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エルフ娘と妖精さんの世にも不思議な旅


5国目 転生トラックで異世界転生する国
前篇   



ラッキーは、とある人間の国で、大繁盛している喫茶店に居ました。
とっても内装がお洒落で、人を落ち着かせる暖かい色と、古くて高価なアンティークの椅子とテーブルが店の雰囲気を引き上げています。
この喫茶店はチーズケーキが美味しいことで評判が良く、長い長い行列で3時間ほど待たないと入店できないほどに大人気。
それだけの時間を浪費するだけの価値が、この店のチーズケーキにはあるのです。
ですが、ラッキーは光を歪ませる光学迷彩で姿を消して、行列無視して店に入り、チーズケーキを注文して美味しく食べていました。
エルフは光と水だけで生きていける生物ですが、ラッキーは女の子。
甘い物が好物なのです。
それにチーズケーキの美味しさときたら、夢心地になるほどに素晴らしく、口の中に入れるとすぐに溶けて甘さが口全体に広がるのが最高でした。

「美味しい……
この国良いかも……」

「そうだね。ラッキー。
僕もこういう時くらいはそう思うよ」

妖精さんの方は、自分と同じ大きさのイチゴショートというケーキを食べています。
ケーキの生地の中に複数の果物が入っていて、それがクリームと合わさり、絶妙な美味しさでした。
妖精さんの小さい身体って、こういう時は便利ですよね。
1年くらい、この国に滞在してゆっくりしてもいいかなと、二人が思っている矢先

「転生トラックが突っ込んでくるぞぉー!」

店の外から、男性の叫び声が上がると同時に、喫茶店に巨大なトラックが突っ込んできました。

ガシャーン! ブチュンッ!ブチュンッ!ブチュンッ!ブチュンッ!ブチュンッ!

トラックは喫茶店にいる数十人のお客さん、従業員を巻き込んで押し潰して死体を量産しています。
そのままトラックは店内の高価なテーブルや椅子も弾き潰して喫茶店内を進み、とうとうラッキーのところに到達しました。
図にするとこんな感じです。

      ♀  ←ラッキー
●●●●●●
●●●●●●
●●●●●●
●●●●●●   ← トラック
●●●●●●
●●●●●●
●●●●●●
●●●●●●
●●●●●● 




トラックは哀れにも、ラッキーが周辺に展開している風のバリアーに触れてしまい、圧倒的なエネルギーで真っ二つに引き裂かれ、トラックの運転座席に乗っていた人間さんを座席ごとばらばら死体にしてしまいました。
トラックの破片を更に細かく、高速回転している風のバリアーがゴリゴリ砕き、生き残っている生存者へと向けて破片が飛び散り、死傷者が激増。
店内は見るにも無残な有様になりました。
人間の血肉が、喫茶店の内装に飛び散り、生き残っている僅かな人間がゲロを床に吐いています。
ラッキーは、悲しそうな目で、目の前にあるトラックの破片で潰されたチーズケーキを見ていました。

「私のケーキが…
………………また、新しいの注文すればいいかな」

長い沈黙の後、ラッキーは犠牲になったチーズケーキの事を諦めました。
喫茶店は壊滅状態ですが、料理人がいる厨房は奥の方にあるので、ケーキはまだまだたくさん注文できると思って安心したのです。
ですが、そのラッキーの期待はすぐに破れ去ります。
事故を起こしたトラックの燃料タンクに穴が開いていて、そこから燃料のガソリンが出ていたからです。
すぐにガソリンは、壊れたトラックから出るバチバチ出る火花で引火。
一瞬にして喫茶店は吹き飛び、生き残りも厨房に居たケーキ職人も死に、場に残されたのは喫茶店の廃墟と、無傷のラッキー、死んですぐに復活した妖精さんだけでした。
ラッキーは、この美味しいチーズケーキを二度と食べる事が出来ないんだなと思って、悲しんでいます。

「私のチーズケーキ……」

「……もうやだ、人間の世界」

妖精さんはこの短い間に、トラックに潰され、すぐに復活したら爆発に巻き込まれて、合計2回も死んだから嫌そうな顔をしていました。
そして、喫茶店があった場所は、車が無数に行き交う大通りだった事もあり、大勢の通行人達が足を止めて騒いでいます。

