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7国目 レベルとステータスの国【地獄】 その2  
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僕とマリウスは、迂闊に地獄で破壊活動をする訳にも行かなくなったので、地上の街を空から見下ろしながら困っていた。
ここはすんなり地上に戻るべきだろうか?
そう思って悩んでいると、大空を飛んでくる強大な魔の気配が一つ、尋常じゃない速度でこちらに近づいている事を風の精霊達が教えてくれた。
これは明らかに魔王級の魔族だ。まともに戦えば、まず僕達に勝ち目はない。
勝てるとしたら先手を打って、大量に炎の精霊と風の精霊を集めての火炎放射攻撃くらいしかないだろうが、この宇宙要塞に等しい岩は魔王の力で浮いていると僕は考察している。
ここで魔王……アリューカを倒せば、この大質量が落下して地上はおしまいだ。
どうすればいい?!
イエニーとヴィクトリアは風龍王の天国に居るから無事だろうが、それ以外のエルフ達は……故郷に居れば大丈夫だが、故郷の外にいるエルフはほとんど死ぬ事になる。
僕にはそんな決断はできない。
なら、地獄から逃げよう。そう思って反転すると、後ろから魔王アリューカが瞬間移動に近い速度で飛んできて抱きついて来た。あ、その衝撃で背中に居たマリウスが地上へと落ちたが、まぁいいだろう。
風の精霊達に空気で落下速度を減速するようにお願いしたし、マリウスもあれで超一流の炎の精霊魔法使いだ。高所から落下する程度のハプニングには対処できる……はず。
今はそれよりも、僕に抱きついている魔王の方が問題だ。

「師匠ー!お久しぶりですー!」

その魔王の姿は、人間だった頃のアリューカが20歳くらいに成長した感じに美しく優しく育っていて、真っ赤なストーレトヘアー、紅い眼、人間の女性らしい大きな大きな胸、全身を包み込む紅い法衣……外見はまるで人間そのもの。
僕の可愛い可愛い女弟子アリューカが、純粋に真っ直ぐ育ったとしか思えない。
その身から魔の気配がするが、本人から伝わってくる雰囲気は穏やかだった。

「あ、アリューカ?
本当に君はアリューカなのかい?」

「師匠?
久しぶりだから私の顔を忘れました?
あなたの一番弟子アリューカです!
ちょっと魔族食べて、人間やめちゃいましたけど」

「あ、ああ、やっぱり魔族になったんだね。
その割には、人間の頃と変わらないような…………魔族らしい世界滅亡願望とか、完全な無が素晴らしいとかいう価値観をひょっとして持ってるかい?」

僕がそう言うと、アリューカは抱きついたまま可愛らしい笑顔を崩さずに、爽やかな声で返答してきた。

「いいえ。
私には世界を滅亡させる願望なんてないですよ?
炎の精霊さん達使って、魂に寄生していた魔族をボコボコにして、私の一部にしてあげたんです。
生物が出す負の感情を食べて美味しいと感じる身体にはなりましたけど、私がなんにもしなくても、そこらへんに負の感情が転がってますから、朝晩美味しく食べてます」

「そ、そうかい、アリューカ。
君と会話していると、僕の中の魔族という概念が壊れそうだよ」

「あと師匠。
ここでは私みたいな存在を人神と呼びます、魔族と呼ぶと差別扱いされるので気をつけて下さい。
私の配下の人神も、世界を滅亡させる願望がない良い子ばっかりです。
だって」

アリューカは一呼吸置いてから

「人間が魂を食べられて魔族になったんじゃなくて、人間が逆に魔族を食べて自分の一部にしたから、人間の良い部分と魔族の良い部分が上手く噛み合って、世界滅亡願望なんて最初から持ってないんですよ。
持っているとしたら、人間の頃からそういう事を望む変人さんだけだと思います」

ほんと、今日は驚くことばっかりだ。
こんなにも平和的な魔族に出会えるなんてね。
でも、僕は嬉しいよ。アリューカ。
君は人間ではなくなったけど、幸せになったんだね。

