エルフ娘の世にも不思議な旅
13国目 世界一幸福な微笑みの国 前篇
空は、真っ青で過ごしやすい良い天気。
美しい自然が溢れた山脈地帯にある道を、一台の大型のバス(乗り物)が走っていました。
中には、十数人の人間と、白いワンピースを着た、小さな金髪の女の子ラッキーがバスの席に座ってゆっくりしています。
ラッキーは今日も、頭に拳サイズの妖精さんを乗せていました。
バスが向かう先には、世界一幸せな国民達が住む王国があると言われており、その噂を聞いた人間達と一緒に、ラッキーは行動しているのです。
「車っていいかも」
ラッキーはいつも徒歩だから、バスでの移動に新鮮さを感じて、目をキラキラ輝かせていました。
人間の乗り物そのものに知的好奇心が爆発です。
バスがしばらく道を進むと、山に覆われて、あまり技術が発達してなさそうな小さな国が見えます。
城壁に大きく掲げられた国旗は、竜が細かく描かれています。
国の大きさは現実の日本の九州ほどの小ささで、そこに70万人の人間が住んでいました。
辺り一面に農地が広がり、機械化が進んでいないから人の手で、農地を耕作しています。
ゴミの収集システムが確立してないため、美しい自然には、ゴミが投棄され、景色は台無しでしたが、人間の世界ではよくある事なので、ラッキーは気にしませんでした。
そのままバスが国へ近付くと、軍帽を被り、銃で武装した兵隊さん達がやってきました。
大型バスを攻撃されたくないから、運転手がブレーキを踏んでバスを停車させ、兵隊さん達が周りを包囲して銃を向けて口々にこう言ってきました。
「外国人さんっ!
滞在費は1日250ドルです!」
「何日の滞在ですか!?」
「法律で王様への批判は禁じられています!ご注意を!
批判したら国外追放です!」
「民主主義者ですか!?
民主主義を喧伝する事は王政への重大な犯罪行為です!」
250ドルといえば、かなりの高額の大金です。
具体的には、給料が高い先進国で3日働いて得る賃金、後進国なら1カ月か1年働いて、そのお金を得られるか、得られないかの微妙な高額です。
バスに乗っていた人間さん達は困惑しました。
想像していた秘境の理想郷とは全然違う、泥臭い現実の匂いがぷんぷんしたからです。
ラッキーは、1人だけ席から離れて、とことこ歩いてバスを降りて外に出て、兵士達に近付いて金貨を1枚渡し
「この国に10日滞在するけど、この金貨でいいかな?」
珍しく、不法入国ではなく、正式に入国しようとしました。
兵士達は歓迎して満面の笑みを浮かべて
「「「「ようこそ!
小さいお嬢さん!
ここは世界一幸せな国民が住む微笑みの国です!」」」」
ラッキー以外の他の人間さん達は、来た道を引き返して、入国するのをやめました。
多額の金を要求する時点で、とっても胡散臭い国に見えたからです。
でも、ラッキーには、この胡散臭さがたまらないほど好きになれました。
入国したラッキーは、国内を散歩してみる事を、最初にしました。
国民の五分の3が農業に従事し、国そのものが高地にあるから、国内は畑と山だらけです。
子供達は、木の銃の玩具を手に持ち戦争ごっこして遊んでいました。
親達は、機械を使わずに手作業で農業をやっています。
機械化が他の国と違って、全く進んでいません。
最貧国といっても過言ではない貧乏さです。
「うーん、幸せな国?」
ラッキーはこれらの光景を見て疑問に思いました。
人間は基本的に物の豊かさに比例して、幸せを感じる生き物だからです。
頭の上に乗っている妖精さんは、逆に良い国だと思ったので、ツインテールの緑色の髪を揺らしながら、話しかけてきます。
「ラッキー。
ここは良い国だよ。
自然に溢れて、人間が日々頑張って暮らしているから、僕は素敵だと思うの。
ほら、他の国と違って物乞いや、スラム街がないよ?
