前にゆっくり戻るよ!  ゆっくり次に進むよ!  49話の感想返しはこちらだよ! 
ゆっくり戻るよ!
ラッキーの不思議な旅
25国目 原始共産主義の国 前篇




インドシナ半島に位置するカンボジアヤー国。
東にベトナム、西にタイ、北にラオスと国境を接し、南は南シナ海に接するこの国で、ラッキーはいつものように男をポイ捨てしました。
滞在中、お金や物を貢がせるだけ貢がせたら用済みなのです。
男は10代前半の若い少年で善良そうな顔立ち、暖かそうな長袖のシャツとジーンズを着ています。
少年は立ち去っていくラッキーの後ろ姿を見て泣きながら叫びました。

「ラッキーちゃん!
なんで僕と別れるんだ?!」

ラッキーはクルリッと場で一回転して、笑顔のまま少年に残酷な真実を突きつけました。
若い少年の純情を踏み躙る酷い女です。

「ポルポト君。
私、この国が飽きちゃったから、他の国に行きたいんだよ。
だから、君との付き合いはここでおしまい。
じゃ、さようなら。」

「ラッキーちゃん!!?!!!」

これは今から数十年前の昔話。
この少年が、カンボジアヤー国をまっさらにしちゃうレベルで世紀的な大量虐殺しちゃう元凶になる物語。
 当 時 の 世 界 の 半 分 は と っ て も 真 っ  赤(共産主義) で す。












数十年後、ラッキーが立ち寄った、とある先進国の喫茶店で、新聞の国際ニュース欄を読んでみると、そこには懐かしいポルポト少年がオジサンの年齢になっている写真がありました。
その新聞記事【朝目新聞】には、ポルポトが率いた組織クメール・ルージュ(カンボジア共産党)がカンボジアヤー国で政権を取った事と、世界中に散ったカンボジアヤー人を集めるために、以下のような演説をした事が記され、カンボジアヤー国はアジア的な優しさに溢れた国と説明されています。

ポルポト【医者や教師、政治家など学のあるものは私の元に集まって欲しい】
ポルポト【カンボジアヤー国が発展するためには諸君らの力が必要なのだ】
ポルポト【海外にいる者も皆カンボジアヤー国の発展のために帰ってきてくれ】

これからカンボジアヤー国を発展させるための人材を集めようとするための宣伝。
そう受け取ったラッキーは、昔捨てた男に久しぶりに会ってみようかな?と思ったので、数十年ぶりにカンボジアヤー国に訪れるために、テーブルにお金を置いて喫茶店を出て、港へと歩いて向かいます。
その道中、頭に乗っている妖精さんと会話しました。

「昔、捨てた男が一国の指導者なんて素敵だよね。
ロマンチックな出会いがあるかも。」

「ラッキー・・・・男を貢がせるための生物としか思ってないよね?
どうせ、再会して良い関係になっても捨てるんでしょ?」

「うん。捨てるよ。
一つの国に定住するのつまんないし。
ポルポト君と再会できたら、貢がせるだけ貢がせて楽しんだ後はポイ捨てだよ。」

ラッキーの言動に妖精さんは呆れます。
そして、故郷から遠い場所に来すぎたなぁと、遠い故郷を想い浮かべて悲しくなりました。
何時になったら故郷に帰れるか不明です。






複数のコンテナ船が停泊する広大な港はカンボジアヤー人で一杯でした。
見る限り、皆が医術、機械工学、整備士などの高等な技術・知識をもっている知識人(物を良く知っている人)です。
その技術を祖国カンボジヤー国のために使って、発展させようと思っている良い人達でした。
彼らは次々と数万人が乗れるサイズの巨大船に乗り込むから、船の甲板にも人が溢れ、それを見送る人々が港町から手を振っているから、歩く隙間を見つけるのも困難なほどに混雑しています。
だから、ラッキーは光学迷彩で姿を消して空を飛んで、お金を払わずに無賃乗船し、彼らと一緒にカンボジアヤー国へと船旅をする事になりました。
その航行中、カンボジアヤー人達の心は踊り、祖国を発展させるために頑張ろうという希望に溢れている光景を何度も見かけたのです。
ラッキーは長い航海中の暇を潰そうと、彼らを質問責めをします。
数万人いるから、幾らでも質問し放題。
ラッキーは満面の笑みを浮かべて、出会った人間と片っ端から会話しました。

