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序章「壊された日常」

(´・ω・`)劣化したコピー魔法を、同時に三つ使える男による物語です。
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コピーはオリジナルを超えられない。
僕の使うコピー魔法は、そういう性質の物だ。
常に性能はオリジナルの十分の一以下。
それが僕が手にした力の原理。

「最弱のコピー魔法師は死ねぇー!」
「お前のクビを取れば、提督の地位が手に入るぅー!」

前方に展開している軍隊から、空気結晶の弾丸が十万発ほど飛んでくる。
秒速1km。普通の魔法師なら、この時点で人生は終了だろう。
だが、僕は『劣化した魔法』を三つ同時に使えるコピー魔法師。
選べる選択肢の多さ。それが僕の最大の強み。
【重力プログラムをダブル起動】
僕は前方に反重力の空間を二重に展開する。
弾丸が飛んできた瞬間、反重力でエネルギーを減衰。
来た道を恐ろしい速度で戻っていく。
十万発の弾丸が術者達を貫き殺した。あと残り五百人殺せば僕の勝利だ。

「くそぉー!最弱の分際でぇー!」
「なんでこんなに強いんだよぉー!」

無数の選択肢から正しい道を選べば勝てる。
海の中にある針に……糸を通すような、常人には絶対に決して使いこなせない力。
これが僕の『コピー魔法』
怠け者の僕には最低最悪な力だ。
だが、守りたい娘を守るために、僕は正解を掴み取るためにひたすら考え続ける。

そして……大切な人を殺した裏切り者カイオウを倒す。
この異世界で、そう決めたんだ。


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              〜異世界召喚前〜

身が凍るような冷たい雪が降っている。小さな氷の粒がユラリッユラリッと空を漂い、地面に落ち、たくさんったくさんっ降り積もる。
地上にはお墓がある。
何百、何千、何万という数の簡素な石の墓標がズラリッと並び、刻まれた没年は全て『2312年』
この世界に住む人類にとって重要な数字だ。
――2312年、勝者すらも敗者へと追いやる第三次世界大戦が起き、たった1年足らずで……人類は総人口の99%を死なせ、尊い命が永遠に失われた。
残された人間の数は、僅か3億足らず。
ユーラシア大陸は新兵器で9割が削れて海の底。舞い上がった砂塵は太陽光を遮り――今、地球は冷えに冷えて、強制的な氷河期を迎えている。
そんな寒い地上を歩く人影が二つある。

「ユキト〜、外はとっても寒いんやな〜」

そう言って両手を震わせて擦る幼い少女。白いコートを着ていて、妖精のように可憐な娘だ。
背中まで伸びる綺麗な銀髪が特徴的。優しい青い目をしているが……残念な事に、ヤンデレだ。
特定の男性の事を好きになりすぎて、恋愛感情が狂っている。

「ルナ、車の中で待っていても良いんだよ?」
「いやや〜、ユキトと一緒に居たいんよ〜」
「やれやれ……」

ユキトと呼ばれた黒髪の男が苦笑した。黒い軍服を着たハンサムな青年だ。
胸元に付いている階級章から、少佐という偉い立場にいる事がわかる。
そして……不思議と降ってくる雪が彼の所で蒸発していた。
ルナはそれを見て少し戸惑った顔で

「……ユキト〜?ひょっとして魔法使ってますん?」
「魔法は便利だからね。戦闘以外にも積極的に使うべきだよ。
ルナも物質操作の魔法を使えるんだから、周りの大気を温めてみたらどうだい?
暖房費ゼロ円でお得さ」
「そやな〜。ユキトが言うならウチ頑張ってみる」

少女はゆっくり頷き、自分の力を発動させた。
【物理操作プログラム起動】
周辺の大気を物理法則を捻じ曲げてエネルギーを発生させ、常温にする。
これは魔法と呼ばれている22世紀に発見された技術の一つだ。
簡単に説明するならば、人間が誰もが持っている『思い込みの力』が現実を侵食し、現象や物理法則を操作しているのだ。
だが、普通の人間の力では現実を侵食できない。
世界全体を覆う意識集合体に妨害されるからだ。

「ユキト〜、ポカポカして暖かいやね〜。
……でも、ウチはユキトに抱きついて温まりたいな〜」

小さなルナはユキトに抱きつく。依存性たっぷりの愛情感情過ぎて、普通の男性ならドン引きしそうだ。
だが、この男は慣れていた。ヤンデレ娘という存在そのものに。
他の女性と付き合う選択肢を消滅させれば、ヤンデレ娘は理想の女性だという事も知っていた。

「世界大戦は終わったんだ。今日から魔法は平和的にドンドンッ使わないといけないのさ。
エネルギー資源の節約にもなるしね」

そう、この二人は普通の人間とは違う。
脳みそを一部機械化し、妄想力を爆発的にアップさせる事で、現実を侵食する『魔法師』だ。
戦争のために生み出された超人、いや人間兵器。
そんな二人は温めた空気とともに雪の中を歩く。
墓地で目指す場所とはいえば……当然、墓標。
黒い石碑の前に立つ。戦死・行方不明になった兵士のために作られた巨大な石碑の一つだ。
ずっしりと名前、生年月日、没年が刻み込まれている。
ユキトは石碑に悲しそうな目を向けて、右手を頭の所まで上げてビシッと敬礼した。

「久しぶりだね。
サクラ、田中、中田、西村、東村、北村、吉田、水原、島原……(以下略)
世界はこんな事になってしまったけど、僕達は今日も生きているよ」

30分ほどかけて、終戦間際に殺された恋人と、かつて部下だった者達の苗字を言い終えた。
ルナは細長いエルフ耳をピョコピョコッ!動かして、戦友達の名前に懐かしさを感じている。
そんな様子を、ユキトは魔法で後ろを見ながら、こっそり心の中で祈った。

(ルナのエルフ耳は可愛いなぁ。そして、不老の人造人間の種族名にエルフをつけた研究者のセンスはグットだ。
サクラ……天国から見ているかい?
君が死んで数年間引きこもったけど、これが僕達の戦争が勝ち得た平和さ。何時か、この荒廃した大地を復興させて、エルフ耳だらけの平和で豊かな世界にするんだ……ルナのヤンデレ問題は少しづつ解消させるから安心してくれ。
ん?)

ユキトが後ろを見るために使っている分析プログラムが、異変を知らせた。
ユキトとルナの後ろの空間に、真っ黒な巨大な穴が出来ている。
入り込んだ光を反射すらさせずに逃さない。まるでブラックホールっぽい真っ黒さだ。
とんでもない危険物だと理解したユキトは身体強化魔法を起動。十倍に加速された身体能力で、ルナの手を引いて脱出しようとするが――

「ルナ、危な――」
「ユキト!?――」

穴の吸引力に抗えず、そのまま吸い込まれてしまった。
二人を吸い込んだ穴は消え、現場には何も残らない。

 

作者コメント 感想まとめはこちら
http://suliruku.futene.net/Z_saku_Syousetu/Tyouhen/Kopi-/c1.html

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