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ラッキーの不思議な旅
22国目 田舎が首都になった国


惑星の南半球に、現実のオーストラリア大陸と全く同じ大きさの陸地がありました。
地球ではオーストラリア大陸以上の大きさの陸地を大陸、それより下は島と定義しているので、これは大陸という事になります。
その大陸の南東部、タスマン海に面するニューサウスウェールズ州の州都シドニーはとっても発展していて、大陸で一番大きな大都市です。
海に臨むオペラハウスが美しく、都市には無数の高層ビルが立ち並び、夜になればライトアップされた美しい夜景が見れる事間違いなし。
東に太平洋・・・もとい広大な海、西にブルーマウンテン、北にホークスベリ川、南にロイヤル・ナショナルパークがあって自然風景も素晴らしい。
その大都市の浜辺で、長い金髪をポニーテールにして纏めた小さな女の子ラッキーが歩いています。
青と白の縞々パンツとピンク色のスカートが一体となっているセパレートという水着を着て可愛らしいです。
どうやらこの国に来たのは海水浴目的のようですが、浜辺で2人のいい年をした男達が言い争いをしていたから、ラッキーの知的好奇心が刺激され、トコトコ歩いて、男達に近付きました。
すると、口論の内容が聞こえてきます。

「我が国の首都は、経済的に大発展した、ここシドニーしかありえない!
総人口2000万の人口の内、462万人がここに住んでいるんだぞ!」

「ふざけるな!
首都は文化の中心地メルボルンの方がいい!
セント・キルダ、王立植物園、飲食店、有名なMCG、活気なバー、オーストラリア・グランプリがあって、大勢の人間が楽しめる観光地なんだぞ!」

「はぁっ!?
シドニーはな!
世界でもっとも美しい都市と言われている上に、2000年には夏季オリンピック【シドニーオリンピック】をやった事で有名なんだぞっ!
だから、シドニーの方が観光地としても格上だ!」

「メルボルンも1956年にメルボルンオリンピックをやったぞ!
こっちの方が先だ!
どうだ!参ったか!?」

どうやら、この国の首都が、シドニーとメルボルンのどちらが首都としてふさわしいか議論しているようです。
分かりやすくするために、二人の仮の名前をこうしましょう。
@シドニーを首都にしたい男をシドニーおじさん。
Aメルボルンを首都にしたい男をメルボルンおじさん
と呼称すれば分かりやすいと思います。
ラッキーはどうしてそんなことで口論しているのか分からなかったので問いかけました。

「ねぇねぇ、なんで議論しているの?
この国って首都がないの?」

二人の男はラッキーの方に振り向きました。
恰幅の良い40代の白髪の男性メルボルンおじさんは、笑顔を浮かべてやさしい口調で答えてくれます。
どうやら小さい娘が好きなようです。

「小さいお嬢さん。
まだ学校で習ってないようだね?
なら私が説明してあげよう。
この国の首都はね。
建国当初からメルボルンなんだよ。
イギリスヤー国と貿易するのに便利な位置にあるし、黄金がよく取れて世界中から人々が集まってゴールドラッシュになった事もあり、人もたくさん住んでいるんだ。」

「首都がメルボルンなのにどうして口論しているの?」

「首都になれば、この国の中心になったも同然だからね。シドニーが首都になろうと必死なのさ。
そのせいで最近はシドニーとメルボルンの二つの都市のどちらが首都に相応しいか、あちこちで住民が議論をしているんだよ。
この二つの都市は伝統的に仲が悪くてね、二つの都市の住民が出会うと、こういう口論が絶えないんだ。
まぁ、メルボルンの方が首都に相応しいんだけどね。
だからシドニーや他の都市なんて、メルボルンのオマケ達扱いで良いんだ。」

その言葉に、30代のよく鍛えられた体を持つ黒髪のシドニーおじさんが反論してきます。

「ふざけるな!
当時の最大都市がメルボルンだったから、臨時の首都になっただけだろうが!
今じゃシドニーの方が遥かに大発展して、人口が462万人もいるんだぞ!」

「メルボルンは434万人の人口を許容する大都市だぞっ!?
シドニーと人口は大して違わないだろ!
メルボルンはな!
【世界で最も暮らしやすい都市】ランキングで一位を獲得した素晴らしい大都市だ!
そういう都市こそ、首都に相応しい!」

二人は怒りながら口論を再開しちゃいました。
ラッキーは黙って、二人の口論を眺めます。
質問しなくても、二人がお互いにシドニーとメルボルンを自慢してくれるから、知的好奇心は十分満たせるのです。
口論の内容は次第にエスカレートし、シドニーおじさんがメルボルンの事を馬鹿にし始めました。

