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7国目 レベルとステータスの国【地獄】 その4  
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アリューカと僕は、処刑所と呼ばれている場所へと、死の魔王の土の精霊魔法で瞬間移動していた。
移動した先には長さ50mの正方形で窓がない白い建物と、その隣に無数の名前が刻まれた石柱がある。
地上から遥か天井の岸壁にまで届く巨大な石柱だ。位置的に考えてこれは明らかに墓。そこに刻まれた膨大な数の名前は処刑所で死んだ人間達の名前だと理解した。
周りを10人ほどの青い服を着た人間達が銃を持って警備しているが、光学迷彩を展開した僕たちの姿が見えてないから、僕らは彼らの隣を素通りし、正方形の建物へと向かって歩く。
可笑しい。あまりにも警備がザルすぎる。

「……アリューカ。
なぜこんなに警備が手薄なんだい?
ここは君達にとって、負の感情が美味しくて大事な施設じゃないのかい?」

「いえ、そんなに大事な施設じゃないですよ。
少数の死刑囚が出す負の感情よりも、大多数の国民の負の感情の方が圧倒的に量が多いですからね。
ここは、人神が大金を払って普段より遥かに美味しい負の感情を食べたり、凶悪犯罪者になったら酷い末路が待っているんだぞーと、道徳教育という名目で国民に見学させて社会の治安を維持する事を兼ねているだけで重要施設じゃないです。
むしろ警備員が多すぎるくらいですけど、国が雇用を作らないといけないのでわざわざ多めに雇ってるんですよ」

「僕は思うんだが……実際に処刑所で酷い事をしなくてもいいんじゃないか?
見せしめが目的なら、嘘の動画やらを作って国民に見せればいいだろう?」

僕がそう言うと、アリューカが顔を横に振って

「いいえ、駄目ですよ、師匠。
統治者は冷徹にならないといけない事が多いんです。
実際に凶悪犯罪者達を酷い目に合わせるからこそ、犯罪に対しての抑止力となりえて、国民は私を畏怖 するとともに信頼してくれるんです。
もしも私が最高指導者としての誓いを破って酷い目に合わせず、苦しまない方法で凶悪犯罪者を処刑していると知られたら、人神も人間も私には従いませんよ。
魔族と違って、人神は上からの命令に絶対服従という訳ではありませんし」

「国の統治とは、そういうものなのかい?」

「国の環境次第でしょうけど国民を甘やかすだけの優しい王様じゃ駄目です。
時には武力で弾圧する事も必要なんですよ。
国民に対する飴と鞭のバランスが肝心なんです」

「飴と鞭?
初めて聞く言葉だね?どういう意味なんだい?
さっきから質問ばっかりですまないね」

「あ、意味がわかりませんでしたか?
飴は譲歩、鞭は弾圧という意味です。元々は異世界の鉄血宰相ビスマルクの政策を評した言葉だったようですから、師匠が知らないのも無理ないですね。
あと、この国での飴と鞭の内容を説明しますけど、この国ではLvが高い人間であればあるほど優遇され、努力しない人間・無能な人間・社会貢献しない人間・犯罪者・体制への反逆者には厳しく対処する事で成り立っているんです。
これがいわゆる飴と鞭です」

「……なるほど、今、疑問に思ったんだが、この国では人間の主婦はどのような扱いになってるのかな?
こう言ってはなんだが、人間の女性は妊娠して働く事に支障が出る生き物だろう?
社会貢献や能力だけで判断してしまうと、女性は不利になってしまって酷い扱いを受けないのかい?」

「妊娠して次の世代を育てる事は、この国では立派な社会貢献です。子育てや家庭内の仕事も頑張れ頑張るほど社会貢献をしたと見なされて、母親のLvも上がるから大丈夫ですよ、師匠。
まぁ、子育てに失敗して子供を凶悪犯罪者にしたり、子供を虐待して殺してしまうなどの場合はLvを大きく下げる措置か、もしくは処刑所行きですけどね」

「なるほど、処刑所の所はともかく、制度としてバランスが整っているんだと理解したよ」

やれやれ、アリューカは200年の間に立派な指導者とやらになったようだ。
その結果が、この施設の中の地獄か。
光学迷彩を展開したまま、玄関の鋼鉄の扉をアリューカが開き、中に入ると……そこは1階丸ごと壁がない吹き抜け構造の暗いフロアだった。
100人くらいの人間が裸になって透明な柩の中で眠っていて、どれもこれも体がボロボロ。
中には10歳くらいの小さな子供がいるが、その皮膚は老人としか思えないほどにカサカサに荒れていて、顔は絶望と苦痛で歪んでいた。
この人間達からおぞましいくらいに負の感情が大量に生産され、今すぐ全ての柩を壊したい衝動に僕は駆られている。

