ラッキーの不思議な旅
20国目 ゲームの国 (超絶ムリゲー イス・ラム国オンライン) A (4話構成)
ラッキーが次に目を覚ました時、目に映った光景は、熱い太陽に照らされた砂漠が広がる荒野でした。
遠い所とか、タタターン!という銃声が時折、響き渡り物騒です。
何かが燃えたり壊れたのか、白い煙が砂漠のあちこちから上がっています。
ラッキーは状況把握のために探査魔法を使おうとしますが
「?
魔法が使えない・・・?」
ゲームの世界だから、ラッキーの力はここでは使えません。
よく見ると、先ほどまでパンツしか纏ってなかったのに、今は黒色のローブを着て、背中にリュックサックがありました。
手には、旧ソ連軍が開発した歩兵用アサルトライフル【AK47】を持っています。
威力が高い、耐久性が高い、コストが安いの三つが揃っている傑作銃なのです。
そのため、テロリスト達もよく勝手に生産して使っていて、地球だけでも5億挺以上あります。
操作方法も簡単なので、素人でもすぐ使いこなせるのです。
「うーん、人間の銃か。
これで戦えって事かな?」
試しに空を飛んでいる黒い鳥に向けて、AK47を構えてトリガーを引いて撃ってみました。
タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタターン!
AK47に装填されている7.62mm弾を全弾撃ちましたが、全て外れて一発も当たりませんでした。
砂漠に銃弾というゴミをばら撒いただけです。
黒い鳥は優雅に遠い空へと去りました。
「・・・・当たんないや。
風の魔法なら、自動追尾してくれるのに、人間の銃って駄目駄目だね。
でも、人間の武器で戦うのは新鮮かも。」
ラッキーは、背中のリュックの中身を探って、マガジン(7.62mm
x
39弾)を見つけて取り出し、AK47に新しいマガジンを入れ、もう一度、射撃をしてみようと思いました。
すると、遠くからこちらに近づく大きな影がある事に気付きます。
それは茶色の戦車です。
重厚な装甲で覆われて、小銃弾では破壊するのは困難、そびえ立つ砲塔が格好良いです。
戦車の頭上には【シリア正規軍】と、大きく文字が表示されています。
ラッキーは、好奇心を爆発させて、目をキラキラ輝かせながら戦車に近付いて、話を聞こうとトコトコ歩くと、戦車の砲身がラッキーの方に向いていました。
「?
あれ?
これってひょっとして撃たれる?」
そのままドパーンという音とともに、榴弾が飛んできて空中で爆発。
榴弾の弾殻が破砕され、その破片が広範囲に飛び散り、ラッキーの身体に破片が大量に刺さり、地面にドサッと倒れました。
明らかに致命傷です。
ラッキーは身体を動かそうとしましたが、ほとんど動きません。
空中に文字が表示されて不思議でした。
【ラッキーは、シリア正規軍の戦車に殺された!死因は榴弾。
おお!なんて情けない冒険者なんだ!
神は嘆いておられる!】
「うーん、風のバリアーがないと、私ってこんなにすぐ死んじゃうんだ。
人間の気持ちが理解できたかも。」
【でも、我らが神は寛容だ!
復活を許してくださる!
10秒後にイス・ラム国の拠点で復活だ!
ちなみにイス・ラム国は『椅子に座ってラム酒を飲む会』の略称だ!
2014年の中東地域を荒らしまくってる世界最大規模のテロ組織とは関係ないぞ!】
「妖精さん、なんか変な文字が空中にあるよ?」
ラッキーが自分の頭の上を目線だけ動かして見上げると、そこには妖精さんの姿がありませんでした。
現実に放置したままだという事をうっかり忘れています。
「あ、そうか、妖精さんは現実にいるんだった。
友達が居ないのは、少し寂しいね。」
ラッキーがしばらく、砂漠の中で死体の姿のままゆっくりしていると、視界が暗転。
砂漠からラッキーの死体が消え去りました。
ラッキーが次に目を覚ました時、そこは白色の貧相な建物の中です。
イス・ラム国の旗と思しき複雑な模様の絵が飾ってあり、ラッキーの身体が自由に動きます。
目の前に、黒い長衣とターバンを身に着け、白髪交じりのあご髭のおじさんがいました。
彼の頭上に【偉大なる指導者ハクダディ 職業テロリストのボス】と文字が表示されています。
オジサン(指導者)は口を開いて
「ようこそ!
小さな新しき冒険者よ!
私の名は、ハクダディ!
中東諸国の統一を武力で実現しようとする偉大な指導者だ!
冒険者の国【イス・ラム国】を共に築きあげよう!
