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1話 泥棒の国A「こうして軍勢は動き出した」 6KB
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大陸北部の平原。
そこには無数の白骨死体が転がっていた。
骨のあちこちに銃弾による損傷がある。
手足の骨をノコギリのようなもので切断された跡もあった。
恐らくは無残に虐殺された獣人達の死体、ナポはそう思った、心の中に怒りの炎が灯る。
――また、守れなかった。
アフリカ大陸同様、悲劇を止められなかった。
当時、超大国アメリカですら、紛争地帯になった世界最貧国●●●●●●を見捨てた。
その結果、50万人が虐殺され、全ての努力が灰燼と化した。
だが、今は力がある。
全てを超越する召喚魔法。攻撃魔法。転移魔法。回復魔法。巨大戦艦を素手で破壊できる近接戦闘能力がある。
力があれば、今いる獣人達を救う事が可能だ。

「……マスター、あなたはその力で何を目指します?」

心配そうな顔をしたミーニャンがナポに尋ねた。

「……力か。
何故、私はこの体で異世界に来てしまったのか分からないが――」

ナポは過去を思い出しながら一呼吸置いて

「この力の半分ほどはモフモフ・オンラインの皆が一生懸命考えたスキルだ。
機械歩兵はロボットアニメ好きの鉄仮面さん。
艦艇はプラモデル好きのタイターさん。
攻撃魔法はファンタジー好きのリナ・サンバースさんが作った。
これらはゲームとともに消えるはず……だった。
誰にも覚えてもらえず、ただの電子データとしてな。
ならば私のやる事は決まっている」

ナポは両手を大きく空に広げた。

「この力で浮遊大陸の支配権をオークから取り戻し、獣人とエルフを救い、ここに国を造り歴史を作り、皆の生きた痕跡を残す。
それがきっと私がやるべき事だ」
「……具体的にはどうやって取り戻すんです?」
「無論、オークは皆殺しにする」
「いや、平和的に話し合いとかで解決しませんか?
暴力で解決するのは一般社会的に褒められた行為じゃないですよ?」
「無理だな……人間同士ですら、分かり合う事は難しい。
豚相手に領土問題を話し合いで解決するのは不可能に近いだろう。
奴隷にされた獣人達を救うという大義名分を立てて、この地を統一する以上、平和的な解決は決してありえない。
既に戦端は開かれたのだ。
私が死ぬか、奴らが死ぬか。
そのどちらかだ」
「……まぁ、私としても獣人の皆さんを救った方が良いと思いますし……マスターの意見に賛同する事にします。
でも、これって正義なんですかね?
オークを暴力で屈服させるのって」

狐耳を下に垂らしてミーニャンは戸惑っていた。
その問いにナポはゆっくりと応える。

「……正義?
そんなものはこの世には存在しない。
アフリカ大陸で私はそれを何度も見てきた。
50万人を大量虐殺した諸悪の権化が国際社会に許され、副大統領として高待遇を受ける。
虐殺を行った側の子供達が救済され、虐殺された側は親を殺され、貧困に苦しみ、支配される。
それが紛争地帯の現実だった。
あえて正義が何かと聞かれたら……私はこう応えるだろう。
勝利者が正義だ。敗北者は悪だと。
勝者が栄光を掴み、敗者は全否定されるのが現実だ」

そう言ってナポは――指をパチンッと力強く鳴らした。
全MPと引き換えに召喚魔法が発動する。
空と地が、紅く光る大艦隊と、機械歩兵の軍団によって埋め尽くされた。
機械歩兵1000万、艦艇10万隻という異常な大戦力。
ナポの周りには7機の色が違う機械歩兵、ダークエルフの幼い少女、紅い髪の獣娘、エルフの少女、その他諸々を含め、合計12人が居た。
6人は元帥、6人は元帥に仕える副官達。
彼らは頭を下げ、敬愛すべき主人へ忠誠を捧げている。
そんな彼らの態度を見て――ナポは違和感を抱いた。
よくよく考えてみれば、バイオグリーンを召喚した時点で気づくべき。
ミーニャンみたいな超高性能な人口知能を使っていない機械歩兵達が、決められたパターン以外の行動を命令されて、すぐに理解して実行できる知能を持つ時点で気づくべきだった。
――彼らは、自我を持って行動する、ひとつの生命体と化している。
だが、この程度は些細な問題だ。
国盗り。
その偉業を遂行し勝利者となる事が……今のナポがやるべき事。
そのために適切な命令を出さないといけない?
違う。
今出すべきなのは、明確な目標だ。
戦国時代の織田信長が天下を取れた要因の一つに、組織の目標が天下統一だったから分かりやすくて、家臣達が働きやすかったという事もある。
だから、ナポは静かに威厳を込めて――目的を語った。