「ねぇねぇ、あなた達はどんな技術を持っているの?
カンボジアヤー国を発展させるために頑張るんだよね?」

眼鏡をかけた賢そうな医者は答えました。
「私は医者さ!
優れた医療技術で怪我や病気をした人を治しに行くのさ!」  

高い腕時計をしている整備士は答えました。
「俺は自動車整備士だ!
自動車を整備してお金を稼いで、いずれは大きな自動車工場を作りたいね!」 

美しい男性政治家は答えました。
「私はイギリスで帝王学を学んだ!
ポルポトさんを助けて、国を導くのさ!
人材こそ国の宝なり!」

手が綺麗な若い男子学生は答えました。
「私はフランスで教師になるべく勉強していた。
カンボジアヤー国の未来を切り開く子供達を教育して、立派な人間に育て上げるんだ!」

大富豪のお爺さんは答えました。
「私は大金持ちだ!
祖国に投資して産業を作って、皆が働ける良い国にするんだ!
仕事がないと何も始まらないぞ!」

他にも色んな人達と会話し、ほとんどが立派な夢と技術・知識を持つ良い人達だと分かりました。
これだけ大量の知識人と金持ちがいれば、カンボジアヤー国は更に発展する事は間違いなしです。
人材を育成するのは大変だから。国から見ればこの人達は宝そのもの。人材は財産・・・・人財なのです。
なお、企業から見れば宝なのは、一部幹部と株主と銀行なので、人財を普通に使い潰して捨てるので注意してください。














長い航海の末、船はカンボジアヤー国の整備されてないボロボロの港に着き、人間さん達が港と船の間に設置された金属製の板を渡って、船をゾロゾロと降りて行きます。
数万人の群衆はとても笑顔です。
これから国を発展させる仕事で忙しくなるなと思いながら、希望と不安で胸を躍らせています。
丁度いい事に、近くに軍隊のトラックが数十台あり、それに乗っている軍人さん達が笑顔で

「ようこそ!皆さん!
仕事を紹介するから、トラックに乗ってください!
我が国はあなた達を歓迎します!」

歓迎してもらえた知識人は喜んでトラックに乗りこんで、カンボジアヤー国の何処かに運ばれて・・・いえ、可笑しいです。
20分ほどすると、同じトラックがまた港へとやってきて、知識人達を載せて運ぶ事を何度も繰り返しています。
大半のトラックと軍人の迷彩服に、血が付着していて異常です。
軍人さん達は、笑顔で知識人達にこう言います。

「ようこそ!皆さん!
仕事を紹介するから、トラックに乗ってください!
我が国はあなた達を歓迎します!」

知識人達は、これは何か可笑しいぞ?と気付きました。
明らかにトラックで運ばれた知識人達が、何処かで全員屠殺処分されている可能性が濃厚です。
次々と戻ってくるトラックの運転席には、知識人達が持っていた高価な腕時計や財布などが落ちています。
知識人達は疑心暗鬼に陥って、誰もトラックに乗らなくなりました。

「ようこそ!皆さん!
仕事を紹介するから、トラックに乗ってください!
我が国はあなた達を歓迎します!」

軍人さんが、機械のように同じ事を言っていて怖いです。
ラッキーは、この国は碌でもない国なんだなぁーと思いました。

「ようこそ!皆さん(知識人ども!)!
仕事を紹介するから、トラックに乗ってください!
我が国はあなた達を歓迎します!(皆殺しにします!)」








誰もトラックに乗車しない状態が2時間ほど続くと、軍人達は笑顔のまま場から離れ、港は数千人の兵士達に包囲されました。
軍を構成する兵士達は13歳以下の幼い子供ばっかりで可笑しいです。
手にそれぞれ小銃を持ち、群衆に向けています。
知識人達はそれらを見て、驚愕しました。

「な、なんだっこれはっ?!!」
「俺達は祖国を発展させるために帰ってきたんだぞっ!?怪しい奴じゃない!」
「兵士が子供ばっかりっ!?どうなっているんだっ!?」
「やっぱりさっきのトラックで運ばれた連中は全員殺されたんだな!?」

戸惑う数万人の知識人へと向けて、子供兵士を指揮する指揮官の黒髪の青年が、知識人達から50mほど離れた場所まで歩いてきました。
この軍勢の中での数少ない大人の軍人なので目立ち、何人も人を殺したような残忍な顔をしています。
指揮官は群衆にはっきりと、明確な意志の元に大声で告げました。

