この何処まで雄大な大空が続く夢の世界では、私は自由に空を飛ぶ事ができました。
思うだけで何処まで何処までも飛んで行けます。
幻想的な島々が無数に浮かぶ環境なので、とても気分爽快……じゃないですね。
いつも周りに漂っているはずの光の精霊さん達が居ないのです。
精霊さんが居る世界の方が幸福です。
この世界は、私から見たら不完全な理想郷だと思う訳です。
「風龍王様。
精霊さんが居ないから、寂しいのです。
現実の方が私的には幸せです」
【ここは人間用に用意した世界。
普段から精霊に愛されて幸せなエルフのお主には少し辛いだろうが我慢せよ】
「……わかったのです」
【それにそんな事よりも、人間達の夢を見る方が大事であろう?】
その声とともに、私の体は引き摺られるように1つの島へと向けて落下しました。
ひいえええええええええええええええ!!!!
死んじゃいます!
これ落下速度が早すぎて、落下死しちゃいます!
じ、地面がどんどん超高速で迫ってきて怖いのです!
師匠!あなたのお嫁さんになる前に死んですいませ…………あれ?痛くない?
【夢の世界だから、どんな高い場所から落ちても死ぬ事も苦しむ事もない。
ここは全ての苦痛から開放された楽園だ。
そんなに焦るな】
時速1000kmくらいの速度で地面にぶつかりましたけど、何の衝撃もありませんでした。
さすが夢の世界、現実の物理法則が全く働いていません。
立ち上がって、周りを見ると一人のやせ細った男が、露出がやたら多くて若い女性に囲まれて幸せそうにしてました。
常に笑みを浮かべてニタニタしながら、周りの女性のお尻や胸に触れて幸福そうなのです。
これが男の幸せって奴なんですかね?
なんか嫌だなぁ。
「苦しゅうない!苦しゅうない!天国は本当になんて素晴らしい場所なんだ!
今夜も全員を抱いてやるぞ!ガハハハハハ!」
「きゃぁー!ゴミーシュ様!」「抱いて!テンプレ式説教をしてー!」
「あなたの笑顔を見るだけで惚れたわ!抱いて!」「出会った頃から大好き!」
「さすがお兄様です!」「さすが御祖父様です!」
周りの女性は、どう見ても不自然としか思えないくらいに、男性を賞賛していて不気味です。
なにこれ怖い。
こんなものを見続けたら、私、人間の男限定の男性恐怖症になりそうです。
【これが男達の一般的な願い、ハーレム願望という奴だ。
男は本能から大勢の若い女を抱いて子孫を残したいと思って行動している生き物だからな。
これは男にとって理想郷の一つなのだ】
「はぁ、そうなのですか」
【夢ならば、ほぼコスト0で男は手軽に幸せになれるのだ。
現実のハーレムは、女達による醜い争いがあり維持費も莫大になる修羅場だが、この世界ならば完璧なハーレムを作り上げる事が出来る。
ここなら不幸な女性や産まれてくる不幸な子供が一人もいない。
この男はこの夢の世界でしか幸福になれないのだ】
確かに女性に囲まれた男の顔は幸せそのものなのです。
でも、私から見たら、そんな幸せは虚しいですよ。
だって、世界も周りにいる女性も虚構だと知っているから、真実の愛がそこにはないのです。
それに、私は純愛派だから、こういうハーレムは大嫌いなのですよ。
恋愛は純愛に限るのです。
私にとってこの男の願望は、軽蔑するしかない愚かな願いでした。
「ガハハハハハハハハ!!
天国最高!風龍王様最高!これが永遠に続くなんて素晴らしいぞ!おい!
おい!そこの褐色肌の良いロリ!
今日の夜はお前を抱くぞ!
腰が抜けるほどに気持ちいい事をしてやるからな!
ガハハハハハハハ!!!!」
女性を己の快楽を満たすためだけの道具としか思っていない。
人間ってここまでどうしようもない生き物でしたっけ?
次に神様に移動させられてやってきた島は、豪華で大きな馬車の周りで、金色の鎧と兜で武装した1人の男が剣一つで次々と山賊風の悪い奴らを切り殺している世界でした。
なんですか。これ。
時代劇のファンタジー化?殺伐としすぎなのです。
ここは猟奇殺人者の理想郷ですかね?
【ここは思う存分、無双して女達からモテモテになりたいと願う男の世界。
次々と悪い奴らから女を救っては嫁にして、既に嫁の数は1000人を突破している。
人間の欲は尽きる事がない。
ゆえに夢の世界でしか奴らは幸せになれないのだ】
「ふははははははは!