「それよりも、師匠、先ほど、エルフの女の子を落としましたけど、気にしないんですか?
とっても可愛い金髪の女の子でしたよね?
ひょっとして…… 師 匠 の お 嫁 さ ん で す か ?」

一瞬、アリューカの言動に殺気を感じた。
やはり200年前に振った事を強く根に持っているようだ。
僕も初恋に失敗した時、失恋のショックで10年間空に引き篭ったのだから、恐らく、アリューカも似たような経験をしたのだろう。

「大丈夫さ、アリューカ。
風の精霊達に確認してもらったけど、五体満足さ。
あと、あの子は僕の弟のマリウス。
可愛い事は認めるけど女の子ではないんだ」

「え?男?
あんなに可愛いのに?
今時、流行のボーイッシュな娘でしたよね?」

「ああ見えても、イエニーという可愛い嫁さんがいる立派な男だよ。
弟は女の子扱いされるのが嫌でね、出来れば本人の目の前ではそれを言わないでほしい」

「へー、あんなに若くて可愛いのに結婚しているんですか。
……ところで師匠は結婚なされたので?」

「残念ながら僕は女運が悪くて、未だに華の独身さ」

「なら、私と結婚しませんか?
実は私も独身なんです。
ちょうどいいですよね?今なら私も寿命がありませんから、師匠と一生付き合えますよ?
私が何度も何度も猛烈にアタックしたのに師匠が振ったのは……私が人間だったからですよね?」

アリューカが熱っぽい眼で僕をじーと見つめてきた。
僕はこのプロポーズをどう返せばいい?
ここで【うん】と答えるべきか?
今ならお互いに寿命で老いて死ぬという悲劇はない。
子孫を残せるかどうかは分からないが、僕は女性らしく豊満に育ったアリューカに昔から好意を抱いている。
それに200年間も僕の事を思ってくれた女性の想いに答えないのは失礼じゃないか?
なら、その想いに答えるためにも、アリューカと結婚した方が良いに決ま……アリューカが口を抑えて笑いを堪えていた。
どうやら、さっきのセリフは冗談のようだ。 

「あははははは!
冗談ですよ!師匠!
実は私、100年前に結婚したんです!
私みたいな良い女が独身な訳ないでしょ?はい!残念でしたー!
どうです?師匠、私が結婚していて悲しくなりました?」

「……ああ、そうか。
結婚したのか。
そうだね、君みたいな素晴らしい女性を放っておく男がいるはずなかったね、うん。
ところでどんな人と結婚したんだい?」

「世間で死の魔王とかの怖い異名で呼ばれている聖帝ルッシーちゃんです。
とってもかわいい女の子なんですよ」

「……今、なんて?」

「?
ルッシーちゃんはとってもかわいい女の子なんですよ?」

「いや、同性結婚したことにも驚いたけど、その前のセリフ」

「死の魔王っていうセンスのない異名の事ですか?」

「ああ、もしかすると現代の五大魔王の一人の事かい?
その娘も人神なのかな?」

「ええ、聖帝ルッシーちゃんも人の意識を大きく残したままの人神ですよ。
元々は私の弟子でしたんですけど、人神になる方法を教えたら、その日のうちに魔族をボコボコにして食べて人神になってました」

やれやれ、現代の五大魔王の内、2人がこんなにも平和的な魔王だなんて、とんだ喜劇だ。
今日は驚くことばっかりで頭がパンクしそうだ。
あとはまぁ、なんだろうね。
アリューカの頭の上にある【アリューカ Lv99999999999999999999999999999999999999999999999】の文字は何の意味があるのだろうか?
この国の人間達の頭上にも表示されているし、不思議だ。

「ところでアリューカ。
君の上にある数字はなんだい?」

「あ?この数字ですか?
これは私の国の機械が、人や人神の社会貢献度、財力、魅力、賢さ、知識、力、体力などを計算して、それを総合した数字を頭の上に表示しているんです。
Lv(レベル)が高ければ高いほど、偉くて凄い人だって思ってくれたら簡単ですよ」

