ラッキーの不思議な旅
14国目 怠けものの国 前篇
天気は雲が僅かにあるだけの真っ青の晴天。
体を焼く日向ぼっこするのに丁度いい気候でした。
広大な何もない海の上を、白いワンピースを着た、金髪の小さい女の子ラッキーが、秒速100mの遅い速度で魔法を使って飛んでいます。
ラッキーはしばらく空を飛んで、快適な気分になっていると、眼下に絶海の孤島が見えてきます。
周りの島々から大きく離れた場所にあるため、文明が発展しつらい絶望的な立地です。
せいぜい利用価値は、漁業をするための拠点に利用する以外になさそうです。
ですが、この島はいくつものビルが立ち並び、道路を超高級車が走りまわり、港に複数の船が係留してある豊かな島でした。
そう、ここが今回のラッキーの目的地です。
1万人の世界一豊かな人間達が住む金持ちの国なのです。
豊かすぎて、国民が全員、働かずに済むほどに豊かです。
ラッキーは、浜辺の近くに、光を歪めて周りから見えなくする光学迷彩を展開しながら降下しました。
浜辺には、若い人間の男女達が、海で泳いで遊んだり、魚を釣ってゆっくりしていました。
ラッキーは光学迷彩を解除して、海パンを履いた16歳くらいの褐色肌の黒髪の少年の背後から話しかけます。
「ねぇねぇ、そこの君、
この国ってどんな国ー?」
ラッキーの声で振り返った少年はとっても笑顔で元気で、未来に不幸が待ち受けていると思ってないほどに無邪気な少年です。
一瞬、ラッキーに見惚れた後に、少年は大きな声で
「あっひゃっー!
金髪が綺麗な別嬪さんだぁー!!
オメェさんは何処から来たんだ?!
オラに何かようか?!
オラの名前はナウル!」
「私はエルフのラッキー。
今日、この国に来たばかりだから、この国の事を教えて欲しいの」
少年はラッキーに惚れたのか、顔を真っ赤に赤らめています。
ラッキーの気を引くために、少年は良い笑顔で質問に答えてくれました。
「別嬪さんと会話できるなんてオラ幸せものだぁー!
オラの国はな、世界一豊かな国で国民全員が幸せなんだ!
島からリン鉱石っていう肥料に使える石が採掘できるから、それを外国に売るだけで世界一の大金持ち!
そんな事よりもラッキーちゃん、オラと一緒に遊ぼうぜ!
服を脱いで泳ぐと気持ちいいぞ!
水着を持ってないなら、オラが買ってやる!」
「うーん、それだけなの?
他にも国の魅力はないの?」
首を傾げたラッキーが可愛かったから、少年は更に顔を赤らめて、話をしてくれました。
青春とか、若いって良いですよね。
「そうだなぁ……そうだ!オラの国は、リン鉱石のおかげで大儲けしているから、税金がないんだ!
仕事は全部、外国からやってきた外国人がやってくれる!
他の国は税金が高くて労働や生活が大変なんだろ?
ラッキーちゃんも・・・この国の誰かと結婚すれば快適に暮らせると思う!
だから、オラと一緒に泳ごうぜ!」
さり気なく、結婚して欲しい事を少年はアピールしてきました。
でも、ラッキーは知的好奇心を満たすことが最優先なので、返答は少年が期待するセリフではありません。
「ふーん、君の国はレンティア国家って奴なんだね」
「レンティア国家?なんだそりゃ?」
「レンティア国家ってのはね。
君達の国みたいに、土地による天然資源収入に依存して暮らしている国家の事だよ。
大抵、税金が安くて、この国の場合は労働力を外国人労働者に依存して、低賃金で働かしているだろうから、国民は労働を敬遠するんだ。
君達、働いたことないでしょ?
まぁ、私も働いたことないんだけどね」
「あっひゃっー!
ラッキーちゃん頭いいな!
確かにオラの国は、外国人に全部労働やらして、オラ達は一度も働いた事がねぇ!
そんなことよりもオラと一緒に泳ごうぜ!