「メルボルンなんて糞だ!
糞!
距離が離れすぎて他の国の都市に移動するのに、とんでもない時間がかかるだろうが!」

「それはメルボルンだけの問題じゃない!
この国全体の問題だ!
我が国は他の大陸と離れすぎて、必然的に海路も空路も世界でも有数の超長距離路線になってしまうから、シドニーも同じ問題を抱え込んでいるだろっ?!」

「なら産業はどうだ!
シドニーはな!ニューサウスウェールズ州の貿易の大部分を担っている上に、原材料調達が容易だから、製材、造船、化学、農業土木機械、電気機械、石油精製などの工業が発展していて、この国で突出しているんだぞ!」

「それならメルボルンだって負けないぞ!
ファッションの中心地だし、多くの国内の大企業の本社があるし、多額のお金を産む自動車工業の中心地でもある!
どうだ!?メルボルンの方が凄いだろ!?」

「シドニーは、海外企業の地域本部が大量にあるから、メルボルンよりも発展しているんだ!
シドニーの方が首都に相応しい!
今は国際化の時代だから、海外の企業に好かれた方が凄いんだよ!」

ラッキーは、どっちもこの国の中では突出した凄い都市なんだなと思いました。
そろそろ、楽しい海水浴や、お金を貢いでくれる男でも探したくなったので場から離れようとすると、二人の厳しい視線がラッキーに向けられています。
二人はラッキーに迫りながら怒鳴りました。
でも律儀に順番を守ってシドニーおじさんから先に叫んでくれます。

「小さいお嬢さん!
あんたはどっちの都市が首都だとうれしいんだ!?
シドニーの方がいいよな!?
その水着可愛いぞ!シドニーの水着はファッションセンスも抜群だ!
やっぱり水着は縞々が良いよな!」

「メルボルンの方が、ファッションを楽しめていいぞ!
小さいお嬢さん!
メルボルンでもっと可愛い水着を買うといい!
シドニー製の水着なんて糞だ!ファッキン!
ピンク色の水着が子供には似合うぞ!」

ラッキーは面倒臭かったので、二人が納得できそうな内容を即座に考え付き、場を誤魔化す事にしました。

「二つの都市の間に計画都市作って、そこを首都にすればいいんじゃないかな?
あと、この水着は他の国で買った水着だから関係ないよ。」

「「?!」」

「じゃ、さようなら。」

二人のオッサンは驚きました。
とても妥協できそうな内容だったからです。
ラッキーは場から離れて、海の方へと向かい、場には二人のオッサンが残されました。
オッサン達はお互いの顔を見つめ合いながら、納得したような顔でシドニーおじさんが呟きます。

「今の小さいお嬢さんの案・・・良いかもしれない。」

「これ以上喧嘩すると、経済にも悪影響出そうだしなぁ。
あの小さいお嬢さんの案は良いかもしれない。
他の州にも、この案なら不満がでないし、全員が納得しそうだなぁ。」

「メルボルンとシドニーの間に何があったけ?」

「確か・・・・キャンベラっていう田舎町があったな。
海に面してない内陸だけど、どうせ名目上の首都だし、それでいいか。
(首都機能はメルボルンに残したままにすればいいし。」

こうして、シドニーとメルボルンの二つの都市の間にある田舎キャンベラに都市が作られ、この国の首都になったそうです。
なお、このような経緯で首都を決めてしまったので、この国のほとんどの人達が一度も首都キャンベラに行かずに、人生を終えてしまい、首都としての威厳はありません。
首都機能もシドニーとメルボルンから移転するのに膨大な歳月を必要とし、キャンベラは政治家と官僚中心の町なのでビジネスも興らず、人口が伸び悩んで30万人都市のまま停滞する事になりました。
シドニーは経済の中心地。
メルボルンは文化の中心地
キャンベラは政治の中心地として栄えて税金を湯水のように使いまくってシドニーの住民の反感を買い、お互いにいがみ合いながらも、今日も世界を生きています。



ラッキーは、シドニーで海水浴を楽しんだ後に、金を貢いでくれる男を恋人にしてシドニー中を遊び歩いて楽しみ、その後にメルボルンに行って観光を楽しんで、この国から出て行きました。無論、恋人はポイ捨てです。
自分の発言のせいで、国の首都が田舎に決まってしまったなんて、最後まで知る事はありませんでした。



おしまい









テーマ「オーストラリアの地域対立」

※キャンベラが首都として選ばれたのは1908年

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