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4話「大香辛料時代終了のお知らせ-2」



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ワルキュラ帝国での冷蔵庫の開発は、熾烈を極めた。
技術的には、日本人が大量にいるから、何ら問題はない。だが、噂を聞きつけた氷売りなどの利権団体が妨害へと出たのだ

「冷蔵庫だと!?俺らが失業するじゃないかっ!」

冷蔵庫が誕生すると、水を凍らせて、氷を低コストで大量生産できる事を意味する。つまり、氷の価値が大幅に下落して、無料同然になる。
今までのように遠い異国から運んだり、高い山に氷室作って、冬の氷を保管して生計を立ててきた業者が軒並みに失業しちゃうのだ。
それゆえに氷売り達は、冷蔵庫を開発する企業への営業妨害。情報工作、ルビーちゃんの着替え盗撮合戦などの戦いの末、本気で激怒したワルキュラが『魂食べるぞっ!こらぁ!』と一喝するまで、市場は混乱に混乱を極め、氷売り業者の一部は、日本人と結託し、氷菓子業者へと転職して、拡大する新市場を夢見ていた。


そして、市場がようやく静かになった頃。
森を一つ犠牲にして作り上げた大きな船が、帝国の港へとやってきた。
その船は遥か東の国から、胡椒などの香辛料を主に買い付けて、利益を得ている商船。
胡椒は地域によっては、黄金と同じ重さで取引される事があるため、貿易での超人気商品だ。
ん?どうして21世紀の地球だと、100円そこらで購入できる胡椒にそこまでの価値があるかって?
理由は現実の香辛料貿易と同じで――簡単だ。
『ひたすら膨大な数の中間業者』を経由して、胡椒を目的地へと運ぶせいだ。
その輸送中に関税まで取られまくれ、倍々ゲームで胡椒の値段が吊り上がってしまうのだ。地球でも、中東地域を経由するだけで最低でも16倍以上の価格になっていたはずである。
おかげで、香辛料貿易は商人から見ると、莫大な利益があり、美味い商売だ。
料理の面でも、胡椒をかけると辛くて美味い。

「へへへへへっ……!今回も儲けさせてもらうぜっ!」

大きな船から、白いターバンを被った商人スパイスが降り立った。
全身から胡椒の刺激的な匂いがしている。
スパイスは胡椒の取引で財を成した、30代ほどの若い男だ。
最初は陸路で、ラクダの小隊を組み、地道に胡椒の運搬。
今はそこから更に出世して、複数の商人から融資をしてもらい、巨大な船を建造し、胡椒を大量に運搬する事で大商人を目指していたのだが――港に降りた途端、違和感を感じた。
取引先のカラムーチョ商会の担当者キムチの顔が――やせ細り、死神に憑かれたような表情をしていたのだ。
スパイスはこれと同じ顔をした人間を、何度も見た事がある。この顔は――破産一歩手前の商人の顔だ。

「何があった……?」震え声のスパイス。

しかし、キムチはスパイスの問いかけに答えなかった。
事務的に話しかけてくる。

「あなた様は……スパイス様ですね?
商品は胡椒でしたか?」

「そ、そうだっ!
今回も胡椒を大量に持ってきたから、高く買って貰いたい!!
安い値段をつけたりしたら、他所の商会に胡椒を売るぞっ!」 

「こちらが今の胡椒の相場ですが――見ますか?」

キムチが差し出した紙。スパイスは奪い取るようにして、紙に書かれた胡椒の値段を見た。
それは――今までの相場の十分の一以下だった。

(舐められているぜっ!
未来の歴史に名を残す大商人を馬鹿にしすぎだっ!)

