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ラッキーの不思議な旅 〜次はどんな酷い国かな?

9国目 無責任な国 後編



沈没中の豪華客船の周りに、海上警察の救助艇、海軍の船が数十隻が集まっていました。
軍の船がすぐにやってこれたのは、この近くの海域で軍事演習をやっていたからです。
海軍は、最精鋭の潜水士部隊を投入して、救助活動を始めようとしますが、海上警察が無線で連絡して阻止して海軍を遠い場所に追い返しました。

「軍はただちに救助活動をやめてください!
これから民間会社ウンコィーネのレスキュー部隊を投入するから邪魔です!
法律でも軍よりも民間のレスキュー部隊が優先されます!」

民間のレスキュー部隊よりも、税金で育てた海軍の最精鋭部隊の方が遥かに優秀なのですが、これには海上警察の利権問題と縄張り争いが絡んでいます。
民間の会社に仕事を任せると、癒着している海上警察のお偉いさんの懐に、お礼の賄賂が入るので、民間会社にやらせた方が私腹を肥やせるからです。
更に酷いことに、海上警察の警官達は訓練してないから泳げません。
ですから警察の方達の救助活動は

「乗客の皆さんっ!
ここまで泳いできてください!
そしたら助けます!」

警察達は泳げないから、泳いでやってくる乗客達を待ち、彼らが救助艇に近づいてきたら救助するという消極的な救助活動をやっていました。
ラッキーのおかげで、次々と乗客が救命胴衣を自分で探して、海に飛び込むのはいいのですが、これらの複数の要因で、乗客の生存率が減っています。
この水上警察が傍観して待っている光景を見た海軍の軍人は呟きました。

「これは駄目だ……乗客がほとんど死ぬぞ……国は腐ってる!
無責任な奴らめ!」

後に、救助艇の警備艇責任者は、消極的すぎる救助活動を非難され、業務上過失致死容疑を適用されて、社会的に制裁されました。
この事件は無責任すぎる行動が連発しすぎて、ラッキーが居なかったら、大変な事故になっていた事は間違いありません。
周辺国の訓練されて質の良い海軍も、救助活動を手伝おうとしましたが、この海域を領有する無責任な当事国が全て拒否したため、他国からの支援も当てにできない状況でした。







豪華客船の事故発生から7時間後、なぜか豪華客船は沈んでいませんでした。
本来なら5時間前に乗客ごと完全水没しているはずなのですが、斜めに傾いたまま浮いています。
この時間的な猶予を利用して、膨大な数の漁船、救助艇、民間レスキュー船が周りに集まり、1万人の乗客が次々と救出されていきました。
1000人ほどは、救命胴衣を見つけられずに、海に飛び込んだので、溺死体になっています。
豪華客船は、乗客9000人の救助が終わったあとに、ゆっくりと海に沈み、そのまま完全水没。
結果的に9000人の人間の命が助けられ、周辺国中で奇跡だと、ニュースになります。
本来なら、1万人のほとんどが死んでも可笑しくない事故なのです。
無責任な船長達が、適切な避難誘導をせずに逃げ出したから、このケースだと生存率は絶望的な数字になるのですが、9割が生存という奇跡が起きました。




救助艇にいる豪華客船の船長は、携帯でゲームをして遊んでいましたが、この奇跡の光景を見て後悔して大変です。
心臓が死にそうになるほどに脈動して、後悔と言い訳で、頭の中は一杯でした。

「もしかして、適切に避難誘導したら、俺、英雄になれた?
うあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

船長と船員達の今の立場は、自分の命欲しさに乗客を全員見捨てたゲス(悪い奴)でした。
このまま、陸地に戻れば、業務上過失致死、もしくは処刑が待っています。
今の国の女性大統領は、人気取りのためならば、法律を無視して何でもやっちゃうお方なのです。
それを理解している船員達は、船長に詰め寄り、怒りの感情とともに問い詰めました。

「お前のせいで、俺達は英雄になれなかった!
どうするんだ!
国に戻れば、俺達は犯罪者として制裁されるぞ!?」

「責任をとれぇー!」

「携帯ゲーム機で遊んでいる場合じゃないだろぉー!全部お前の責任だぁー!」

船長は船員達に怒鳴り返します。

「うるせぇー!そんなの俺が知るかぁー!」

救助艇の中で、船長と船員達は殴りあう喧嘩になり、船長はみんなからぼこぼこにされて、永遠に動かなくなりました。
最後まで皆、誰も責任を取る気が全くなく無責任です。










そしてこの事件の最大の謎、どうして、豪華客船が7時間もの間、海に沈まなかったのか?
それはラッキーが、船の浸水箇所や側面に行き、空気を送り込んだり、凍らせて浸水を食い止めていたからです。
今は沈んだ豪華客船から、誰にも見られないように光を歪める光学迷彩を展開して脱出し終えて、空から救助された乗客達を見下ろして、クスクス笑っていました。

