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もふもふ帝国で狐耳の巫女やっています
二章 ナポレオンの大陸封鎖令

7話  メフメト2世「暗殺命令とか出してないのに、暗殺者が次々とミーニャンの命を狙っている件」 大英帝国「犯人は俺」

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大英帝国の得意技ってなーに?

二枚舌外交ですが何か?

by  大英帝国


〈オスマン・トルコ帝国首都バグダット 大宮殿〉
(※トルコ領有してないから首都の場所が史実と違う)  

 【スルタン メフメト2世視点】


我は人民が恐怖する征服王メフメト2世である。
皆から恐れられる血にまみれた専制君主には孤独が待ち受けている。
金と女と権力、名声、趣味の豪華植物コレクション……全てを持っているが常に臣下の裏切りの危険性に晒され続ける日々なのだ。
同じ血を引く兄弟は、スルタンの地位を狙う最も危険で信用できない競争相手だから皆殺しにした。
前の世界でもたくさん殺して殺して殺し尽くして、我の手は既に大勢の人間の死で血まみれだ。
そんな我が唯一安らぐ事ができる時間は、欲しい国や土地を征服して奪った時の充足感、趣味の工芸、各地で集めた植物を集めて栽培した広大な庭園。
植物は良い。
花を咲かせば美しく、我を裏切る事は決してない。
この場所こそ小都市に匹敵する宮殿の中で唯一の癒し空間。
数万種類にも及ぶ、無数の花々は我が今まで殺してきた人間の頭の数を示しているようだ。
何時か遠征して、前の世界のようにユリ、スイセン、チューリップ、バラを持ち帰り、庭園を美しく彩りたいものだ……。

「偉大なるスルタン!
お聞きしたい事があるのですー!」

庭園の外から大宰相ハリル・パシャの可愛らしい声が聞こえた。
その声に釣られて振り返ると、長いエルフ耳をピョコピョコしながらこっちに走ってくる小さいエルフの少女が目に映った。
前の世界の大宰相ハリルは、我の親の代から居た目障りなヒゲ男だったが、この世界では何故かエルフ娘だ。
12歳ほどの幼い黒髪の少女にしか見えないのに、これでも既に70年生きたピチピチギャルだとハリル本人から聞いた。
政治の世界で長年生きてきた思えないほどに、初々しい美少女なのである。
イスラム社会でこれはありえぬ事だ。
女がオスマン帝国の実質の統治者『大宰相』の地位を得る事は、前の世界の男性中心のイスラム社会ではありえぬ事だ。
……そして、周りが豚(オーク)だらけの中、我の心を癒す要素が、前の世界で処刑した大宰相とはな。
人生とは訳が分からぬ。
大宰相は庭園の中の植物をかき分けて進み、我の目の前に時間をかけて来て、疲れてハァハァしながら口を開いて問いかけてくる。

「偉大なるスルタン!」

「うむ、我は偉大な征服王メフメト2世にして、イースラムの最高権威者カリフである。
何ようか?大宰相ハリル」

「エジプトのミーニャン辺境伯の所に大量の暗殺者を送りつけたのは本当なのですか!?」

「何の事だ?」

大宰相が何を言っているのか、我には分からなかった。
利用できるかもしれない相手をわざわざ殺す必要もあるまい。
前の世界で、結果的に我が軍の捕虜数万人を串刺しにした血に飢えたウラド大公(ドラキュラ伯爵のモデルになった人物)すら最初は我が利用しようとしたのだぞ?

メフメト2世(´・ω・`)うほ、良いショタ。
俺の忠臣(奴隷)にならない?
(この時、スルタンじゃなかった)

ウラド(´・ω・`) (気に入らぬ!俺の弟ラドゥをベットの上で可愛がる時点で気に入らん!
誰が貴様の忠臣になるか!
俺はドラゴン騎士団の龍公ヴラド2世の息子だぞ!?
貴様の奴隷になんてならない!
感謝した振りだけをして貴様の父ムライ2世を利用して成り上がってやる!)

メフメト2世(´・ω・`)美少年のラドゥとベットの上で合体!
アッー!

ウラド(´・ω・`)お前ら利用して国を手に入れたけどオスマン帝国への貢納やめて、徹底的に抗戦するわ。
俺のターン!
ゲリラ戦法で圧倒的なオスマン帝国軍を攻撃ー!


