ラッキーの不思議な旅
14国目 怠けものの国 中篇
10年後、ラッキーは思い出したかのように単一の資源に依存して生活している島国へと向けて飛んでいました。
今日は白い綺麗なローブを着ています。やっぱり、こういう服の方が気軽で、魔法ですぐに生産できるから、旅に適しているのです。
ラッキーはとっても良い笑顔で、楽しそうにウキウキとした気分で呟きました。
「どんな国になっているかなー?」
秒速300mほどの速度で空をしばらく飛んでいると、例の国が見えてきます。
絶海の孤島の各地は荒れ果てて、かつての活気をなくしていました。
以前は、複数の船が港に止まっていたはずなのに、船が1隻しか止まっていません。
話を聞くために、島の中央付近にある整備されずにボロボロになっている広場へと、ラッキーは光学迷彩を展開しながら降下して着地、光学迷彩をすぐに解除して誰かに話しかけようとすると
「あっひゃっー!
凄い別嬪だぁー!
あれ……?ラッキーちゃん?
いや、小さいくて若いし、そんな事あるはずがねぇ!
ラッキーちゃんの娘さんか!?
すげぇ別嬪だぁー!
あっひゃぁー!」
26歳になったナウル少年……いやナウル青年が目の前に居ました。
身体は遊びぬいたおかげか、褐色に焼けており、しっかりとした筋肉がついています。
日々、ストレスなしで暮らして居そうな呑気っぷりが顔から分かりました。
ラッキーは、知人に会えたから笑顔で挨拶をします。
「お久しぶり。
私が来なかった10年間の間に、この国は何か変わったかな?
君は元気だったようだね?」
「え?本当にラッキーちゃん?
昔と同じ小ささだなぁー!
あっひゃっー!
オラの娘よりも小せぇー!」
ラッキーの心が少し傷つきました。
でも、めげずに質問を続けました。
「そんな事よりも、この国は今はどうなっているの?
10年前よりも国そのものが元気ないよね?
リン鉱石が枯渇でもしたの?」
「ああ!ラッキーちゃんの言う通りになって、この国は大変だぁー!
掘っても掘っても出てくるリン鉱石の数が少なくなりすぎた途端、国の財政と経済が一気に崩壊して大変だぁー!
今じゃ電力も燃料も飲料水も不足して、生活が困難な貧乏国家!
贅沢な暮らしができねぇ!
あっひゃー!」
「?
そんな状況なのに、君は明るいね?
ひょっとして、私の忠告を守って農業とか、漁業とか、仕事を作ったの?」
「オラは産まれてから、一度も働いた事がないから、労働なんてできねぇ!
他の皆もオラと同じだから、ほらっ!
こんな感じだぁー!」
青年が指し示した指の先には、昼間の広場をひたすら歩く大勢の人間の姿が見えます。
この島の住民です。3分の1が過剰な栄養摂取のせいで太ってブヨブヨでした。
この光景を見ても、ラッキーは訳が分からないので
「散歩している人間さん達?
それがどうかしたの?」
「皆、働き方すら知らないし、国から支給されるお金もなくなったから、無為に散歩したり、釣りしたり、島を一周したりして時間を潰してゆっくりしているんだ!
オラも暇だから、毎日遊んでる!
釣りをして食べる魚はうめぇー!」
「あ、そうか。
労働そのものをしてこなかったから、勤労意欲以前の問題だったんだ。
この状態じゃ、労働者なんて存在しないから、産業を作るのは不可能だったんだね。
これじゃ会社の起業や、外国起業の誘致も無理って事か。
10年前の忠告は、全部無意味だった訳だよね……凄すぎて笑い死にそう」
ラッキーはこの国の絶望的な状況にクスクス大笑い。お腹が笑いすぎて痛くなりました。
この国の人間は歴史上、「自給自足で暮らす生活」→ 「つらい労働を強いられる生活」 →「遊んで暮らす生活」という時系列で三つの生活しか経験してないため、給料を貰って、その金で暮らすという概念そのものが存在しません。
これでは近い内に、文明が石器時代に戻って国が滅亡してしまいます。
でも、この状況でも青年は笑顔です。心は希望に満ち溢れていました。
「あっひゃっー!
ラッキーちゃんは頭がいいなぁー!
オラの国は失業率90%で大変だぁー!
でも、オラは絶対働かなねぇー!」
「ふーん?
君は元気だね?
どうしてそんなに希望を持っていられるの?
普通の人間なら、明日に絶望するよ?
なんでかな?かな?
今までの稼いだ莫大な金があるから、自分が生きている間は大丈夫とか、そういう安心の仕方でもしているの?」
「あっひゃっー!
