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7話
祖国戦争 序戦
-3「うわぁ……アンデッドの弱点多すぎぃ?
」
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歴史あるセイルン王国の首都カイロン。周りを深い水堀、更にその内側を城壁で覆った城塞都市である。
東のナイルン川から供給される膨大な水資源を有効利用していて、陥落させるのは困難。
水堀を埋めて、城壁を破壊しないと通れない。お前はどこのピザンツ帝国の首都だと言いたくなる都市だ。
それゆえに城と外部を行き来できる方法は、城門に付属する跳ね橋を下ろす。もしくは下水道などの非合法ルートのみ。
しかも、ナイルン川に船を浮かべれば物資と援軍を送り放題。敵軍の船が来そうになったらピザンツ帝国みたいに、川の上の鎖を設置すれば通れなくなるから万全だ。
ここまで言えば利点だらけに見えるだろう。でも……この首都には問題点がある。
数十万に及ぶとされる人口。だから、とんでもない大食い飯なのだ。
食料の流通システムに打撃を与えてやれば、餓死者がバタバタと出て勝手に内部から陥落する。
二週間以内にピィザ軍を壊滅させないと、ワルキュラの軍勢ごと崩壊待ったなしだった。
〜〜〜〜〜〜〜
城門の前にある広場。そこには首がない亡霊馬に騎乗した全身鎧(デュラハン)が千人ほど並んでいる。
目的は『外にいるピィザ軍の蹂躙』
騎兵は蹂躙戦が得意。もちろんスピードもあるから追撃戦も大好物。
デュラハン機動軍の長であるデュー。彼はピクニックに行くような楽しい気分だった。
黒い全身鎧をプルプル震わせ、真っ暗な夜を見上げ呟く。
「夜だ。俺達の時間がやってきたぞ」
「へへへへへへっ……!力が湧き上がってくるぜぇっ……!デューの旦那っ……!」
デューの隣に茶色の全身鎧がいる。この鎧は副官のハーンだ。
太陽が地平線の向こうへと沈んだ事でステータス弱体化が解除され、この場にいる全てのデュラハンが歓喜の声を上げている。
皆、その、うん、発言が遊牧民族だった。
「殺せっ!殺せっ!殺せぇっ!」
「がんほっー!がんほっー!がんほっー!」
「逃げる歩兵は獲物だ!逃げない獲物は活きのいい獲物だ!」
「金銀財宝は略奪……げふんげふん、ドロップアイテムは公平に分配しよう!」
遊牧民族は馬と家畜とともに生きる草原の民。
基本的に定住せずに移動する生活を繰り返すから、富を蓄積できなくて貧乏なのが歴史の常識。
周りの農耕民族襲撃して略奪して生活する。そういう人種だ。
だって人間は富の格差があると嫉妬する生き物。豊かな富を持っている人間達を見たら襲わずにはいられない。
銃器が普及していない時代なら、弓と馬の機動力が合わさって最強。
そんで、ここにいるデュラハンのほとんどは、生前『遊牧民族』だった。
正直、騎士出身のデューには辛い。だが、それでもワルキュラから託された軍勢なのだ。実際に彼らは強いし、贅沢は言えない。
(……ようやく騎兵として俺達が活躍する時が来た。千の夜と一万の昼を超えて、この日がやってきた。
ワルキュラ様。俺の忠誠を示します)
騎兵。それは密閉空間の地下要塞では役に立たない兵種。
アカンドラ地下城塞で働いていた頃、彼らは重装歩兵として頑張った。
だが、プレイヤーから『デュラハンじゃなくてリビングアーマーじゃんw』『馬から降りたデュラハンとかないわww』『しかも使っているのが弓矢ばっかりとかwww弓兵じゃんwww』と散々、馬鹿にされたものだ。
そんな悔しさを吐き出す形で、デューはデュラハン達がいる方向に振り返って叫んだ。
「皆の者!俺達はなんだ!」
「「デュラハン!デュラハン機動軍!」」全身鎧の集団が仲良く返答した。
「俺達の仕事はなんだっ!」
「「圧倒的な力で敵陣を切り裂くこと!」」
「捨て去った遊民民族の常識は!」
「「強い奴がきたら草原に逃げる!弱い奴を見たら叩く!
何も持ってない俺達と戦争しても利益ないから農耕民族涙目!ざまぁ!」」
「俺らの役割は!」
「「塹壕陣地を突破する戦車さん!」」
「よろしい!ならば戦争だ!
俺達は戦場を駆け抜ける狼だっ!