かつて世界中を植民地にしたヨーロッパの線引きにより作られた現状の中東諸国・・・「サイクス・ピコ体制」を打破するのだ!」
「うーん、よくわからないけどよろしくね。
私の名前はラッキーだよ。」
「さぁ!君には仕事を選ぶ権利がある!
イス・ラム国は、君が貢献する事を望む!
仕事が終わったら椅子に座って、一緒にラム酒を飲もう!」
「会話が成り立っているのかな?かな?
ゲームって初めてだから、色々と教えてほしいよ?」
「さぁ!次の仕事から選びたまえ!」
「君、人から話を聞かない奴だとか言われた事ない?
私は君みたいな人間は嫌いかな。」
指導者はラッキーに複数の真新しい紙を渡してきます。
一方的すぎる要求でしたが、ラッキーは渋々と諦めて読む事にしました。
その紙には下記のような事が書かれています。
【資産家の家族を誘拐して、身代金を要求する仕事。拒否したら首を切断して動画サイトに投稿】
【世界各国で無差別テロをする仕事、具体的には無辜の市民の首を切断して、その動画を動画サイトに投稿】
【シリア正規軍を壊滅させる仕事】
【イラク正規軍を壊滅させる仕事】
【イラクに駐留しているアメリカ軍を壊滅させる仕事】
【石油関連施設の制圧】
【女性だから兵士達の嫁になる仕事(18歳以上じゃないと受けれません)】
【略奪】
どれもこれも碌でもない内容でした。
ラッキーは困ります。
「うーん、まともな仕事がないね。
こんなのが大人気のゲームって奴なのかなぁ?
まぁ、一番楽しそうなこれにしよう。
さっき殺されたし。」
ラッキーは【シリア正規軍を壊滅させる仕事】と書かれた紙を選び、指導者に渡しました。
指導者は満面の笑みを浮かべて、激励をしてくれます。
「おお!その難しい仕事をやり遂げようとするのか!
冒険者ラッキー!
未だに誰も成し遂げた事がない依頼を初心者なのにやる勇気やよし!
現地には冒険者が500名ほどいるから、協力して頑張りたまえ!
イス・ラム国は、君が貢献する事を望む!
君に武装トヨタ車と、3人のNPCの部下を与えよう!」
「車をくれるの?
やったー!」
ラッキーは両手をあげて喜びました。
最近、車が大好きになりつつあります。
指導者はラッキーの事を微笑ましい笑みとともに見送りました。
今、砂漠の中をピックアップ式のトラックが走っています。
トラックは壊れ辛い事で有名な日本のトヨタ車であり、砂漠の中で車が故障する事は死を意味する中東地域では、頼れる相棒なのです。
荷台の所には、黒い機関銃が一丁備え付けられて、装甲が薄い敵限定で火力が凄そうでした。
ラッキーは助手席に座って窓の外を見てゆっくりしています。
できれば自分でトラックを操縦したかったのですが、ラッキーの手足が小さくて、アクセルやブレーキに足が届かないから諦めて、NPC(ノンプレイヤーキャラ)という部下に任せました。
残りの2人の部下は荷台の方で、機関銃のトリガーに触れながら周りを見渡したり、座っています。
ラッキーは、好奇心を満たすために、運転座席にいる部下を何度も何度も質問責めにしました。
部下の頭の上には【ムハンマトさん 職業テロリスト】と表示されています。
「ねぇねぇ、指導者が言ってたけど、ノンプレイヤーキャラってなーに?」
「中に人がいないキャラの事です。
ラッキー様はテレビゲームがお好きなのですか?」
「テレビゲームはあんまりした事がないよ。
じゃ、次の質問。
君達はこの世界に何時から住んでいるの?」
「30年ほど前から、このシリアの地に住んでいます。
今のシリアは、ハッシャール・アル=サドという独裁者が権力を握り、悪魔のような男なのです。
そのせいで内戦になり、シリアの地は荒れています。
元々サドは、医者を目指していて控えめで穏やかな人間だったのですが、辛辣な政治の道に放り出され、今のような強権な独裁者になってしまったのです。」
「ここがゲームの世界だって知ってる?」
「ここは現実です。
ゲームの世界ではありません。」
「なるほど、リアリティを持たせるためにゲームキャラの認識はこうなっているのか。
さっき会話していた指導者さんは、たぶん、中身が人間なのかな?」
運転手は顔をしかめています。
さすがに何度も何度も質問されたら、運転に集中するのも大変です。
しばらく砂漠を走行すると前方で銃声や砲撃の音が聞こえてきました。
どうやら、イス・ラム国の冒険者達と、シリア正規軍が戦っているようです。
ラッキーは一応、リーダーだから指揮しないといけません。
「うーん、魔法を使わない戦い方ってよく分かんないなぁ。
どうすればいいと思う?」
首を可愛く傾げて、運転手に聞いてみると答えが返ってきました。
