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Lv0の不死王!
3話
国盗り物語-3 「不死王のミュージカル」


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気絶から眼を覚ました骸骨(ワルキュラ)。
彼は、周りの光景を見て愕然とした。

(なぜ、人間達が俺に土下座しているんだ……?)

豪華な絹の服を着た王侯・貴族、軽い武装の兵士、遠くにいる貧乏そうな平民達すら、地面にひれ伏し、神々を崇拝するような感じで大人しく土下座している。
その数はざっと見える範囲でも数千人。
権力を持つ独裁者だけが味わえる光景。快感……は感じない。

(俺が気絶している間に……何が起きた?
なぜ、こうなった?)

疑惑が湯水のように広がるばかりである。
だが、都合が良かった。人間達が勝手にワルキュラやアンデッドに畏怖して大人しくしているのは理想的と言ってもいい。
自身の今のLVがゼロで、配下のアンデッドが超弱体化している事実を知られる事に比べれば、遥かにマシだ。
それに――死んだはずの家臣達がこうやって蘇り、再び、従ってくれる。
違う異世界に来たって……ワルキュラは一人じゃないんだ。骨がハーレムやるのは間違っているだろうか?

(俺を庇って死んだプラチナとルビーが生きている。
アトリ師匠も、エルフ耳をピョコピョコにして元気そうだ)

ワルキュラが女の子達を見て、懐かしんでいると

「全員整列っー!」

プラチナが肺にある空気を全て消費して号令をかけた。吸血鬼やスケルトン達を始めとしたアンデッド達がゆっくり動いて並び始める。
太陽光が辛くて全員がプルプル震えていた。だが、それを表情に出さないように頑張っている。
しかし、三十万匹のアンデッド。そんな大人数が整列できるスペースなんてものは広場に存在せず、ほとんどは街中や屋根の上をウロウロと歩くだけで情けない姿を披露していた。
だが、これで良い。生者は死者が動いている姿を見るだけで勝手に恐怖する。
苛められるくらいなら、恐れられた方が良い。これは職場・小国・街のチンピラの生き残り戦略としてよく採用される手段でもある。
それに広場で、土下座中の人間の兵士達から見れば

「あ、ありえないっ……!」
「あの物量が整列しているっ……!?」
「凄まじい練度だっ……!」

集団行動の大変さが分かるだけに、ノロノロと動きながらも整列するスケルトンの大軍にびびった。
このアンデッドは初めて来た場所。狭い場所にも関わらず整列しつつある。
これはとても訓練されている証だ。

〜〜〜〜〜

仮に、この広場にいる一人の兵士。二十代前半の冴えない男に、安田ヤスと名付けるとしよう。
彼はセイルン王国の戦争奴隷。昔、日本の学校で平凡に男子高校生をやっていた所を学校ごと拉致られ、同級生は戦争でほぼ無残に戦死。
生き残った幼馴染のノリコと一緒に家庭を築き、安い給料で扱き使われながらも小さな幸せを守ってきた。
そんな立派なお父さんだ。

(邪神が全てを支配したら……給料はどうなるんだ?)

お父さんの仕事は、家族を食わせる程度の給料を稼ぐ事。
しかし、セイルン王国の支配者が変われば、日本人奴隷達はお払い箱になる可能性がある。
この国にはハローワークはない。仕事はコネがないと見つからない。そもそもインドみたいなカースト制度が支配する国。
職業を自由に選択できる権利なんてものは最初から存在していない。あるのは重労働で低賃金な仕事だけ。
日本人である。ただそれだけで理不尽な社会的なペナルティを負っているのだ。

(ヤスノリ、ヤスコ……お父さんはどうすれば良い?)

