広場を埋め尽くす骨の軍勢。
それを見た人間。特にセイルン王は恐怖で身体が震え、胃が痛くなってきた……主にストレスが原因で。
(お、終わった……!やはり異世界召喚は禁忌の魔法だったんだっ……!
ワシの代になってとうとう災厄を引き当ててしもうた……!
あわわわわわっ……!)
その茶色い骸骨達をよく観察すれば、ステータスがダウンしすぎた影響で、骨で構成された手足がプルプル震えている。
骸骨達がとても辛そうだという事が分かりそうなものだが……セイルン人は、蠢く不死者の存在そのものを初めて見たから無理もなかった。
何せ外見が怖すぎる。
スケルトン達の外見は、人間の死んだ後の姿だ。何時か自分もああなるという『根源的恐怖である死』の象徴。
夜に目撃したら一人でベッドに入って眠れなくなりそうな外見をしている骨達が、プルプル震える。もうこれは――
(ワシらが怯えて恐怖している様を見てっ……!
化け物どもが喜んでいる……っ!?あわわわわわっ……!)
怖い邪神が従える『なんか強そうな』死者の軍勢。そんな感じに見えた。
そんなものに打ち勝てる存在は、神話に存在する神々くらい。
今のワシの心境は、象に無造作に踏み潰される寸前のアリさん。
いや、それよりもっと酷い。きっと山に潰されるアリさんだ。
(ど、どうする?どうする?どうするぅー!?)
@セイルン王は天才的な発想で、邪悪な軍勢を撃退した。
Aどこからか、神様がやってきて無償で助けてくれた。
☛B現実は非情だった。あきらメロン
(ワシが諦めてどうする!?)
確かそう。三世代前くらいのご先祖様も、本の中でこう言っていた。
『諦めたら、そこで人生終了ですよ』『そして、無理なものは無理なのです。諦めろ』と。
武力での排除が無理ならば、譲歩しまくって妥協を引き出せばいいじゃないか。
(そうだ、まだ交渉の余地はあるかもしれない……)
そんな楽観的な発想をしたら――
「お、お前らぁー!何とかしろぉー!
その化物どもを殺せぇー!」
セイルンの息子。馬鹿な事で有名なフミィダイ王子が状況を悪化させた。完膚なきまでに話し合いの余地をぶっ潰した。
しかも、命令を出しても……兵士たちが恐怖に支配されていて、足が前に全く進まない。
最初から絶対に負けるとわかっている戦いに挑戦できるほど、彼らは勇敢ではなかった。命に見合う給金払える国なんてこの世には存在しないだけに。
「は、早く動け!お前らっ!
なんで動かないんだ!」
焦るフミィダイ王子。王政の絶大な権力で今まで好き放題やってきたから、状況の変化に頭が対処できていなかった。
兵士達が眼で『お前がやれよ、豚』と語っているが、王子の相手の心情を察するスキルはレベル0。
逆に剣を所持したスケルトン達がプルプルと震えて「我らが王に敵対するものは殺す」と呟いて、王子にゆっくりと迫ってくる。筋力もペナルティで激減しているせいで、アダマンタイト製の大剣が重く感じて辛そうだ。
でも、外見が怖いから無問題。人間達には『生者を嘲笑っている骸骨達』に見える。
「ひ、ひぃやぁぁぁぁぁ!!!
兵士ども!お、俺を守れぇー!ば、化け物がやってくるぞぉー!」
骸骨の怖さに恐怖した王子。彼は腰を抜かして倒れる。スケルトン達はゆっくりと骨をギシギシときしませて前に進む。
その瞬間、場を駆け抜けた一人の少女がいた。
高級そうな絹の黒いドレスを着ていて、輝く銀髪が美しい少女だ。
風のようにスケルトンと兵士達の間を駆け抜け、王子へと迫る。
(ひょ、ひょっとして俺を助けてくれるのか?)
よく見たらとんでもない美少女。年齢は恐らく十歳ほど。
肌は真っ白でこの世のものとは思えない。目は血のように真っ赤。口には鋭い牙。
そんで、足を大きく振り上げている。
(え、なんで足がそんなにすごい速度で迫)
「ワルキュラ様に仇なす賊は死ねっ!」
王子のお腹に、小さな足が突き刺さった。
そのまま膨大なエネルギーが炸裂。彼は空を飛ぶ。雲を突き抜け青空へ。
惑星の上空。そこは空気が薄くて酸欠で脳みそが痛くなる場所。
(あるぇ……お空を飛んでる……?)
