の結界のおかげですかね?
師匠、もう結婚して欲しいのです。
あー、この温かい背中だけが、この悪夢の中での唯一の希望ですー。
ますます、師匠の嫁になりたくなってきましたよ。
もしも…もしも、奇跡が起きて無事に生還できたら、私をお嫁さんにしてくれませんかね?
一生懸命、尽くしますよ?
「「「「「「「「「WRIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」
乙女な気分が、肉塊と化した元人間達の大悲鳴で台無しで、ほんと辛いです。
こ の 世 に は 地 獄 が あ る の で す 。
……師匠が国の外を目指して何時間かけて飛んでも飛んでも、未だに国の外が見えません。
いやー、これ空間内が同じ場所に繋がるようにループしてますよ。
国中から悲鳴が聞こえて、そろそろ私も発狂しそうな気分なのです。
未だに大魔王の声が脳みそに直接響いてきつい。
『ははははははは!
お前たちの絶望と苦痛っ!
美味しいぞ!
我はそれを糧にどんどん強くなる!』
私達、どうなってしまうんでしょうね?師匠。
私達も最終的に肉塊になって、生き地獄人生ですかね?
あ、地平線の彼方から太陽が昇ってきました。
太陽は良いですよね。膨大な数の光の精霊さんたちも戻ってきて幸せな気分なのです。
光の精霊さん、愛しているのですよー。
……あれ?気づいたら、国が元の廃墟に戻っていたのです。
肉塊と化した13億人(推測)の人間達の姿や、大魔王の姿や声がありません。
さきほどまでの地獄のような光景が一転して、平和そのものなのです。
「……ふぅ、どうやら僕達は元の世界に帰って来れたようだね。
ヴィクトリアは大丈夫だったかい?」
「師匠の上に乗っているだけでしたから、楽だったのです」
「とりあえず、この気味の悪い廃墟から離れて休憩しよう。
大量の精霊を制御していたから、さすがの僕も疲れたよ」
師匠はそう言うと、遥か遠い場所に見える山の上へと降下し、私を地面にゆっくり降ろしてくれました。
1日中起きていたから眠いですねぇー。
山頂の草原にゴロリと寝転がると疲れた身体が凄く気持ちいいのです。
私にとって光を浴びる行為は、食事とお風呂を同時にやるようなものなので心も身体もゆっくりできます。
師匠も私の隣に寝転がって、気分を落ち着けてました。
10分ほど、この体勢のまま生きている事の素晴らしさを実感していると、師匠が疲れきった顔で
「……ヴィクトリア。
先ほどの光景を僕なりに考察してみたんだが聞きたいかい?
酷い内容だから、聞かなくてもいいよ?」
「知らないままにすると、もっと気分が悪くなりそうなので教えて欲しいのですよ、師匠」
あんな事があったのに、もう現象の考察までやったのですか師匠。
さすが頼れる男なのです。
「恐らく大コチャイナ帝国は、悪夢の皇帝の力で、異空間に封じ込められて同じ日を1000年以上繰り返しているんだ。
栄光の夜と、国民13億人が肉塊になる絶望の夜をね。
僕達はたまたまその空間に紛れ混んでしまったという事さ」
ファンタジーって怖いですよね。
死ぬ事すら許さないなんて酷いのです。
「師匠、どうして悪夢の皇帝はわざわざそんな事をしたのですか?」
「魔族の価値観は生きている人間には全く納得できないものだから、推測でしか言えないが、13億人の人間を家畜を冊で囲う牧場感覚で、あの異世界を作ったんだと僕は思うよ。
大魔王がやる事なだけあってスケールも段違いだけどね」
「13億人の家畜……ですか?」
「ヴィクトリア、魔族は生物の負の感情を糧にする奴らなんだ。
恐怖、絶望、苦痛とかをね。
13億人を永遠に同じ時に閉じ込めれば、永続的に膨大な負のエネルギーを悪夢の皇帝は摂取できて非情に美味しいって事さ」
エネルギー保存の法則を軽く無視している所がファンタジーなのです。
魔族は全員皆殺しにすべきだと思います。
あんな生き地獄空間を永遠に維持するなんて、頭がいかれてますよ。
あの国にいた人達が可哀想、可哀想なのです。
「……あの異空間にいる人達が可哀想なのです、師匠。
悪夢の皇帝は1000年前に倒されたんですよね?
元凶が倒されても、救いがないなんて酷いのですよ。
どうにか彼らを解放できませんかね?」
「ヴィクトリア。
こういう系統の術はね。
術者を倒せば解除されているはずなんだ。
あの異空間を維持するのにも膨大なエネルギーが必要だしね」
「はい?」
「恐らく、悪夢の皇帝は生きている。
13億人の負の感情を毎日のように食べて、こことは違う世界にいるはずだ」
「あの、異世界に悪夢の皇帝がいるという根拠はどこにあるのですか?」
師匠はひと呼吸を置いて、ゆっくりと私の目を見つめて
「簡単だよ、ヴィクトリア。
悪夢の皇帝がこの世界に居たら、とっくの昔に神様が滅亡したこの世界は無に還っているはずだからね。
エルフの精霊使い達を集めれば勝てるかもしれないけど、エルフの数は1000年前の戦争で激減したから、数が回復するには時間がかかるんだ。
エルフは人間と違って、繁殖能力が低いからね」
うーん、大変ですよね、師匠。
あれ?これってたくさん子作りして、子孫を残さないと将来が危ういって事ですかね?
未だに師匠が私に手をだしてこない時点で、エルフは性欲が低すぎる種族なんだなぁと実感してますから、私が頑張らないといけない気がします。
とりあえず師匠と結婚したら、子供はサッカーチームができるくらいの数でいいですかね?
とにもかくにも、あの廃墟には二度と近づかないのです。
悪夢の皇帝とか、13億人の肉塊とか、二度と見たくないのですよ。
……でも、将来的に何とかしないと、安心して落ち着いた生活が出来ないから、悪夢の皇帝は何時か倒さないといけないですよね。
あの13億人の人々を解放しないと可哀想ですし。
二国目
おしまい
テーマ【中国の不動産バブルの王道ファンタジー化 + 裏ボス登場】
800兆円の投資をドブに捨てる中国がしゅごい・・・
http://suliruku.blogspot.jp/2014/12/800.html
一応解説
夜の都市 = 不動産バブルで大儲けしている最中
大魔王 = バブル崩壊 800兆円以上の金が消えた。
昼間の廃墟 = 不動産バブル崩壊後のゴーストタウン
-