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ラッキーの不思議な旅

14国目 怠けものの国 後篇



20年後、ラッキーと妖精さんは再び空を飛んで、例の島国を訪れてみました。
他の国で、「泥棒も入らない貧乏長屋」国家と噂されていたのを聞いたからです。
今、ラッキーの遥か下に、島全体がはっきり見えています。
そこには元気に働いている国民の姿があったのです。
一世紀前の原始的な生活に戻り、朝から晩までココヤシの実の収穫や、釣りをして食べ物を自分達で確保していました。
おかげで、20年前に訪れた時は、国民の3分の1が太っている肥満国家だったのに、今じゃ健康的なのです。
あと、なぜか全く別人種の人間達が大量にいて、島の各地で暴動を起こしていましたが平和でした。

「凄い……滅亡せずに残ってる……」

「うん、僕もそう思うよ。文明が崩壊した後の人類の生活がこんな感じだよね」

頭の上で妖精さんが残酷なツッコミをしている事を無視してラッキーは驚愕しました。
まさか、滅亡せずに残っているとは思わなかったからです。
そのままゆっくりと人気のない浜場へと光学迷彩を展開して誰にも見えないように降下し、着地してから光学迷彩を解除すると、浜辺には、切り取ったフェンスの上にお魚を置いて、炭火焼で焼いて食べている若々しい中年男性が居ました。
この顔には見覚えがあります。
ラッキーの知り合いのナウル青年が、そのまま年齢を取った外見です。
顎に長い髭が生えている以外は、外見的特徴はあんまり変化していません。
中年はラッキーが現れた事に驚いて、焼いている最中の魚を地面に落としいました。
でも、すぐにラッキーが誰なのかを中年は思いだしたので踊りながら

「あっひゃっー!
ラッキーちゃんだぁー!
相変わらず小さくて若くて別嬪さんだぁー!
俺の孫娘よりも小せぇー!
オラのお嫁さんになってく」

抱きつこうとしたので、ラッキーは右ストレートパンチをお腹にプレゼントしました。

「えいっ!

「パププペオ!」

中年はその場で気絶して倒れました。
ラッキーは話を聞きたいので、中年の顔をペチンペチン、手でビンタして起こす努力をします。
中年は顔を何度も何度も叩かれたから、その痛みですぐ起きました。

「あっひゃっー!
顔が凄く痛てぇー!
相変わらず、ラッキーちゃんは身持ちが固い別嬪だぁー!」

「ねぇねぇ、私が来なかった20年の間に、この国で何が起きたの?
教えてくれたら、一カ月くらい遊んであげてもいいよ?」

「あっひゃー!
これは教えてあげるしかねぇー!」

中年は大喜びです。
なにせ初恋の娘との思い出が、たった2日しかない悲しい人という事もあり、喜んで次々とラッキーの質問に応えてくれます。
ラッキーは知的好奇心を満たすために、徹底的に質問責めをしました。

「この国、リン鉱石が尽きたはずなのに、どうして滅亡してないの?
よくニートだらけだった国民を働かせる事に成功したね?」

「オラ達は、最初は働かずに暮らすために頑張っていたけど、全部失敗したから働く事にしたんだ!
今じゃ、朝から昼まで果物や魚を取るために時間を使って、喰って遊ぶだけで精いっぱいの暮らしだけど、健康的で最高だぁー!
あっひゃっー!」

「ふーん、ちなみに働かずに暮らさないために、どんな努力をして失敗したの?
私はそっちに興味があるかな?」

「ラッキーちゃんが可愛いから、どんな事でもオラは答えちゃうぞ!
オラ達は、最初に、登録料2万5000米ドルを払えば銀行を開設できるように法律を整備したんだ!
そうしたら、海外のロシアノマフィアって人達とかが、住所と郵便箱以外なんの実態もないダミー銀行を400以上も登録して作ってくれたんだ!
そうしたら、登録料と毎年の更新料で銀行は大儲け!
オラは商才があるなぁって、自惚れて浮気したんだ!
今じゃお嫁さんに離婚されて、華の独身!お嫁さん募集中だぁー!」

中年がラッキーの方をチラチラ見てきてお嫁さんになってくださいな雰囲気でしたが、ラッキーは無視しました。
そんな事よりも、先ほどの中年が言った発言は大問題です。
ラッキーは呆れた態度で

「え、と、ひょっとして君の作った銀行は、マネーロンダリングに利用されたの?」

「オラはそういう難しい専門用語は分かんねぇ!」

「マネーロンダリングってのはね。
犯罪とかで得たお金の出所を、銀行とかカジノを通す事で隠蔽・洗浄する事で、そのお金を市場で使っても金の出所が分からないようにする犯罪行為だよ。
この場合は、ロシアノマフィアーって人達が、そのダミー銀行を利用して、マネーロンダリングをしたんだね」