服を脱ぐと気持ち良いぞ!」
ラッキーは、このあっひゃーという叫び声がうざったく思いましたが、ちゃんと話をしてくれるから我慢して、知的好奇心を満足させるために質問を続けることを選びました。
「泳ぐ事よりも、この島の案内をしてくれた方が私は嬉しいかな。
そしたら服を脱いで、君の買った水着で一緒に泳いで遊んであげるよ。
だから、色々と教えてくれないかな?かな?」
「あっひゃっー!
なら、オラの車で島をあちこち巡ろう!
ラッキーちゃんに似合う水着も買おう!」
少年は大喜びでした。
ラッキーの背中に手で触れて、浜辺の近くにある高級自動車に連れ込もうとしています。
この自動車はフェラーリと呼ばれる高級スポーツカーでした。
ところどころ手作りで作られ、車体全てが職人芸の塊です。
大金持ちじゃないと、買う事はできない金額なのです。
少年は車の扉をカパッと開けて、運転席の隣の座席にラッキーを座らせ
少年は運転席の方に座り、鍵を車の鍵穴に差し込んでエンジンを起動させます。
エンジンが活発に動いたから、車は振動で震え、少年が操作した通りに、この島の道路を高速でスイスイ走りました。
少年はとっても笑顔です。気分は可愛い娘と一緒にデート感覚です。
時折、ラッキーの方をチラチラと見てくるから、何時、事故がおきても可笑しくありません。
「あっひゃっー!
別嬪のラッキーちゃんと一緒に、車でデートなんてオラは幸せものだぁー!
オラはお嫁さん募集中だから、ラッキーちゃんが嫁になってくれたら幸せだぁー!
どうだ?!
オラと結婚する事を前提に、恋人になってくれねぇかな!?」
「うーん、それはどうだろうね。
この国、すぐ飽きそう」
「あっひゃー!?」
小さい娘達は、絶対、知らない人にホイホイついてゆくラッキーの真似をしないでください。
大抵、酷い目にあって、お家に二度と帰れません。
車で数分移動すると、病院と学校が見えてきました。
こんな小さな島国にあるのが不思議なくらいに立派な大きい建物です。
気になったので、運転中の少年にラッキーは話しかけました。
「ねぇねぇ、この国って病院や学校で働いている人も外国人労働者なの?」
「ラッキーちゃん。
オラ達の国は、政府職員以外は全員働いてないぞ。
食料品とかも全部、海外からの輸入!
それに病院での治療も教育も全部無料でここは本当に良い国だぁー!」
「・・・・リン鉱石が取れなくなったら、この国はどうする気なの?
そんな滅茶苦茶なシステムじゃ、何時か酷いことになるよ?」
「あっひゃっー!
小さいラッキーちゃんが心配する事じゃねぇー!
大人や国が何とかしてくれるから、安心して毎日遊んでればいいんだ!
銀行の預金だって、100万ドルある!」
うざいほどに少年は笑顔でしたが、ラッキーは、少年の言い様にクスクス笑いました。
この国の未来がどうなるのかわかってきたからです。
少年はラッキーが笑っているから、自分に好意を持っているんだと勘違いして喜んでいます。
そして意地悪な問いかけをしようとラッキーは思いました。
「ねぇねぇ、君達の先祖は昔はどのように生活していたのかな?かな?」
「オラ達の先祖?
そりゃ、漁業と農業で貧しい生活していたらしい。
でも、オラ達は違う。
リン鉱石のおかげで毎日がばら色生活だぁ!
売るだけで働かずに生活できる!
あっひゃっー!」
「ふーん、でも、私は君達の事を思って忠告するよ。
近い将来、働かずに暮らす生活は破綻するよ。
その時に後悔しないように農業や漁業でもやって、産業を作ったら、この国にも未来はあるんじゃないかな?」
「オラは頭が悪いから分かんねぇー!
そんなことよりもデパートに着いたから、ラッキーちゃんの水着を買うぞ!」
「・・・・まぁ、この国がどうなっても楽しめるだろうし、私はそれでいいんだけどね」
車は大きなデパートに到着しました。
そこは多数の商品が溢れている大きな大きな店です。一階にチュウゴクヤー人の経営するレストランがあります。
ラッキーは少年と一緒に車から降り、その店の自動ドアを通って入りました。
店内には、全て海外から輸入した商品がずらりと並び、働いている人達は全員が外国人です。
近隣のミクロネシアヤー諸国や、チュウゴクヤーという国から出稼ぎにやってきています。
外国人労働者達は笑顔で、ラッキーたちを出迎え、黒い紳士スーツを身にまとったオーナーらしき初老の男性が歓迎の声を浴びせてきます。
「ようこそ!初めて来店してくれた可愛いお嬢様!常連客の格好いいナウル様!