我は英雄王ギルガメスなり!
全ての女は俺のもの!貴様らのような悪党には1人足りとて渡さぬわぁー!
風龍王様に土下座して天国を手に入れた我の5000年の歴史を舐めるなぁー!」
「ひいいいいいいいい!!!!!あなたが英雄王ギルガメスだとっ!?」
「ええい!構うもんか!殺せ!殺せ!」「我らあってのギルガメス様であろうが!」
「ギルガメスの名を騙る不届きものめー!」
悪い奴らがそうやってテンプレのようなセリフを吐いた後、ギルガメスと名乗る青年は、次々と悪い奴らを斬り殺し、3分も経過する頃には悪い奴らは死体になって地面に転がっていました。
そして、豪華な馬車の扉が開くと、そこから金髪碧眼の可愛らしいドレスを着た10代前半の少女が出てきて、ギルガメスに抱き着いて
「素敵!英雄王様!私をお嫁さんにしてください!」
「ふははははははは!
いいぞ!いいぞ!我はテクニシャンだからな!
今日は寝かさないぞ!」
「きゃぁー!えっちぃー!」
えと、詳しく書けませんけど、ギルガメスと名乗る男が、地面に少女を押し倒してエッチィ事をしてました。
もうやだ、この世界。
女がそう簡単に靡く訳ないのですよ!
これは言葉にしてツッコミを入れないといけないです!
「女性と悪者の反応が不自然すぎるのです!
なんで男の理想郷はこんなくだらない夢ばっかりなんですか!?」
【妾にも不思議だが、こやつはこのような事を既に80年間繰り返している。
だが、それで満足して幸福になっておるのだ。
人によって価値観は様々だが、大半の男はハーレム、悪い奴らを倒してヒーローになる願望などを満たせば精神的に満足する】
「私にはわからないのです。
1人の好きな娘との純愛じゃ駄目なのですか?」
【男の考える幸せと、女の幸せは違うのだ。
だが、安心するがいい。
お主が愛するマクシムは純愛派だ。
あやつにはハーレム願望がなく一途だ。
それゆえに童貞を900年近く続けている残念な奴なのだ。
さぁ、次の夢を見るぞ】
それから風龍王様に見せられた人間の夢はさまざまでした。
現実で死んだ母親そっくりの姿をした夢の住人と、ずっと一緒に甘えて暮らす幼い子供。
現実で死んだ家族そっくりの姿をした夢の住人達に囲まれて、笑顔を浮かべるお爺さん。
国の頂点に立つ大統領となり、輝かしい未来を夢の世界で作り上げた権力欲旺盛すぎる青年。
乙女ゲーのような世界を夢の世界で作り上げ、イケメンの男達を全員攻略して逆ハーレムという名前の肉便器ENDをやっている最低すぎる女。
上記と似たような世界で悪役に転生したという設定で、純愛ENDをやっている女。
現実ではずっと無職だったけど、異世界転生したという設定で、夢の世界でハーレムして壮大な冒険をしている哀れな男。
ここはまるで、赤ん坊をあやかす揺り籠の中でした。
誰もが幸せそうに笑っていて、未来を信じているのです。
でも、彼らは本当は現実での可能性を完全に閉じた代償に、ここで幸福になっている事を完全に忘れているように私には見えました。
「……風龍王様。
これが本当の幸せなのですか?」
【ああ、そうだ。
現実に絶望した人間達は、ここで真の幸福を得ている。
全て紛い物だが、ここならば、死んだ母親とずっと暮らせ、老人は孤独を感じずに暖かい家族に包まれて不幸になる暇などなくなり、ありとあらゆる欲求が叶うのだ】
「私にはどれもこれも、哀れな光景にしか見えませんでした。
だって、全部紛い物なのですよ?
母親も家族もハーレムも、全てが虚構なのに満足できるのですか?」
【ここにいる人間たちにとって、夢の世界こそ本当の世界であり、現実は忘れたい地獄だ。
それ故に人間達から見れば、虚構はここでは真実となる。
現実のように苦しい労働も、醜い人間関係もなく、死ぬまで幸福に暮らせるのだ。
ヴィクトリア。
お主は今はエルフの体で光の精霊達に愛されているせいで、忘れているのではないか?
