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3話 豚の国D
「この結末は貴様が選んだ選択だ。
愚かな選択をした事を悔いるが良い……豚の王よ」

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ボンレスハム、いやオロ皇帝は……ナポの異常すぎる要求に絶句した。
これでは属国になれと言ってるも同然の酷い内容だ。
豚顔を引きつらせる。

「ナ、ナポ殿!?
千年間とは一体どういう事なので?!
10年間の金属の無償供与の間違いなのでは?!」
「ペナルティーだ。
貴様は私に失礼な事をした。だから講和の条件が重くなる。
私が住んでいた世界の常識だ。
わかったかね?」

ナポの声は冷たい。顔も無表情だ。
オロ皇帝は譲歩を引き出すために、必死に抗議する。

「わ、私が何をしたと!?」
「貴様に分かるように言ってやろう。
一つ目――我が国に対し、10万発を超える核ミサイルを撃ってきた事」
「あ、あれは…………は、花火!
核爆弾ではありません、ナポ殿!
あなた様を祝福するための花火だったんです!
綺麗でしたよね!?」
「ほぅ?……なら、これも花火だな」

ナポの指がパチンッと残酷に鳴る。
帝国の第三の都市『ブタリア』がマイクロ・ブラックホールに飲み込まれて消滅した。
4000万匹の豚が圧縮されて潰されて消滅する。
オロ皇帝は一瞬、何が起こったのか理解できなかった。遠い所に、光すら飲み込む黒い塊が出現したと思ったら、一瞬で都市がまるごと消えている。
何が起こったのか全く理解できなかったが、核爆弾よりも恐ろしい何かを感じた。

「ナ、ナポ殿っ!あなたは何をした!?」
「無許可で花火を打ち上げて、都市を一つ消滅させた。
ただ、それだけの事だよ、オロ皇帝。
この国の民草を楽しませるために――花火を打ち込んだのだ、謝罪するから許してくれたまえ。
核ミサイルが花火なら、この理屈が通るはずだ」

どこまでいっても容赦のないナポ。豚の顔は怒りと憎悪で歪んでいる。

「こ、こっちはナポ殿の攻撃で合計60億(数の水増し)も死んだのですぞ!
これを連合の会議に提出すれば……ナポ殿、どうなるか分かっているのですかな?」
「連合か。
それは貴様の国よりも強いのかね?」
「総人口一兆人の大勢力!
そしてっ!我が国は連合の四大理事国の一角!全ての議案の採決を取る超大国っ!
ナポ殿は許されない事をやったのです!
ならば!ここはお互いに罪を忘れ、友好条約を結ぶのはどうでしょうか?」
「私の敵になったら連合が滅ぶだけだ。
私の指先一つで滅亡寸前の国が理事国の時点で――大した軍事力は持っていないのだろう?」

オロ皇帝が把握している範囲内では――それは事実だった。
図星を突かれて一瞬、黙り込んだ豚にナポは顔を近づける。

「――さぁ、話を元に戻そうじゃないか。
貴様の罪はまだまだあるぞ?
二つ目、昼食会でエルフ肉を出した事。モフモフ大陸にいたエルフ達を――食用家畜と性奴隷にしただろう?」
「(モフモフ大陸ってなんだ!?)
そ、そんな事実は、ご、ございません!
エルフにはちゃんと人権を認めております!」
「貴様が認めなくても、私達が一週間かけて救出したエルフという証拠がある。
豚の分際で、肌が陶磁器のように白く、スレンダーで美しい、金髪や銀髪がサラサラの……エルフを犯して食べた。
それは大罪だよ、オロ皇帝」

ナポが指をパチンッと鳴らした。空中に映像が投影される。
その映像は――機械歩兵に保護された『お腹をボッコリ膨らませてアヘ顔のエルフ娘達』だった。
彼女達は豚に犯されすぎて、生き地獄を見たせいで正気を失っている。
しかも、可笑しい事に、映像の中には『男のエルフは1人も』居なかった。
オロ皇帝は証拠を突きつけられたが――懸命に反論する。