今までリン鉱石を売って儲けた金も既にないんだぁー!
ラッキーちゃんに言われたから、一応、資源枯渇に備えて、オラ達は、リン鉱石を売って稼いだ金で外国のオフィスビルやホテル、国営の保険会社、海運会社、航空会社の経営に乗り出していたけど、全て外国人任せだから失敗して、不良債権だらけの大赤字で大変だった!
オラはもう働きたくねぇー!
でも、働かずに暮らすお金もねぇー!
きっと、オラ達が知識もない素人な事を見抜いて、外国人達が騙したんだぁー!
知らない間に財産ほとんど消えてた!
あっひゃぁー!」
「うーん?
未来が真っ黒だね?
私、人間の事が分からなくなってきた……
どうしてそんなに君は元気なの?」
青年がこんな絶望的すぎる状況でも、笑顔だったからラッキーは不気味がります。
儲けた金もない。
話を細かく聞くと、国民は祖父母の代から、無職ニートなので労働しない。
産業もない。島国だから普通は漁業?この国では釣りという趣味の範疇内です。
それ以前に漁業権は他国に既に売り渡していました。
こんな酷い国はそう滅多にあるもんじゃありません。
青年は、満面の笑みを浮かべて、ラッキーの右手に触れて
「そんな事よりもラッキーちゃん!
久しぶりに海で遊ぼうぜ!
未来の事なんて誰にも分かんねぇよ!
あっひゃっー!」
ラッキーは青年の反応に戸惑って、首を可愛く傾げて呟きます。
「うーん?
それでいいのかな?
君がそれでいいなら、良いけど、近い将来死ぬよ?きみ?
そんな末路でいいの?
それはそれで楽しめそうだけど、今の内に働いて国を何とかする方法を死に物狂いで見つけないの?」
「人間いつか死ぬ!
そんな事はオラは気にしねぇ!
今は服を脱ごうぜ!」
ラッキーは一日中、青年と一緒に海で泳いで遊ぶ事になりました。
今回、水着がないからラッキーは下着姿(黒色パンツとスポーツブラ)です。
青年はラッキーと遊べて、とても楽しそうでした。
お嫁さんと子供がいるそうですが、そんなのは関係ありません。
初恋とは人にとって特別な意味があるのです。
でも、ラッキーはすぐに島の生活に飽きたので、夕方になる頃には、ナウル青年と向かい合って別れの言葉を告げていました。
この娘、興味がなくなると容赦ないです。
「ナウル君。
私、この国飽きたから……もう、さようなら。
きっと、次にここに来る時、君は死ぬか、それ以上に酷い目にあっていると思うから、これが最後の別れになると思うの」
「あっひゃー!?
ラッキーちゃんっ?!!?!
一年間くらいオラと一緒にゆっくりしようぜ!」
「うーん、自然くらいしか、見どころないよね?
その自然も微妙だし、私はこういう国はつまんないんだよね。」
「オラはラッキーちゃんとお別れするのは嫌だぁー!」
青年は悲しんで泣きます。
悲しみの余り、小さいラッキーの身体を強引に掴んで持ち上げて、お姫様抱っこしました。
行き先は、近くの人気がないボロボロの家屋です。
このままじゃ(青年の命が)大変です。
「この先に、オラの今のお嫁さんとの素敵な思い出になっている場所がある!
周りに誰も住んでないから、そこでついムラムラして押し倒しても、誰にも迷惑がかからなくて、暗くて顔も分からないから、島の女性は誰も近寄らない場所な」
「えい!」
ラッキーが青年の首に、小さな両手をそっと回して、一気に力強く抱きしめました。
「あっひゃー!!?!!」
一気に、首に強いダメージを与えられた青年は、地面に倒れ、そのまま気絶しています。
ラッキーは、倒れた青年の顔に、そっと優しく手で触れながら
「うーん、次はどんな事になっているかな?
次に会う時、ナウル君は生きているかな?死んでいるのかな?
どっちなんだろう?
君の末路、私は興味があるけど、それを目にする事ができるのかな?」
ラッキーはナウル青年の寝ている顔を見て、あまりにも可哀そうな存在に見えたから、お礼に頬にキスをしてクスクス笑いました。
30分ほどすると、新しい国へと向けて、秒速100mほどの速度で空を飛んで移動を開始し、場には呑気に気絶しているナウル青年と、静かな自然が残されました。
さて、お金もない、無職ニートだらけのこの島国はどうなってしまうのでしょうか?
続きは
後 篇 に 続 く
●ナウル共和国
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あっひゃっー!
なんて素晴らしい資源なんだ!
オラ働かなくていいぞ!