メフメト2世(´・ω・`)!?

ウラド(´・ω・`)更に夜襲をかけて、メフメト2世の首を刈り取るために突撃ー!

メフメト2世(´・ω・`)あ、危なかった。
危うく殺されるところだった。
なにこいつ怖い。
でも、今度は我のターンだ!
圧倒的な軍団を揃えて準備して、ウラドのワラキアに攻め込む!
どうだ!まいったか!?

ウラド(´・ω・`)オスマン兵数万人を串刺しにして並べたった。
この酷い光景を見て士気を喪失したオスマン帝国軍を攻撃!また俺の勝利!

メフメト2世(´・ω・`)もうやだ、こいつの相手するの。
謀略で内部分裂させた方が楽だし、そうしよう。
反ウラドの貴族〜 支援するからウラドを追い出せ〜。

ウラド(´・ω・`)☚貴族達による追放END

ヨーロッパ帝国と戦う前に、ミーニャン辺境伯が寝返ってこちら側の味方になる可能性もあるのだ。
その可能性を絶つ暗殺は下策である。
蘇生魔法というふざけた奇跡が有り触れた世界では、暗殺の価値もないに等しい。
大宰相は我が嘘をついてると思って怒っている様子を見せているが、エルフ耳をピョコピョコ動かしていて可愛らしいという印象しか浮かばず、迫力が全くなかった。

「じゃ誰があんなに大量の暗殺者を動かしたっていうんですか!
イニチェリ軍団の一部や、暗殺教団の暗殺者が、スルタンの命令で辺境伯領に暗殺しに行った事になってるのですよ!?」

「なんだと!?
我に絶対の忠誠を捧げるイニチェリ軍団が、我が命令もしてもいないのに動いているだと!?」

スルタン直属のイニチェリ軍団。
キリスト教徒の子供たちをイスラム教に改宗し、洗脳教育を施して作り上げた君主直属の精鋭軍団。
元々、異教徒であるが故に、他のイスラム教徒と利権で繋がっておらず、利権の関係で我の寝首を切断したり、裏切る危険性が少ない。
我が命令もしてもいない事をやるはずがないのだ。
顎の髭を触りながら考え込む。
この世界のイニチェリ軍団は、前の世界とは違っているのではないか?と。
ハリルがエルフ娘、我の種族が豚(オーク)の時点で致命的なほどに何かが乖離していると見るべきだ。
この国の事は、実質の統治者である大宰相ハリルがよく知っているはずだ。

「ハリル。
イニチェリ軍団が勝手に動くとはどういう事なのだ?
奴らは我を崇拝するように洗脳教育を施してあったはずだ」

我の問いに、ハリルはエルフ耳をピョコピョコ動かしながら返答した。

「確かにそうですけど、最近は待遇に不満を持って抗議してくる連中も増えたのですよ?」

「はっ?」

「結婚しても良いと認めて戒律を緩めたら、イニチェリ軍団がどんどん腐敗して、機嫌が良いときは大鍋のスープを飲んでピラフを食べて味の美味しさを褒め称えてますけど、機嫌が悪い時はスルタンへ抗議をするために、大鍋ひっくり返して不満をぶつけているのです。
副業禁止なのに、副業したり、勝手に市民から徴税したりして特権階級化しちゃったのですー!」

一瞬、そんな馬鹿な事があってたまるかと思った。
前の世界(史実)のイニチェリ軍団は、全ヨーロッパを恐怖させた最強の奴隷兵士軍団であり、我の30年に渡る征服活動に従事した頼れる奴らのはず。
なぜ、そんな事になっているのだ?
大宰相ハリルが小さなエルフ娘な時点で、全てが可笑しい。
ハリルはターバンを被って両手で腰を掴んで偉そうにしているが、必死に大人の振りをしている少女にしか見えなくて可愛らしかった。
……我の身体がオーク(豚)な時点でアッラーは我を見放したのだろうか?
おお、偉大なるアッラーよ。
この仕打ちは酷い。
イスラームの教えを異教の地で布教したのにその見返りがなぜこうなった。
コーランにもこんな事は書いてなかった。
死んだら最後の審判の日に墓から蘇って、天国行きになる設定はどこに行ったのだ!?アッラー!

