エルフ娘の世にも不思議な旅
9国目 無責任な国 前編
真っ青の晴天な空。
ポカポカと昼寝をしたくなる暖かい陽気。
鳥のカモメ達が大量に空を舞う広大な海を、人間が作った巨大な船が航行していました。
それは人間の世界でいう豪華客船です。
内部に映画館、ホテル、商店街、テニスコート、レース場、銀行、カジノなどなど、一つの小さな街の機能を丸ごと圧縮したかのような設備群を誇っており、1万人の人間の客が乗船しています。
ただ、可笑しい点が多く、脱出用の救命カプセル(ボート)が多数故障してたり、異常なくらいに貨物を積んでいる癖に、船の設計が可笑しくて、船の重心が低い所ではなく、 高 い 所 にあるのです。
船は重心が高くなると、バランスが不安定になって転覆しやすいのに、この船は異常でした。
安全対策を全くしていません。
しかも、この船の運行会社が将来的にフィリピンヤーという国に、売り渡そうと交渉中の船でした。
こんな何時沈んでも可笑しくない船を、売り渡そうとする時点で、無責任ですよね。
「わぁー!凄い!
この船楽しいよ!」
そんな可笑しい豪華客船の通路を、キラキラと光る金髪の髪が特徴的な小さい女の子ラッキーが走っています。
青と白の縞々パンツと、ピンク色のスカートが一体になった【セパレート】という水着を着ていて、胸元の大きな赤色色のリボンが少女の可愛らしさを演出しています。
飾りすぎず、シンプルすぎない絶妙なデザインでした。
今日は白いローブじゃなくて、スカートつきの水着なのです。
道行く人達の一部は、綺麗な金髪を持つラッキーに注目していますが、本人はその事を気にせずに、豪華客船を水着の格好で走り周って遊んでいました。
ラッキーの後ろを12歳ほどの若い少年ゼウォルが走って追いかけてきます。
「おーい!
ラッキーちゃんっー!
そんなに走りまわったら迷子になるぞー!
……ふぅ、ラッキーちゃんはなんて魅力的な娘なんだろう!
僕の青春は爆発寸前だ!」
ゼウォル少年は格好良いというより、可愛らしいと表現したくなる短い黒髪の少年です。
青色のサーフパンツ(半ズボンみたいにブカブカの水着)だけを下半身に履いていました。
年上のお姉さま達が見たら、ついついイタズラしたくなる雰囲気を持っています。
何を隠そう!
ゼウォル少年は、ラッキーに初々しい一目惚れをして、この船旅で仲良くなろうと企んでいました。
若いっていいですよね。
12歳だから10歳くらいに見えるラッキーに手を出しても、外見上は全く問題ないのです。
実年齢は気にしないでください。
「ラッキーちゃん!
待ってー!」
今、少年とラッキーは豪華客船をあちこち走りまわって、船の隅々を見まわって楽しんでいます。
そこに映画館があれば、少年のお金で映画鑑賞。
少年はラッキーと手を握りながら映画鑑賞出来て心臓がドキドキでした。
スイーツ屋があれば、少年の財布から出した金で、甘い甘いスイーツ食べ放題。
少年は、ラッキーがスイーツを食べすぎて確実にブヨブヨに太る未来を予測して困りました。
ゲームセンターがあれば、少年の財布のお金で、ゲームを全て遊び倒し。
ラッキーの着ている可愛らしいセパレートの水着も、少年の金で買ったものです。
少年はデート感覚だったので、顔を赤らめてラッキーの事が気になりながら走り、財布からポンポン金を出して貢いでいます。
男という生き物は、こうやって自分が魅力的な男性である事をアピールする生き物なのです。
しかし、ラッキーの頭の中にあるのは知的好奇心。
ラッキーの次の行き先は、豪華客船を操作している人間さん達がいる操舵室でした。
普通なら、お客さんが入る事は許されない重要な場所です。
でも、ラッキーは普通に、白い扉を一気に開けて、操舵室に侵入しました。
操舵室の中は、大量の計器と装置で一杯で、白色の制服を着た20代前半の女性船員が操舵室のハンドルを握って、豪華客船を操作しています。
ラッキーは女性船員に向かって
「ここが船を動かす場所なの?
ねぇねぇ、どうやって操縦してるの?
この計器はなーに?
大量にあるボタンの機能を全部覚えてるの?
他には船員さんいないの?
年は幾つ?若いよね?
どうしてそんなにストレス溜まっているような顔なの?
何か不満があるの?
ねぇねぇ教えてー!」
知的好奇心を満たすために質問責めをしました。
でも、女性船員からは答えが返ってきません。
なぜか、手を震わせながら
「お、お嬢ちゃん、私に話しかけちゃ駄目!
今、大変なのよ!」
「?
何が大変なの?」
「私、この航路が初めてで緊張しているのよ!
出港時間が濃霧のせいで2時間も遅れているし、急がないとスケージュルに間に合わなくて、私が怒られちゃうわ!
実は私っ!
入社したばかりの新入社員なのぉー!
なんでこんな大変な仕事をやらせるのよぉー!」
この時、女性船員はついつい手を滑らせてしまいました。
ハンドルを大きく回転させてしまって、豪華客船が急旋回。
急旋回した事に慌てて、もう一度、急旋回。
二回大きく傾いた後に
ドゴーン!