スパイスは激怒した。怒りが沸騰しすぎて、紙をバラバラに破り、担当へと顔を近づけて怒鳴り込む。

「足元を見るのはいい加減にしろっ!
相場がここまで暴落する訳がない!
さっきも言ったはずだっ!
安い値段を付けるならっ!他所の商会に持っていくぞ!」

「どうぞ、どうぞ。
胡椒なんて倉庫に腐るほどあります。
正直、これ以上、買い取っても私たちの方でも困るんですよ。
在庫に税金がかかりますから」

「なんなのだっ!その態度はっ!
分かったぞ!そっちがその気ならっ!俺の胡椒は他の店で売らせてもらうっ!
あとで後悔しても知らないからな!」

カラムーチョ商会の港から、船ごと去るスパイス。
スパイスは、相手の言った事を嘘だと思った。そう思い込みたかった。

〜〜〜〜

色んな店へと趣き、スパイスは胡椒の売買交渉を行った。
だが、どの店でも胡椒の価格が安すぎる。
時間とともに値段が下落しているとすら思えるほどに、胡椒の価値は低かった。
実際に、どこかの店に訪れる度に、値段が下落している。
今まで、胡椒の価格が高すぎたから、誰も適正価格が分からない。そんな感じだ。

(ありえないっ!
こんな事っ!ありえないっ!
胡椒の価値が暴落する訳がないっ!)

胡椒貿易に失敗すれば、スパイスを含めた胡椒商人達には、悲惨な末路が待っている。
陸路で運ぶ商人は、倍々ゲームで膨れ上がった胡椒の値段で大損するだろう。
スパイスの場合は、借金して船を建造して、わざわざ胡椒を持ってきたのだ。
その胡椒も、借金して買い付けた代物。
この地で利益を得れないと、帰りの道で船員が反乱を起こしかねない。
それ以前に、莫大な赤字を出して国に帰ったら、家族と一緒に奴隷に転落して、危険な職場で使い潰されて人生終了だ。

(胡椒の価値がどうして低くなった!?
万病に効く薬としての価値があるから、ここまで下落するのはありえないっ!
なぜ、こんなにも短い間に、価値が下がった!?)

富裕層なら、胡椒を使って、美味しく肉を食べる。
地球の誤った学説の中にだけ存在する中世ヨーロッパなら、腐った肉に胡椒かけて食べる。
食用での需要が減ったとしても、薬としての価値があるから、暴落するはずがない。
そんな安全な商品だったのだ。
精神的に追い詰められたスパイスは、現代のサラリーマンと同じく、行きつけの酒場へと向かう。
ストレスを抱えた時、男は酒と女を求めるのだ。

「生ビールをくれぇー!あと可愛いエルフ娘っ!」

スパイスが訪れた酒場『エルフ・ヤン』。
ビール工場と直接契約して、美味しいビールを安い価格で出す事で有名。
愛らしいエルフ娘をたくさん雇用している事も魅力の一つであり、永遠の命と、永遠の美少女に憧れるスパイスにとって聖地のような場所だ。

「お客様〜、冷えたビールなんじゃよ〜」

銀髪の幼いエルフ娘、もとい、、セイルンが、酒瓶をお盆の上に載せ、店の奥からやってきた。
そのまま、ゆっくりとスパイスの近くまで歩き、酒瓶をテーブルへと置いた。
エルフ娘のスカートは短く扇情的で、パンツが見えそうで見えない所が素晴らしい――が、今はそんな事よりも気になる事がある。

(冷えたビール?)

スパイスは疑問を感じた。冷えた酒を出すのは手間暇がとってもかかる。
深い井戸や川に、酒瓶を浸せば、冷えたビールは完成するが……その手間の分だけコストが嵩み。値段が高くなる。
その上、アルコール中毒気味の客が、ビールを飲みまくって短時間で消費しちゃうから、供給が間に合わないはずなのだ。
これを専門用語で『ビールは別腹』と呼ぶ。現実での破滅フラグの一つだ。

(確かに……酒瓶は冷えている。
深い井戸に何分も浸したような冷たさだ)

