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エルフ娘の世にも不思議な旅

8国目 お金の国 後篇


ラッキーが人間の国に住み着いて約一カ月が経過しました。
国中に、大量に発行された紙の金【紙幣】が流通し、民衆が大喜びしています。
街を行き交う人々は、国から貰った紙幣の札束を手に、あちらこちらにある店に入り、欲しい物を買っていきした。

「ママ!このケーキ頂戴!」「あらあら、仕方ないわね!」
「この自転車が欲しかったんだ!紙幣最高!」
「うひょぉー!紙幣って素晴らしいっー!いつもよりも贅沢な生活ができる!」
「よし!生活に余裕が出来たし猫も飼おう!」
「にゃー!」

紙幣と交換で欲しい物を買えた人々の顔はとっても素敵な笑顔に包まれています。
ラッキーは道を歩きながら、彼らの幸せな姿を見てクスクス笑っていました。
大通りの歩道をしばらく歩くと、一カ月前に親切に解説してくれた青年が、お洒落なスーツを着た小奇麗な格好で、手にアイスを持ちペロペロ舐めながら歩いてました。
ラッキーは知り合いだったので、青年に近付いて話しかけます。

「ねぇねぇ、今、あなたは幸せ?」

「ん?
ああ、一カ月前に会った綺麗なお嬢さんか。
久しぶりだな。
幸せと聞かれたら、好きな物を買えて幸せだぜ。
お嬢さんもアイス食べるか?」

青年が持っていたアイスを差し出してきましたが、ラッキーは首を横に振って断りました。
そして忠告します。

「そ、か。
なら、今の内に、そのお金を全部使って、これから先、生きていくために必要な食料品を買い漁った方がいいよ。
お金の価値が減るからね」

「はははははは!
まだそんな事を言ってるのか。
そんな事にはならんよ。
この街の皆を見てみろよ?
皆、紙幣を持って幸せだろ?
まぁ、国から支給される紙幣は節約して一カ月間生活できるかどうかの額だから、働かないと贅沢は無理だろうがな」

青年は、街中にいる大勢の人間を指でさし示します。
皆、幸せの絶頂期でした。
老いる者も、幼い者も、男も、女も、皆が笑顔で好きな物を買い、商品を売る店側もたくさん商品が売れるから幸せです。
不幸になるとは欠片も思ってないほどの笑顔と活気で、紙幣で物を購入して豊かな生活を送っています。
ラッキーは能天気な青年へ忠告を続けました。

「彼らが笑顔なのは、紙幣の価値が 今  だ け あるからだよ。
すぐに価値がなくなって、元の貨幣経済に戻ると思うの。
しばらくは国の経済が混乱すると思うから、その前に、紙幣で貨幣を安く買い叩いて購入したり、食料品を貯めこんだ方がいいよ?」

「ん?貨幣?
全部、国が回収したから、誰も持ってないぞ」

「え?」 

「新しい紙幣と、昔の貨幣を強制的に交換する法律が出来てな。
今じゃ全国民が貨幣を手放して、この国の通貨は紙の金【紙幣】だけだぞ」

ラッキーはとんでもない事を聞きました。
国が全部の貨幣を回収しちゃったのです。

「……ひょっとして、これって、国が全ての富を集めるための政策……?」

ラッキーの脳裏には、この馬鹿みたいな政策の裏に、国の誰かさんの陰謀があるように思えてなりません。
でも、どっちにしろ、経済がその過程で壊滅するはずだから、馬鹿としか言えない政策でした。
人間の考える事は常軌を逸していて、ラッキーには理解できません。
そして、だからこそ、人間という生き物は見ていて楽しいと、ラッキーは思いました。









青年と別れたラッキーは道をテクテク歩きます。
すると大通りの道端で可笑しい光景を見かけました。
軽トラックの荷台に、大量の紙幣を満載して、片っ端から宝石店で貴金属や宝石を購入している人間達を見かけたのです。

「おーい!これで宝石店の宝石を全て売ってくれ!」
「金なら幾らでもあるぞ!ガハハハハ!」

その人間達は真っ当な仕事についている人間には思えず、ゴロツキ(悪い人達)にしか見えません。
試しに探査魔法で、軽トラック一杯の札束を調べてみると、国が発行した紙幣と違って、印刷がいい加減な 偽 札 だった事がわかりました。

「・・・・・うーん、想像以上にこれはまずい事態だね。
偽札は紙幣の信用度を落としちゃうから、すぐに経済が終わっちゃうかも」

とりあえず、ラッキーは近くにあった公衆電話の所へと歩き、110のボタンをポンポン押して、警察に通報しました。

「ねぇねぇ、警察ですか?
●●●●という場所に、偽札を使って物を買っている男達がたくさんいるよ。
捕まえて死刑にしないと、国が終わっちゃうかもね?
あ、車の車種も教えるね。●●●●●だよ」

それ以上の事は、ラッキーはしませんでした。
これで一応、この国で色々と解説してくれた青年への恩を果たしたつもりになっています。
あとは国が、偽造し辛い紙幣を作り、紙幣の生産量を減らせば、経済に少ないダメージを受けるだけで済む段階なので、全ては人間側の問題でした。