「スルタン!聞いているのですかー!
このままじゃ、ナポレオンの大陸軍と戦争になる可能性が濃厚なのですー!」

この馴れ馴れしい大宰相ハリルも、ありえぬ存在だ。
大宰相の分際でスルタンの我とタメ口だと?
前の世界では、我の呼び出しを受けた臣下達は、粛清される事を恐れて恐怖でビクンビクンしながら、金銀財宝を皿に入れて持ってきて献上してきたものだ。
なのに、この大宰相ハリルは我を全く怖がっておらぬ。
少しお仕置きをする必要があるようだ。
我は庭園にいた従者(オーク♂)に目配りして、黒い牛革の鞭をここへと持ってこさせた。
大宰相ハリルは小さな体を恐怖で震わせながら、後ろへと少しづつ後ずさりしている。

「あの、スルタン?
その鞭で何をする気なのですか?」

「少し教育を施してやろうと思っただけだ。
大宰相?
このオスマン・トルコ帝国の統治者は誰だ?
お前か?我か?」

「えと、統治の仕事をしているのは私、いえ、私じゃなくてスルタンなのです?」

「我はこの世界に来て、ようやく理解させてもらった。
スルタンの権威が消失しつつあるとな。
だからイニチェリ軍団が腐敗したのだ。
スープを地面にばら撒くという呆れた事態になったのだ。
我はスルタンとしての威厳を取り戻す必要がある。
それがアッラーから我に託された使命に違いない」

「スルタン、何を言ってるのかわからないけど、謝るから許して欲しいのですよ」

我は思いっきり、鞭を振りかぶり、大宰相ハリルをパシンパシンと二度叩いた。
ハリルの絹の服が裂けて、幼い身体、小さな胸の膨らみ、白い美しい肌が露わになる。
うむ、実に良き事かな。
豚だらけの環境の中、まともな人間の形をした少女がいる事は素晴らしきかな。
若い女は良い。その柔肌は見ているだけで癒される。
腐敗したイニチェリ軍団の問題は奴らを戦場で使い潰して、新しい真イニチェリ軍団を作る事で解決するとしよう。
信頼できない軍団なんぞ、使い捨ての駒としてしか使えぬ。
何時、イスラム教の利権関係で我の首を狩るか分かったものではない。
豚どもを戦場で戦死させ、逃げた奴らを敵前逃亡の罪で串刺しにして処刑すれば、我の権威(恐怖)を民草に知らしめる事ができて一石二鳥だ。
統治は恐怖と寛容の二つを持ってこそ出来る。
我は小さい女の子相手でも、鞭でパシンパシンする事に躊躇いはない。
専制君主は臣下から舐められたら終わりなのだ。
故に心を鬼にして、ハリルの幼い身体を鞭で叩く。
こうして女を叩いていると、後宮で乱交パーティやったセリム2世の事を何故か思い出すが気にしないでおこう。

「スルタン!
鞭で私をパシンパシンするのはやめて欲しいのです!
魔力障壁があるから、そんな程度の攻撃は無意味なのですよ〜!」

……?
なんだとっ……?
さっきから鞭でパシンパシンやっているのに、大宰相の周りに展開されている緑色の光が、我の鞭を全部止めているだとっ……?
なんだっ……これは……?
大宰相ハリルがエルフ耳をピョコピョコしていて激怒しているが、可愛らしいから相変わらず迫力がない。
こやつ、どうやって大宰相として今までやってきた……?
他者から畏れられない存在が、オスマン帝国の統治をやれるはずがない!
まさかこの世界では可愛い=正義なのか!?ハリルと会話しているだけで心が癒されていくぞ!