「諸君。私の愛する兵士諸君。
私達のモフモフ大陸は、オークと名乗る豚どもに侵略された。
原住民である獣人達は犯され殺され、この平原に転がる無数の白骨遺体のように――ありとあらゆる苦痛を受けている。
私達は彼らを助けなければならない。
この地に自由と平和を取り戻すために……二足歩行する豚を全て殺せ。
獣人を保護し、少数部族のエルフを助け、私に勝利を齎せ。
勝利するためならば、どのような非道も私が許す」

空と地を埋め尽くす機械歩兵達から喝采があがった。

「「「イエス、マイマスター!」」

白いドレスを着た、銀髪のハイエルフの少女『白真珠』が顔を上げ、うっとりした顔で

「それでこそ、わっちの主様じゃ。
恰好いいのう。ダンディだのう」

メイド服を着た、女の子『ルビー』は紅い犬耳をピョコピョコ動かして

「僕は主様の偉業に貢献します!」

黒いローブを纏った幼いダークエルフ娘は「……」 無言で答えた。
隣にいる副官のホワイトが代わりに答える。

「黒真珠様は『私に最も難しい仕事を下さいませ』と言っておられます」

リーダーシップがある指導者は、どのようなタイプであれ魅力的に見えるという。
機械歩兵と少女達は、創造主であるナポの魅力に心酔していた。
今のナポの振る舞いはまさに支配者そのもの。
支配者として育ち、支配者として生き、支配者である事が宿命づけられたかのような王者の雰囲気。
ナポは紅いシルエットの機械歩兵に目線を向けて名を呼んだ。

「6元帥の1人レッド・リーダー」
「イエス、マスター!」 
「お前に1個艦隊と機械歩兵100万を与える。
大陸の北部を制圧し、プレイヤーが残した遺跡群を保護せよ」
「了解しました!全てはマスターに勝利を捧げるために!」

レッド元帥は行動に移った。次にナポは青いシルエットの機械歩兵に顔を向けて名を呼ぶ。

「ブルー・ブレイカー元帥」
「イエス、マスター!」
「私とともに大陸中央部を制圧せよ。情報を収集し、敵の中枢を叩け。
可能なら要人を拉致して情報を聞き出せ」
「了解っ!」

ナポは周りの幹部達の顔を見渡し、一気に命令を下した。

「白真珠元帥は大陸南部を、ルビー元帥は大陸東部を、ニュー・ピンク元帥は大陸西部を制圧せよ。
それぞれ1個艦隊と機械歩兵100万を与える」
「「「イエス、マスター!」」」
「黒真珠元帥は予備兵力として控えよ。
2個艦隊と機械歩兵200万を与える」
「……」 黒真珠は無言で頷いて答えた。
彼女は虚無のような眼。全てを吸い込み消滅させるような危険な眼をしている。
ナポは黒真珠にとても危ういものを感じたが――この違和感を無視する。

「そして――」

ナポは指をパッチンっ軽やかに鳴らし、その手に紅ワインが満たされたワイングラスを召喚した。
一気に中にある紅ワインを飲み干そうとして――
(顔を覆う仮面が邪魔でワインが飲めん!?)
という事に気がつき、このままでは格好悪い戦争宣言になってしまう!から焦った。
どうする、どうする、どうする、このワイングラスをどうする!?
このまま持っていたら間抜けだ!?スタイリッシュさの欠片もない光景になってしまう!
そうだ!昔の兵隊達は戦場に行く前に、器を叩き割ってから格好よく出陣していた!
それに習おう!
ナポの脳みそは僅か0.1秒で代替え案を思いついた。
全力でグラスを地面に叩きつけ、粉々に割って命令を下す。

「勝利は我らとともにある!」

辛うじてナポの威厳は保たれた。
1000万を超す下僕達が一斉に主君に敬礼を返した。

「「「偉大なるナポ様に勝利を!この大陸をあなた様に捧げます!」」」

……これが後にウルトラ・メテオ作戦と呼ばれる虐殺劇へと繋がる事になる。
世界史の虐殺した偉人ランキングに、ナポがナンバー1に君臨。
100年後のインターネットの掲示板で『うはw王座に就いて一週間で20億も殺すなんてやりすぎw』というスレが建つ時点で、どんな酷い事をしたのか理解できるだろう。

「もっふふー!」

場の熱苦しい雰囲気に押されていたミーニャンが、少し遅れた敬礼を返していた。


Bに続く。

1話 泥棒の国A コメントまとめ+作者感想
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