実際に、スパイスの右手が酒瓶に触れると、氷の中に、酒瓶を突っ込んだのかと思うほどに冷えていた。

「これレシートなんじゃよ〜」

酒を飲む欲求よりも、商人としての好奇心を優先したスパイスは、場から立ち去ろうとするエルフ娘のスカートを掴んだ。
めくれて、黒と白の縞々模様のパンツが少し見える。

「お、お客様っ!?
そ、そういうサービスはやってない店なんじゃよ!?」顔を赤らめる銀髪エルフ娘。

「どうやって酒瓶を冷やした?」

「警察に突き出されたくなかったら、お金を払うんじゃよっ!
セクハラは重罪じゃよ!
マスコミが黙ってな――」

怖い顔になったスパイスが、エルフ娘の小さい手に、銀貨を一枚載せた。
エルフ娘は恐喝用の笑顔から、営業スマイルに顔を変え

「お主っ!良い奴じゃなっ!
さすがイケメンじゃよ!
エッチィのはいけないとは思うが、パンチラぐらいならOKじゃよ!
お主も悪よのう!」

「勘違いするなっ!俺はロリフには興味がないっ!
こ の ビ ー ル を  ど う や っ て 冷 や し た  の か ! を聞いているのだっ!」

「れ、冷蔵庫で、冷やしたビールじゃよ?」

「冷蔵庫?」

「お主、何も知らんのじゃな?」 

エルフ娘は勝ち誇った顔で言葉を続けた

「この国を支配する邪悪すぎる邪神――」

 エルフ娘は見えない化物が、国中にうようよいる事を思い出して、言葉を改めた。

「……じゃなくて、清廉潔白で、偉大な不死者であるワルキュラ様が命令して、冷蔵庫を作らせたんじゃよ。
おかげで冷えたビールが飲めて美味しいのう。悔しいのぅ……。
異世界から拉致った日本人奴隷どもに、技術的価値があると知ってたら、ワシの時代にも作れたのにのう……」 本編読まないと分からない会話だ。

「冷蔵庫って何だ?」

「箱の中身が、冬のように寒い寒い大きな箱じゃよ?
今、巷で大人気になっての。
何時かは、ワシの家にも備え付けて、冷えたビールと柿ピーで贅沢三昧するんじゃよ……。
肉も新鮮な状態で保存できるから、鶏肉を保存して、焼き鳥もええのぅ……」

「ば、馬鹿なっ……っ!
そんな馬鹿なぁ……!」

胡椒が暴落した原因の一つが分かった。
冷蔵庫という箱で、食料を長期保存できる。
人類が、塩や胡椒を長年、求める理由の一つは、食料の腐敗を食い止めるためだ。
冷蔵庫があれば、塩と胡椒の需要は減少し、市場価格もその分だけ下落する事を意味する。

(でも、可笑しい。
胡椒の主な需要は……万病に効く薬としての価値があるからだ。
なら、どうしてここまで価格が暴落したんだっ……?)

「最近は、胡椒がかなり安くなっとるし、焼き鳥に胡椒かけて食べるのも良いかもしれんのう」

「おいっ!
どうして胡椒が安くなったか知っているか!
知っていたら銀貨一枚出すぞ!」

エルフ娘は稼ぎ時だと思って、仕事をそっちのけに、笑顔で解説を始めた。

「それはのぅ……迷信が解けたからじゃよ」

「迷信?」

「胡椒がとっても身体に良い薬という噂は、大嘘じゃと化物……じゃなくて、ワルキュラ様が言っておてのぅ?
おかげで胡椒の価値が激減して、ワシの給料でも買える値段に――なってなかったのう。
辛いのう。胡椒は暴落してもやっぱり高いのう……」

衝撃的な事実に、スパイスは酒瓶をテーブルから落とした。ガラス瓶が景気よく割れる。
エルフ娘が「勿体無いっ!ビールが勿体無いっ!」と叫び、スカートからパンツが見えるのも構わずに、腰を屈めて、ペロペロと床に落ちたビールを舐めていた。

(た、確かにっ……!
胡椒を肉料理にたっぷり使うと、胃が重くなって辛くなるっ……!
胡椒が万秒に効く薬ってのは大嘘だったのか……!
だとしたら……!だとしたら……!)