そのまま王子の意識は闇へと落ち、眼を覚ます事は二度とない。
彼の最後の姿を見たものは、海に住んでいる『夕御飯中』の魚さん達だった。
人間が超高速で海水にぶつかると、海水が一時的に壁同然の存在となり、人体がバラバラに吹き飛ぶのは秘密だ。
王子を蹴り飛ばした吸血鬼の少女。プラチナは、身体が重くて重くて仕方がなかった。
LV5000の魔王級の存在とはいえ、太陽が出ている地上では弱体化ペナルティを免れる事はできない。
アンデッドが太陽に弱いのは、この世界でも通用するルール。
今の彼女はパワーダウンしすぎて、レベル500程度の雑魚に過ぎない。
(辛い……真っ暗な地下空間が恋しい……太陽なんて大嫌い……)
だが、この辛さ。とっても生きているという感じがする。
地下深くで行われた最終決戦。主君を守るための盾となって死んだはずの自分がこうして再び身体を得て、大好きな主に再び仕える事ができるのは至上の喜び。
ワルキュラの大きな骨を見るだけで、心が癒され勇気が湧き出てくる。
ならば、やる事は一つ。
身体が重くて辛くても忠誠を示す。
息を大きく吸い、疲れている素振りを隠し、広場にいる全ての存在に呼びかけた。
「人間どもっ!このお方を誰だと思っているの!?
ひれ伏しなさい!下等生物がっ!」
その声に全ての人間達がビクンッと震えた。
逆らえば『馬鹿王子みたいに蹴り殺される』そう判断するのは容易い事だった。
だが、邪悪に屈するのは宗教的な意味で駄目だ。絶対、神様が激怒して死後は地獄行きである。
だから、皆、セイルン王の方を見た。
セイルン王は宗教で権力を維持している国のリーダー。つまり、神の地上代理人だ。
そんな彼に、人間達が眼で『どうすれば良い?』と問いかける。
セイルン王。彼は後にテレビ番組で放映されまくる、そんな歴史的な決断をする事を強いられた。
(頭を下げれば今は生きれる。だが、王の権威は失墜する……)
セイルン王は困った。息子の死は今はどうでも良い。
たくさんいる後継者その1だし。ハーレムで大量に子供を作ったから、まだまだ予備はある。
でも、武力による徹底抗戦は――諦めるしかない。
(先ほどの少女が……この化物どもの平均的な強さだとしたら……勝てない)
きっと、外見が怖いスケルトン達はもっと強いのだろう。城壁を殴っただけでぶっ壊せる存在に違いない。
王にはそう思えた。
なぜか、どの化物もプルプルと身体が震えているが、先にこちらから攻撃を仕掛けたから怒っているんだろうなぁと判断できる。
武力も駄目。話し合いも駄目。
ならばやるべき事は一つ。
セイルン王は玉座から立ち上がり、ジャンプっ!
日本人奴隷から会得したジャパニーズ土下座をその場で実行した。
(ワシの権威が終了したっ……!セイルン王朝終了っ……!)
王が土下座した事で、兵士や貴族達も場に跪き、ワルキュラへと向けて頭を垂れる。
広場の外縁部にいた市民や日本人奴隷も、新しい権威(ワルキュラ)へと頭を下げる。
人類の歴史だと『こういう場面で頭を下げない奴』は粛清リスト入りするし、彼らの場の空気を読むスキルは高かった。
ちょうど良いタイミングでワルキュラが、気絶するのをやめ、眼を真っ赤に邪悪に光らせる。
それが人間達には
((化物が喜んでいる……これが新しい支配者……?怖い……っ!背筋が冷たいっ……!))
……この時、場にいる全ての人間達は確信した。
下手をすれば、人間の地位は奴隷。いや、最悪の場合『家畜』にまで転落する。
これは人間の時代の終わりの始まりであり、邪悪な神による暗黒時代の始まりだと――本能的に理解できた。
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