ラッキーの不思議な旅
12国目 伝統を守る国
とある辺境の島国に、お洒落な西洋風の街並みが広がる国がありました。
そこでは紅茶を飲む伝統文化が栄え、紅茶が美味しい事で有名です。
でも、ご飯は【素材の味を楽しんでください!】といっても過言ではないほどに不味く、調味料の使い方が全くなってない残念な国でした。
白いワンピースを着た可愛らしい金髪の少女ラッキーは、その国の喫茶店で紅茶を注文して飲んでいます。
紅茶からは甘ったるい香りが立ちのぼり、飲むと美味しい味でした。
この国は、白人だらけの国なので、ラッキーの外見は目立たなくて、いつもよりも気軽です。
「うーん、良い香りと味。
こういう素朴な楽しみもいいね。
ご飯は……不味いけど」
この喫茶店は、大量の白い椅子とテーブルがある大きな広場に面していて、そこで紅茶を楽しむ贅沢な喫茶店です。
大勢のお客さん達が椅子に座り、外で陽気と景色を楽しみながら美味しい紅茶を味わっています。
広場の周りには、西洋風の石造りの高層建築物が並んでいて、この国の長い歴史という物を感じさせてくれました。
ラッキーは100回目になる紅茶のお代わりを注文しようとすると、広場に一人の中年の男が走って駆け込み、持っている灰色のチラシの束を掲げて
「号外っ!号外!
東の国シンヤーが、我が国に紅茶を売らないと宣言!
大ニュースだよ!
ほらっ!買った!買った!
我が国の伝統を破壊する敵だ!」
広場中にいた人間達がざわめき、ニュースの詳細を知るために、中年の男からチラシ……一枚の新聞用紙を次々と買って行きました。
そして、すぐに皆が内容を読んで衝撃を受けています。
男も女も、老人も子供も若者も、こう叫びました。
「なんて事だ!我が国の伝統に喧嘩を売るなんて!戦争だ!」
「戦争だ!戦争!」
「伝統を守るために!紅茶を飲むために戦争だ!」
ラッキーは、紅茶をゴクリゴクリ飲みながら、この光景を呑気に見ていましたが、訳が分からないので首を可愛らしく傾げました。
たかが、紅茶一つの販売を禁止させられたくらいで、戦争をしようなんて正気の沙汰ではありません。
この国の事情が分からないので、ラッキーは近くにいた、30歳くらいの人の良さそうな女性店員さんに紅茶を一つ頼んだ後に聞きました。
「ねぇねぇ、なんであの人達は戦争と叫んでいるの?
紅茶ってそんなに大事なの?
戦争したら大勢の人が死ぬよ?」
すると店員さんが怒りに顔を歪ませながら叫びました。
「小さいお嬢さん!
あなたは何も分かっていないのね!
紅茶の伝統文化を守るためならば、戦争して当たり前でしょ!?
そんな一般常識も理解してないの!?
非国民!キチガイ!異教徒!アバズレ!ビッチ!ババァ!
この店から出ていって!
あと首吊って死んで!」
「うーん、私はこの国の人間じゃないんだけど……」
「あら?
ごめんなさい。
てっきり、同胞だと思っていたわ。
金髪の髪と、碧眼は我が国の特色ですものね」
怒っていた店員さんが、慌てて頭を下げて謝ってきました。
ラッキーはそんなことよりも知的好奇心を満たしたいので、質問を続けます。
「謝罪よりも、そんなに紅茶の文化を大事にしている理由を、私に教えて欲しいな」
「お詫びをかねて答えてあげますとも。小さいお嬢さん。
この国ではね。
ほら、ご飯が不味いでしょ」
「うん、確かに調味料の使い方とか間違っていて、全部不味かったよ。
でも、この国は紅茶だけは凄く美味しいよね」
「それが答えよ。
人生の三大欲求の一つ【食欲】を楽しめないなら、生きている意味がないでしょ?