現実は苦しくて、絶望だらけの世界だという事を。
両親は早く死ぬのが当たり前、財産がどれだけあっても奪い取られて当たり前、人が人を奴隷にして当たり前、好きな異性はこっちを振り向かなくて当たり前、カルト宗教が定期的に発生してはすべてを壊していくのが当たり前、挙句の果てには人間の遺伝子からたくさんの生物を作って、楽しく狩りをして殺す残虐な世界。
弱い人間から見れば、現実に救いなどないのだ。
そして強い人間など現実には一人も存在しない。
人間は年老いて必ず弱者になる事が約束されているからだ。
どれだけの栄光を掴もうと、生き続ける限り、人生の終盤は地獄と化す】
風龍王様がそう言うと、私の視界が切り替わり、現実の身体に私は戻っていました。
光の精霊さん達が心配そうに、近寄って身体にスリスリしてくるので、とても愛らしいなと思います。
光の精霊さん達のおかげで、今の私の幸福があるのです。
私の視界には先ほどと違って、一つの透明な棺が目の前にあります。
柩の中には人魂の形の風の精霊さん達がたくさん入っていて、早く外に出たいよーと何度も何度も透明な棺に体当たりしてました。
やだ、可愛い……あ、この光景を見ているだけで癒されるけど助けてあげないといけないのです。
「あの、風龍王様。
風の精霊さんが可哀そうなのです。
外に出すのはダメなのですか?」
【妾がなぜこの棺をここに持ってきたか分かるか?
よく考えるのだ。
なぜ、棺 の 中 に 風 の 精 霊 が い る の か ?】
「えと、分からないのです。
人間に夢を見せる仕事を風の精霊さん達がやっているんですかね?」
【それは違う。
夢の世界の運営は、今では機械が全てやっている。
この柩は、人を入れて生命維持をしながら夢を見せるための装置だ】
なんか、嫌な予感がしました。
人を入れる装置に、なぜかいる精霊さん達。
まさかと思いますけど、現実は何でもありの世界。
どれだけありえない事実も、現実でならありえます。
前の世界の西暦2014年だってありえない事だらけでした。
セウォル号という船一隻が沈没して、韓国という国が国を挙げて大混乱に陥り、次々と不祥事がずーと発覚し続けて2015年になっても騒動の原因になっていた現実。
インチョンアジア大会2014が世界最悪の国際スポーツ大会になってしまうほど、不祥事のオンパレードだった現実。
イタリアがロシアに経済制裁して、イタリアの企業が連鎖倒産してセルフ経済制裁という自爆状態になったのも現実。
2014年にありえないほどにあちこちで航空機が落ちまくったのも現実。
テロリストが中東で国家を建設して、イスラム国という強大な勢力になって虐殺や奴隷市場やっているのが21世紀という時代だったのも現実。
なら、こんな事実もありえます。
「……ひょっとして、精霊の原材料は人間だったりします?」
【正解だ。
この大量生産品の劣化コピー品の柩では、人間は精霊にならないが、オリジナルの柩に人間を入れて5000年の時間をかけると、人間の体と魂は柩を満たす量の精霊に変貌する】
やだなぁ。
あのハーレムとか無双する人たちの成れの果てが、精霊さんだなんて少し嫌な気分になりましたよ。
【オリジナルの柩は、生産に時間とコストがかかりすぎて、本来は妾達が認めた極一部の他人想いの良い人間達にしか利用を認めなかったが、劣化コピー品は一つの工場から1日に1万人分の柩を量産する事が出来、数多くの人類を幸せにする事が可能になったのだ。
ただし、この柩には問題点がある】
「問題点?」
【所詮、オリジナルの劣化コピー。
良くて500年、粗悪品ならば1年と経たずに壊れて中の人間は精霊にならずに死ぬ。
それに人格チェックをせずに、人間を柩の中に入れているからな。
もしも精霊になったら身勝手で自分の事しか考えないゴミのような精霊になってしまうであろう。
お主の周りにいる光の精霊達が無償で力を貸してくれるのは、元々の材料になった人間が他人想いで親切な人格の持ち主だからだ】
私は周りに漂う光の精霊さん数十匹を捕まえて抱きしめました。
いつもいつもありがとうなのです。さっきは疑って悪かったのです。
あなた達は実は人生の大先輩だったのですね。
何処が頭なのか人魂なので分かりませんが、頭を撫で撫でしてあげるのですよ。
【そして、お主達、エルフはオリジナルの柩から誕生した突然変異だ】
この神様、さっきから色々とペラペラとしゃべってくれるのです。
実は寂しいんですかね?