今日は何をお買いになるので?
店には何でもあります!」
少年はオーナーに向かって笑顔で、ラッキーの肩を両手で掴んでモミモミしながら
「この娘に似合う素敵な水着を売ってくれ!
10着でも20着でも買うぞ!」
ラッキーは、その豪快な買い物っぷりにクスクス笑いました。
こうやって、人間の♂から貢がせるのは慣れていますが、こんなに金使いが荒い人はそうはいません。
ラッキーは店員達が次々と持ってくる水着を着て、少年にどれが似合っているかを何度も何度も聞きました。
「君は、私にどの水着を着て欲しいのかな?
え?
これ?
ふーん。」
「あっひゃっー!
ラッキーちゃん最高だぁー!
スカートつきの水着は本当に可愛くていいっ!
オラ、ラッキーちゃんの事が余計に好きになった!」
「・・・人間の男はこういうのが好きなんだね」
ラッキーが今着ているのは、ピンクと白の縞々パンツと、青色のスカートが一体化したセパレート型の水着です。
【9国目 無責任な国】のゼウォル少年も、ラッキーにこの水着を買ってくれた事を思い出しました。
人間の♂は、なぜか無地より色や模様つきのパンツと、スカートつきの水着を着た女の子が好きなのです。
なぜかはここでは説明できません。
あえて言うなら、パンツと水着も、外見上はそんなに変わらないとしか言うしかありません。
ラッキーはこの水着を着たままデパートを出て、一日中、少年と海で遊びました。
少年はラッキーと遊べる事に大喜び、太陽が海の向こうへと落ちて真っ黒になるまで泳いで遊び、二人は仲良くなりました。
ある時は水の掛け合い。
ある時は浜辺の砂で城作り。
少年はラッキーの笑顔を見ながら、どんどん惚れて顔が真っ赤になり、とっても初々しい青春の時間が流れていました。
でも、もうお別れの時間です。
60個以上の月が空に浮かんで、地上を照らしています。
この惑星は巨大な惑星なので、大きな衛星の数も恐ろしいほどに多いんです。
ラッキーは遊び終えて疲れて、浜辺で倒れている少年の顔を隣で見ながら、別れの言葉を容赦なく言いました。
「この国飽きたから、また10年後に来るね。
今日一日楽しかったよ」
「え?」 少年は起き上がり、死にそうなくらいに顔を歪めて呆然としました。
「楽しかったけど、この国小さくて退屈で飽きたから、もう出ようと思うの」
「あっひゃっー!?」
少年は驚いた後に泣きました。
初恋の娘とのお別れ。
せめて、最後の思い出を作ろうと人気のない洞窟にラッキーの手を掴んで連れ込もうとしましたが
「オラ、とても良い場所を知っているんだ!
ほら!この洞窟は凄いんだ!
具体的には、中で何があっても、遠くには聞こえないから、ここでカップルが大量に出来た逸話があるんだ!
オラの父ちゃんもお母ちゃんをここに連れ込んで」
「えい!」
「パピプベポっ!」
ラッキーにお腹を殴られて気絶させられたから、少年の初恋はおしまいです。
良い思い出は、可愛い金髪の小さい女の子と一日楽しく海で遊んだ。それだけ。
ラッキーはそのまま体を魔法で浮かせて飛んで国を出て、この国の未来を想像してクスクス笑っています。
「10年後はどうなっているだろう?
滅亡かな?
衰退かな?
繁栄かな?
人間の国の未来を想像するのは楽しいよね。妖精さん」
「もうやだ、このエルフ。
あー、森に帰りたい……
他の妖精達と会いたいよ……」
ラッキーの頭の上にいる妖精さんは嫌そうに呟きました。
はてさて、単一の資源産業に依存した国はどうなるのでしょうか?
少年の未来は?
中篇に続く
●ナウル共和国
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あっひゃっー!
なんて素晴らしい資源なんだ!
オラ働かなくていいぞ!