ヤスは二人の子供達の姿を脳裏に浮かべる。
彼は子供の笑顔を守るためならば、王だって斬り殺せる(拉致誘拐を命じた本人だし)
圧倒的な力を持つ邪神なら、従えば給料くらい出してもらえるはずだ。
王国に義理はない。むしろ、戦争を強要して同胞を無残に戦死させられた恨みがある。
親友の長島は疫病で『死にたくないよぉ……母ちゃん】と言って戦地で事切れた。
クラス一番の美少女サユリちゃんは『あぅ?』エッチィ仕事をさせられ、最後は虚ろな目にかかって性病で死んだ。
セイルン王国は、日本人を奴隷同然に酷使して捨てる最低な国だ。無理やり人間を召喚して奴隷にするウンコ国家だ。

(俺は家族を守りたい。ノリコを守るとそう誓ったんだ。
ならば……邪神とやらに従うべきなのだろうか……?)

そう思ったヤスの前で、死者の軍勢によるパレードが始まった。
三十万を越すスケルトン達が、手に持っている武器を地面に激しく打ち付ける。

「「我らの偉大なる王っ!死を超越して復活せり!
我らっ!スケルトン大陸軍っ!この物量を持ってワルキュラ様の覇道に加担するものなり!!」」」

喉がないはずなのに、人骨達が奇妙な声を発した。
それは重くて、聞いているだけで背筋が寒くなる。
太陽光が辛くて、手足の骨が重くて、スケルトン達がプルプル苦しそうに震えていたが……ヤスの目には

(このワルキュラという死の王の復活を……こいつらは心の底から喜んでいるんだっ……!
これだけ膨大な数の死者が崇拝する存在とは一体っ……?!)

スケルトン達が歓喜に打ち震えて、プルプル震えながら武器を地面に打ち付ける。そんな光景に見えた。
今度は千人近くいる吸血鬼達が、近くにいる兵士の槍を奪い、それを地面に打ち付けて叫ぶ。

「「百八の世界に名が届いた大魔王ワルキュラ様!地獄から再びお帰りになられた!!
我ら吸血鬼親衛隊っ!主を守る最強の精鋭なり!」

太陽光が辛すぎて、吸血鬼は全員が無理やり、顔の筋肉が引き攣りまくった『不自然な作り笑顔』を浮かべていたせいで、それが人々の恐怖を呼んだ。
顔は笑っているのに、目が死んでいる。心を押し殺して無理して仕えているようにしか思えない。
その光景を見た人々は恐れおののき、ヤスも背筋がゾクゾクッ!とした冷たさを感じながら

(人間を容易く蹴り殺せる化物達ですら……あの骸骨は無理やり従わせる事ができる存在という事なのかっ……!
さすが死の王っ……!?ヤスコ、ヤスノリ、お父ちゃんはどうすれば良いんだ!?)

化物の宴は続く……広場の面積に限りがあるから、そんなに激しい運動はできなかったが。
今度は、体中に触手が生えた巨大な化物達が、無数の触手を空中へと持ち上げて

「「人間達も喜べ王の復活を!神の軍勢(プレイヤー)すら駆逐し神話となった偉大な存在を崇拝せよ!
我らは触手蹂躙軍っ!この無数の触手を持ってっ!ワルキュラ様の障害物を排除するものなり!
水場での戦いは我らに任せよ!」」

やはり太陽光のせいで、触手がフニャフニャに柔らかくなって力強さはなかった。だが、異形ども達が発する言葉に人間達は動揺せざる負えない。
多種多様なアンデッドと生者を統べる……そんな存在は現実の歴史を見ても『帝王』としか表現しようがない。
ヤスも、ようやく仕えるべき主に巡り会えたような気分がして心が高揚してきた。

(あの巨大な骸骨は神話になるような存在なのかっ……!俺、学生の気分に戻ってワクワクしてきたぞっ……!)

