勇者とは? 勇気のある者。勇敢な者に対する称号です。
RPGの勇者とは? 国家からひのきの棒を渡されて、魔王を倒しに行けと命令される使い捨て暗殺者です。
勇者召喚とは? 異世界から勇者を召喚するのが昔から続く物語のテンプレなのです。
さんぽ、さんぽ、さんぽ、師匠と手を繋いで散歩するのはいいですねぇー。
好きな人と一緒にいるだけで、私は幸せなのです。
今日の空は太陽を遮るものがない真っ青の晴天で、多くの光の精霊さん達が踊りながらワッショイワッショイ祭りを開催していて、見るだけで和みます。
【光がワッショイ!】【光だ!光だ!ワッショイ!】
【太陽ありがとう!】【恵みじゃー!太陽様のお恵みじゃー!】
遥か彼方にある山脈は、頂上に雪が積もって美しく。
周りには雄大な大自然。
道には人間の骨があちこちに転がり、ほんと楽し……楽しい訳がないです!
なんですか!
これは!
さっきから、道一面に地平線の彼方まで人間の骸骨が落ちていて絶対可笑しいのです。
道に人間の骨が落ちていると、まともに散歩もできません。主に足に刺さる的な意味で。
「やれやれ、これまた可笑しい道だね、ヴィクトリア。
自然葬なのかもしれないけど、交通インフラを台無しにするような埋葬の仕方はやめてほしいね」
「そうなのです。
遺体に対して敬意を持たない国の人たちなのかもしれませんけど、これじゃただの動物ですよ。動物。
遥か昔の原始人達ですら、仲間の死体を弔って悲しみ、色んな道具や食料と一緒に埋葬したのに、これじゃおかしいのです」
「原始人?
なんだいそれは?」
「人間に進化する前の人間だと思ってくれたらいいです」
「時々、ヴィクトリアは訳の分からない事をいうね。
まぁ、魔族も神々も強大な力を持つ存在になろうと進化する生き物だから、人間が進化しても可笑しくはないけどね」
「今はそれよりも、この遺体の方が問題なのです。
これだけ道一面が骸骨だらけだと、足に骨が刺さってしまいますよ」
「そうだね。
なら、こうしよう」
師匠がそう言うと、道の周辺に大量の風の精霊達が集まり始めました。
きっと、何かをするんだろうなーと思って呑気にこの光景を見ていると
ビュッー!
台風かと思うような大きな風が吹き、道を埋め尽くしていた骸骨がバラバラになって周辺の森へと飛んでいったのです。
一部、道に骸骨や、骸骨が身につけていた服などが残ってますけど、これなら足元に注意すれば散歩できそ……あれ?
この遺体の服。
おかしいのです。
その服……安そうなセーターにはローマ字で【MADE IN CHINA(中国製)】と書かれていました。
つまり、地球の中国という国で作られた服という事なんです。
中国共産党という巨大組織が支配して汚職まみれの大国なんですけど……どうして中国の服がここにあるんですかね?
中国製は安い事で有名ですから、その安さで異世界の市場にもジャンジャン商品を売っているのでしょうか?
もしくは……この遺体、地球人の遺体なんじゃ……まぁ、そんな事ないですよね。
ここは異世界。地球人がいるはずないんです。
私みたいな存在は一部の例外のはずですし。
それに、遺体の服装が全部違うんですよね。
戦国時代の武者の鎧を着てたり、ナチスドイツの格好いい軍服、古代の服装、大日本帝国軍の軍服、ローマ帝国の装備、世界中の服装を古今東西関係なく、遺体が着ていて違和感があります。
まるで別々の時代の地球から、この世界に無理やり連れてこられた過去の人達なのです。
白骨死体化した遺体を次々と森へと吹き飛ばして片付けた後、師匠と一緒に一週間ほど道を歩き続けました。
やっぱりある程度進むと、骸骨で埋め尽くされた阿鼻叫喚の道に遭遇しちゃいます。
どうしてこんなに大勢の人々が、ここでお亡くなりになられたのか、私にはさっぱり分からないのです。
彼らが地球の古今東西の色んな服を着ている問題は……きっと、地球の服が流行している国なんだと思います。
「やれやれ……この道の先にある国は、きっと酷い国に違いないよ、ヴィクトリア」
「そうなのです。
こんなにたくさん死体が転がっている時点で、虐殺とかやっているに違いないのです」
「一度、天国へと引き返して別の国に行くかい?