「おおっ!転生トラックによる事故だ!」
「いいなぁ!俺も転生トラックに轢かれて死んで異世界転生したいなぁ!」
「喫茶店の奴ら運がいいな!」
「今ごろ、異世界で大勢の可愛い娘と一緒にハーレムやってるぜ!」
「死んだのが女性なら、異世界で逆ハーレムだわね。」 

ラッキーは、人間達の言葉を聞いても、意味をさっぱり理解できませんでした。
常識そのものが全く異なるから、ラッキーには、それを理解するための下地がないからです。

「・・・・?
転生トラック?
なにそれ?」

疑問を疑問のままにしておけないので、ラッキーは、近くの通行人の所までテクテク歩き、話しかけました。
その通行人は、16歳くらいの若い少年です。
眼鏡を掛けていて、あんまり運動をしてなさそうなひ弱な外見でした。

「ねぇねぇ、転生トラックってなーに?」

少年は、ラッキーに話しかけられたから心臓がドッキリして爆発しそうになりました。
あんまり他者とのコミュニケーションが好きではない、残念な少年のようです。
ですが、小さい女の子の姿をしているラッキーの事を無碍にする訳には行かないので、少しづつゆっくりと話し始めました。

「・・・・そうか。
君は小さいから、学校で転生トラックの事を学んでないんだね。
なら僕が話してあげよう。
この国ではね。
トラックに轢かれて死んだ人間は、異世界に転生して幸せになるっていう宗教があるんだ」

「変な宗教だね」

ラッキーは常識の違いにクスクス笑いました。
少年は笑われたから不機嫌です。

「他人事のように言うけど、僕達の国の宗教だからね?
学校で必ず習うから、覚えておいた方がお得だよ?」

「うん、わかった。
話を続けてくれると私は嬉しいな」

ラッキーはこの国の人間ではなく、不法入国した旅人なのですが、それを話すとややこしい事になるので黙ります。

「先ほども言ったように、僕達の国の宗教では、トラックに轢かれたり、トラックの爆発に巻き込まれて死ぬのは、幸せな事なんだ。
さっき喫茶店で死んだ人達の事を、一般常識を知らない君は気の毒に思うかもしれないが、死んだ彼らは今頃、異世界に転生して、神様から凄い才能や魔法を与えられて、良い人生を送っているはずだから、彼らを哀れむ必要がない事を覚えていて欲しい」

「うん、わかった」

「もうやだ人間の世界」

妖精さんはラッキーの頭の上で嫌そうに会話を聞いています。
妖精さんから見れば、目の前にいる人間はキチガイです。
精神病院に送った方が良い人材でした。
少年の話がまだまだ続きます。

「実は言うと、僕は死んだ彼らが羨ましい。
こんなつまらない現実から抜け出して、今頃、神様から色んな才能を貰って、異世界で王様や英雄になって、美少女達とハーレムしている彼らの事を考えると、今すぐトラックに轢かれて死にたい。
羨ましい。死にたい。金髪ロリババアの吸血鬼エウァちゃんと一緒にベットで眠りたい」

「クスクスクス」 
ラッキーは少年のセリフで笑い死にそうになりました。
少年は馬鹿にされていると思って、少し怒りながらも話を続けます。

「小さい君がトラックに轢かれて死んだ時、参考になるように僕の願いを教えてあげよう。
僕はトラックに轢かれて死んだら、こう神様に願うんだ。
健康で老いる事がない不老不死の身体。
世界最高の魔力。
戦略核兵器みたいな威力を持つ魔法。
台風を圧縮した風のバリアーで、攻撃も防御も無敵の超人になって、可愛い美少女達とハーレムをしたいって願うんだ」

「クスクスクス……もう駄目……笑い死ぬ……クスクスクス」

「この人間っ!ラッキーみたいになりたいだけじゃない!」

妖精さんが叫びました。
少年の願いは、ラッキーが容易くやれる事ばっかりです。
ラッキーが死ぬほど大笑いしたから、少年は怒って場を立ち去りました。









ラッキーは、この国の人間の常識が面白いと思って、次々と通行人に話しかけます。
丁度いい暇つぶしに最適な面白い国に思えてきたのです。
今度は、ヨレヨレのスーツを着た50歳のオジサンに話しかけてみました。
オジサンは人生に疲れているような顔で、仕事も人生も家庭も嫌という雰囲気を醸し出しています。

「ねぇねぇ、あなたは転生トラックで死んだら、神様に何を願うの?」

「そうだな。
私は、働かなくて、遊んでいるだけで良い世界に産まれたいな。
もう、それだけでいい。
現実は嫌だ・・・。
年老いた妻、俺を馬鹿にする部下達、大変な仕事を任せる癖に安月給の会社・・・そんなのがない世界なら、何処でもいい」