更に一カ月の時が流れると、街の様子が可笑しくなっています。
大通りを埋め尽くす群衆が紙幣の札束を手に持って、小麦を販売している商店へと押し寄せているのですが、小麦を買えないのです。
群衆は口々に怒声を、商店の太った店主に浴びせました。

「おい!可笑しいだろ!
金があるのに小麦を売ってくれないなんて酷い!」

「さっさと売ってくれ!2日も飯を食べてないんだ!」

「以前の10倍のお金を出すから、俺に優先的に売れ!」

群衆の一方的な言い分に、商店の店主のオジサンも怒り返して

「いい加減にしろ!
そのお金は紙屑なんだよ!紙屑!
そんな簡単に複製できる紙屑と、小麦を交換しろと言われても、誰がやるか!
欲しいなら貨幣を持ってこい!
小麦一袋銀貨1枚!OK?!」

店主のオジサンが言っている事は正しいのですが、群衆の怒りという火に、ガソリンスタンドの燃料タンクをかけるような行いなので、群衆の怒りが爆発しました。
群衆は足もとにあった石を拾い、店へと投げ、ガラスを次々とパリーンパリーンと割ります。
更に、先頭にいた群衆が店の内部へと強行突入し、店内にある膨大な数の小麦粉を手に持って次々と店の外へと運び出しました。
店主のオジサンは止めようと叫びますが

「おい!やめ……ブデンっ!ヒデブッ!」

「ゆっくりせずに死ね!このドケチ!」
「金を持ってきた俺達に売らずに偉そうにしやがって!」
「どうせ、小麦の値段をお前らが釣り上げて、大儲けしようと企んでいたんだろう!」

店主のオジサンは激怒した群衆達に取り囲まれて、ひたすら殴られたり、蹴られたりして、何も言えない死体になってしまいました。
この騒ぎは、この店だけではなく、国中に広がり、デパート、酒屋、商店街、行商、宝石店、風俗店、政治家の豪邸、会社のビル、そこら辺の住宅地などが怒り狂った群衆に略奪されて餌食になり、国はもう目茶苦茶です。
経済活動は完全に停滞。
治安は悪化。
女の子が歩くだけで拉致されて、臓器売買、人身売買されちゃいます。
街中で火の手が上がっていますが、消防隊も軍隊も警察も、給料が【価値がない紙クズ】だったので誰も働きませんでした。
政治家は責任を取らずに、国中から集めた貨幣の中で、特に価値がある金貨と銀貨だけを持って国外逃亡。
少し前までは、普通に働けば、それなりに暮らせる普通の国だったのに、ただの地獄になってしまったのでした。






ラッキーは空中に身体を浮かせて、この光景を見下ろしてクスクス笑っています。

「この国……可笑しくて……笑っちゃう……
普通に考えたら、馬鹿でも分かるのに……クスクス」

「もうやだ人間の世界。
……ねぇ、ラッキーはこの国って、この後どうなると思うの?」

妖精さんは怖い物見たさに、ラッキーに聞いてみました。
ラッキーは笑うのを堪えて

「そうだね。
ここまで酷くなると、経済が壊滅しているし、膨大な数の失業者がでて、国が複数に分裂して紛争地帯になったり、良くても凄く貧乏な国になるって所かな」

「ラッキーは、人間のために何かしてやろうって思わないの?」

妖精さんの言葉にラッキーは両手を組んで、少し考えた後に

「うーん、今まで善意で助けたりしたら、もっと酷いことになったし、助ける対象の人間に恩がなかったら、特に助けたいとは思わないよ。
助けても、人間ってすぐに死ぬし」

妖精さんは、それ以上何も聞きませんでした。
今までの人間の国々の幾つかが酷すぎただけに、ラッキーの気分がわかります。
今回の国なんて、入国してたった2ヶ月そこらで、この有様です。
ラッキーは60時間ほど、空に浮いたまま、人間の国を見下ろして見物し、興味を失って飽きたから場を立ち去って新しい旅へと出ました。

この国に残されたのは、略奪される弱者、略奪しまくる暴徒と化した群衆、放火されて廃墟になった建造物。

そして、信用を完全になくして価値がゼロになった紙の金【紙幣】が、国中にゴミのように散らばっていました。
その内の99%が偽札だったそうです。





テーマ 【お金の値段は、その国に対する信用の表れ】






没ネタ


この経済が崩壊した国に、ラッキーが再び訪れたのは、約10年後の事です。
さすがに10年の年月があれば、国の混乱も収まり、雇用と経済も安定していましたが、流通している通貨は別の国の紙幣でした。

かつて、この国は自国の通貨で世界征服を企んでいましたが、経済が一度崩壊したせいで他国の通貨に市場を支配され、自国の富を他国の紙屑(紙幣)と交換して吸い上げられてしまう国になっていたそうな。

ラッキーは大笑いしました。





 

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●ある国が旅の商人から、【お金は凄い。他国の市場をお金を流通させて支配すれあb、働かなくても、大量の富が手に入る。
お金の流通を制限するだけで、他国の市場は窒息し、それを恐れた他国は支配を受け入れてしまうから】

●じゃ、大量に紙幣を刷りまくろう。
今の発行量の@万倍目指して、お金を増やしまくろう

●スーパーインフレ。物々交換の時代になり、経済壊滅。
国民のほとんどが他国へと逃げた。
おしまい。

●この国の政治家A 


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