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エルフ娘の世にも不思議な旅

9国目 無責任な国 中編


船がどんどん浸水してきた海水と、膨大な貨物の固定器具が外れて船の片方側に移動したせいで、斜めに大きく傾き、船の側面からも海水が入ってきました。
1万人の乗客は、この事態に混乱して右往左往しますが、船内放送で船員達から何度も何度も

「ご安心ください!
この豪華客船はこんな事では沈みません!
慌てずゆっくり冷静に船内に待機してください!
繰り返します!
この豪華客船はこんな事では沈みません!
慌てずゆっくり冷静に船内に待機してください!」

こう言われたので、1万人の乗客は自分達で助かる方法を考える事を放棄し、船内で動かずにじっと待機しました。
この間に船長と船員達は、この船の船員である事を示す白い制服を脱ぎ捨てて、下着姿になっています。
救助船が来た時、船員の格好をしていたら、場に残って乗客の救助活動をするように命令されてしまうから、船長達は下着姿になる事で、ただの乗客の振りをしようとしていました。
船長達の後ろには、光を歪めて姿を消す光学迷彩で透明になったラッキーと、ゼウォル少年がいます。
少年は光学迷彩で、誰からも自分が見えてない事に驚き、水着姿のラッキーに無言で抱きつき、綺麗な白い肌と密着しているから、心臓が緊張してドキドキしていました。
ラッキーは、この少年から、色々と貢いで尽くして貰った恩があるので、その義理を果たすために少年だけは助けてあげようと思っています。
船長は近くにいるラッキー達の存在に気づかずに、船長として情けない事を言いました。

「よぉーし!
海上警察と会社に通報したから、救助船を真っ先に発見できる場所に移動だ!
途中の通路に乗客が居たら、自室に戻って待機するように言うんだぞ!
そうしないと、通路が人で溢れて、俺達の生存率が下がるからな!」

船長はとても無責任な男でした。
自分の命のためならば、1万人が死んでも良かろうなのだぁーな精神の持ち主なのです。
1人の若い男の船員は、それに反発して

「待ってください!
乗客を助けるのは、私達の義務のはずです!船長!
最後まで残って避難誘導しましょうよ!」

船長に正義感たっぷりに抗議しましたが、船長から返ってきた返答は

「はぁ?
乗客を助けるのが義務?
何を言ってるんだ?
会社は、俺達にその義務に見合う大金を払ったか?
俺達の給料すらコストカットして、低賃金で働かせてる糞会社だぞ!
そんな会社に忠誠を尽くすな!
今は生き残る事だけを考えろ!」

男の船員は沈黙しました。
確かに、この豪華客船を運営している会社は、本当に酷い会社なのです。
オーナーは、信者だけが天国にいける教義を持つカルト宗教の教祖だったり、自分はアヘ(神様)だと名乗ったり、多数の違法行為を賄賂を払って見逃してもらうような、そんな人間の屑だから、社員に待遇に見合う給料を払っていません。
そして船長の言葉が更に続きます。

「それにな!
乗客を脱出させるための救命カプセルはな!
コストカットの影響で全く整備せずに、何年も放置してたから故障しているぞ!
しかも、この前見たら、救命カプセルを固定している器具が絶対に外れないようにガチガチに固定されていたり、錆びていたから、短い時間で救命カプセルを船から外すのは不可能だ!
他の道具も経費削減のために、賄賂払って検査を見逃してもらった故障品ばっかりだから諦めろ!
わかったら、さっさと俺達と一緒に逃げるのを手伝え!
いいな!?
それしか俺達が生き残る道はないんだ!」

「そ、そうでした……」

男の船員が納得したので、船長達はぞろぞろと歩いて、場から離れて行きました。
皆、無責任です。
先ほど、船が斜めに傾いた時に、別の場所で船員数名が怪我を負って動けなくなっていますが、自分達の生存率を上げるために見捨てました。