「わ、我が国がやったという証拠は何処にあ――」
「黙れ。豚め。
証拠?エルフ肉を出した時点で説明はいらんだろう?
しかも、貴様はエルフの男たちを全部殺して食べた。
おかげでモフモフ大陸のエルフは絶滅危惧種になってしまった。
これが貴様の国の罪だ、豚の癖に人肉を食べるな」

再び、ナポの指がパッチン!と容赦なく鳴る、帝国の第四の都市『ブリスト』の真上にマイクロ・ブラックホールが発生。
一瞬にして3000万匹の豚が吸い込まれて圧縮されて潰されて消滅した。
オロ皇帝、恐怖でブルブル震える。
だがナポの話は終わらない。終わってくれない。

「三つ目、私を会議の席で殺そうとした事。
無礼だとは思わないのかね?
貴様は自らの手で、話し合いの道を閉ざしたのだ」
「すいまぜんでしたぁぁぁぁぁ!!」

豚の王が、地面に跪いて頭を下げた。

「兵士達が勝手に暴走したんでずぅぅぅぅぅっ!!
信じられない不始末をしでかした兵士達の一族はっ!即刻っ!全員処刑ずるがら許じでぐだざいぃぃぃぃ!!
お願いだからもうやべでぇぇぇぇぇ!!都市を消滅ざぜるのはやべでぇぇぇぇぇ!!」
「そんな言い訳が国際社会で通用すると思うのかね?」

再び、指がパッチン!と鮮やかに鳴った。帝国の第五の都市『ブイツ』がマイクロ・ブラックホールに飲み込まれて消滅。住民二千万人が圧縮されて潰されて死んだ。
――ナポの目は何処までも冷ややか。目の前にいる豚を虫ケラとしか思っていない。
豚は恐怖と死の危機感で汗を流し、髪が真っ白になった。一気に数十年の年を取ったかのように老いた。

「四つ目、私の大切なルビーを性奴隷にしようとした事」

ナポの指が、隣にいるルビーの紅い犬耳を掴んで揉む。揉む。揉む。容赦なく揉む。

「こんなにも犬耳が柔らかくて、優雅なメイドさんを慰みものにしようとした。
豚が獣娘に欲情するな。豚は豚でも犯して、屠殺されてろ」

その言葉のおかげで、ルビーが顔を赤らめて嬉しそうだった。
両手を自分の顔に触れさせて興奮している。

(やったー!僕、ナポ様から大切な娘とか言われちゃった!
お嫁さんになれるチャンスかも!
つまりヴェディングドレス着て、結婚!きゃー!)

妄想の中で、結婚式を開催している犬娘を他所に裁きは続く。

「……そ、そのような事実はありません!
ナポ殿の思い過ごしです!」
「役人みたいな事を言う豚だ」
「ナポ殿が侵略した植民地ブロンブスを全て譲りますから!
どうか!譲歩してくだされ!
譲歩してくれないと国が滅びます!」
「……モフモフ大陸の事を言ってるのかね?
あれはマップデザイナーの『お空の天国さん』が作り、私達が千年間住んでいた大地だ。
それをくれてやるだと?
貴様は何様のつもりなのかね?今すぐ国ごと滅亡させても良いのだぞ?」

指がパッチンと軽やかに鳴った。帝国の第六〜第十の都市がマイクロ・ブラックホールに飲み込まれて消滅した。豚が1億匹ほど圧縮されて潰れて消滅する。
ナポの目の前にいる豚は震えた。
――これは話し合いじゃない。
一方的な『命令』だ。
そもそも、私は本物のオロ皇帝ではない。
ここで譲歩を引き出さないと……本物に殺されるだけの『影武者』だ。
そう思った豚は開き直る。
外交は強気で行った方がうまくいく、歴史的な常識を思い出した。
弱気な態度で挑んだから駄目だったんだ。
いつものように、『他国にやるのと同じ態度』で圧迫外交をした方が良いに決まってるじゃないか。
よろしい、ならば強気外交だ。
心の内に『蛮勇』という勇気を奮い立たせる。