「スルタン!
ちゃんと話を聞いているのですか?!
誰かが、スルタンの名を借りて、勝手に暗殺依頼出したり、イニチェリ軍団を暴走させているのですよ?!
SMプレーをやっている場合じゃないのです!
今のスルタンを見たら父ムライ2世と皆殺しにした兄弟、粛清した臣下達が天国で泣いているのです!」

「終末の日がやってきてもいないのに、天国に父がいる訳なかろう!
アッラーによる最後の審判を受けて合格点を出さないと、天国に行けないのがイスラム教だ!」

「そこらへんはどうでも良いのです!
それよりも暴走しているイニチェリ軍団に対処してほしいのです!
スルタン直属だから、私じゃ手が出せないのですー!」

ともかく、今は大宰相ハリルを虐めている場合ではなかった。
我はゆっくりと頷き、鞭を振る手を止めて、ゆっくりと思っている事を告げた。

「よろしい、こうなったら戦争をしよう。
大宰相ハリル。
戦争の準備をせよ。
我はナポレオンに挑戦し、都市スエズを手に入れる」

「アホなのですか!?
ミーニャン辺境伯領と喧嘩しなくても、都市スエズとは普通に商売できるのです!
戦略的に無意味なのです!
都市を手に入れても、フランス大陸軍相手に戦争して維持するのは困難なのです!
今は内政に集中する方が優先なのですよー!」

我は怒った。
こんなにも馴れ馴れしいエルフ娘は許せぬ。
スルタンの決定は絶対なのだ。
我の人生は征服で始まり、征服で終わるのだ。
前の世界で、神格化されたアレクサンドロス大王のように遠征を繰り返し、我もまた神とならん。
それが我の王としての道なり。
大宰相を鞭でパシーンと叩いたが、やはり緑色の光で防がれる。
こうなったらベットの上で裸にして、今まで大勢の美少年を抱いてきたテクニックでヒィヒィ言わせてやろうかと思ったら、我が辛うじて信頼できる側近が庭園へと走ってやってきた。
側近は服が裂けている大宰相をチラッと見て、動揺したようだが、すぐに落ち着きを取り戻して

「スルタン!大変です!
イニチェリ軍団の一部が、待遇に不満を持って抗議活動をしています!」

「なんだとっ!?」

「こちらです!スルタン!」

我は急いで側近と一緒に宮殿の通路を走り抜け、その後ろを大宰相と親衛隊が付いてくる。
宮殿は小都市(面積約70万m²)に匹敵するほどに大きいが、5分ほど走ったら目的の場所へとたどり着く事ができた。
そこは民間人も自由に出入りができる広大な「第一の中庭」。
宮殿の外へと繋がる大きな大きなアーチ状の帝王の門がある場所。
そこで細長い笛のような帽子を被ったイニチェリ軍団の奴隷兵士達が、大なべをひっくり返して騒いでいる様子が窺えた。
奴らは口々に大鍋のスープを中庭にばら撒き、不満を周りに言い触らし、まるで豚のようだ。オークなだけに。

「飯がまずい!もっと上等なピラフをくれ!」「俺達の給料を上げろ!」
「今のスルタンなんて廃位しろ!」「ボーナスを月に1回支給しろ!」

その姿には、厳格な規律で守られた世界最強の兵士集団としての片鱗すら残っていない。
ただの豚だった。
兵士としての義務を果たさず、権利だけを要求する豚。
本当に……なぜこうなった?
我はようやく走って追いついてきた小さい大宰相に問いただした。

「大宰相。
なぜここまで奴らは腐ったのだ?」

「ハァハァ……今更すぎる質問なのです……一般常識も知らないのですか?小さい頃に教えたはずなのに酷いのです……」 大宰相のエルフ耳が下に垂れて落ち込んでいる。

「なぜ、奴らはこうなったのだ?」 我は鞭でパシーンと大宰相を叩いたが、緑色の光で防御された。

「SMプレーは他の女とやって欲しいのです、スルタン。
一応疑問に答えておきますけど、以前はキリスト教徒の子供達を徴兵して改宗して洗脳して、イニチェリ軍団を作っていたのですけど、今のオスマン帝国の勢力圏にいるのはほとんどイスラム教徒だから、キリスト教徒から徴兵しても大した数にならないのです。
しかも、イニチェリ軍団が特権階級化して、親が自分の子供をイニチェリ軍団に入れたりしたから、どんどん腐ってこんな事になってしまったのですよ……」

「なぜ歴代のスルタンは腐ったまま放置したのだ?」 我は大宰相ハリルを鞭でパシーンと叩いたがやはり防御された。

「イニチェリ軍団を廃止しようとしたら、イニチェリ軍団が激怒してスルタンを殺害したり廃位に追い込んだりするから大変なのですなのです。
私も何回か、殺されたり、更迭されたり、牢獄でエッチィ事されたりして大変だったのです」 