「おーい!怪我して動けないから、俺を連れていってくれぇー!」
「俺達を見捨てる気かぁー!」

見捨てられた船員達の死ぬ未来が確定した瞬間でした。
これらの光景を、ラッキーの頭の上でずっと今まで見ていた妖精さんは呟きます。

「もうやだ、人間の世界」










ラッキーは船長達が居なくなった事を確認した後に光学迷彩を解除して、姿を隠すのをやめてゼウォル少年をどう助けようか悩みました。
少年の方は、ラッキーに密着して抱きついた姿勢のまま顔を赤らめ、正義感たっぷりに船長達の無責任さに怒って叫んでいます。

「ラッキーちゃんの肌スベスベで良い……げふんげふん。
なんて事だよ!ちくしょう!
船長達は僕達を見捨てる気だったのか!
早く、この事を皆に伝えないと大変だ!
ラッキーちゃんは、何か不思議な事をやれるようだけど、僕が守ってあげるからな!」

そして、こっそりとラッキーに男らしさをアピール。
でも、ラッキーから返ってきた返答は、少年が考えるような内容ではありませんでした。

「ゼウォル君。
君には、この船で色々とお世話になったお礼があるから、助けてあげる。
確か、1人でこの船に乗りこんだから、船に家族や知り合いは居ないよね?」

「あ、ああ、僕は1人で豪華客船に乗ったからそうだ!
だからラッキーちゃんを守れるから安心して欲しい!」

「よし、最小限の手間暇で済むから安心した。
えいっ!」

「アベシッ!」

ラッキーが、右ストレートパンチで、少年のお腹を殴って気絶させました。
起きている人間よりも、気絶している人間の方が運搬しやすいからです。
すぐに少年の手を持って、船内を出て空を飛び、秒速1kmで移動して、近くの陸地にある人間の街に少年の身体を置いて、ラッキーは豪華客船へと飛んで戻りました。
ラッキーは楽しそうに笑っています。
こんな歴史に残りそうな大事故に遭遇するなんて、滅多に経験できる事じゃないからです。
大事故を最大限楽しむのに邪魔だから、ゼウォル少年は安全な場所に退避させたのです。











豪華客船の船内に水が浸水してから40分後、海上警察の救助艇がやってきました。
まだ、豪華客船が沈み切るのに1時間くらいの猶予がありますが、小さい救助艇で助けられる人数には限りがあります。
豪華客船の外側の通路にいた下着姿の船長と船員達は、救助艇に向かって叫びました。

「おーい!助けてくれぇー!」
「こっちだぁー!こっちー!」

救助艇は、約300人ほどの船員達を乗客だと思い込んで、大きく斜めに傾いている豪華客船に近づき、次々と救助艇に船員達を載せて助けました。
海上警察の人達は、この連中が、本来は最後まで豪華客船に残って避難誘導する義務がある連中だと思ってもいません。
船長は、助けられたから安心し、財布の中の紙幣が海水を浴びて濡れていたから、救助艇の床に紙幣を置いて乾かす作業をやっていました。
船長の中では乗客の命は、この紙幣以下のゴミだったのです。
あとの問題は、陸地に戻れば確実に犯罪者として制裁される未来が待ち受けている事でした。

(あー、やばいやばい。
俺やばい。
陸地に戻ったら、社会から制裁される。
どうしよう。
今のパァククネ大統領、法律無視して人を制裁するからやばい。
俺、死刑にされるかも。)

船員達は、そんな内心では焦っている船長の紙幣をこっそり盗もうとしましたが、それが船長にばれて喧嘩になりました。






ラッキーは、豪華客船の通路から、無責任な船員達が脱出した姿を見た後に、この豪華客船で一週間くらい遊んで楽しかった記憶があったので

「たまには恩がない人間達を救ってみるのもいいかな。
魔法を大勢の人に見られると厄介だから、あまり目立たない方法で頑張ろう」

珍しく、恩も義理もない人間達を助ける気になっていたのです。
まず、最初にやったことは、操舵室に行き、そこから船内放送を流す事でした。
船内放送のやり方は、先ほど、船員達がやっていたから覚えています。
船内放送のためのスイッチをポチッと押し、マイクを口元に寄せて

