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4国目  旅人の国

空は、雲がない真っ青の晴天。
昼寝するのに丁度いいポカポカとした陽気。

ラッキーは、今日も森の中の道を歩きます。
でも、道を歩いていたら、可笑しい事に気付きました。
道の周りで、人間の腐乱死体や、白骨死体をあちこちで見かけるのです。
人間は、同胞を埋葬する生き物ですから、遺体を放置するなんて通常ではありえません。
自然葬をするにしても、人間は専用の施設を用意したりする生き物です。
この光景は、 あ り え な い 光 景 な の で す 。

「なんで死体だらけなんだろう」

「ラッキー、きっと碌でもない国があると思うから、故郷に帰ろうよぉ……」

「やだ、面白い国がある気がするの」

ラッキーと妖精さんは呟きましたが答えは出ません。
そこに謎があれば、戦場でも突撃するのがラッキーという女の子です。
300時間ほど歩きに歩き続け、その間、万単位の遺体を見かけたから、疑問は余計に深まるばかり。
道の周辺だけで、これだけ大量の遺体を見つけるという事は、数百万、数千万人単位の遺体が野晒しになっていても可笑しくないという事です。
そして、ラッキーはとうとう国を見つけました。
そこは科学が非常に発達した大都市です。
車がジェット噴射で空を飛び、地上にある街の道路を皿型のロボットが掃除して綺麗にしていてハイテクでした。
道を行き交う人々は、ビッシリと身体に密着するスーツを着ていて、ファッションセンスだけは壊滅的。
街全体に高層ビル群が乱立し、ビルとビルの間に透明な道路があり、そこを人間が大量に歩いていました。
なんと言えばいいのでしょうか。
現実の20世紀の人間が想像する21世紀の未来世界。まさにそう表現するしかない国でした。
ラッキーは目を輝かせています。
こんなハイテクな国は滅多にないからです。
更に、不思議な事に外敵から国を守る城壁がなくて、この国は無防備でした。
ラッキーは、光を歪める光学迷彩を展開し、魔法で空を飛んで、今日も不法入国しようと空から国に近付きます。
すると!警報音が国中の機械から鳴りました!
国中の建造物から銃が飛び出て、無数の銃口がラッキーに向けられています。
ただの実弾銃ではありません。
ビームを撃ちだす光学銃です。
ビームは実弾よりも殺傷能力があり、速さは秒速30万kmで回避は困難。一度、標的に当たれば、傷口を焼いて貫通し、治らない傷を作ってしまう厄介な武器なのです。

【ビー!ビー!不法侵入はやめてください!
これ以上、近付くと射殺します!】

ラッキーは困りました。
不法入国できません。
これだけ科学が発達していると、風のバリアーで完璧に攻撃を防げる自信がありませんでした。
渋々と不法入国を諦めて、空を飛んだまま国から離れて、国の近くの山の山頂に着地します。
雲よりも高い場所にある山だったので、山頂には草しか生えていません。

「困った」

「ラッキー、この国はさすがにやばいから、他の所へ行こうよ……」

ラッキーは悩みます。
でも、光学迷彩を展開しても接近していた事が、人間の国にばれていたので、お手上げです。
どうしてばれたのか分かりません。
光の情報は、光を歪める光学迷彩があるから、外部に漏れないはずなのです。
音と熱の情報は、風のバリアーで一時的に遮断していたので、センサーを使っても熱と音を探知できないはずなのです。
困りました。







悩み過ぎて、一カ月ほど山で生活しながらラッキーは悩みました。
エルフは殺されない限り死なないので、とっても時間を贅沢に浪費しちゃいます。
この間、無数の不法入国を試みましたが、全て失敗してラッキーは寂しそうです。
地面に左手で絵を描いてウジウジしています。

「あの国楽しそうなのに入れない……
つまんない……
退屈はやだ……」

「ねぇ、ラッキー。
普通に入国したらどうかな?」

「え?」

ラッキーは頭に乗っている妖精さんを見上げました。
普通に入国するなんて、考えつかない発想だったのです。
ラッキーには、身分を保障するパスポートも、後ろ盾もありません。
こんな怪しい娘は、賄賂でも払わない限り、入れないはずなのです。