本当になぜこうなった。
この世界で唯一素晴らしい所は、大宰相が可愛らしい黒髪のエルフ娘という一点のみだ。
腐ったイニチェリ軍団を叩き潰すためには、新しい軍事力がいる。
こうなったら、ヨーロッパ帝国が採用している国民皆兵制度を導入するしかない。
全階層から強制的に徴兵して、フランス大陸軍のような屈強な軍隊を作って世界を征するのだ!
いや、世界征服の前に、腐った奴と従わない奴を大量粛清だ!
その過程で、暴走しているイニチェリ軍団の背後にいる存在が誰なのか分かるはず!
偉大なる神アッラーよ!
我に力を与えたまえ!







〈大英帝国 首都ロンドン ホワイトホール宮殿〉
【ウィンストン・チャーチル首相視点】


偉大なるエリザベス女王陛下を敬愛する諸君、私は大英帝国のチャーチル首相だ。
シルクハットがよく似合うイケメン中年紳士だ。
最近、私は安心してベットで眠れない日々が続いている。
ミーニャン辺境伯領という新勢力が、大英帝国が誇る海軍を圧倒できる電気駆動船と大砲(レールガン)を開発してしまったのだ。
さらに厄介な事に、世界の工場イギリス並に安価な製品を大量生産して、世界中で売りさばいている国でもある。
大英帝国の基本戦略は、海軍戦力の優位を利用して大陸の勢力群を支援する長期戦。
しかし、大英帝国は海でも破れ、アメリカの植民地は独立戦争、市場争いでも破れて戦略そのものが崩れ去り、ロンドンの株式市場ではイギリス企業の株が捨て値で次々と売られている有様だ。
この状況をイギリス紳士として放置しておく事はできない。
ベットで安心して眠るためにも、敬愛するエリザベス女王陛下のためにも負けられないのだ。
女王陛下は、今、私の執務室の赤いカーペットの上で駄々をこねている。
腰まで届く水色の髪を持つ神秘的な妖精だ。
比喩表現ではない、女王陛下は背中から氷の羽が生えた妖精なのだ。
数百年の時を生きているが、老いを全く感じさせない幼い身体に水色のエプロンドレスを纏い、駄々をこねる有様は臣民に癒しを与えてくれる。

「ミーニャン辺境伯が憎いのぅ。憎いのぅ。憎いのぅ。
妾(わらわ)の愛する臣民を苦しめるなんて憎いのぅ。
このままでは長く続いた大英帝国の歴史は妾の時代でおしまいなのかのぅ?
なんとかして欲しいんじゃよ。チャーチル首相」

おお、女王陛下が私めに声をかけてくださった!
女王陛下は偉大なお方!
キリスト教プロテスタントのヒロインである!
女王陛下が政治の世界でバリバリ働いていた頃は、イギリスの黄金期と呼ばれるほどにすごいのだ!
安心させるために、今、進めている作戦を話さねばなるまい!

「大丈夫でございます!エリザベス女王陛下!
ナポレオンを困らせるために、独立の動きを見せる地域に武器を送り届けて、オソロシアの共産主義者たちを積極的に支援し、オスマン帝国とヨーロッパ帝国が戦争するように工作を進めております!
憎きミーニャン辺境伯領は、両国の戦いに巻き込まれて灰燼と帰す事でしょう!
そうなれば世界の工場イギリスの地位は安泰です!」

私の話を聞いた女王陛下は駄々をこねるのやめて、そっと床から立ち上がり、スカートについた埃を払い、可愛く首を傾げて問いかけてきた。

「本当に大丈夫なのかの?
妾が政治を取り仕切っていた頃以上に、生き残る難易度高いんじゃろ?」女王陛下の仕草一つ一つ、絵画から飛び出た天使のように神秘的だった。

「大丈夫でございます。
オスマン帝国のイニチェリ軍団や、シーア派の暗殺教団を使って、次々、暗殺者をミーニャン辺境伯の所へと送っていますから、戦争一直線間違いなしでございます、女王陛下。
更に戦争を予感させる流言も多数流しております。
いずれ両国は人民を納得させるために、戦争という道を選ぶのは必然です」