跳ね橋を下ろせぇー!」
デューの命令とともに、城門の上にいる人間達が恐怖で震えながら巨大なハンドルを回して開閉装置を動かす。跳ね橋がゆっくりと外側へと降りていく。
しかし、ここで異変が発生。
跳ね橋を上げたり下ろしたりするために存在する連結部分……鉄の鎖が恐ろしく錆びていてボロボロだった。
耐久力が落ちている。そのためブチンッと切れ、跳ね橋が自由落下。向こう岸の先端と跳ね橋が接触。そのまま固定されてしまった。
つまり、今なら厄介な水堀を越えて首都カイロンに敵軍が入り放題。
更に悪いことに、真夜中なのに大きな光の玉が夜空に輝く。全てを照らし出す。
人工太陽と言っても良い球体。その光を見たデュラハン、いや全アンデッドが驚愕した。
(ば、馬鹿なっ……!夜なのに太陽があるだとっ……!?
この世の法則が乱れるっ……!?)
昼間の太陽よりは光量は遥かに少ない。それでもデュラハン達のステータスを4分の1程度に抑え込む程度の効果があった。
このまま出撃して、外にいる敵軍と衝突すれば大損害を被る。
そう理解できるほどに、憎々しい光がデューを貫く。全身鎧がとても重たく感じた。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!なんだあれはぁぁぁぁ!?!!
俺達の活躍の場を奪うために来たのかぁぁぁぁ!?
太陽めぇぇぇっ!ワルキュラ様に屈服した癖にぃぃぃっ!謀反を起こしたかぁぁぁぁ!恥を知れぇぇぇー!」
怒りりともにデューは焦った。
これでは他の連中から『動く鎧(リビングアーマー)さん、おはよう!』『重装歩兵って格好良いっス!』『え?騎兵だったの?知らんかったわぁー』と悪意のない悪口を言われてしまう。
断じてそれは許せなかった。騎兵としてのプライド的な意味で。
(騎兵は騎兵だ。騎兵は広い場所で活躍してこそ価値があるっ!
なのになぜっ!太陽は邪魔をするのだっ!)
しかし、このまま出撃すると壊滅するのは必至。デューだって理解している。
でもワルキュラ様の命令は絶対。
デューは二つの矛盾に悩んだ。その果てに――
「出撃するぞ!」
「しゅ、出撃はやめましょうぜ!
こういう時は草原に逃げ……じゃなくて、拠点に篭るのが一番でさぁ!」
焦燥感に駆られた副官がデューを諌めようとする。
「そういう訳にはいかない!
命令されたら、どんな理不尽な内容でも従うのが騎士の義務だ!
統率を乱す事は絶対に許されないっ!
それにお前はまた『リビングアーマー』呼ばわりされたいのか!?あいつらに!」
「ワルキュラ様に意見具申しましょうぜ!
ほら、魔法で通信すればすぐに……あれ?」
この時、ハーンは気がついた。通信用の魔法を使っても情報部と連絡できないことに。いや、他の魔法もほとんど使えない。
明らかに原因は『夜に輝く人工太陽』だった。
あれがアンデッド達が使う暗黒魔法を阻害し、無効化している。
魔法も使えないとなると、戦力は激減である。
世界最強の米軍に突撃して、壊滅するイラク戦車みたいに危ない。
(やべぇぇぇぇぇぇ!!!デューの旦那と一緒に無理心中させられるぅぅぅ!)
副官さんの人生が大ピンチ。
このままじゃ、たった千人のデュラハンと一緒に、14万人の謎の技術を使う軍勢と激戦である。
はっきり言って、現時点では人間側の魔導技術の方が、遥かに上だと判断するしかなかった。
壊滅間違いなし。
敵軍の軽騎兵に退路を絶たれたら、その時点でおしまいである。
あと、少しで出撃しそう。そんな時に助けてくれる天の声がやってきた。
天空から連絡員のゴースト娘がゆっくり飛んできた。幽霊らしい白装束を着ている。
『ワルキュラ様からの命令です。
馬から降りて、重装歩兵として待機せよとの事です』
今日もデュラハンに求められる働きは『動く鎧(リビングアーマー)』だった。
首のない亡霊馬達が悲しそうに、首をブルブル震わせていた。
デュラハン達は悔しそうに全身鎧をガタガタと軋ませる。
騎兵が歩兵として働くのは、現代社会で例えるなら、大企業のエリートがアルバイトをやるようなもの。そう考えれば彼らの苦しみが理解できるだろうか?
騎兵じゃないと分からない苦悩を見て、ゴーストの女の子は不思議そうに首を傾げた。
「リビングアーマーの皆さん。今日は珍しく馬乗ってるんですね。
……あ、すいません。デュラハンでしたよね。
ごめんなさい」
この話のコメントまとめ+作者の感想
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デュラハン(´・ω・`)歩兵なんてウンコ!雑魚!
足が遅いから鬼ゴッコになったら俺が勝つ!
ゴースト娘(´・ω・`) リビングアーマーさん・・・・・なんか辛い事あったんですか?
自虐はやめましょうよ。
デュラハン(´・ω・`)
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