良い上司に巡り会えた気がした。これだけ膨大なアンデッドにやる気を与えれる存在。すなわち歴史に残る大英雄。いや、神話の再現。
普通に生きていたら、出会う事が不可能な存在だ。
ヤスには、不死者の軍勢が幸運の象徴みたいに見えてきた。

「「王とともに、最終決戦で死んだ我らも再びっ!地獄の底から蘇りっ!
我らっ!ダークエルフ技術班っ!職人としての腕を持って貢献するものなりっ!」」

肌が褐色の美しいダークエルフ達が膝をカクカクプルプル震えさせて、頑張って叫んだ。
兵士から奪った槍を杖がわりにして、なんとか立っている。
素晴らしい巨乳の美少女が多くて、日本人にはたまらんナイスバディ揃い。
ヤスも見るだけで元気になれた。どこが元気になったのかは察して欲しい。

「「今っ!ここに我らは新たな忠誠を誓う!
我らっ!デュラハン機動軍っ!圧倒的なスピードで戦場を切り裂く勇者なりっ!」」

超高価な全身鎧に魂を込めたアンデッド『デュラハン』鎧から悲鳴じみた金属音が上がっている。
体が金属で超重いせいで、余計に辛い。そんな感じだ。
重装備の兵士の問題点を、ステータスが弱体化した事で味わいまくっている。

「「永遠の絆を結びましょう!
我らっ!エルフ魔法開発班っ!この魔法を持ってワルキュラ様に更なる力を齎すものなりっ!」」

なぜか不思議な事に、これを叫んだのは美男美女のエルフの集団だった。太陽光はむしろ好物。だから、笑顔でハキハキと行動していて逆に不気味になっている。
吸血鬼、スケルトン、ダークエルフ、エルフ、触手、見えないゴースト系モンスター、デュラハンなどなど。この場には無数の化物達が蠢き、たった一つの存在を崇拝していた。
全ての化物が口を揃え、仲良く叫ぶ。

「「世界を滅ぼせと言われたならば、滅ぼしましょう!
親を殺せと言われたならば殺しましょうっ!
命令されたならば、我ら三千世界を殺し尽くし、神を射殺さん!」

綺麗に三十万近い声が統一され、荘厳に都市の外にも響き渡った。
一つの存在に統率された大軍勢。まるで一つの生き物のように感じれる。
ヤス以外の人間にも、この光景を見て理解した事がある。これは――

((神話の世界の再現だ……邪神的な意味の……))

恐ろしい力を持った死者の軍勢。大抵の宗教ではヤラレ役だが、不思議と神々しさを感じる。
今、人間と化物。その全ての視線が一つの存在に向けられた。
黒いローブを纏った巨大な人骨。圧倒的な存在感を放つ死の超越者ワルキュラ。
死すら支配し、再び蘇った本物の化物。
異世界で虐げられてきた日本人達には、救いの救世主のように見える。
差別意識高い王国の人間達に酷使されるより、目の前の化物に従った方が得だ。
セイルン王国の宗教なんて知った事か。俺たちを奴隷のように酷使するクズより、神話の化物の方が良い。
ヤスはそう思って走る。そして、ワルキュラ……に近づくのは怖かったから、50m手前で跪いた。

「ワルキュラ様っ!お、俺はあなた様に忠誠を誓います!」

ヤスの視界。すぐ目の前。プラチナの小さな足先が、彼の顔のすぐ傍で止まっていた。
あと少しでも発言が遅れていたら、そのまま蹴り抜かれて
『生首だけ空の旅行さんに行くよ!胴体さんとサヨナラー!』状態になっていた事は間違いない。

(やべぇぇぇぇぇぇ!!お、俺っ!殺される寸前だった?!)