「師匠、ここが処刑所です。
死刑囚はあの柩の中で、延々と悪夢を死ぬまで見せられて、その果てに脳味噌が死んだら法的には罪を償ったという事になって、外にあるお墓に名前を残す権利が国からプレゼントされます。
でも、その権利が与えられる時点で死刑囚は死んでますから、本人に了解取らずにお墓に名前を刻み込む事になるんですけどね」

「……聞くけど、どんな夢を彼らは見せられているんだい?」

「うーん、そうですねー。
残念ながら彼らがどんな夢を見ているのか、ここからは詳細を把握できませんけど、大雑把に分けて4種類ですよ。
一つ目、死刑囚が性犯罪者の場合は、夢の中で男も女も関係なく小さい女の子になって、ひたすら色んなモンスター達に体を食べられながら穴という穴を犯されて、何度も何度も何度も苦痛と絶叫を叫びながら、化物の子供を産み続ける夢を死ぬまで、ずーと繰り返す夢です。
いやー、怖いですよね。これ人間達が考案した内容の悪夢なんですけど、時々、人間の事が怖くなる時がありますよ。ほんと。
一度、その映像を見せられましたけど、愛が全くないエッチって最悪ですよね」

やれやれ、なんて酷い悪夢を作ったんだ。
ヴィクトリアが聞いたら、泣き出すかもしれないね。ここに連れてこなくて正解だったよ。
彼女はまだ13歳の若い女の子だしね。

「話がちょっと逸れましたね。
二つ目の悪夢は、罪が比較的軽い死刑囚に見せる悪夢です。何もない真っ白な空間で発狂する事すらできずに死ぬまで、ずーと一人ボッチの夢。
世間では、ある意味、どの刑よりも最低最悪な悪夢と言われてます」

「僕にはよく分からないんだが、何もない空間で1人ボッチがそんなに辛いのかい?」

「師匠みたいなエルフは、常に周りに精霊がいるから分からないでしょうけど、新鮮な刺激が全くない孤独って人間には辛いんですよ?
人間、暇すぎると死んじゃうんです。
友達が少ない人間は、寿命が短くなるって統計に証明されちゃうほどに、孤独は人間を狂わせて死に至らせる毒なんですよ」

「な、なるほど、よくわかったよ」

「そして三つ目の悪夢は、死刑囚が大量殺人犯の場合に見せる夢です。夢の中で色んなモンスター達に拷問されまくって殺されまくる夢を死ぬまでずーと繰り返すだけの単調な夢です。
これが悪夢の中で一番苦痛が少ない夢と批判されちゃって、人間達がアイデアを出し合って新しい悪夢を考案中なんです。
色んなアイデアを見せられますけど、時々、人間が魔族以下のゴミカスに見えてきて不思議なんですよね。
あ、今のはジョークです、ブラックジョーク。
私は人間を愛してますから、ゴミカスなんて全く思ってないですよ?」

アリューカがこんな事を話しながらも、とても楽しそうだった。
人の不幸を笑っている。
僕は悲しいよ。こうやって平和的に出会えた事は、奇跡に等しい幸運なのだろうけど、種族の違いはやっぱり大きいね、アリューカ。
やっぱり嫁にするなら、同じエルフの女性だと理解したよ。

「そして、最後の悪夢なんですけど。これは国家に反逆した大罪人達に見せる夢です。
国家そのものに歯向かった訳ですから、最も最低最悪な悪夢を死ぬまで体験する事になります」

「……聞くのが怖いけど、どんな夢なんだい?」

「死ぬまで夢の中で飢えに苦しむ悪夢です。
何か食べたいのに、人間でも糞でも良いから、お腹の中に入れたいのに、なーにもない空間で死ぬまで飢えに苦しむんです。
脳みそに負担がかかりすぎるせいで、この悪夢を見続けた人間は一ヶ月も経たずに脳みそがストレスで壊れて死んじゃうから凄いんですよ。
まぁ、苦しむ期間が他の悪夢よりも短くて済みますから、この悪夢が個人的には一番オススメです。
負の感情も絶品ですし、国としても次々と死刑囚を処理できて合理的です」

「……君は変わったね、アリューカ。
人の負の感情はそんなに美味しいものかい?
昔の君なら、決してこんな酷い事はしなかったと僕は思うよ」

「悪い事をした人間にはちゃんと処罰するのは国としての基本だから仕方ないんです。
それに負の感情を食べる感覚は人神や魔族にならないと分からない感覚ですから、説明するのが難しいですよ、師匠。
なんて言えばいいんですかね?
精霊魔法使いが精霊からエネルギーを貰う時の快感とは比べ物にならないほどの美味しい味とパワーが溢れるんですよね、負の感情を食べると。
でも、これでも理性を持って本能を抑えてるんですよ?
罪はない民草には人生を全うできるように生活環境を作ってますし、この国はとっても平和で良い国なんです。
そんな良い国でも、死刑囚になる悪い悪い人間が出ますけど、これはしかたない事なんですよ。
どんな国でも落ちこぼれや犯罪者はいるんです。
あ、神様の自称天国(笑)には犯罪者居ませんでしたね」