「私達はクメール・ルージュ(紅いクメール)!
この国ではポルポト様と俺達に異論を唱える可能性がある知識人(物事をよく知ってる人)とブルジョア(金持ち)は、法律で死刑と決まっています!
それらに該当する人は大人しく死んでください!
眼鏡をかけた男はきっと頭が良いから知識人です!
高価な腕時計をした男もきっと知識人です!
高い服を着た人間はブルジョアです!
恋人がいる人間は、社会風俗を乱すから死刑です!
美女と美男も・・・理由はいいや。死刑です!
海外に渡航した経験を持つ人間は全員知識人に違いありません!
つまり!全員死ね!
死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!」

知識人達は死の宣告に唖然としました。
子供兵士達は、小銃を群衆へと向けたまま引き金を引き、発砲を始めます。
その動きには幼さ故に迷いがなく、容赦ありません。
例え、相手が親であっても同じように躊躇なく殺せるように洗脳教育を受けている子供達なのです。
知識人達は、逃げ場は背後の海しかなく、海に飛び込んでも生き延びれる確立はとても低いですが、殺されるよりはそっちの方がいいと、海へと向けて知識人達は走り出します。
しかし、海へ殺到する前に、皮膚を容易く切り裂く鉄の弾丸が、次々と雨のように降り注ぎました。
銃弾は殺傷能力が凄いのです。

タタタタタタタタターン!
タタタタタタタタターン!
タタタタタタタタターン!
タタタタタタタタターン!
タタタタタタタタターン!
タタタタタタタタターン!
タタタタタタタタターン!
タタタタタタタタターン!

たちまち、知識人達は銃弾を浴びて、全身から血を吹き出して倒れて死にます。
鏡をかけた賢そうな医者は頭を弾丸に貫かれて即死
高い腕時計をしている整備士はお腹に数発の銃弾が当たり、臓器破損、出血多量で苦しみながら死亡、美しい男性政治家は転び、逃げ惑う群衆に踏み潰されてバラバラのミンチ、手が綺麗な若い男子学生は海に飛び込みましたが、海流に流されて遠からず死ぬ運命にあります。
大富豪のお爺さんは、銃声に驚いて心臓発作をおこして死にました。
ラッキーは、どうしようかな?と悩みながら、光学迷彩で姿を完全に消して、空から虐殺を眺めています。
数万人の人間を虐殺するには、膨大な数の銃弾と時間が必要なので、今から助ければ大勢の人間さんが助かります。

「うーん?どうしようかな?
助けた方がいいかな?」

「ラッキー。助けてあげなよ。
たぶん、悪いのはあの子供兵士達の方だし。」

「うん、そうしよう。
一応、彼らは私と会話してくれたしね。」

虐殺されている知識人達とは、航行中に【一緒に会話してくれた】という恩義があるから助ける事にしました。
具体的には、風の刃を10万ほど魔法で作成し、それを一気に射出。
数千人はいるであろう子供兵士全員と指揮官を風の刃が綺麗に切断してバラバラ死体にします。
このままだと遺体が腐って疫病の原因になるので、全ての遺体を風で運んで海にドボンと投棄。
証拠隠滅にもなるから魚の餌にする事にしました。
この光景を助けた知識人達が見ていますが、どうせこれをそのまま証言しても人間は信じません。
現実は小説以上に現実味がありませんから。
数万人の知識人達は何が起こったのか分からず、戸惑いながら、あちらこちらへと逃げ散ります。
生きて外国に辿りつけるかどうかは、彼らの運次第ですが、ここは外国へ逃げるのが困難な鎖国国家なので、移動手段も限られ、ほとんどの知識人は外国へ逃げる前に子供兵士に見つかって殺される運命にあります。
ラッキーはこの国で何が起こったのかを知るために、人里がある方向へと向けて歩きました。
頭にいる妖精さんは嫌そうな顔をして、ラッキーに言いました。

「ねぇ、ラッキー。
凄く・・・嫌な予感がするから、引き返して、他の国でゆっくりしようよ。」

「やだ、知的好奇心が疼くからやだ。」









 中篇に続く



テーマ【カンボジアのポルポト政権】
http://suliruku.blogspot.jp/2014/10/blog-post_41.html

※知識人数万人虐殺ネタは、ほとんどは海外ではなく国内にいる知識人を集めて殺したネタ。海外に留学していた学生も呼び戻して処刑してる。]
前にゆっくり戻るよ!  ゆっくり次に進むよ!  49話の感想返しはこちらだよ! 
ゆっくり戻るよ!


 


カウンター日別表示 

ブログパーツ