「ナポ殿!
この国の最強の兵器をご存知ですかな!」
「最強?最弱の間違いではないかね?」
「我が国には『オリハルコンドラゴン』がいる!
核兵器の直撃にすら耐えっ!10万隻の大艦隊を絶滅神龍波でっ!瞬くもなく皆殺しにした!
あの伝説のドラゴンがいるのです!
ナポ殿が譲歩しないならっ!我が国は切り札を使うしかありません!
さぁ!友好条約を結びましょう!
謝罪として、不法に占領した植民地の即時返還!隣にいるメイドさんをよこせ――アラブッ!」

豚の顔を、ナポが軽く蹴った。
豚は口の中を切って血を吐く。
ナポは今まで感じた事がないほどの怒りに身を震わせていた。

「どうやら――豚と話し合いをするのは間違っていたようだ。
最強の兵器?そんなものがあったら、とっくの昔に使っているはずだろう?
メイドのルビーを寄越せ?
本当に貴様は何様のつもりなのかね?
まさか……未だに貴様だけは殺されないとでも思っているのか?」

ナポが親指と中指に力を込めた。
指がパチンッと鳴り響く。
だが何も起こらない。いや、ルビー、巨大戦艦、屠殺を行っていた大艦隊と機械歩兵達の姿がなくなっている。
どうやら彼らを安全地帯に空間転移させたようだ。
更に続いて指がパチンッと軽やかに響く。

「あ、あああああああああ!?!!!!」

空を見上げた豚は絶叫した。
お星様が見える。たくさんたくさん、星が流れてくる。
宇宙空間が存在しない、この世界では――ありえない異常な光景。
ナポは豚に現状を理解させてやった。

「――今から私はこの国を滅亡させる。
『ウルトラ・メテオ』……宇宙戦争ゴッコをやっていた頃の私の切り札の一つでな。
無数の隕石の落下で、豚は1匹残らず死ぬのだ。
オロ皇帝、貴様だけは殺されないと思ったのかね?
私が欲しいのは――金属資源だけなのだよ。
豚が死に絶えた後の土地を頂くとしよう」
「お、お前は何を言っているんだ!?
連合を敵に回して良いのか!?
今なら間に合う!やめろぉー!
俺の死は世界の損失だぞぉー!」
「これは私からの贈り物だ。存分に味わいたまえ、オロ皇帝」

星が流れる。落ちる。
圧倒的なエネルギーが……ユーラシア大陸ほどの大きさがある浮遊大陸『ブータ』を襲った。
一つの星が衝突する度に、半径100kmにある建物全てが衝撃波で崩れ去る。
15億匹の豚達は痛みを感じる暇もなく、次々と絶命した。
広島型原爆の数十、数百倍のエネルギーが地表に炸裂する度に、砂塵が都市を飲み込み跡形もなく打ち壊す。
若い豚も、老いた豚も平等に死んだ。
オロ皇帝は震える。
自分は一体、何を敵に回した?
目の前にいる紅いスーツの男は化物ではない。
化物という言葉なんて生易しい存在ではなく、まるで――悪魔だ。


「き、貴様!?正気か!
俺を殺せば連合は黙ってないぞぉー!?」

豚は残った勇気を振り絞って、目の前にいる男に問いかける。
返ってきた答えは――

「この結末は貴様が選んだ選択だ。
愚かな選択をした事を悔いるが良い……豚の王よ」

指がパッチンと再び鳴る。
空から無数の星が流れてくる。落ちる。都市が消える。豚が死ぬ。
もうすぐ、この巨大な宮殿を衝撃波が飲み込もうとしている。
豚の王はナポの眼を見た。
真っ黒な眼だ。
豚が何億死のうと、何とも思っていない眼だ。
そ、そうだ、こんな事が出来る存在を一つ知っている!
ま、まさか、あなた様は神――豚の意識はそこで途絶える。
衝撃波が宮殿を飲み込み、豚の身体は砕け散った。
大陸で生き残った知的生命体は、ただ一つ。
紅スーツの男のみ。

「これが愚か者の末路か。
……こうはなりたくないものだな」




この日、ブータ大陸に住む20億の豚が死に、総人口220億を誇る大ブータ帝国の中枢は消滅。
青空連合の四大理事国の一国が、後に『後継者戦争』と呼ばれる内紛で消え去る事が確定した。



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