「他の人みたいに異世界転生してハーレムはやらないの?」

「ハーレム?
女なんて、どれもこれも年老いて劣化するババァだぞ?
私はもう1人で良い。
結婚生活はこりごりだ。
犬や猫の方が私を癒してくれる」

オジサンの精神は、現実が辛くて病んでました。







「ねぇねぇ、君は転生トラックで死んだら、神様に何を願うの?」

次は、野球のバットを持った10歳くらいの勝ち気な少年にラッキーは話しかけました。
ラッキーも外見上は、10歳に見えるので、少年は気安く、自分の願いを話します。

「俺は世界最強の野球選手になって、野球バット(棍棒のようなもの)で大魔王を倒し、世界を救う野球ヒーローになるんだ!
そんで、君みたいな娘をお嫁さんにして、幸せな家庭を築くんだ!
ねぇ?俺と付き合わない?
君って可愛いね!
そんなに綺麗な金髪を見たのは初めてだ!」

ラッキーはプロポーズされちゃいましたが、その事を無視して話を続けました。

「他の人みたいにハーレムはやらなくていいの?」

「ハーレム?
男なら純愛だぜ!
可愛い娘と添い遂げたい!」

その清清しさに、ラッキーはちょっと関心しちゃいました。












ラッキーは1000人近い人間に、今のような問いかけを何度も繰り返し

「ねぇねぇ、お爺さんは転生トラックで死んだら、何を願うの?」

最後に、100歳くらいのヨボヨボのお爺さんに問いかけました。
お爺さんは、身体がボロボロで、ベットの上で寝た切り状態。
明日死んでも可笑しくありません。
そして、ここは病室。
お爺さんは死ぬはずの命を無理やり延命させられて、身体に栄養を注入する管が刺さっています。

「ワシは……死んだ婆さんと一緒に……老いる事がない身体で暮らしたい……
若さが羨ましい……転生トラックの出迎えは……まだかのぅ……」

死にかけのお爺さんは、転生トラックに最後の希望を抱いていました。
この時、ラッキーは理解したのです。
どうして、こんな可笑しい常識が出来たのか?ラッキーなりに考察できました。
指をズバッと頭上に掲げて

「なるほど。
この国の異常な常識の謎が解けた!」

「もうやだ、このエルフ」

妖精さんはどうでも良さそうな顔で、ラッキーの頭の上で呟きました。
さすがに1000人近い人間とのやり取りは、聞かされるだけでも疲れるのです。
ラッキーは、妖精さんと自分に言い聞かせるように、考え付いた考察を話します。

「転生トラックの概念が何故産まれたのか。
私は理解できたよ。
この豊かな国の人間が、死ぬ最後の瞬間まで希望を抱いて死ねるように作ったんだと思うんだ。
ね?この考え方なら合理的でしょ?」

「もうそれが事実でいいよ……ラッキー……
僕、故郷に帰りたい……」

「人間は私達エルフと比べると、すぐに寿命が尽きて死んでしまう生き物だけど、この転生トラックの概念を持ったまま生活すれば、自分がどのようにありたいかを考える事ができるし、それを元に人生設計を建てる事も出来て、どのように死にたいかを意識する事で死への恐怖も少なく出来て、合理的だよね。
私、人間という生き物に感心しちゃった。
死にかけのお爺さんにすら、希望を抱かせるなんて、そう簡単にできる事じゃないよ」

ラッキーは、感心したから1年ほど、この国に住んでみようと思いました。
さてはて、このラッキーの考え方があっているのか?
その答えは


後篇に続く。














あとがき


【バス女】




 

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ゆっくり戻るよ!

●トラックに轢かれて死んだら、異世界に転生して、神様から凄い力をもらえる!と思い込んでいる連中ばっかりの国

●トラックで人を轢いても無罪。
むしろ褒められる。

●もうやだ、この世界。

●なんでこんな国になったの?

●国は豊かになったけど、それでも人間の欲望は尽きることがなく、このままでは、物財を求めて国の資源が尽きてしまうから、異世界転生して全ての欲望が叶うという希望を持たせるために、転生トラック教って宗教を作った。

●ラッキーは、上記の情報をどうやって知るの?

●大統領が笑顔でTVで自白したから、お前らなんかしんじゃえー!



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