いや、天使達があれだけ周りにいるから、そんな訳ないです……え?今、神様凄い事言いませんでした?
エルフが突然変異?
【精霊にもならず、膨大な正の感情を生産して周りに解き放つ最高の存在。それがエルフ。
突然変異ゆえにどうやって作ればいいのか、未だに長い長い時間をかけても検討がつかないが、いずれエルフを量産する手段が判明したら、妾は人間を駆除して、この世をエルフの楽園にしようと思っている】
え?
【エルフとなった今のお主には都合がいいであろう?
エルフがこの世界に満ちれば、妾は悪夢の皇帝に匹敵……いや、それすらも超えた神となり、全次元世界を統べる存在になるであろう!
ふはははははははははは!!!
希望!歓喜!愛!どれも美味しいぞ!
お主のマクシムへの愛!光の精霊への感謝の想い!なんて素晴らしいのだ!】
うーん、この神様。
私を含めて人間を完全に家畜か何かだとしか思ってないのです。
ちょっとムカッと来たのでツッコミ入れていいですかね?
「あの、神様は人間の事をどのように思っているのです?」
【妾の滅びた本体は人間を成功作だと思っていたようだが、今の妾は突然変異の成功作エルフとは程遠い失敗作だと思っておる】
「まるで人間を自分達の手で作ったようなセリフなのです。
人間って猿から自然に進化した生き物ではないのですか?」
【いいや、違う。
こことは違う別世界の神々が、長い長い歳月を経て作り上げたのが人間だ。
色んな方法で試行錯誤をくり返し、魚、爬虫類、鳥、哺乳類、虫、細菌、ウィルス、エイリアンを使ってありとあらゆる知的生命体を作りあげ、その中で環境を整えてやれば安定して正の感情を生産するのが人間だったという訳だ】
「……もしも、エルフよりも正の感情を生産できる生物が完成したらどうなるのです?私を殺しますか?」
怖くなってきました。
もし、残酷な返事が返ってきたらどうしよう。
そうなったら、私、神殺しも人生設計に入れないといけなくなるから大変なのです。
【いや殺しはせんよ。
エルフが生きていくための維持コストは精霊のおかげでほぼ0だから、妾は放置するであろうな。
お主達は魔族に対する強大な戦力になり得る。
だが、人間は駄目だ。
天国で完璧に管理しても、それなりにエネルギーと資源が必要となる。
管理せずに放置すれば負の感情を大量発生させてしまうから、未来の世界で人間を生かしておくつもりなど一切ない。
膨大な負の感情は、世界を滅亡へとおいやる可能性が高い以上、この予定に変更は一切認めない。
全ては世界存続のためだ。許せ】
これが天国ですか。
人間を家畜としてしか見ていない神様に見守られた幸福な理想郷。
私も元人間なだけに、なんか虚しくなってきますよ。ほんと。
でも、これって自然界で当たり前の事なんですよね。
家畜(人間)が利益を生み出してくれるから、わざわざ神様が家畜(人間)を養って幸福に暮らせるように面倒を見る。
ただ、それだけなんです。
無償で慈愛にあふれた神様なんて、この世には最初から存在しなかったのですよ。
……あれ?風龍王様から伝わってくる雰囲気が、緊張を張り詰めたピリピリとしたものに変わりました。
【この気配は……来るぞ!】
「何が……来るのです?」
【現代の五大魔王の1人と地獄が来るぞ!
遥か天空から地獄が来る!
闇の魔王ザ・デヴィルがやってくる!
おお、愚か愚か!妾の希望の力を持って返り討ちにしてくれるわぁー!飛んで火に入る魔族めぇー! 】
風龍王様はどっちが魔王なのか、分からないセリフを吐く御仁なのです。
あれ?これって私の生命がピンチ?
また、旅の序盤に等しいはずなのに、なんでラスボスっぽい魔王との戦いになるんですか!
私の人生、絶対に難易度調整が可笑しいのですよ!
6国目 皆が夢見た幸せな理想の世界なのです
おしまい
次
7国目 100億人の屍山血河で彩られた地獄と闇の魔王ザ・デヴィル
テーマ@【神様は人間を特別扱いするのがテンプレなんだよ!】
http://suliruku.blogspot.tw/2014/11/blog-post_9.html
テーマA【現実の宗教の神々よりも優しい神様】
テーマB【2014年に起きた事件のまとめ】
2014年の事件ベスト10纏めてみた ☛ 1位 イスラム国建国
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