「試しに正面から入国してみなよ。ラッキー」











ラッキーは妖精さんの言う通りに、真正面から正々堂々と道を歩き、機械で自動化された入国審査を受けたら、普通に人間の国に入れました。
一カ月間の間の努力は無駄だったのです。
そして、ようやく国の外に無数にある遺体は何なのか、滞在中に、国の公務員のお爺さんに話を聞けました。
場所は公園で、お爺さんは青色の作業着を着ていて、ベンチに座っています。

「ねぇねぇ。
国の外に遺体がたくさんあったんだけど、あれってなーに?」

「ん?
お嬢さんは国外から来たのか?珍しいのぅ。
外の遺体はな、この国から旅立った旅人じゃよ」

「?」

「ほら、この国って文明が発達して凄いじゃろ?
車は空を飛び、家事はロボットがやってくれて、働く必要すらないほどに便利な国じゃ。
豊かで便利で暮らしやすいから、子供がどんどん産まれて、子供の育児も機械がやってくれるから、人口が増え続けて少し窮屈になりつつあるんじゃよ。
それを嫌った一部の国民は、この国の国籍を捨てる事を条件に国を出て、旅に出て遺体になってるのぅ」

ラッキーにはよく分かりませんでした。
なんで旅に出たくらいで、万単位の遺体があちこちに散らばっているのか不思議です。

「なんで遺体になるの?」

「分からないのか?
この国は文明が発達しすぎて、ほとんどの国民は電気を使う電化製品しか使った事がないから、国の外で暮らせないからじゃ。
電化製品なしだと自分で火もつけられない、料理の仕方も分からない、この国は国民の銃の所持を禁止しているから銃の使い方も知らない、内臓バッテリーが切れたら使えなくなる電化製品を頼りにして旅をする奴らが、生きていける訳ないじゃろ?
最近の若者は、外の世界の事を調べずに旅をするから、この国の外に、国内にある電力インフラ設備が無限に広がっていると思い込んでおる」

「なら、外に出ても生活できなくて死ぬなら、国外に出る事を禁止すればいいんじゃないの?」

「あー、それは無理じゃ。
増えすぎる人口を減らすための棄民政策……げふんげふん」

公務員のお爺さんがわざとらしく咳き込みました。
どうやら、言ってはならない機密だったようです。
ラッキーは必要な事を聞けたので、国を一カ月ほど観光してから出て行きました。
この国は科学が発展していて楽しいのですが、皆がビッシリと身体を覆う密閉スーツを着ていてデザイン性が皆無だったので、飽きたのです。
更に悪い事に、人口密度が高すぎて、うっかりラッキーの風のバリアーで数人の通行人に触れてしまい、バラバラ死体にしちゃったから、早く出国しないと逮捕される可能性があるのも原因の一つでした。



ラッキーが国を出る時、国の入り口で数千人の若者が未来への希望を輝かせ、国籍を捨てて、国の外へと旅立つ光景を見かけました。
きっと、一カ月以内に、外に無限に転がる遺体の仲間になるんだろうなーって、ラッキーは思いました。

「この窮屈な国から抜け出して、俺達は未来を得るんだ!」
「空飛ぶ車を持ってきたぞ!これで移動に困らないな!」
「俺は外で米を得た時のために、最新の炊飯器を持ってきた!」
「俺はゲーム機持ってきた!インターネットに接続すれば、最新のゲームをダウンロードできるんだぜ!」
「私!この電動バイクで旅をして、素敵な国を見つけるの!」









4国目  旅人の国
おしまい。








 

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ゆっくり戻るよ!

●旅人の国

●大量の旅人を出している事で有名

●でも、文明が発達しすぎて、銃の扱い方や、料理の仕方、野宿の仕方も分からない奴らばっかりだから、国から出たらほとんど死ぬ

●人口を減らすための棄民政策だったのです。

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