命の危機に怯えるヤス。プラチナは紅い瞳で彼を見詰めて優しく微笑んだ。

「ワルキュラ様に従うなら生きる価値があると認めるわ!
アナタ達の働き次第では、老いない不滅の命をくださるわよ!」

それを切欠に次々と場の日本人や、奴隷階級の者たちが声をあげる。
この社会。奴隷が成り上がれない超階級社会だけに、これは成り上がるチャンスでもあぅた。

「「俺達もアナタ様に永遠なる忠誠をっ!」」
「「ワルキュラ様の復活万歳っ!」」
「「死の超越者に祝福あれっ!」」

この光景を見て、セイルン王を始めとした特権階級は恐怖した。
今まで酷い待遇で酷使してきた連中が、化物を崇拝。
一瞬にして、長い間、築き上げた支配体制が完全崩壊したことを意味する。
体制の崩壊は秩序の崩壊。もう、セイルン人達に日常は帰ってこない。
1割のセイルン人が、9割の『その他』を支配する日は終焉を迎えた。
特権に甘えてきた彼らは没落するしかない。
今までのように奴隷を酷使して経済活動をやらせ、戦争になったら日本人を異世界から拉致して使い潰す生活はおしまいだ。
不死王ワルキュラは、十分もかけずにセイルン王国の中枢を征服してしまったのだ。

「ワ、ワシの国がっ……!ワシの栄光がっ……!」

バタン

土下座中のセイルン王。ストレスが溜まりすぎて頭の血管が切れて倒れた。



〜〜〜〜〜〜〜

膨大な人民の拍手喝采。忠誠を誓う発言の数々。
当のワルキュラは困っていた。

(なぜか、俺が人気すぎる件)

だが、骨だから表情に出ない。骨に肉はついてないし。
次々と人間達が『永遠の忠誠を!』などを叫んで、ひたすら拝み倒してくる。
まるでこれは新興宗教の教祖様になった気分だ。
しかも、今の自分の姿は巨大な人骨。部下は一部を除いて化物の軍勢。
一神教でよく設定される神様『僕の考えた理想のかみさま』に見えるはずもない。
多神教だって、骸骨は悪役とは言わずとも、ちょっと強いモブキャラA程度の価値だろう。
ギリシャ神話でも、骸骨っぽい外見の手下を使う奴は、負け組陣営だし。

(なぜ、俺を崇拝するんだ……ま、まさか……?!)

疑惑を膨らませたワルキュラ。意外な事を思いついた。
骨を崇拝する。つまりそれが意味する事は……この国は骸骨を神聖視してたりするのだろうか?
太陽神『頭蓋骨』
運命神『後頭骨』
愛の神『鼻骨』
そんな宗教体系が存在しているのかもしれない。そう思えた。

(骨を崇拝する宗教が実在してたら都合は良いが……なにそれ怖い……?
人骨は死の象徴だろ?人間が根源的に恐怖する存在を崇めるなんて狂ってるぞ……。
黒魔術で赤ん坊を生贄にしてそうな奴らだな……うん)

「「圧政からの開放者っー!ワルキュラ様万歳っー!」」
「「死の超越者!我らの偉大な王っ!降臨せりー!」」

想像を絶する奴隷と日本人達のうっとうしい信仰心の発露。
死刑囚プレイヤーや、スケルトン達に崇拝されて慣れていたはずだが、なぜか自分の存在そのものが恥ずかしく思えた。
LV0の最弱。そんなクズみたいな雑魚が崇拝されている。
もう恥ずかしくて顔が真っ赤になりそうだ……骸骨に肉も血管もないから、顔を赤らめる事そのものが不可能だが。

(もうやだ、こんな異世界文化交流……。
俺はルビー達と静かにイチャイチャしたいだけなのに……なんて骨体!)

何もない眼窩から、赤い光が消えた。
場には貧乏そうな身なりの人間達と、アンデット軍団の叫び声がひたすら響く。いつまでもいつまでも……


……遥か後の歴史家はこの出来事をこう語る。
『ワルキュラの降臨。完全にこれは……事前に入念に計画した侵略行為だと。
ワルキュラは一言も発さずに、その場で屹然と立っているだけで、周りが彼の思うとおりに進み、セイルン王国は降伏したのだ』



 

この話のコメントまとめ+作者の感想
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ワルキュラ(´・ω・`)ほとんど何もやってないのに、一国の中枢を征服しちゃった俺・・・・・


セイルン王(´・ω・`)権威が喪失してもうた・・・・ワシはどないすればええんや・・・・・?




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