「妖精さん、私、9000人も助けたよ。
これで凄い事だよね」

「ラッキー、今日は珍しくやる気出してたね。
人助けは気分が良かった?」

「たまには、無償で人助けも悪くないかな」

ラッキーも妖精さんも良い気分でした。
ですが、後日、その気分が台無しになります。
この事件は、ここからが本当の地獄の始まりだったからです。














結果的に1000人の人間が死んだ事で、豪華客船の乗客を救出する義務があった国は、大騒ぎになっていました。
1万に近い遺族達は群れをなして、溺死体になった遺体の捜索活動を何カ月もやるように、女性の大統領相手に怒鳴りこみ、海上警察や政府の高官を土下座させて殴ったり謝罪させたり、捜索活動を妨害して遺族が現場に命令したりして、国中がパニックになったのです。
更に遺体の捜索活動中に何人もの潜水士が窒息して死んだりして、二次被害で死ぬ人が続出。
遺体を回収するために遺体を次々と量産しています。
誰も責任を取りたくないので、全員が他者に責任転嫁するので必死でした。
軍も警察も大統領も政府も会社も遺族も、皆が無責任です。

海軍の人は、海上警察が一番悪いと思ったので非難しました。

「我が軍の最精鋭部隊を投入しようとしたら、海上警察に妨害された!
これは明らかに水上警察と民間のレスキュー会社との癒着関係が原因である!
軍は断固として、海上警察を非難する!」

海上警察の人は、言い返せなかったので別の案件を暴露して、海軍を非難しました。

「軍は今月だけでも複数のレイプ事件を起こしている!
海上警察は軍に失望した!
それに民間会社の救助活動を優先させたのは、政府が作った法律が原因だから、政府が悪い!」

政府を非難されたので、パァククネ大統領は激怒して海上警察を解体しました。

「海上警察は、税金を使って訓練設備ではなく、ゴルフ場を作っていた事が判明しました!
大統領として、このような海上警察の腐敗は許せません!
海上警察を解体し、このような事は二度とないようにします!
そして、沈没船を運行していた会社に謝罪と賠償を要求します!」

豪華客船の運行会社は、責任を取りたくないから叫びました。

「こ、この船はニッカン国が作った船だ!
だから、全てニッカン国が悪い!
ニッカン国に謝罪と賠償を要求する!
会社には責任はない!」

隣国のニッカン国は激怒して反論しました。

「船を作ったのは、確かに我が国だが違法改造で沈みやすくしたのはそちらの責任だ!
船体の重心が高くなるように増築して違法改造!
過剰な貨物の搭載!
救命カプセルの定期点検を賄賂で凌いだ事による、安全対策の不備!
低賃金で働いている非正規の社員と船長!
これでは何処の国の船でも沈んで当たり前だ!」

大統領はニッカン国が大嫌いだから激怒して叫びました。

「我が国の国民の心が傷ついた!
ニッカン国に謝罪と賠償を要求する!
誠意をみせろー!」

互いに相手を貶める非難の応酬は、数か月に渡り続き、国は大混乱です。
各地で大事故が次々と相次ぎ、自動車事故、火事、鉄道事故が大発生。
国民は、国の無責任さに失望しました。
ラッキーと名乗る少女が臨時船長と名乗って船内放送をしていた事がニュースになりましたが、次々と軍、警察、会社、政府がお互いに相手を叩くために情報をメディアにリークしたから、不祥事が大量に明らかになったので、謎の臨時船長の事は誰も注目しませんでした。











ラッキーに助けられたゼウォル少年は、毎日のように続く、この国の有様を見て、皆に失望していました。
少年が恋した金髪の女の子ラッキーを、生存者リスト、死亡者リストから探そうとしたのですが、何処にもラッキーの名前や、写真がなかったからです。
この国の人間は、黒髪で、頬にエラがあるのが特徴的な黄色人種なので、耳が尖っている金髪碧眼の白人は目立つはずなのに、見つからないのは異常な事なのです。

「なぜだ……なぜ……ラッキーちゃんの名前や写真が何処にもないんだ!
可笑しいだろ!?
あんな可愛くて目立つ娘が、リストに載ってない?!
きっと、海上警察か政府の仕事がいい加減だから、リストに載ってないんだ!
そうに違いない! 」

実はラッキーがお金を払わずに不法乗船していたのが原因なのですが、今回の件で、国そのものが無責任でいい加減な事に気づいた少年は、そう推理しました。
そして、偶然ですが、目の前に道路を、沈没船の運航会社のオーナーらしき人物が歩いています。
テレビで毎日のように非難されている諸悪の権化とも言うべき人物で、国から莫大な賞金がかかっている賞金首です。
事故の責任を一切取りたくないから、他国に亡命しようとしましたが、こんな犯罪者を受け入れてくれる国がある訳もなく、亡命申請を全て拒否られて、未だに国内を逃げ回っています。
無責任すぎる人は、何処の国でも御断りという奴でした。