「どうやら現地のシリア正規軍には空軍戦力がいないようです。
このまま、戦いに参加するのがよろしいかと。
どうせ死んでも、私達は偉大な神様の力で拠点で復活します。」
「なるほど、じゃ!突撃ぃっー!」
ラッキーの可愛らしい叫び声とともに、トラックは戦場へと突撃しました。
あちこちに膨大な数のシリア正規軍の歩兵、戦車、装甲車が展開していて壮観な光景です。
シリア正規軍は歩兵を大事にする戦術を取る軍隊なので、歩兵の周りに盾代わりになる車両を展開しています。
ここからでは分かりませんが、近くに複数の機甲部隊があり、順番に入れ替えて戦う事で、敵地域を制圧する戦術【槍機戦術】を得意とする軍隊なのです。
具体的には
@小槍部隊を先遣させて、攻撃を受けたら撤退
A次に高速で生存性の高い戦車・歩兵戦闘車から成る大槍部隊が進撃。攻撃を受けたら撤退
B次の大槍部隊が進撃して、攻撃を受けたら撤退する。
C A〜Bを繰り返して、敵地域を制圧する。
この戦術を得意とするため、戦車は被弾する事を恐れないほどに重装甲なのです。
そのため、ラッキー達のトラックにある機関銃では、相手にするのが大変な相手でした。
幾ら機関銃を撃っても、分厚い装甲で防がれて、大したダメージになりません。
「うーん、魔法使えたら、全部一度に撃破できるのに、人間の武器は面倒だね。」
ラッキーは窓からAK47をドバドバ乱射しますが、ほとんど銃弾が敵に当たらず、逆に空間ごと薙ぎ払うような銃弾がラッキー達の方向に飛んでくる有様でした。
トラックを運転していた運転手は運悪く、頭に銃弾が当たり即死。
車を運転する人がいません。
「あ、死んじゃった。
ねぇねぇ、後ろの荷台の人ー。
代わりに運転してくれると嬉しいよ。」
運転手を失ったトヨタ車はシリア正規軍の大部隊のど真ん中に無謀にも突撃しました。
無数の銃口が向けられて、あちらこちらから銃弾が飛んできます。
トラックに雨のような膨大な銃弾が当たり、部下2人は即死、最後は燃料に引火して爆発してラッキーも死にました。
ドカーン
【シリア正規軍の兵士に殺された!死因は爆死だ!
ラッキーはなんて情けない冒険者だ!
神はマニュアルを兼ねている聖典『コーラァン』を読め!と嘆いておられる!
イス・ラム国の冒険者は、誰も『コーラァン』を読んでくれない!
なぜだ!?】
「人間の戦争って難しいんだね。」
砂漠に死体となって倒れたラッキーは、風のバリアーが恋しくなりました。
台風を圧縮させて高速回転している風のバリアーがあれば、全ての攻撃を防ぎながら反撃できたのになぁと悔しい気持ちになっています。
「よぉーし!
また挑戦するぞー!」
悔しいから、勝つまで何度でも挑戦してみようと思いました。
ラッキーはこれから200回ほど、シリア正規軍相手にガムシャラに戦いました。
戦いの中、AK47の扱い方、戦闘車両(トヨタ車)の上手い使い方、部下の率い方がわかり、冒険者(職業テロリスト)としてどんどん上達していきます。
でも、やっぱり駄目です。
シリア正規軍は手ごわく、軍人を殺しても殺しても戦局は有利になりません。
現実なら、一般人の振りをして戦車に近付いて、対戦車ロケット攻撃などで容易く戦車は破壊出来るのですが、頭の上に表示されている文字のせいで敵である事が簡単にばれるゲームの仕様のせいで、テロリスト戦術が通用しないんです。
戦場に戦闘機が現れるだけで、クラスター爆弾(大量の小型爆弾を散布する爆弾)を投下されて一方的に殺されて戦局が逆転しちゃいます。
だから、ラッキーは受ける仕事を変更して、資産家の家族を誘拐して、身代金で大金を儲けたり、払わなかったら首をナイフで切断してプレゼントしたり
石油施設を制圧して、密売して儲けたり
そういう仕事をラッキーはたくさんやりました。
地味ですが、どの仕事も達成すれば、組織に膨大な大金が入ってきます。
お金さえあれば、NPCを雇いたい放題なので、イス・ラム国に所属する冒険者は短期間で1万人を越え、この地球で最大規模の冒険者組織として君臨するようになりました。
ラッキーの人生経験がゲームで生かされたのです。
ラッキーがこの世界に来てから1カ月の時が流れました。
トルコという中東の強国から、移動式石油精製機を購入したおかげで、イス・ラム国はシリアの地で得た石油をトルコ、イラン、ヨルダンなど中東の国々に売り渡し、どんどんお金が入って大儲けです。
ラッキーは、石油の密売取引の責任者となり、今はトルコの偉い商人と会話していました。
商人は頭にターバンを巻いていて、熟練した雰囲気がある初老の男性です。
「ノー!ノー!」
「ねぇねぇ、もう少し高い値段で石油を買ってくれないかな?かな?」
「ノー!ノー!