ここはとても健全だよ」
「あ、本当だ」
ラッキーはここで初めて気付きました。
この国は、自給自足で生活している人がほとんどなため、スラム街や物乞いが存在しないのです。
つまり治安が良くて、散歩に適している国でした。
妖精さんは、久しぶりに満面の笑みを浮かべて
「ね?良い国だよね?ラッキー」
ラッキーは、妖精さんが笑顔なので、そっと微笑みを返しました。
ここが微笑みの国なだけに。
ラッキーが徒歩で、この国の最大の都市であり首都ティンプーの方向へと向けて散歩していると、前方から10万人以上の大勢の人間さん達が、ぞろぞろ歩いている姿が見えます。
彼らは国の外の方角へと向けて、ひたすら移動していました。
表情はとっても暗く、嫌そうな顔をしています。
10万人の人間の周りには、銃を装備した兵士達が歩き、誰も逃げ出さないように監視していました。
ラッキーは気になったので、道の周りの畑で農業をしている30歳くらいの青年に話しかけてます。
「ねぇねぇ、あの人達はどうして暗そうな雰囲気で歩いてるの?」
ラッキーの声で振り返った青年は、手に鉄製の農具を持ち、泥だらけのシャツとズボンを着ていました。
顔は日で焼けて真っ黒で、働き者で人のよさそうな顔をしています。
「ん?
お嬢さんは変わった髪と目をしているね?
外国の人かい?」
「うん、今日、入国したばかりなの。
だから教えて欲しいな」
ラッキーが首を可愛く傾げたので、青年は微笑みましたが・・・すぐに質問内容のせいで気まずい顔になり、周りを見渡して、ラッキーの耳に口を近づけて小さな声で
「あれはな。
国外追放の刑を受けたネパァルゥ人だ」
「ネパァルゥ人ってなーに?」
数人の兵士達がラッキーの声を聞いて、顔を向けました。
青年は黙り込んで、何も言わなくなったので、これ以上の話を聞けません。
どうやら、ネパァルゥ人というのは、この国の触れてはならないタブー的な存在のようでした。
「もうやだ、人間の世界」
頭の上にいる妖精さんは、ようやくめぐり合えた国がいつもと同じような酷いオチを抱えている事を理解して、不貞寝しました。
ラッキーは、畑にいる人達に話を聞こうと何度も何度も話しかけましたが、誰も教えてくれないから、残念な気分でションボリしているラッキーは10万人の人間が通り過ぎる光景をゆっくり見る事にしました。
10万人の人間は、この国の人達とは違う服を着ています。話している言語も違います。
人数が人数なので、通り過ぎるのに1日の時間がかかりそうでした。
ひたすらラッキーは景色と人を眺め続けて、太陽が地平線の彼方へと落ちそうになっています。
農作業をしていた人達は、暗くなったから自宅へと帰る帰路につき、10万人の人間の大行進の方は未だに終わっていません。
人の流れは途切れる事もなく、ぞろぞろ歩いています。
ラッキーは、首都へ向かう散歩を再開しようかな?と思っていると、背後から声をかけられました。
「おい、小さいお嬢さん」
ラッキーが振り返ると、先ほど、ラッキーと会話した30代の青年がいました。
全身から、一日分働いた臭い汗が染み付いて臭ってきます。
ラッキーは、暇だったので嬉しそうに返事を返しました。
「私に何かようかな?」
「いや、小さいお嬢さんが、何時まで経っても、ここから動かないから心配になってな。
今日、泊まる宿は決まっているのかい?
女の子の野宿は危険だよ?」
ラッキーは首を横に振り、宿に宿泊する予定がない事を伝えました。
青年は顔に笑みを浮かべて
「なら、俺の家に泊まっていくといい。
夕食と朝食つきで10ドルでいいぞ。
外国人だから、お金は持っているよな?」
「うん、持ってるよ。
はい」
ラッキーは、銀貨を1枚ポケットから出して青年に渡しました。
明らかに10ドルという金額じゃありません。
200ドル相当の銀貨です。
青年は、銀貨というものを見た事がないので、ただの青銅のお金だと勘違いしました。
「うーん、これは青銅のお金かい?