「えー、マイクチェック、マイクチェック。
私は臨時船長のラッキーです。
この豪華客船は、あと1時間もすれば確実に沈みます。
乗客の皆さんは、慌てて急いで、救命胴衣っていう服を探して、着て脱出してください。
外に海上警察の救助艇が来ているので、海に飛び込めば助かると思います。
繰り返します。
この豪華客船は、あと1時間もすれば確実に沈みます。
乗客の皆さんは、慌てて急いで、救命胴衣っていう服を探して、着て脱出してください。
外に海上警察の救助艇が来ているので、海に飛び込めば助かると思います」

ラッキーは楽しい気分になっていました。
自分の行為で、どれだけの人間が助かるのか気になったのです。
気分はゲーム感覚でした。
この船内放送を聴いた乗客達は、パニックを起こし、我先に救命胴衣を探したり、船の外へと出ようと懸命な努力をし、個人個人の命がかかった壮絶な脱出劇が始まりました。







次にラッキーが乗客救出のためにやった事は、1000個の救命カプセル(ボード)が器具で固定されている船の外です。
昔、タイ●ニック号という豪華客船が沈んだ時、救命カプセルが少ないせいで被害が拡大した事から、本船乗員乗客数以上の救命ボート定員確保が世界各国で義務づけられていますが、なぜか数が足りていません。
きっと、賄賂で国の検査を乗り越えたのでしょう。
しかも

「錆びてる……
この国の人間って、いい加減な仕事をするね」

救命カプセルを固定している器具が錆付いているから、人力で外すのは困難。
本来ならば、水没した時に固定器具は自動で外れる仕様なのですが、故障して錆びているせいで、本来の仕様通りの機能は望めませんでした。
ラッキーは少し頭を悩ませた後に

「うーん、救命カプセルを壊さないように威力調節しないといけないから面倒だけど、全員を助ける必要はないし、まぁいいか。
えい!」

かけ声は必要ありませんでしたが、ラッキーは風の刃を同時に2000発を発生させ、固定器具を切断しました。
うっかり力加減を間違えて、救命カプセルの1割が真っ二つに壊れてしまいましたが、残りは無事に床や海に落下していきます。

ポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっ

でも、可笑しい事に海に落下した救命カプセルのほとんどが海に浮かびません。
そのまま沈んでいます。
本来なら水に浮かぶはずの救命カプセルは故障していました。
まともに作動して浮いていたのは、10個くらいです。
これではせいぜい100人か200人くらいの命しか救えません。

「どうしよう。
人の命を助けるのって難しいね。妖精さん」

ラッキーの頭の上にいる妖精さんは飽きれた顔で

「●●●●●●●●●●●●●●すれば楽勝だと思うよ。ラッキー。
でも、僕は沈没事故なんかとうでもいいから故郷に帰りたい……」

とても素晴らしい名案が、妖精さんの口から出ていたのです。





後篇に続く



 

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●船沈没

沈没の間までに時間があるけど、船長と船員が自分達だけ助けるために、船内放送で乗客を閉じ込めて放置。

●船長と船員は一般客の降りをして、海上警察に保護される。

●軍の最精鋭潜水部隊が、豪華客船の救助に行こうとしたけど、警察は民間の会社にレスキュー活動してくれないと賄賂をもらえないから妨害工作。

●とうとう船が沈没。
乗客1万人中3000人死亡

●遺族達が仮設住宅を建設して、必死にもう抗議。

船の運行会社は、全ての責任を否定して、責任逃れをする。

●誰も責任を取らずに、相手を非難して、次々と相手の隠している不祥事が暴露されう。

●国家機能麻痺。

●国滅亡。

●船が一隻沈没しただけで勝手に滅亡した国


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