「Lv99999999999999999999999999999999999999999999999って表示されてるけど、それはどれくらい凄い数字なんだい?
僕が見た所、人間達の数値は大抵が二桁だから、きっと凄いんだろうね」

「一般人から見たら、神様に等しい数字ですよ、師匠。
なにせ、私はこの国を建国して、巨大移民船団計画もやっている最高指導者ですからね。
社会貢献度で私に並び立つものは、誰も居ません。
どうです?私を200年前に振った事を後悔しました?
こんな良い女を振って、師匠はほんと、残念な人ですよねー」

アリューカは相変わらず無邪気な笑顔を浮かべたまま、僕を抱きしめている。
きっと、多少、変な所があっても、彼女が作ったんだからここは良い国なんだろう。
ん?巨大移民船団?

「アリューカ。今、気になる事を聞いたんだが、巨大移民船団計画とはなんだい?」

「巨大移民船団計画は、この争いだらけの惑星から脱出して、新天地を求めて宇宙へと進出する大事業ですよ、師匠。
今、この国は宇宙空間へと向けてゆっくり進行中なんです」

「この小惑星をどうやって空に飛ばしているんだい?
今の科学力じゃ、この大質量を空中に浮かばせる事すら不可能なはずだろう?
なにせこの惑星は、質量(地球318個分)がとっても大きいからね」

「聖帝ルッシーちゃんが土の精霊魔法を使って、反重力を生み出して国ごと浮いているんです。
更に炎の精霊達を使った巨大ブースターで、今は惑星の重力の井戸から抜け出すために移動中なんですよ。
あと48時間ほどで完全に重力の井戸から抜け出して、遠い遠い所へと行く予定なんです。
でも、なぜか神様達が攻撃してきてうざったいんですよね。
私達が何度も何度も私達は魔族じゃなくて、人神という新しい種族です!ってアピールしても無視して攻撃してきましたし、ほんと嫌な気分になりますよ」

なるほど、神々はこの巨大移民船団計画を知って、惑星上にいる全生物を死滅させる計画を考えたという訳か。
それにしても、アリューカ。
僕を信用するのは構わないが、国家機密に等しい内容をペラペラしゃべって大丈夫なのだろうか?
もしも僕が殺意をもって、国を浮かす事に熱中している聖帝ルッシー(死の魔王)や君を殺したら、君達の幸福は完全に崩壊してしまうのだよ?
…………いや、さっきからアリューカが僕に抱きついたまま会話しているのは、そうなった時、僕をすぐに殺すためか。
結構、しっかりしているじゃないか、アリューカ。
さっきから強く押し付けてくる胸もHカップぐらいありそうで凄い弾力だ。人間の女の子はエルフと違って、胸が大きくなりすぎるから、日常生活が大変そうだと僕は思うよ。

「でも、私って幸運ですよね?
惑星を去る前に、大好きな師匠と再び会えるなんて素敵だと思います。
どうです?
私の作った国を一日観光しませんか?
この国を去るのはそれからでいいでしょ?
ね?ね?ね?ね?」

「あ、ああ、わかったよ。
アリューカ。
師匠としても君がどんな素敵な国を作ったのか知りたいからね」

「やったー!」

後に、僕は な ん で こ ん な 事 を 言 っ て し ま っ た ん だ ろ う と後悔した。
ここですんなりと別れたら、可愛いアリューカとの思い出はいつまでもいつまでも完全無欠と言ってもいいくらいに美しい代物になるはずだったのに。
あとでアリューカと結婚していたら、どのような爽やかな日々を送っていたんだろうなーと、妄想できたはずなのに、僕は最悪の選択をしてしまったのだ。
一見、普通な……とても良い国だと思ってしまったせいで、判断を見誤ってしまった。
今のアリューカが負の感情を食べる化物だという残酷な事実を、僕は懐かしい会話をしている最中にうっかり忘れてしまったのだ。



その3に続く(4話構成)





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テーマA【隕石落としはロマン。妾が管理してない人間は全員しんじゃえー by 風龍王】




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