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9話目の話 |
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大軍勢を見て呆然となったワルキュラ。
彼は重い沈黙を破り、セイルン王を問い詰めた。
『あの大軍とお前らの関係を全部吐け!』と。その怖すぎる骸骨顔で迫ったら、命が惜しいセイルンは
(ひぃぃぃぃぃぃ!!!!喋らないとやっぱり殺される!?!!!)
当然、口から湯水のように情報を吐き出す。一般的な選択肢を選んだ。
「あ、あの蛮族どもは……に、西のピィザ王国の軍勢でありまして、つまり、ワシが何をワルキュラ様に言いたいかと言うと、あやつらはワルキュラ様の敵という事で殺しても良い人間――」
視線を逸らしながら、官僚みたいな言い回しのセイルン。
イライラしたワルキュラ、男を焦らして良いのは美少女だけだ!と思いながら、目玉がない眼窩を真っ赤に光らせた。
「もっと簡潔に喋れ。言い訳はするな」
「は、はいぃぃぃぃぃぃぃ!!すいませんでしたぁぁぁぁぁ!!」
セイルンの長い話を纏めると、地球でもありふれた内容だった。
西にあるピィザ王国が大砂漠を超えて、セイルン王国を侵略しにやってきた。
普通、道の途中に砂漠があると補給と連絡の意味で問題がありすぎるから、防衛側のセイルン王国が勝利するはず。
セイルンは馬鹿息子を十人連れて、二十万の軍勢で迎え撃った。
だが、実際に戦ってみると……見事にセイルン王国は初戦から連戦連敗。
貴族達は寝返り、首都のすぐ目の前に敵軍が迫っている。完全にチェックメイトを打たれたも同然の状況へと追い込まれた。
しかも、このまま状況が推移すると、東のブータ大帝国が攻めてくると思うから、早くなんとかしてください。お願いします。
そうセイルン王はジャパニーズ土下座をジャンプして行い、高い塔から飛び降りる勢いで語った。
ワルキュラが手を伸ばして掴まなかったら、セイルンはあの世に旅立っていたはずである。
(既に詰んでいる国を手に入れたのは、やっぱり間違っているだろうか?)
ワルキュラ。心の悲鳴を上げそうなくらいに辛くなった。
宝くじに当選した感じで一国の中枢をゲットしたら、実は外れクジ、マイナス一兆万円〜。それが今の現状。
でも、戦争に使われる武器や魔法。それ次第でゲームの難易度は変わる。
ルビー達を守るためにも、最低限の情報は聞き出す必要があった。
「おい、セイルン。
水素爆弾を知っているか?」
「す、水素?」土下座したまま、頭の血管がプチンッ!と一つ切れたセイルン。
「一発で国を一つ。いや、威力によっては世界全体を寒くして終了させてしまう爆弾だ。
そういう厄介な兵器や魔法は存在するのか?
あるいは動く鉄の車や船とかは?」
「き、聞いたこともありませんっ!」
「そうか」
自動車や戦艦や、それに匹敵する魔法もない世界。なら戦ってもほとんど被害なしで勝利できる。
そうワルキュラは確信した。
アンデッド達は、昼間はさすがにまともに戦う事はできないが、夜となれば話は違う。
圧倒的な性能を活かして人間の軍隊を蹴散らし、人民の畏怖を今以上に勝ち取る事ができる。
(そうだなぁ……こういう作戦案はどうだろうか?
まず、デュラハン機動軍が出撃。敵軍の側面を突かせて嫌がらせを行う。
その次にスケルトン大陸軍の圧倒的な物量で圧勝させる。
中央突破して分断して、敵軍を各個撃破するナポレオン戦術。
単純だから失敗する可能性が低い。これで行こう)
頭の中で作戦を纏めたワルキュラ。指をパッチンと鳴らし、とある『ヤンデレ』に語りかけた。
「クレア。俺の頭にずっと取り付くのはやめて仕事しろ」
「うん……わかったお父様」
そう返事を返した主は、透明モードを解除して場に姿を現した。
透き通る黒髪、白いワンピースを着ている清楚そうな美少女。麦わら帽子を頭に被っている。
しかし、体のほとんどが透明で、人間にはその姿を視認する事すら無理そうだ。
彼女はスペクター。ゴースト系の最上級アンデッドである。倒す手段がほとんどないという事で、ノー・オンでも評判の化け物だ。
「クレア、これから魔法電子書類を作って送るから、これを総参謀長に渡せ」
「……」黙ったままのクレア。
「どうした?」
「……お父様にまた会えて嬉しい」
クレアの青い瞳がワルキュラをじっくり見つめている。病的と言ってもいいほどに。
完全に彼女は精神が病んでいた。
最終決戦で死んでこうなった訳ではない。
生前、女性として生まれてきた事を後悔するようなひどい目にあった果てに死んで亡霊となった。
全世界を恨み、憎悪した状態の彼女に――優しく接してきた骸骨(ワルキュラ)を父親だとガチで思い込んでいるのだ。
つまり、精神が病んでる女の子『ヤンデレ娘』属性の持ち主。
(俺みたいな骸骨が父親に見える時点で、クレアも可哀想な娘だっ……)
ワルキュラは乾いた笑いを返す事にした。
「……ああ。そうだな。
俺もクレアとこうして再会できて嬉しいぞ」
クレアの顔が花が咲いたような満面の笑みになって、再び抱きついてきた。
幽霊の体ゆえに重さなんぞ全く感じない。
ワルキュラが魔法電子書類を作る間、クレアは彼の頭蓋骨にしがみつき、愛しそうに撫でる。
その酷い有様にルビーはツッコミを入れる。
「クレアさん、どこにも居ないと思ったら、ずっとワルキュラ様の頭に張り付いてたんですね……」
「ルビー」クレアの青い瞳が、ルビーの紅い瞳を睨んだ。
「はい?」
「もしも、ルビーがお父様と結婚したらっ……ルビーの身体を奪っても良いっ……?」
「あぅっ……そ、その、クレアさんは今の姿が一番可愛らしいですよ?