「あ、あれは沈没船のオーナー【ユ・ユックリー会長】?!」

オーナーは周りにばれないように変装して帽子を深く被り、サングラスをして格好も地味でしたが、少年は写真やテレビで見ていたから、オーナーだとすぐに分かりました。
少年は、死んだかもしれないラッキーの復讐のためにも、街中にいる人間さん達に向かって叫びます。

「あそこに沈没船事故の責任を取らずに逃げ回っているユ・ユックリー会長がいるぞ!」

人間さん達はその声で、最初に少年を、次に少年が指し示した方向にいるオーナーの方を見ました。
オーナーは、慌てて逃げようとしましたが、少年と人間さん達に取り囲まれ、殴る蹴るの激しい暴行を受けて、永遠に動かなくなりました。







ちょうど少年の後ろに、白いワンピースと花飾りで可愛らしく着飾ったラッキーが、少年に会いに来ていたのですが、国中が過剰なくらいに大混乱していて滅亡しそうだわ、少年が目の前で人を殺しているわと衝撃的だったので、対応に困りました。
豪華客船での少年のセリフが格好良かったので、一年くらいは少年と遊んで見るのも悪くないかなと思って、服装に気合入れて可愛らしい格好をしたら、この有様です。
少年の手足は、オーナーの血でまみれ、国の皆の無責任すぎることへの絶望と怒りで狂ってい、オーナーの死体を他の人間さん達と一緒に担いで、近くの畑に投げ捨てていました。
オーナーには莫大な懸賞金がかかっていますが、どうせ懸賞金を無責任な政府が払う訳がないと、人間さん達は知っているから、遺体は畑に放置されました。
ラッキーは、少年が僅かな間に変わってしまったんだなと残念な気分になりながら、場を立ち去りました。
少年は、後ろにラッキーがいたことに気づきませんでした。
少年の初々しい初恋は、欠陥だらけの豪華客船のせいで台無しです。
事故がなかったら、最低でも1年くらいはラッキーと遊べたはずなのです。
そして、死んだ1000人の人間の未来もあったはずなのです。
少年はユ・ユックリー会長を殺した後に、虚しい気分を誤魔化すかのように叫びました。

「なんだよ!
なんなんだよっ!
この国はっ!
船長も、警察も、軍も、政府も、大統領も、遺族も、会社も全員無責任だ!
ラッキーちゃんは、こいつらのせいで死んだのかっ!?
そんなのあんまりだ!」









ラッキーが国を出るために、国の外の方角に向けて散歩していると、街の街頭テレビで、このような内容を放映していました。
遺族達が、災害で自宅を被災した訳でもないのに、なぜか港に無数の仮設住宅を建設して、そこに住み着いて大統領に連日抗議する映像が流れ、その次に女性の大統領の姿が放映され、こう宣言しています。

「この事件を受けて、私は決断しました!
海上警察は完全に解体します!
事故犠牲者の追悼碑を建立し、4月××日を「国民安全の日」に指定します!
遺族の皆さんを生涯サポートする事をここに宣言します!
責任を取らずに逃げ回っているユ・ユックリー会長を捕え、制裁します!」

ラッキーは、この国が理解できなくて訳が分かりませんでした。
海上警察を解体したら、その業務を誰が担当するの?とか
悲惨な事故が起きる度に、記念日を作っていたら、一年のほとんどの日が記念日になるよ?とか
国民をその場その場で納得させれば、後で実行しなくてもいいっていう大統領の短絡さが伝わってきます。
ラッキーは人間の考えている事が訳が分からなさすぎて、大笑いしながら国を出ました。








9国目 無責任な国 
おしまい


テーマ【ノンフィクションへの挑戦】
テーマ【膨大な数の情報を圧縮して簡略化して、短く纏めてみる事への挑戦】
テーマ【書くの大変だった。】








 

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●船沈没

沈没の間までに時間があるけど、船長と船員が自分達だけ助けるために、船内放送で乗客を閉じ込めて放置。

●船長と船員は一般客の降りをして、海上警察に保護される。

●軍の最精鋭潜水部隊が、豪華客船の救助に行こうとしたけど、警察は民間の会社にレスキュー活動してくれないと賄賂をもらえないから妨害工作。

●とうとう船が沈没。
乗客1万人中3000人死亡

●遺族達が仮設住宅を建設して、必死にもう抗議。

船の運行会社は、全ての責任を否定して、責任逃れをする。

●誰も責任を取らずに、相手を非難して、次々と相手の隠している不祥事が暴露されう。

●国家機能麻痺。

●国滅亡。

●船が一隻沈没しただけで勝手に滅亡した国


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