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本好きの成り上がり
10話 村長の苦悩「昔は良かった」


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ゴブリン達が死んで残した膨大なドロップアイテムを、村長殿が気前よく村人達に分配し終えた後、彼は私のほうに歩いてやってきた。
戦闘時と分配の時の態度を見るに、山賊の長、いや、狩猟民族の長と言わざる負えない。
正直、村人が強面のモヒカンだし、知らない人が見たら盗賊にしか……見えないと思う。
皆、良い人なのに外見だけが残念である。

「ご活躍でしたね。カグヤさん」

村長殿もご活躍だったな。
混沌属性の広範囲魔法を扱える莫大な魔力が羨ましい。
……あと、色々と言いたい事があるのだが、率直に言っても良いだろうか?

「なんでしょうか?」

村の周りを壁で覆っていたら、ゴブリンを各個撃破できたはず。
どうして、この村には壁がないんだ?
私がこう言うと……村長殿の目に暗い影が見えたような気がした。
彼は肩を竦めて残念そうな顔になり

「……こう見えても努力したんですよ。
壁を作ったり鉄条網作ったり、地球で学んだ建築技術の総力を尽くし、村の防衛力をアップしようと尽力したんです。カグヤさん」

だが、現実の村には、壁も鉄条網もないな。
周辺に山賊団が居たら、ヨダレ垂らしながら襲ってきて欲望の限りを尽くす気がする。

「この世界の生物は、採掘スキルを持っている事が多いでしょう?
苦労して壁を作っても、壁ごとぶっ壊すモンスターがたくさんいるんです。
どんな壁でも、モンスターが採掘スキル任せに殴り続けていたら壊れますしね」

……ああ、なるほど。
確かにエロイナはそういうゲームだった。
村長殿の苦労っぷりに同情するしかない。THE異世界の常識はウンコ。
ん?……なら、鉄条網の方は駄目だったので?
あの鉄のトゲトゲの柵は、爆風ですら隙間から素通りするから、撤去が大変な障害物だったはず。

「ゴーレム系統のモンスターが来ましてね。
鉄条網のトゲトゲなんか気にせずに、根っこから引き抜いて私の努力を全部パァーにしてくれましたよ。
さすがの私も怒って、鈍器でド突き倒しまくって、それでも死なないゴーレムをナイルン川の底へと沈めてあげました」

そこで諦めるな。村長殿。
ジョン・スミスという不審者が地雷を地面に埋めていると聞いたぞ?
鉄条網+地雷原のコンボは、現実でも鉄板だっただろう?
空を飛ぶモンスター以外が突破するのは不可能なはずだ。

「この村をカンボジアの田舎みたいな悲惨な場所にするつもりですか!?」

敷設した地雷が何処にあるのか分かるように地雷マップを作れば良い。
カンボジアが地雷だらけになって不動産価値が壊滅して悲惨なのは、当時の支配層が戦争ルールすら知らずに、適当に地雷を埋めまくったせいだ。
地雷は位置さえ覚えて入れば、安くて有効な良い武器なんだぞ?地雷は悪くない。

「この村で火薬が量産できると思いで?」

なら、ジョン・スミスはどうやって地雷を作っているんだ?

「攻撃魔法を仕込んだ魔石と、動力代わりに使う『魔力の結晶』の二つを組み合わせたタイプの地雷でしたよ。
でも、村の財政状況的にあれらを村を全て覆えるレベルで大量生産するのは無理ですね……」

古今東西、金がないというのは苦しいものだな。
ならば、水堀と鉄条網の組み合わせはどうだろうか?
幸い、村の東にナイルン川が流れているだろう?
村の皆で協力すれば、大量の水を引けて、生活用水や農業用水としても使えるし、生活が豊かになるぞ?

「つい最近まで、農業用の水路はあった事はあったんですが……とんでもない異常気象で、巨大な砂嵐が発生しましてね。
全部壊れて滅茶苦茶ですよ。
危うく村も埋まる所でした」

なんて酷すぎる自然災害。中国人が聞いてもビックリする事間違いなし。
水路は、すぐに再建すれば良いのでは?

「貧乏な村に、そんな余力あると思いますか?税率9割ですよ?
再建にはもう少しかかりますよ」

なら、農業用水はどうやって確保しているので?
まさかアフリカみたいに雨に依存した農業形態?この砂漠地域で?