「ラッキーちゃんは頭がいいなぁ!
オラはよく理解できなかったけど、しばらくしたら、アメリガ合衆国っていう超大国が【お前達のせいで金融業界は目茶苦茶だ!制裁する】とか言って激怒して、オラ達の国をブラックリストに指定して大変だった!
突然、すべての免許が取り消されて金融事業は継続不可能になって、オラは泣いた!
もう、金融業はやらねぇ!
金を動かすだけの虚業はやっちゃいけないんだ!
おかげで100万ドルの預金があったのに、窓口から引き出せなくなって、国の経済が完全に壊滅した!」

「うーん、よくこの国無事だね……
能天気すぎて感心しちゃうかも……」

アメリガ合衆国といえば、この辺りの周辺地域に大きな影響力を持っている強大な大国です。
定期的に他国に戦争を吹っ掛けては、利権を得るためにボコボコにする世界の警察としても有名でした。
中年の話はまだまだ続きます。
好きなラッキーちゃんの好意を得るために、国の恥部を容赦なく暴露してくれました。
愛って偉大ですね。

「おらは、これ以外にも、この国のパスポートの販売をやっていたんだ!
そしたら、世界中の悪そうな顔の人達がたくさんやってきて、パスポートを買ってくれて大儲け!
オラは儲けた金で、新しいお嫁さんと結婚して、幸せになったんだ!」

「うーん、働かないために、こんな大それた事を次々とやっちゃう君は、大物なのかもしれないね。
それでその結果はどうなったの?
今、地道に働いているって事は、失敗したんでしょ?」

「あっひゃー!
ラッキーちゃんは頭がいいなぁ!
そうそう失敗したんだよ!
今度もアメリガ合衆国が怒って、パスポートの販売行為を、テロ支援行為と批判してきたんだ!
何でも14年前(西暦2000年)の9月11日にテロリストがハイジャックした飛行機が、巨大な世界貿易センタービルに突撃するテロが発生して何千人も死亡して、そのテロ集団の構成員達がオラの国のパスポートを使ってたとか、そんな事言ってた!
おかげで、オラ達は非合法活動をしないように契約を結ばされた上に、数日後に当時のドウィヨゴ大統領が心臓発作で死亡して大変だった!
もう、アメリガ合衆国は怖くて怖くて嫌になった!
新しい嫁にも愛想尽かされて離婚ざれた!
あっひゃー!」

「大変だったんだね」

ラッキーはクスクス笑いました。
ここまでくると喜劇の類です。
話が面白すぎて、笑い死にしそうでした。
中年の話はまだまだ続き
オーストラリアヤーという国から、大勢の難民を押しつけられた代わりに、毎年、莫大な援助金を引き出す事に成功。
チュウゴクヤー、タイワンヤー、ニホンヤーという国々の間の外交駆け引きを上手く利用して、援助金を何度も引き出して大儲けしたりと、中年の人生は激動だらけで楽しそうです。
結局、財政破綻して貧困生活ですが、皆が釣りや採集活動をして毎日楽しく働いて健康的に暮らす国になりました。
相変わらず失業率90%でしたが、楽観的な国民性のおかげで平和な生活が維持されていたのです。
ラッキーは、中年の話にとても感心したので一カ月間、中年の家で同棲してあげようと思いましたが、やっぱり無理でした。
中年が発情しすぎて、ラッキーが海で泳ぐために下着姿になる度に

「オラはもう我慢できねぇー!
オラの迸る熱い情熱を受け取ってくれぇー!
オラは二度とラッキーちゃんをはなさねぇー!
結婚を前提に、そこの浜辺で楽しい事を」

「えい!」

「ヒデブッ!
でも、オラは諦めねぇー!
ラッキーちゃんはオラの嫁にするだぁー!」

「え?気絶してない!?えい!」

「ピヨア!
あ、諦めねぇー!
オラはラッキーちゃんが好きだぁー!」

何度も何度も襲われそうになる度に、ラッキーが殴ってナウル中年を気絶させてしまうので、このままだと中年の命が危ないから、一週間で国を出て行きました。
でも、ラッキーはナウル中年に何度も襲われたにもかかわらず、とても良い笑顔です。
この国を通して、人間の逞しさって奴を教えてもらった気がしたからです。
この世界は楽しい事に満ちています。
ラッキーは、60以上の月がある夜空を見上げて、頭の上にいる妖精さんに語りかけました。

「妖精さん、次にあの島に行ったら、石器時代の頃の人類を見れそうで楽しみだね」

楽観的で平和に暮らしていましたが、文明そのものは、下手したら石器時代の頃に逆戻りしそうでした。









14国目 怠けものの国
おしまい。



テーマ【ナウル共和国】
テーマ【あっひゃー!】


没ネタ

そして、この国の資源枯渇して最貧国に転落する問題は、人類世界全体に言える事だったので、将来的に石油資源が枯渇したら、人類の国々はどうなるのかな?ってラッキーは思いました。
安価で便利なエネルギーがないと、社会を維持するのは大変なのです。


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●ナウル共和国


あっひゃっー!
なんて素晴らしい資源なんだ!
オラ働かなくていいぞ!

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