ぼ、僕はそう思います」
「ルビーの事をお母様と呼ぶのは嫌だっ……呼ぶくらいなら取り付いて殺すっ……」
ヤンデレ。それは好きな人が恋敵に奪われるくらいなら殺してしまえ!という行動を実践できる女の子。
何時の日か、彼女の心の病を解かないといけないなぁ〜と、ワルキュラは書類作りながら思った。
女心は難しい。秋の空。
(そうだな、うん。精神科のお医者さんと相談しよう。誰か、日本人の中に医者はいませんかー?)
〜〜〜〜〜〜
目の前で繰り広げられる光景にセイルンは恐れた。恐怖した。小便が垂れた。
化け物どもが『なにもない』空間で『クレア』という存在と会話している。
(ワ、ワシはどんな狂気の世界に踏み入れたんだっ……!)
試しにセイルンは、何もない空間で両手を振ってみた。
そうすると――温和そうなルビーが突然、怒り出して
「じょ、女性の胸に触るのはやめてください!
死にたいんですか!その娘、怒ると怖いんですよ!」
化物(ルビー)の怒声。セイルンは腰を抜かして床に倒れ込んだ。
(ワ、ワシ、オッパイを触ったっ……?)
しかし、セイルンの両手にはそんな感触はなかった。
確かにこの空間には何も存在していなかった。女性特有の柔らかい胸に触れた記憶もない。
つまりそれが意味する事は――
(触れる事も見る事もできない透明な化物がいるっ……!?
あわわわわわわわっ……!)
胃が痛くなってくる。セイルンの頭がストレスで血圧が上がる。
どこに透明な化物がいるか分からない。それはトイレにもいるかもしれない。
井戸の傍で聞き耳を立てているかもしれない。
……透明人間が無数に国中を歩き回っているとセイルンは妄想した。
つまり、うかつな発言をすれば死ぬという事である。
読者の日本人に分かりやすい例がある。
北朝鮮。あの国も……一番偉い人の悪口を言った。そういう告げ口があっただけで粛清されたり、強制労働させられる施設に放り込まれ数年以内に死ぬ。
セイルンが脳裏で考えたのは、いままでやった自分の所業から来る『負のイメージ』。
かつて彼も父親が倒れ、王座を継いだ時に古い家臣を次々と粛清。減った家臣の代わりに自分の派閥の貴族達を高い地位につける恐怖政治を行った事がある。
(ワ、ワシには気を休ませる暇もないのかっ……!?)
ストレスが溜まりすぎたセイルン。24時間監視された生活が待っていると勝手に思い込んだ。
ワルキュラの不興を買えば人生終了。
今までみたいに独裁者がやりそうな事……国家予算を使って巨大な銅像を建てたり、メイドさんに手を出してエッチィ事したり、人民達に貢物をさせて懐を暖かくする『日常』は一欠片も戻ってきそうにない。
(ワ、ワシのバラ色生活がっ……!世界が終わったも同然っ……)
セイルンの脳内の血管が一つ切れた。
彼は場に倒れ、口から泡を吐き、カニのように気絶した。
記録すべき二度目の気絶である。
「……ワルキュラ様?人間が倒れましたよ?」
「……恐らく過労が原因だろうな、ルビー。
独裁者はまともにやっていると仕事が多いから無理もない」
(さすが、ワルキュラ様っ……人間にも優しいっ……!)
セイルン(´・ω・`)ストレスで死んじゃう・・・誰か助けて!
ワルキュラ(´・ω・`)(おうさま業務は大変なんだな・・・)よし骨の身体をプレゼントしてやろう
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