5国目 転生トラックで異世界転生の国
後篇
ラッキーは、転生トラックの国が面白かったので、1年間住み着きました。
美味しいケーキの店が多く、人間の様々な欲望・願望を簡単に聞ける国だったから楽しかったのです。
そして、転生トラックの概念を除けば、ここは普通に発展し、普通に楽しめる普通の国。
今までの旅で、ラッキーは普通の国を維持するのがどれだけ大変なのかを理解しているので、あと10年か20年ほど滞在する気でした。
「こんな良い国、そう滅多にあるもんじゃないね……
チーズケーキ美味しくて、毎日が楽しい。
ここは天国かも」
ラッキーは、チーズケーキを10ホール分注文して、大人気のケーキ専門店の真っ白なテーブルの上に置き、美味しく幸せそうに食べていました。
周りの女性客が驚いてチラチラ見ていて目立っていますが、そんなの気にしません。
チーズケーキは口に入れるだけで、フワリと溶けて、食べる時の感触が絶妙。
妖精さんは自分と同じサイズのチョコケーキを食べて、その甘さにうっとり。
二人とも女の子だから、甘い物が好きなのです。以下略。
でも、その時間が終わる時がやってきました。
このケーキ専門店に備え付けられたテレビの画面がいきなりニュース番組に変更されて
「大統領からの緊急発表です!」
この国の最高責任者である【大統領】と、国営テレビ局の有名アナウンサーの顔が映し出され、荘厳な国歌が流れているのです。
テレビの中の初老の大統領は真剣な顔持ちで、アナウンサーから受け取ったマイクを片手に取り
「国民の皆さん。ごきげんよう。
大統領のテンセ・イオリヌシです。
今日、皆さんにお知らせをしたい事があります」
テレビの大統領の真剣そうな顔に、ケーキ専門店にいたお客さん達も、テレビに意識を集中しました。
余程、大きなニュースなのだろうと、皆が期待し、ラッキーも楽しさを隠せません。
大統領は笑みを浮かべて
「とうとう!我らの悲願!超巨大転生トラックが完成しました」
その言葉とともにテレビの映像が切り変わり、巨大なトラックが映し出しされました。
外見は普通のトラックですが、サイズが違います。
トラックの傍にいる人間が、蟻にしか見えない、そんな超巨大トラック。
これだけ巨大だと、既存の道路を通る事は不可能です。
コンクリートの道を通ったら、道を陥没させて破壊し、橋は重量で落ちてしまうので、既存の交通インフラでは運用不可能でした。
「この転生トラックの中には、今年度の国家予算を投入して作った爆薬が入っています!
爆発すれば、この国を丸ごと焼き尽くし、全住民を異世界転生させるほどの量です!
そうっ!
我々は国ごと異世界転生する日がやってきたのです!」
この大統領の発言で、国中の国民達はワァーワァー大喜び。
嫌いな現実を捨てて、神様に特別な力を持って、異世界で第二の人生を送れると思うだけで、国民は生きる気力が湧いてきます。
これから死ぬのに、生きる気力って変ですよね。
「……もうやだ、人間の国」
「……私の考察、全部外れてた」
妖精さんとラッキーも、この狂った大統領と、熱く叫んでいる国民達を見て驚きました。
ラッキーは転生トラックの概念の考察が間違っていたから、しょんぼり。
そう、転生トラックという概念は、人間が生きるための希望ではなかったのです。
もっと後ろ向きな暗い感情の産物でした。
国中にいる国民達は現実という絶望から解き放たれる事を喜び、口々に
「やったぁー!皆で異世界転生っー!」
「異世界でハーレムハーレム!俺は小さくて可愛い娘達を嫁にするぜ!」
「私なんて異世界でお姫様になって、王子様と結婚よ!おほほほ!」
「金髪ロリ吸血鬼娘のエウァちゃんになりたい!」
「この漫画の世界に行かせてくれぇー!若い娘達とイチャイチャしたい!」
「神様ぁー!俺を英霊エロヤにしてくれぇー!無限の銃製で無双したいんだ!」
この醜い願望を叫びまくる人間達を見て、ラッキーは理解しちゃいました。
この国の皆は、現実に絶望して死にたいだけの、自殺願望者の国だったのです。
転生トラックは、絶望が産みだした、ただの 妄 想 で し た。
人間が前向きに生きるための概念ではなかったのです。
テレビに映し出されている大統領は、活き活きとした笑顔でカウントダウンを開始します。
「皆さん!