僕は何も言えなかった。
確かに、この怪物はアリューカだ。
人に優しくあろうとする健気な人間の女の子だった頃を一部残すアリューカだ。
僕と君は完全に道を違えてしまって、二度と重なる事はないだろうけど、アリューカ。
君は気づいているだろうか?
君がさっきから人間を見る目は……人間が家畜を見るのと同じ目だって。
ほんと、現実は残念な事ばっかりだ。
……でも、僕の方はどうだろう?
たまに人間を魔族と同程度の輩だと思う事がある。
1000年前に悪夢の皇帝を召喚したのも人間、モンスターを作って世界を戦乱だらけにしたのも人間。
風龍王が惑星ごと人類を粛清しようとしたのは、神々も人間に対して絶望したからなのかもしれない。












……アリューカと僕が国中を見回っている内に、15時間の時が流れていた。
人工の太陽は既に消え、地上の街が出す光と、炎の精霊だけが周りを照らしていた。
僕は迷子になっている弟と合流し、アリューカとの最後の別れが刻々と近づいている。
このまま時間が経過すると、風の精霊が完全に居ない宇宙空間に、この巨大移民船団が移動してしまうから、ここを出ないといけない。
僕と向かい合ってるアリューカは最後まで笑顔を崩さない……という事はなかった。
彼女の目から涙がポロポロ出ている。
どうやら、負の感情を食べるようになっても悲しいという感情があるようだ。

「……私の大好きな大好きな師匠、これでお別れですね。
どうです?私は良い女に育ちましたかね?
私の事、嫌いになっちゃいましたか?」

「いや、アリューカ。君と再開できて良かったよ。
色々と価値観の違いはあっても、幸せになってくれて良かったよ」

「本当に?」

「ああ、本当さ。
だって、僕は君の師匠だからね」

「じゃ、私がここに残って欲しいと言ったら、師匠はここに残ってくれます?」

「いや、魅力的な提案だけど、それは出来ないよ。
地上には可愛い弟子を待たせているんだ。
彼女を立派な精霊魔法使いになるまで育てる義務が僕にあ」

僕が次の言葉を発する前に、アリューカが顔を近づけて、口と口をそっと合わせてキスをしてきた。
隣に居た弟がこの光景を見て驚いている。
30秒ほどそのまま唇を合わせていると、アリューカの方から口を離して、小悪魔的な可愛らしい笑顔を浮かべて、口元を恥ずかしそうに両手で抑えながら

「これは200年前に私を振った師匠への復讐のキスです。
師匠ってファーストキスまだでしたっけ?」

「……ああ、これがファーストキスという事になるね。
キスは塩っぽい味がするんだと初めて知ったよ」

「なら、私の事を時折思い出して貰えますよね?
師匠の初めてを奪った女になれて、私は幸せ者ですよ。
これから師匠がどんな女性を好きになっても、師匠は中古のヘッポコエルフなんです」

「やれやれ、中古男には価値がないと言いたいようだね?」

「女は相手を独占したがる生き物なんですよ?
師匠のファーストキスを私が奪ったから、きっと師匠の事を好きになった女性はその事を悔しがるに違いないんです。
どうです?私の事が嫌いになりましたか?
今の私は幸せですよ」

女性の考えている事は、僕には分からない。
だけど、アリューカ。
君がとってもお茶目な一面を残したままなのが、君にとっての最後の救いになるのかもしれない。
僕の手で君を幸せにする事は出来なかったけど、君の幸運をこの惑星で祈っているよ。



おしまい




テーマ@【レベルとステータスが表示される世界は、なろう小説のテンプレ】
http://suliruku.blogspot.jp/2014/12/blog-post_28.html 

テーマA【隕石落としはロマン。妾が管理してない人間は全員しんじゃえー by 風龍王】

テーマB【人間には権利を、人間じゃなくなった元人間には本当の地獄を。  by 闇の魔王の国家樹立宣言】

テーマC【現実の宗教の地獄よりも遥かにマシな地獄】

テーマD【ドラクエ5のこれが元ネタのなんだけど、プロットを何度も何度も作り直して他のプロットと合体させちゃったから、元ネタの片鱗が残らなかった】

ドクラエXのリュカの人生が悲惨すぎるから、これはもうこれをネタに小説にするしかない。
http://suliruku.blogspot.jp/2014/12/blog-post_50.html
グランバニア人民「「「意味のない橋を作る税金の無駄使いはやめろ!」」」(DQ5)
http://suliruku.blogspot.jp/2014/12/5-dq5.html

 

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