「農業用水の方は、古代エジプトの灌漑農法を参考にしています。
定期的にナイルン川の水嵩が増えて堤防を超える事を利用して、その水を農地に誘導する方式を取っていますね。
塩害になり辛いし、肥沃な土を川が運んでくれるから一石二鳥です。
それに生活用水と農業用水も、私が作った地下ダム……げふんげふん、手押しポンプ井戸で間に合ってますし」

色々と隠しているようだが、村長殿は器用で博識だな。
私がそうやって感心していると、村長殿は笑顔のまま

「地球にいた頃は建築関連の仕事をしてましたから、この程度は楽勝ですよ。
ダムの建設や高層ビル作りもやったことがあります。
まぁ、この地域で普通のダムを作ったら、水の流れが止まって塩害が発生すると思いますけどね」

確かに、ここがエジプトと似たような場所なら、地中にナトリウムやカリウムやマグネシウムが集まって、農作物が育ち辛い場所になってしまうな。
最悪の場合、塩田になってしまうだろうし。そうなったらこの村の農業は完全終了して、メソポタニア文明と同じ末路になるのか……現実は厳しい。
ところで村長殿、私は思うのだが……アナタの技能は、こんな田舎よりも都会の方が生かせると思うぞ?
失礼だが、なぜ、こんな貧乏な村の村長をやっているので?

「……昔は良い土地だったんですよ」

そう語る村長の青い瞳は、何処となく悲しそうだ。

「400年ほど昔の話になりますが、当時はこの土地は素晴らしい場所だったんです。
税金は安くて、当時ここを統治していたフミーダイ家は清廉潔白で、汚職の類は一切せず、民のために政治をやる人格者でした」

今の税率9割状態とは大違いだな。
きっと、聖徳太子や徳川家康みたいな良い君主だったのだろう。

「ですが……人間とは腐る生き物。
私とテファはそれを思い知らされましたよ。
フミーダイ家は、時代が経つにつれてどんどん増長して、今では税率9割というアホな事をしています」

歴史でいう、どんな制度も古くなって疲弊する的な展開か。
やはり制度は浄化するシステムも組み合わせないと駄目だと思う。
誰か民主主義の国を作ってくれないだろうか?私一人で建国無理すぎる。

「カグヤさん。正直言いますとね。
私は今のフミーダイ家が憎いですよ。先祖が苦労して作り上げた遺産を全て使い潰して、民衆を苦しめる大魔王同然の存在になっている事が許せません」

なら、どうするんだ?
反乱でも起こすか?

「……いえ、さすがにそれは無理というものです。
さすがの私でも万単位の兵力相手に勝利は出来ません。
もし、そうなったら私達は拷問にかけられ、テファを含めた女性達は性奴隷にされて慰みものになってしまうでしょう。
他国に移住しようにも、村の皆と一緒に密航するような予算はないですしね」

確かにな。地球でも許可なく他国間を大移動しようと思ったら、何百万円も密航業者に金を払わないといけない。
途中で警察にでも逮捕されたら全部パァーだ。
だが、村長殿。
このままでは恐らく……圧政で死ぬぞ?

「その前に反乱起こしそうですよ、カグヤさん。
あ、私の発言は他の人の前で言わないでくださいね。
一応、密告制度って奴がありますから」

家族関係を大崩壊させる密告制度まで導入しているのか……なんて最低な領主なんだ。
未来の私が、自分で国を作ったのも理解できる気がする。
どうやれば、国を持てるのかさっぱり分からんが。
……そうだ。村長殿。
紙産業を作ってみてはどうだろうか?

「紙ですか?」

突然の私の発言に村長殿は困惑している。
私は彼の青い瞳を見つめながら、可能な限り失礼にならないように言葉を紡ぐ。

「現在の文明レベルだと、記録媒体は木簡なのだろう?
紙の方が薄くて軽くて運搬が容易。しかも、大量のページを纏めて本にすれば、読みたい項目を見つけやすい。
紙を作れば、業界のシェアを独占できる事は間違いなしだ。
そうすればきっと、アナタは村のみんなを守るための力を得られるだろう(私は本読みたい)」

「カグヤさん……紙のつくり方を知っているんですか?」

ああ、全て丸暗記している。
現実の紙の歴史ならヨーロッパ付近に紙の技術が伝わるのに千年くらいかかって大変だったろうが、私は本好きだ。
蒸解釜、ウオッシャー・スクリーン、漂白装置、プレスパート、ドライヤーパート、コーター、リワインダーの作り方は全部知っているさ。

「……なんですか?その機械」

地球では、木を細かく削ったチップから、安く紙を量産しているだろう?
先ほど述べた名前は、製紙工場で使う機械の名前だ。
まぁ……この世界じゃ部品調達出来ないだろうから、昔の製紙工場で使っていた単純な機械を作ろうと思う。

「……設計図は書けますか?」

村長殿がメガネをクイクイッと右手で抑えて光らせて言った。
ん?なんだ?雰囲気がガラリッと変わったぞ?