安い値段じゃないと買いませーん!」
「うーん、商談って難しいね。」
ラッキーが首を可愛く傾げても、トルコの商人さんは反応すらせず、安い値段で石油を買い叩いていきます。
ラッキーは困りましたが、イス・ラム国から言われたノルマ(金額)は達成できたので、渋々諦めました。
現金の入ったケースを商人から受け取り、部下達が乗っているトヨタ車のトラックへと向かいます。
ケースを荷台に放り込み、ラッキーは助手席に乗り込みました。
ラッキーの可愛らしい命令とともに、トラックは帰路へと着きます。
「本部まで帰るよ。
トラック発進ー!」
「了解しました。ラッキー様。」
ラッキーは、イス・ラム国の本部と連絡を取るために、携帯電話をポケットから取り出して連絡を取ります。
連絡・報告・相談は社会人にとって必須といっても良い義務なのです。
しばらくプルプルプル携帯電話が鳴ると、本部の人間が電話に出てくれました。
【こちらイス・ラム国本部。】
「私は冒険者のラッキーだよ。
石油をトルコに密輸する仕事終わったよ。
買い叩かれたけど、ノルマは達成したから帰っても良い?」
【同志ラッキー。
仕事御苦労さまです。
仕事をしたばかりで忙しいでしょうが、朗報があります。】
「?
どんな良い事かな?」
【イラクに駐留していたアメリカ軍が完全撤退したのです。
今ならば、イラクを陥落させるチャンスという事で、指導者は兵力を集めています。
ラッキー様も可能な限り、兵力を集めて戻るようにとの命令があります。】
「イラク正規軍ってそんなに弱いの?
確か、アメリカ軍ってこの世界最強の軍隊だよね?
そのアメリカ軍が居なくなったくらいで、イラク落とせるの?」
【現在のイラク正規軍は、イスラム教シーア派で構成されていて新兵だらけなんです。
サッダーム・フセイン大統領が生きていた頃の強い旧イラク軍は、以前のイラク戦争でアメリカ軍の手で壊滅した上に、イスラム教のスンニ派の人材を中心にしていため、現在のシーア派を主流としたイラク正規軍では採用されず、現在のイラク正規軍はベテランの兵士が居なくて脆弱なのです。】
「なるほど、ならイラクを落とせそうだね。
じゃ、あちこち周って、兵士を募ってくるよ。」
【ありがとう同志ラッキー。
帰ったら椅子に座って、ラム酒を飲みましょう。
イス・ラム国(椅子に座ってラム酒を飲む会)なだけに。】
ラッキーは携帯電話のスイッチを押して、通信を切り、近くの街へと向かいました。
イラクといえば、石油が取れる良い土地です。
サッダーム・フセイン大統領が処刑されずに生きていた頃は、中東の優等生と言われるくらいに豊かで良い国でした。
でも、2003年頃に石油利権を発端に起きたイラク戦争で、アメリカ軍を始めとした有志連合軍に一方的にボコボコにされて荒廃した過去があります。
戦争で悪化した治安を回復させるのに5年の歳月を要し、ようやくイラクは発展して頑張ろうとしているのに、その土地に戦乱の嵐がまたもや吹き荒れようとしているようです。
ラッキーは砂漠の綺麗な空を見上げながら呟きました。
「このゲーム、何時になったら終わるのかな。
10年くらい光や水がなくても、風のバリアーから栄養を吸収すれば生きていけるけど、このままじゃ現実の身体が危ないかも・・・?
ゲームの世界から出るのってどうすればいいんだろう。」
そのBに続く
●冒険者の国【ユスラム国】を作るのが君の目的だ!
↓
●依頼内容 → 酷い
シリアスタート
アメリカ軍がイラクから撤退したぞ!
イラク正規軍を襲撃して、支持者を大量に集めるんだ!
銃弾やミサイルを全部回避して、殺しまくれ!
後篇 シリアとイラクを手に入れ、国盗り物語完成!
↓
●世界中の国々が敵になりました。
本当の地獄はこれからだ。
石油関連の施設は空軍に爆撃されて、資金源壊滅。
どうするの?!
↓
無理でした。
おしまい