エルフ娘の世にも不思議な旅
6国目 半万年の歴史を持つ偉大な国 前篇
何処までも広がる広大な青い海、それを照らす太陽。
そんな海の遥か上空の彼方に、一つの黒い点が秒速300mで飛んでいました。
それはよく見ると、エルフの小さい女の子。頭に妖精さんを乗せています。
無論、ラッキーです。
今は、大変評判が悪く、二度と行きたくないという噂で有名な国へと向かっていました。
普通の旅人は、命の危険を感じて、そんな所に近寄ったりしませんが、ラッキーの知的好奇心が騒ぐのです。
そこに楽しい何かがあると。
「もうやだ、このエルフ」
妖精さんが嫌そうな顔で呟きました。
空を飛んでいると、評判が悪い国が見えてきました。
国土のほとんどが荒れ果てた土地で、山は木が少なくて禿山ばっかり。
どうやって農業をしているんだろう?と思わせる光景です。
建造物はほとんど1階建ての貧相な木造建築で、道は人間や動物の排泄物でゴロゴロ転がり、人間の遺体も落ちています。
そんな酷い場所を、低くて薄い城壁を張り巡らして囲んだ評判通りの国でした。
ラッキーは、光学迷彩で姿を消してゆっくりと降下。
話を聞けそうな人間の大人を探して、そこへと降りて行きます。
ラッキーが見つけた大人は、30歳くらいのボロボロの身なりの男性で、汚れた白衣を着ていて、手に水を汲んだ瓶を持っていました。
普通の国なら、ポンプやら、木を曲げる技術を利用して作った桶で水を汲みますから、瓶で水を汲むという行為を見た事で、この国の技術力がとんでもなく低い事がラッキーには分かります。
「ねぇねぇ、この国ってどんな国ー?」
ラッキーに突然、背後から話しかけたから、男は驚いてバッと後方に急いで振り返りました。
そして、ラッキーの姿を見て、とっても身なりが綺麗な金髪の女の子だったから
「あ、あなた様は貴族の御令嬢様でございますか!?」
男は、ラッキーをこの国の貴族だと勘違いしていました。
ラッキーは面白そうにクスクス笑って
「違うよ。
私はエルフの旅人だよ」
「え、エルフ???
あなた様は貴族じゃないのですか?」
「うん」
「ちっ!
派手な格好しただけの余所者か!
びびらせやがって!」
ラッキーが貴族じゃないと分かると、男の口調が横柄な物に変わりました。
ラッキーはそんな事も気にせずに
「ねぇねぇ、この国ってどんな国ー?」
「あ?
よそ者だから、この偉大な国の事を何にも知らないのか?
この国はな……5000年の歴史を持つ偉大な国なんだよ!」
ラッキーは驚きました。
5000年の歴史といえば、ラッキーが今まで生きた人生以上の長さです。
具体的に言うと、ラッキーの両親がそれくらいの年齢でした。
だから、驚きびっくり。
親と同じくらいの歴史がある国なんて、そう滅多にあるもんじゃありません。
「本当に5000年も歴史があるの?」
「ああ!
この国は凄いんだぞ!
ありとあらゆる物を開発して、偉人も出してきた事で有名だ!
国民軍を率いて●ーロッパ中で無双した!ナ●レオン!
山脈越えで有名なハ●ニバル将軍!
発明王エ●ソン!
砂漠の狐!ロン●ル将軍!
大陸を騎馬軍団で席巻したチン●スカン!
どうだ!凄いだろ!」
男の口から、この世界の偉人の名前が次々と出てきました。
この世界に住む者ならば、最低でも1人は必ず知っている超有名人物だらけです。
でも、可笑しい事に、それは滅亡した国家や、別の国の偉人の名前。
この国が輩出した偉人ではないはずなのです。
「?
ねぇねぇ、それって、他の国の偉人じゃないの?」
男はラッキーの問いかけに怒りました。
息を荒くして、眼を血ばらせて
「それは他国の捏造だ!
この国の偉大な歴史に嫉妬して、歴史を俺達から奪おうとした奴らの卑怯な情報工作!
騙されちゃ駄目だぞ!」
「うーん?」
「この国の周りの国は、どれもこれも最低最悪な国ばっかりなんだ!
定期的に俺達の国を侵略して、財産・文化・歴史を奪っていく!
酷い事をしておいて謝罪も賠償も寄越さずに、俺達の事を否定して馬鹿にするんだ!
でも、だからといって、そんな奴らに俺は屈しない!
俺達には半万年の歴史があるからだ!」
ラッキーは困りました。
ここで男の言葉を素直に認める事は、今までの世界史の常識を覆す事になるからです。
ラッキーの頭の中の常識では、この国の方が可笑しいと結論が出ています。
だから、ラッキーは
「この国の歴史を纏めた本って、何処で閲覧できるの?」
この国の歴史を調べてみようと思ったのです。
さてはて、世界が可笑しいのか、この国が可笑しいのか、どちらでしょうか?
答えは
中篇に続く。
●全ての国家の起源、技術の起源を持つ凄い国
↓
●見てください!異世界の四大文明を作り上げたのも私達なのです!
偉人も全部私達の先祖です!
↓
●銃を作ったのは、私達です!
城壁を作ったのも私達です。
火を最初に発見したのも私達です。
全ての宗教を作り上げたのも私達です!
↓
●城壁を作ったのも自分です!
↓
●ああ!私達はなんて偉大なのでしょう!
全世界は私達に感謝して、謝罪をして賠償を寄越すべきなのです!
私達は世界一偉大な民族!
↓
●後篇に続く
↓
●自慢しているだけで、自分達じゃ何にもできない人達。
偉そうにしすぎて、旅人も寄りつかず、技術を教えてくれないから、中世の暮らしのまま。