「設計図を書けるのかと聞いてるのです、カグヤさん」

私のすぐ近くまで村長の顔が迫ってきた。目がキラキラッと知的好奇心で輝いているように見える。
こ、こりはっ!完全に……マニアの目!?
作りたい物があるなら、自分の手で作ってしまう人種の眼だ!

「カ グ ヤ さ  ん ?」

あ、ああ。設計図なら書けるぞ?興味本位で海外のWEBサイト見た時に、設計図が載っていたからな。
大きな木の板と、書くものを用意して欲しい。

「はい、どうぞ!」

すぐに村長殿がアイテムボックスから、巨大な木の板と筆を出した。
早っ!

「さぁさぁっ!早く書いてください!カグヤさんっ!
私の知的好奇心が唸って光ってますよ!ははははは!」

キャラがぶれている……?
なんだ、この人。
爽やかなイケメンから、残念なイケメンになったぞ。

「あらあら?アナタったら楽しそうねぇ」

あ、テファさんが後ろから話しかけてきた。エルフ耳がピョコピョコ動いて愛らしい。
彼女は森の妖精を思わせる華麗な笑顔で

「私の夫は、昔はいつもこんな感じでしたの。
最高に可愛いと思いません?」

いいえ、全く。
ただのキチガイだと思いました。

「夫はこの状態になったら、普通に徹夜して家を建てたりしますの。
だから、カグヤさん……覚悟して欲しいですわ」

なんですと!?




気づいたら夜になっていた。
先ほどまで、外に居たはずなのに、今は村長の家の食堂にいる。
周りには、製紙工場を作るために必要な設備の設計図がズラリッと並び、その運用方法や必要なパーツの一つ一つまで私は書かされた。
村長殿はまだ目がキラキラッと輝いていて、私から可能な限り情報を引き出そうとする気まんまんだ。
た、助けて!エミール!

「もふっー。難しい話はよく分からないです、カグヤ様」

エミールがそう言って、目を逸らしながら、申し訳なさそうに狐耳を下に垂らした。
そ、そんなぁー!?

「さぁさぁ、カグヤさん。次は運用マニュアルを記入してください」

わ、私を寝かさないつもりか!?

「今夜は寝かしませんよ。ええ。
当たり前じゃないですか。ハハハハハハ!」

村長殿はきっと寄生生物に違いない。
ブラック企業みたいに私を酷使して過労死させて、生きる気力をなくさせるつもりだ。
魔族どもめっ……!なんて卑劣なんだっ……!


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カグヤ Lv7  ※レベルで上がるのはHPとMPのみ。その他のステータスは食事と行動とスキルのレベルアップで上昇する。

所持金 約3万

 筋力  5
 耐久  6
 器用  3+7
 感覚  5
 習得  12
 意思  12 
 魔力  87 
 魅力  24(+100) 
生命力:90(+30)
マナ:90
速度:2000

 クラス   魔法使い
獲得スキル 詠唱(魔法の成功率)瞑想(MP回復)エコ魔法(魔法のストック節約)魔力の限界(MP切れた状態で魔法使った時の反動を抑える)など×1000のスキル
獲得魔法 無属性LV3  混沌属性LV5
状態異常
称号 『男女』


装備






胴体 ★神聖なる巫女服『カグラ』(90.20)
遠隔武器 ✩純白に光るパンティー『ピンクレディー』(10d6)
弾薬


  この話のコメントまとめ+作者の感想
http://suliruku.futene.net/Z_saku_Syousetu/Tyouhen/Honzuki_no_naiseiti-to/c10.html

【小説家になろう】魔導探究者の異世界クラスハーレム。書籍化されていないことに気づいた
http://suliruku.blogspot.jp/2015/12/blog-post_21.html
【小説家になろう】 読者「なんで現実じゃなくて、異世界でハーレム作りたいんや!」
http://suliruku.blogspot.jp/2015/12/blog-post_71.html





どうでもいい設定I

村長「懐かしいもの・新しい物を見ると作りたくなる」

カグヤ「私が過労死するだろ!?」

村長「さぁ、設計図よこせ✩」

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