確実に死ねるように、家の外に出てください!
地下室に居たら、爆発で即死できません!
今から1分後に、この国を消滅させます!
カウント開始!
60!59!58!57!」
ラッキーは悲しみます。
この国はキチガイだらけで面白くて、ケーキが美味しかったから、消えてなくなるのが勿体ないからです。
極上のチーズケーキを作れるケーキ職人がいる国は、そう滅多にないのです。
あ、この時点で普通の国という評価が、ラッキーの頭の中から消えてしまいました。
極上のケーキを除くと、この世界によく存在するキチガイ国家Aという認識になっています。
「50!49!」
喫茶店にいる客、従業員、ケーキ職人は笑顔で店の外へと走り出し、死ぬ瞬間を待ち望んでいます。
道は人で溢れました。
「40!39!」
ラッキーは、少しでもチーズケーキを堪能しようと、急いで食べました。
残り9ホールも残っています。
ラッキーの小さい身体の何処に、これだけのケーキが入るのか謎です。
「30!29!」
妖精さんは、嫌そうな顔で喫茶店の外にいる人間達を見ていました。
「20!19!」
ラッキーは一気に2ホール食べましたが、残り7ホールのチーズケーキが残っています。
「10!9!」
国民達の顔が幸せに包まれています。
今まで辛い現実に耐えて、生きてきたかいがあったもんだと大喜び。
もうすぐ転生トラックで異世界転生なのです。
叶うかどうかは神様だけが知っています。
その神様自体、存在するかどうかは神のみぞ知るって奴です。
「2!1!ゼロぉー!」
この大統領の言葉とともに、テレビで映し出されていた超巨大トラックが爆発しました。
その爆発が国を真ん中から吹き飛ばし、ありとあらゆる家屋を崩壊させていきます。
何気に触れただけで死ぬ強烈な毒ガスも使っていたので、生き残りが居たとしても、毒で生存率0%になるように配慮されていました。
大統領閣下は、国民を思いやる優しいお方な事で有名です。
中途半端な仕事は絶対しません。
そういう点は、職人魂に通じる物がありますね。
ラッキーは毒と爆風を風のバリアーと魔法で完璧に防ぎ、空を飛んで逃げます。
国そのものが吹き飛んで、巨大なキノコ雲だけが最後に残りました。
国民は一人残らず爆風に巻き込まれてバラバラ死体になったり、蒸発したり、崩れた家屋に押し潰されて死んでいます。
彼らの夢は叶ったのです。
この辛い現実から解放されました。
ラッキーは、何とも言えない顔で、消滅した国を見下ろしています。
人間とそれなりに接して、思考を読める気になっていましたが、今回は想像もしない結末だったからです。
普段なら笑っちゃいますが、1年間住んで、将来的に結婚しちゃうかも?というくらいに仲のいい人間の少年も居たために、涙をぽろぽろ流しています。
「ラッキー。
そんなに辛いなら、旅をやめて故郷に帰る?」
妖精さんはラッキーを気遣いました。
ラッキーは無言で空中に佇んでいます。
少しすると、秒速100mくらいの遅い速度で、ラッキーは場から去り、場に残されたのは
爆発跡の巨大なクレーターだけでした。
5国目 転生トラックで異世界転生する国
後篇
おしまい
あとがき
テーマ@【転生トラックがネット小説で流行してるから】
テーマA【現実からの究極の逃避】