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ゆっくり戻るよ!
エルフ娘の世にも不思議な旅

10国目 世界平和の国  後編


長くて細い塔のような大陸間弾道ミサイル1000発は、今にも発射されそうでした。
既にそのための燃料は充填してあり、一度点火すれば、ミサイルが発射されて周辺諸国は滅亡してしまいます。
この巨大な星だと様々な要因でその程度の僅かな被害(死者100億人)で済みますが、もしも、この量の核兵器を現実の地球で使った場合、核兵器が巻きあげた膨大な粉塵が太陽からの熱を吸い取り、地球全体を寒冷化させて降水量を減らし、作物が育ち辛い環境になり、全人類滅亡クラスが餓えて死ぬ量の核兵器なのです。
地球にも、約1万7千の核兵器がある事は気にしないでください。
マルクスは清々しい笑顔で、景気良く演説を続けました。

「世界に必要とされるのはっ!
我が国だけである!
勤勉でっ!
質素でっ!
世界一優秀な人民がいる我が国だけなのだ!
もう一度言う!
世界は我が国のためだけにある!
さぁっ!
有象無象のゴミどもを今すぐ殺そう!
このボタンを押せば、周辺諸国へと向けてミサイルは発射される!
すなわちっ!人類史初めての恒久的世界平和の成就の一歩となる!!」

「「「ジーク!マルクス!ジーク!マルクス!ジーク!マルクス!ジーク!マルクス! 」」」」

200万人の群衆は、無邪気な顔で喜びジーク(勝利)と叫び続けました。
マルクスの手には、小さい赤いスイッチつきのボタンがあります。
ポチッと押すだけで、既に目標を設定済みのミサイルが目的の国へと出発し、核兵器の破壊力で消滅させるハイテク仕様です。
ラッキーは、まだ周辺の国に訪れておらず、旅の楽しみを奪われるのが嫌だったので、3000発の風の刃を作り出して飛ばし、核ミサイルを全部、縦や横に真っ二つにしてあげました。
マルクスはそれに気づかずに、スイッチの上に右手の親指を置いて叫びます。

「さぁっ!
世界の命運は我が国は握ったぞ!
古き世界よ!滅びよっ!
新しき世界……恒久的世界平和実現のためにっー!」

ポチッ

ボタンを押しても、既にミサイルが真っ二つになって壊れているから、飛びませんでした。
核弾頭を搭載した所も真っ二つなので、この場で爆発しない所が幸いです。
何もおきないから、200万人の民衆や、マルクスは呆然として口を開けています。
マルクスは何度も何度もボタンをポチッポチッ押しますが、ミサイルが真っ二つに割れて、地面へと次々落下しているだけでした。

「何故だ!
不良品か!?
ミサイルを製造した責任者は、全員処刑だ!一族郎党まとめて処刑!
世界平和実現の妨害をする奴らとして認定する!
……あれ?
ワシの視界が二つ……?
マルクスゥッ!」

バタン

ラッキーの風の刃で、マルクスは顔が縦に真っ二つになって、身体が仰向けに倒れました。
二百万人の群衆は、偉大な指導者の突然の死に驚いて叫び声を次々とあげています。

「「「「「「「「「ま、マルクス様が死んだっ?!!!!!」」」」」」」」」」

普段はこういう馬鹿げた惨劇を無視するラッキーがマルクスを殺したのは、旅をしている最中に、その地域ごと核兵器で破壊されたら、ゆっくり旅もできないから、マルクスを殺した。ただそれだけでした。
ラッキーは、この国で知的好奇心を満足させたので、国の外の方へと向けて笑顔のまま歩きます。
光学迷彩を常に展開していたから、誰も広場にラッキーが居たことに気づきません。
200万人の群衆が大騒ぎして、警戒している軍人が疑心暗鬼になって、指導者を暗殺したテロリストをあぶり出そうと、民衆に銃を向けて乱射して殺していますが、ラッキーの知った事ではありませんでした。

タタタタターン! 何度も何度も銃声が広場に響き渡りました。

「「「「「うあああああああああああああああ!!!
軍が俺達を殺そうとしているぞっ!?
俺達は世界平和のために必要な人材だろっ!?!」」」」」

タタタタターン! 

「「「うぇーん!お母さんーっ!」」」

タタタタターン!

「「いやぁー!」」

タタタタターン!タタタタターン!タタタタターン!
タタタタターン!タタタタターン!タタタタターン!
タタタタターン!タタタタターン!タタタタターン!
タタタタターン!タタタタターン!タタタタターン!

何時までも、何時までも、広場には銃声が鳴り響いていました。












ラッキーが国の外を出て、平地の地面の道を歩いていると、前方から何かが飛んできました。
それはブォーンブォーンという音を鳴らした数十の黒い点です。
上空10000m付近を飛んでいます。
ラッキーは両手を広げて無邪気に喜んでいます。

「飛行機だ!
凄い!」

よく見ると、それは爆撃機と呼ばれる飛行機の一種でした。
爆弾を大量に内臓し、標的の所に爆弾を投下して破壊する事を目的に作られています。
ラッキーの目は、好奇心でキラキラ輝きました。
爆撃機の編隊なんて、制空権を確保した戦場でないと、そう滅多に見られないものです。
爆撃機の行き先は、全世界を滅亡させようと企む、先ほどの国。
すぐに爆撃機の編隊は、予定の場所に到達して、内臓している爆弾を雨のように降らして爆撃していきます。
効率よく、相手国の戦争遂行に必要な能力を削ぐために、爆撃機の標的は基地・軍事工場・政府の施設でしたが、ラッキーにはそんな事は分かりません。
投下される黒い爆弾は、次々と標的を吹き飛ばし、戦争に必要な設備が消滅していきます。
ラッキーは、その新鮮な光景を見て、とっても楽しい気分になりました。
こんなの初めてです。
目を輝かせて、何時までも何時までも、この光景を見ていました。
知的好奇心で心は一杯です。

「もうやだ、このエルフ」

ラッキーの頭の上にいた妖精さんが嫌そうな顔で呟きました。




数時間後、次の爆撃機の編隊がやってきました。
今度は住宅地へと向けて無差別に爆弾を投下しました。
普通は、こういう住宅地や民間人への攻撃は、条約で禁じられているのですが、この国はそういった条約に加盟してないので、幾ら民間人を殺しても問題にはなりませんでした。
鉄筋コンクリートの建物だらけなので、爆撃で効率よく破壊するのが困難です。


爆撃機が爆撃を繰り返し続けて3日が経過すると、今度は数十万人で構成された周辺国の連合軍がやってきます。
彼らを指揮する茶色のコートを着た初老の将軍は部下達にこう言いました。

「あの国は、世界を危機に陥れようとする邪悪な国だ!
だから全員皆殺しにして、完全に破壊する!
奴らは世界に必要のない存在なのだ!
我らは世界の平和を守るためにっ!
我らは世界の警察としての義務を果たすためにっ!
奴らを殲滅せよ!」

「「「「「「「「「「「「イエスっ!サーっ!」」」」」」」」」」」」

世界に必要とされていると思い込んでいた世界平和を願う国は、周りの国々から、世界に必要のない国だと思われていました。







おしまい






テーマ【世界に要らなかったのは、お前の国の方だ!】
テーマ【核兵器怖いお。】






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ゆっくり戻るよ!

●世界平和のために、全国力を捧げて、核兵器を搭載した大陸弾道間ミサイルを作っている国。

●自国以外の人類を皆殺しにすれば、世界平和!

●世界にいらないのは、おめーの国だよ ばーか

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