これじゃ1ドル分の価値しかないね。
まぁ、おじさんは優しいから、無料で泊めてあげ」
「いや、それは銀貨だよ。」
「え?」 青年は呆然としました。
「銀貨だよ。
たぶん、ドルで換算したら200ドルくらいするんじゃないかな?
これで足りないなら、もう一枚払うよ」
ラッキーは無造作に、銀貨をもう1枚取り出して、青年に渡しました。
青年は一気に大金を稼げた事を喜び、ラッキーを自宅がある場所まで案内しました。
青年が案内した家は、日干しレンガ造りの小さな家でした。天井裏は昔は食料の貯蔵庫にしていた名残で風通しが良いようにつくられています。
青年は木製の扉を開け、大きな声で
「おーい!
外国のお客さんを連れてきたぞぉー!」
家の中から、青年のお嫁さんと思われる20代後半の美しい女性と、5人の子供達が出てきました。
子供達は、珍しい外見をしているラッキーに纏わり付いてベタベタ触りながら、質問を次々としていきます。
「すげぇー!綺麗な金髪だぁー!」
「何処の国の出身なの?綺麗な髪!」
「綺麗なお洋服!私も欲しい!」
「肌真っ白!いいなぁ!」
「目が青色?不思議な色!」
ラッキーは困りました。
子供達が触れる度に、風のバリアーの一部解除を頻繁にやらないといけないから、うかつに制御に失敗すると青年の家族は次の瞬間に、風のバリアーに巻き込まれてあの世送りです。
子供達に身体のあちこちを触られたり、スカートを破られそうになって、とっても困りました。
「長い耳!長い耳だ!凄い!これ本物?!」
「わぁー!髪ツヤツヤ!絵本の中のお姫様みたい!」
「いいなぁ!このお洋服いいなぁ!頂戴っー!」
「耳とがってる!変なのー!」
「ばぁーか!ばぁーか!」
子供達に、長くとがった耳を何度も触られ、真っ白の肌も、地面に届きそうな金髪も弄られ、白いワンピースも引っ張られて大変です。
子 供 達 の 命 が 大 変 で す 。
青年はラッキーの困っている様子を見て微笑みながら、子供達に説教しました。
「おーい!お前達!
お嬢さんが困ってるぞ!
少しは遠慮しろ!」
「「「はーい!」」」
子供達は父親である青年の言うことを聞いて、ラッキーから離れました。
子供達の命が救われた瞬間でもあります。
あと10分ほど、この展開が続いたら、風のバリアーの超高速回転に子供が5人とも巻き込まれて死んでいるところでした。
ラッキーは、ほっと胸を撫で下ろします。
常に周囲に展開している風のバリアーは、魔法ではなく、エルフの生態そのものなので、完全解除が不可能なのです。
人間で言う呼吸のようなものでした。
(危なかった。あとちょっとでばらばら死体にしちゃう所だった)
青年の家族はそんな事情を知らずに、ラッキーに微笑みます。
ラッキーも彼らに向けて、そっと微笑みました。
ここは微笑みの国なのです。
後編に続く
テーマ 【ブータン】
語り部 50歳くらいの笑顔が凄いオバサン あらあらやだ。旅人さんかしら?滞在料は金貨1枚よ。
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●人口70万ほどで、領土は九州ほどの小さな山だらけの土地
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もともとチュウゴクヤーという国が、チベットヤーを攻撃して大量虐殺して、そこから逃げてきた連中がブゥタンに作った国。
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でも、国民の色んな国々の人が混じりすぎてたいへんだから
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●力ずくで弾圧と国外追放をしまくる国。
ネパァル人 →人口の半分を占めそうだからでていけぇー
元祖ブゥタン人 →これもでていけー(現在)
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●1日滞在するだけで、莫大な滞在費を要求して、他国人が住み着く事を許さない。A万円
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●でも、国独自の基準でつくった【仏教理念に基づき国民の総幸福を目指す】で世界一幸せな事になっている。
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現政権にとって都合の悪い、今の政治に不満のある連中はみんな国外追放しちゃえばすべて問題解決
あー、幸せだなぁー
キャラ 高貴なオバサン