豪華客船の貨物室に大量に積んである自動車の固定器具が外れて、車が動き出し、そのまま船の内部に当たり、船体に穴を開けてしまったのです。
ラッキーはこの時は知りませんでしたが、この船は儲けるために、法律上許されないほどに膨大な貨物を搭載し、その違反行為を国の役人達の目から誤魔化すために船を軽くしようとバラスト水という、船の重心を低くしてバランスを安定させるための水を、船から大量に抜いていたから、とても不安定になっていたのが事故の原因でした。
船に穴が開いたから、大量の水の浸水が始まり、船は沈没一直線です。
女性船員が悲鳴を上げました。
「あああああああああああああああああああああああああああ!!!
お嬢ちゃんのせいで、船に穴が開いたじゃないいいいいいい!!!!!!」
「うーん、私のせいのかなー?」 ラッキーは首を可愛く傾げました。
「このままじゃ沈むううううううう!!!!!!!!!!!
わ、私は悪くないわよおおおおお!!!!!!!! 」
若い女性船員の無責任な悲鳴が、操舵室に響きます。
ラッキーは、不思議そうな顔で、慌てる女性船員を見ていました。
少しすると操舵室にゼウォル少年と、船長と他の船員達が走ってやってきます。
船長さんは、白い帽子と白い制服を纏った渋いお爺さんです。
船長は女性船員に詰め寄って問いただします。
「おい!
何が起きた!」
「ど、どうやら貨物が外れて動き出して、船に穴を開けたみたいです!
で、でも、わ、私のせいじゃありません!」
「な、なんだとぉー!」
船長は驚きます。
それはとても最悪な事態だからです。
何せ、船長が所属している会社は、最小限のコストで豪華客船を運用するために、安全対策に全くお金をかけていないから、船員達はこういう非常事態の時のための訓練をほとんど受けていませんでした。
そして、ここからが重要です。
船が沈没するという事態になった時、緊急時の脱出マニュアルでは、乗客を真っ先に脱出させ、次に船員、一番最後に脱出するのが船長と決まっています。
一番偉い船長が逃げ出すと、部下の船員も逃げて、誰も避難誘導をやってくれないから、こう決まっているのです。
でも、この安全対策を怠った豪華客船で船員達が避難誘導をやると、船長には100%の死が待っているので、船長の取った行動は、操舵室にあるマイクを右手で掴んで、船内放送を流す事でした。
「えー、乗客の皆様。
今の揺れで不安を感じた方もおられるでしょうが、ご安心ください。
混乱を避けるために船内の自室に待機し、その場を動かないでください。
繰り返します。
今の揺れで不安を感じた方もおられるでしょうが、ご安心ください。
混乱を避けるために船内の自室に待機し、その場を動かないでください」
「うーん、早く逃げた方がいいんじゃないかな?
今、探査魔法かけたら、船に水がどんどん入ってくるようだし、沈むと思うよ?
その指示じゃほとんど死ぬんじゃないかな?」
ラッキーは、船長の後ろで呟きましたが、船長は船内放送するのが忙しくて、聞いていません。
他の船員達から、操舵室から退室するように言われたので、ラッキーは渋々と出て行きました。
ゼウォル少年は、知的好奇心を満たせなくてションボリしているラッキーの肩を掴んで
「おーい!ラッキーちゃん!
船員達が言った通り、僕達も自室に戻った方がいいんじゃないか?
ぼ、ぼくの部屋とか、美味しいジュースがあるし、テレビもあって快適だぞ?
へ、変な事はしないから安心してくれ!」
少年は緊張して顔が真っ赤です。
ひょっとしたら、部屋でラッキーと素敵で親密な仲になる展開が待っているかもしれないと思っているからです。
ですが、ラッキーはそれを首を横に振って断り
「いや、船内に居たら私はともかく、ゼウォル君は死んじゃうよ?
それでもいいの?」
「え?
ラッキーちゃんは何を言っているんだ?
船長さんがさっき言っていた通りの事をすれば安全だろ?」
「ゼウォル君は理解してないんだね」
ラッキーは残念そうな口調でそう言った後に
「さっきの船長の船内放送はね。
乗客全員を船内に閉じ込めて見捨てて、船長達が真っ先に脱出するためにやった行為だよ。
このままじゃ、1万人の乗客のほとんどが船ごと沈没して死ぬんじゃないかな?」
この言葉を言った直後、ラッキーの言葉を証明するかの如く、船が急激に傾き、ゆっくりと沈み始めました。
中篇に続く
テーマ【文学は現実を模倣する。 セウォル号事件をそのまんま書いただけ】
http://suliruku.futene.net/uratop_2ch/2zi_zyanru/Kankoku_Seuworu.html
●船沈没
下
沈没の間までに時間があるけど、船長と船員が自分達だけ助けるために、船内放送で乗客を閉じ込めて放置。
下
●船長と船員は一般客の降りをして、海上警察に保護される。
下
●軍の最精鋭潜水部隊が、豪華客船の救助に行こうとしたけど、警察は民間の会社にレスキュー活動してくれないと賄賂をもらえないから妨害工作。
下
●とうとう船が沈没。
乗客1万人中3000人死亡
下
●遺族達が仮設住宅を建設して、必死にもう抗議。
下
船の運行会社は、全ての責任を否定して、責任逃れをする。
下
●誰も責任を取らずに、相手を非難して、次々と相手の隠している不祥事が暴露されう。
下
●国家機能麻痺。
下
●国滅亡。
下
●船が一隻沈没しただけで勝手に滅亡した国