ヴィクトリアが嫌なら、そうしてあげるよ」
「いいえ、師匠。
私に遠慮する必要ないのですよ?
虐殺が起きているなら止めないと駄目なのです」
「ヴィクトリアは良い子だね」
もう片方の手で師匠は私の頭を撫で撫でしてくれました。
少女漫画でいう、はにゃーんな幸せな気持ちになって幸福です……周り骸骨だらけですけど。
道周辺のあちこちに骸骨が転がっているなんて、スプラッタを通り越してホラーですよ。ホラー。
カンボジアの総人口の3分の1を虐殺したポルポト政権でも、こんな酷い大量虐殺できませんよ。
きっと邪悪な魔族が居るに違いないです。
更に道を3日ほど進むと、地雷原と鉄条網で国境線を覆っている場所が見えてきました。
地雷原と鉄条網の所にも、大量の人間の骸骨が落ちていて悲惨です。
地雷原と地雷原との間に、国に入るためのコンクリートで舗装された道が一つあり、そこを緑色の迷彩色をした戦車が道を防ぎ、周りにサブマシンガンを持った軍人さん100人が警備していました。
私達が近づくと、皆、銃を構えて狙いをつけ、引き金を躊躇なく引いて銃を乱射してきましたけど
ヒュンッ
一瞬の間に、師匠が風の精霊魔法で作り出した風の刃で歩兵たちが持っている銃、飛んできた銃弾、戦車の旋回砲塔、鉄条網、地雷源にある全ての地雷、その他諸共が切断され、軍人さんたちが驚きました。
さすが師匠、私だったら皆纏めて殺してしまうような状況でも、一人も殺さずに解決できているのです。
強い男って素敵ですよね。
「やれやれ、いきなり銃を向けて引き金を引くなんて、この国では戦争でもしているのかい?」
軍人たちは腰のホルスターに入っている拳銃を取り出そうとしましたが、それもすぐに風の刃で切断されて真っ二つ。
鉄くずと化して地面に落ちました。
戦場じゃ拳銃なんて気休め程度の兵器って何処かの本で読みましたけど、この軍人さん達は冷静に状況に対処しようと頑張っている様子から、かなり鍛えられた精鋭な気がするのです。
しばらく両者の間に気まずい空気が流れていると、国がある方角から一人の軍人さんが走ってきました。
胸元に勲章をジャラジャラつけているので、きっと偉い軍人さんです。
年齢も50代ほどで頭が禿げていて貫禄があります。
偉い軍人さんは私達の前に来ると、頭を地面につけてジャパニーズ土下座。
「部下が失礼しました!エルフ様!
今日はとっても大切な勇者召喚の日だから、厳重に警備しすぎていたのです!
お願いですから、国土ごと軍隊をドカーンと吹き飛ばすのはやめてください!
お願いです!
私を殺してもいいですからやめてください!
あと、ラッキーというエルフの少女に出会ったら、我が国が反省していると伝えてください!
お願いします!」
確か、ラッキーは師匠のお祖母さんでしたよね。
一体、何をやったのですか。
でも、今はそんな事よりも国の外に無数に落ちてる人間の骸骨の方が問題なのです。
私は偉い軍人さんに聞いてみることにしました。
「あの、軍人さん。
国の外に転がる遺体はなんなのですか?
嘘をつかずに正直に話して欲しいのです」
「え?あの外の遺体ですか?
あれは勇者達の死体ですが何か?」
「勇者?よく分からないので細かく説明して欲しいのです。
そしたら、許してあげるのですよ?」
「分かりました!エルフ様!」
ガバァーと勢いよく偉い軍人さんは土下座をやめて立ち上がり、爽やかな笑顔になりました。
この人にとってエルフは恐怖の対象なようですけど、私の許して上げる発言を聞いて恐怖が吹き飛んだようです。
それにしても、身長が高いです。明らかに2mくらい背丈ありますよ。
「話すと長くなるのですが、我が国には大昔の大預言者様が残した預言があるんです、エルフ様。
その預言によると、勇者が異世界から現れ、その者、全ての精霊を従えて大魔王【悪夢の皇帝】を倒し、世界を救う救世主となるであろう……と記されています」
「なるほど、勇者とはそういう意味だったのですね」
「そこで我が国は考えたのです。
異世界から大量の人間を召喚して、勇者として魔王討伐の旅に行かせて預言を成就させればいいと!