衝撃的すぎる事実。
胡椒の魅力は他にも、舌の上で刺激的な化学反応を起こす特質が、人間を病みつきにするが……値段の高さから富裕層しか手を出せない商品だけあって、庶民はそんな事は知らない。
待ち受けるのは破滅だ。絶対的な破滅。
ワルキュラのせいで、スパイスを始めとした香辛料商人達は破滅するのだ。
特に、胡椒だけで商売するという、アホな事をやってしまった男の人生は終了確定だ。
リスク分散の概念が欠片もない。

「おいっ!セイルンっ!
仕事もしない癖に、床に落ちたビールを舐めるなっ!
お前は明日から来なくてイイぞ!」

「そんなぁー!?
ワシのロリロリな魅力でお客さんの心はイチコロじゃよ!?」

「ロリフに需要はねぇよ!口調がBBAっぽいって!客から苦情来てるんだぞ!
もっと巨乳になってから働きに来い!」

「実際、ワシって高齢じゃよ!?
仕方ないじゃろ!」

呆然と佇むスパイスの背後で、無職のエルフ娘が一人誕生した。
そして、その夜、死体が一つ街に増えた。
この国特有の自殺税を支払えなかったから、アンデッドにされて地下都市へと連行された。
借金に借金を重ねて、胡椒貿易に挑戦した結果がこの有様だよ。



〜〜〜〜

豪華絢爛な宮殿。
そこの食卓に、純白のバニラアイスクリームがあった。
牧草を良く食べた乳牛が出すミルクを思う存分に使い、凍らせた代物である。
銀髪の乙女ルビーが、美味そうにバニラアイスをスプーンで取り、口に入れる。
すると爽やかな甘さとともに、上品な快感が脳内を迸った。

「……僕、幸せです、ワルキュラ様。
アイスクリームを毎日食べれるなんて夢のようです」

「うむ、ルビーには普段から苦労をかけているからな。
俺はその恩に報いただけだ」

威厳たっぷりのワルキュラ。現在、魔法を使って、ルビーと味覚を共有しているから、極上のバニラアイスを一緒に楽しんでいた。
極上と言っても、日本でなら三百円で買えるような代物である。
だが、この異世界では、アイスは超贅沢品。そう思うだけで二人は幸せだった。

(ルビーちゃんが笑顔だ……。
きっと、冷蔵庫のおかげで、民衆も新鮮な食材を食べる事ができて幸せだろう。
俺、良い事したな……嫁と民衆の二つを同時に喜ばせるなんて天才すぎる……)

ワルキュラは、幸せ絶好調。
幸福に浸ったまま、今日の新聞を読むと、その一面には――

「うむ……胡椒の価格が下落しすぎて、香辛料商人が次々と自殺しているのか……。
きっと、不景気が原因だな。
経済は複雑過ぎて困る……」

骸骨には経済は分からぬ。
だが、人一倍、他者から勘違いされる事には長けていた。
香辛料。それは地球の大航海時代を引き起こし、数々の伝説を作り上げた魅惑的な産物。
中世ヨーロッパでは、需要の割に供給が少なすぎたから、とんでもない価格で取引された。

しかし、胡椒の万病に効く薬という評価がなくなり、船での大規模輸送をしまくれば、ありふれた物となり、需要は下落。値段は普通へと戻っていく。
香辛料が富の象徴として君臨した時代は終わり、胡椒が築き上げた伝説は歴史となった。



 おしまい




そして、アイスクリームは、冷蔵庫がなくても作れる。
17世紀くらいのヨーロッパでも、シャーベットは国家機密扱いだったが、ちゃんと存在していた。


ルビー(´・ω・`)アイスクリーム美味しいです〜

ワルキュラ(´・ω・`)(アイスクリームを作れと料理人に命じたら、冷蔵庫がなくても簡単に作れた件)


スパイス(´・ω・`)☚死にぞん




今回のコメントまとめ+ 小ネタの感想まとめ

http://suliruku.futene.net/Z_saku_Syousetu/Tyouhen/Dakara_isekai/c4.html

【内政チート】「銃剣で白兵戦チート!」 現実「近接戦闘を好む銃兵が少ない件!」17世紀
http://suliruku.blogspot.jp/2016/03/17.html


(´・ω・`)まだ、本編(ほね・骨 ・Bone)がエタッた訳ではないのだっ……!
ちょっと息抜きしているだけなのだっ……!


 






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