「……チャーチル首相、お主どうやって、そいつらを動かしたんじゃ?
恐ろしい能力じゃのぅ」

「賄賂や、オスマン帝国崩壊後の少数派勢力の独立の承認と支援などなど、甘い餌を使ったら、大勢のイスラム教徒が釣れました。
無論……成功した場合はイスラム教徒同士で殺し合いになるように仕組んでおります。
大陸に纏まった勢力など必要ありませぬ。
分裂して永遠に憎しみ争い続けるのが、我ら大英帝国の国益であります」

「お主も悪よのぅ。誰に似てそう育ったのかの?
それでこそ海洋大国イギリスの首相じゃ。
お主は実に正しい。
故に妾はその邪悪さを許そう。
ところでアメリカ大陸での反乱軍との戦いはどうなっておるんじゃ?
ナポレオンを倒せても、アメリカを失ったら、大英帝国は市場を半分以上失ってジリ貧じゃぞ?」

 女王陛下が口元を抑えてクスクス笑っている様は、魅惑的な悪女を思わせた。ふつくしいと書いて美しい。
水色の長い髪がキラキラ光り輝いて、神秘のベールに包まれた妖精なのだなと納得させてくれた。
私は女王陛下を喜ばせるニュースが、今朝、届いた事を伝えようと思い、口を開く。

「そっちも大丈夫でございます、女王陛下。
ジョージ・ワシントン大元帥が率いる……アメリカ合衆国軍と名乗る叛徒をロングアイランド(ニューヨーク州南東部の島 )で打ち破り、イギリス大陸軍が優勢です。
このまま戦況が推移すれば、大英帝国の勝利間違いなし。
勝利した暁には、大英帝国の倉庫で眠っている大量の在庫品を売りさばいて、一気に国力を回復させましょうぞ!」

「おお!チャーチルは頼りになるのぅ!
多方面へ無数の策謀を張り巡らすとは、お主、妾を完全に超えたのかの!
その才能に嫉妬するんじゃよ!」

小さな愛しき女王陛下が満面の笑みを浮かべて、私に抱きついてきた。
おお!女王陛下にこれほど気に入られるという事は、次の選挙でも首相に再戦する事間違いなし!
そうなれば、女王陛下とこうやって会話できる日々を継続できるという事なのだ!

そう思って調子に乗ったら、扉が開いて、首相補佐が入ってきた。
何やらとっても焦っているようだ。
首相補佐が女王陛下に急いで敬礼した後、私の耳元に口を近づけて、そっと囁いてきた。

「た、大変です、首相閣下。
アメリカでの叛徒どもとの戦いに、ヨーロッパ帝国が参戦して……せ、世界規模の戦いになりました。
既にアメリカ大陸にフランス大陸軍が上陸して、反乱軍と合流を目指しています!」

なんだとっ!?
奴らの上陸を許すとは何事だ!?
どうしてこうなった!
どうしてこうなった!?
ベットで安心して眠れる日々がやってくるのは何時なんだ!?

「なんじゃ、今の時代の政治は大変そうじゃのぅ。チャーチル。
妾が女王やっていた頃は、防御しているだけで良かったんじゃけど、こんな可笑しい時代になるなんて当時の妾には想像もできんかったんじゃよ」






あとがき

●話のテンポが悪くなるから、アメリカ独立戦争パートはバッサリカット。インディアン絶滅作戦とかやらない。
史実通りアメリカの勝利でおしまい

アメリカの超絶チート大国の歴史っぷりを簡単に纏めてみた
http://suliruku.futene.net/1uratop/Rekisimono/Amerika/Amerika.html
アメリカは地政学的に考えて世界の覇者に相応しい
http://suliruku.futene.net/1uratop/Rekisimono/Amerika/Amerika_2.html
  アメリカ最大の幸運は、独立戦争をした政治家達が理性的だったから
http://suliruku.futene.net/1uratop/Rekisimono/Amerika/Amerika_3.html
アメリカ大陸にあった独自の文明が超弱いのは、馬がいないせい
http://suliruku.futene.net/1uratop/Rekisimono/Amerika/Amerika_4.html

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