だから、紅茶のために戦争するの」
ラッキーは首を可愛く傾げました。
一応、エルフは光と水だけで生きていけるので、別に美味しいご飯や飲み物は必要ないからです。
特にラッキーの場合は、食欲よりも遊び心や知的好奇心。
それを満たすことが一番重要でした。
店員さんは、分かってない顔をしているラッキーの頭に手を置いて、優しく撫でながら
「小さいお嬢さんは、外国の人だから、美味しいものをたくさん食べているから、私たちの事が理解できないのね。
この国はね。
寒くて生活するの大変で、生きるのがとっても大変なの。
ご飯は不味いし、給料は安いし、欝になりやすいのよね。
私は恵まれてるからいい方だけど、都市で働く労働者の平均寿命は環境のせいで30歳を切るそうよ。
そんな辛い生活で唯一楽しめるのが・・・紅茶なのよ。
理解できたかしら?」
「うーん、理解できた気がする。
教えてくれてありがとう」
ラッキーは、店員さんが人生で苦労しているんだなぁと、表情を見て理解できたので、お礼にポケットに入れていた金貨を一枚あげました。
恐ろしい大金です。
店員の年収数年分に匹敵する額の金貨です。
店員さんはラッキーに、逆にお礼を言おうとしましたが、ラッキーは光を歪ませる光学迷彩を展開していたから、店員さんの眼には映りませんでした。
こんな短時間で、この広大な広場から人が隠れる事は不可能だから、店員さんは驚愕して、持っていたポットを落し
「え・・・?私が会話してたのは・・・ひょっとして幽霊?
きゃっー!」
店員さんは泣き叫びながら、喫茶店の方へと走っていきました。
ちゃんと金貨だけは手放さないところがガメツイです。
ラッキーは、その様子を見てクスクス笑っています。
人が驚く顔を見るのが、大好きなのです。
ラッキーは、紅茶が美味しいから、この国に1年間住み続けました。
その間、この国は、紅茶の販売を禁止した【シンヤー国】との戦争に明け暮れ、とうとう勝利を勝ち取ります。
国中は戦勝で大騒ぎでした。
国のあちらこちらで、国民が祭りのように喜んで騒ぎ、商人は商品を無料で配り歩いています。
踊り、笑い、酒を飲み、国民の皆が明るい気分になって幸せです。
「やったー!」
「明日から紅茶を安心して飲める!」
「紅茶の文化は守られた!」
「紅茶万歳!」
皆が喜ぶ姿を余所に、ラッキーは、そろそろ、この国に飽きたので、新しい旅に出ようと思いました。
この国を出る前に、最後の紅茶を楽しもうと、一年間通った喫茶店の所に行き、紅茶を100杯分頼んでから、思い出したかのように顔馴染みの店員さんに問いかけました。
「ねぇねぇ、今まで聞くのを忘れてたけど、シンヤー国はどうして紅茶の販売を禁止したの?」
「あら?
小さいお嬢さんは知らなかったの?
それはね。
我が国が紅茶を購入する費用を貿易で稼ぐために、アヘンっていう麻薬を販売したから、シンヤー国が怒ったせいなの」
「え?」
「麻薬の意味は分かるわよね?」
「うん、一度でも摂取すると、依存してそれなしに生活できなくなる強力な薬の事だよね?」
「そうそう、小さいお嬢さんは賢いわね。
私も噂でしか聞いた事はないけど、我が国が販売した麻薬のせいで、シンヤー国の人達が摂取して大勢の人が廃人になったり、治安が悪くなったり、膨大な金・銀を我が国に売って、その代金で麻薬を買ったりと悲惨らしいわ。
それで、怒ったシンヤー国の人達が、我が国の麻薬の密輸商人を逮捕したり、二度と紅茶の取引をしないとか宣言しちゃったの」
完全に、紅茶販売禁止は、この国のせいでした。
ラッキーは、店員さんがこの戦争をどのように思っているのか気になったので、最後の問いかけをします。
「ねぇねぇ、この国が完全に悪いように、私には見えるんだけど、店員さんはどう思うの?
やっぱり世界は弱肉強食だから、弱い方が悪いのかな?かな?」
店員さんは素敵な笑顔で
「あらやだ。
紅茶の伝統文化を守るために、麻薬で大勢の人を廃人にしたり、戦争したりして当たり前じゃない。
小さなお嬢さんは、まだ私たちのことを理解できてなかったの?
紅茶のためならね。13億の人口があるシンヤー国にすら戦争に勝利して、皆、奴隷にしちゃうのが私達よ。
伝統って素敵よね」
ラッキーは、未だに人間の事を理解できませんでした。
おしまい
テーマ【伝統を守るためならば、戦争してもよかろうなのだぁー】
テーマ【阿片●争】
テーマ【シンヤー側の方は、【約束を守らない国】としてあとで書く。】
●紅茶をのむためならばなでもする
↓
●こうちゃおいしい
↓
●我が国の製品が買ってくれないから、紅茶を買う金がこのままじゃなくなる。
↓
●そうだ麻薬売ろう!
↓
相手国が激怒して、麻薬の輸入禁止、密輸商人の摘発やったけど、我が国はそれを断じて許さない!
戦争だ!
↓
相手国をぼこぼこにして、正式に麻薬を輸入させて、市場も無理やり解放
↓
●伝統とは偉大なのです。
キャラ 高貴なオバサン