そうすれば我が国は世界を救った国という偉大な功績を手に入れ、後の世にやってくる平和な世界でリーダーとして主導権を握り全ての国々を導く存在になれると確信したのです!」
「ふぇっ?」
なんか、話が可笑しくなってきました。偉い軍人さんはこの事を喋れる事が嬉しいのか大喜びで語るのをやめようとしません。
「異世界から人間を大量召喚する装置の開発に、我が国の国家予算の半分が常に投じられて、完成に600年の歳月を費やしました。
おかげで皆、貧乏。王様も貧乏。働いても働いても生活が楽にならなくて大変でした。
151回に及ぶ財政破綻を経験する嵌めになり、その度に身体を異国人に売ったり子供を売ったり国宝を売ったり薬を売ったりして金を稼ぐために皆が苦労したのです。
おかげで周りの国々との外交関係は最悪で、いつも馬鹿にされて悔しい思いをしてきました。
でも、世界を救うという大義の元、国民達は力を合わせ、100万人単位での大規模召喚が可能な装置が10年前に完成したのです!」
「あの、ひょっとして外の骸骨の山は異世界人?」
「ええ、そうです。
10年前に100万人召喚した勇者の成れの果てです」
「異世界人は勇者という仕事を自分から受け入れたのですか?」
「いいえ、神々が作り上げた世界共通語すら知らない野蛮人だったので、武力を持って国の外へと追い出し、一部の異世界人を我が国の財政を潤すために労働用奴隷として他国に出荷しました。野蛮人……いえ、この表現だと失礼ですね。
経緯はともかく勇者達を強制的に魔王討伐の旅に出したのです」
「武力で追い出した?」
「はい、我々が銃を構えて撃って手始めに数千人を殺すと、勇者達は逃げるように国を旅立ち、魔王討伐の旅に出ました。
その時、逃げ遅れた子供の勇者達を捕まえて縄で縛り、他国に出荷したのです。
奴隷市場では若い人間の子供は、扱いやすいという事で高く売れますからね。
まぁ、世界共通語すら知らない野蛮人でしたから、相場の4分の1の値段になったのが残念です」
「言葉も通じないのに、どうして勇者達が魔王討伐の旅に出たと分かるのです?」
「勇者とは魔王を倒す者と決まっています。
今頃、魔王を倒すために自発的に世界各地を旅して仲間を集めて、魔族と戦っているに違いありません」
「あの、外で勇者がほとんど野垂れ死にしてますよ?」
「死んだなら、それは預言に記された勇者じゃなかったのでしょう。
世界的には何の問題もありません。
それに、世界共通語すら知らない野蛮人ですよ?
生きていても仕方ないじゃないですか。
人間として基本的な基礎教養すらない人間を、我が国では人間と認めていません」
もうやだ、この国。
地球の人たちを無理やり100万人召喚して、銃で虐殺して国から追い出すなんて鬼畜です!鬼畜!
食料も持たずに旅なんかしたら、ほとんど野垂れ死になって当たり前なのです!
この人たちは何を考えているのですか!
異世界人だから、この世界の言語なんて知らなくて当たり前なのですー!
後編に続く
テーマ@【本編最大のネタバレ回】
テーマA【小説家になろう】 異世界を救うために勇者が地球から召喚されるのがテンプレ
http://suliruku.blogspot.jp/2015/01/blog-post_17.html
あとがき
(´・ω・`)匿名さんのアイデアから作った架空国家でそうろう。
●10年に一度勇者召喚をやる国 召喚する数は地球から無差別に100万人
↓
●ひのきの棒と銅貨10枚渡して、国の外へと追放 魔王倒しにいけ
↓
●100万人、あちこちでのたれ死に。ほぼ全滅。一年以内に国内から退去しない奴は軍隊が駆除する。
↓
●よぉーし今年は勇者召喚やるぞぉー
ヴィクトリア「えい」
どかーん
おしまい
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